研究計画書

論文テーマ:消費税法の諸問題―消費税法第9条、第37条、第30条および電子商取引問題を中心として―

 

【問題意識】

 2010年は、消費税の増税がよく叫ばれていた。201012月末では、国債発行残高は7,538,080億円であり、日本の財政状態を考えると、税収の調達能力を上げる必要がある[1]

現在、わが国の税収の約2割を消費税がまかなっている。2009年における消費税収の構成比は25.3%と過去と比較しても上昇傾向にある。このように、重要な財源である消費税だが、増税の前に、解決しなくてはならない問題がある。

1つは、現行制度の益税の問題である。例えば、課税売上割合が95%以上のとき、仕入れに係る消費税額は全額控除になる、いわゆる95%ルールがあり、本来は控除されないはずの非課税売上に係る課税仕入れまでも控除してしまう問題である。これは、事務能力の乏しい小規模事業者だけでなく、事務能力のある大企業にも現在適用されている。

また、現行の消費税法では、まだ解決されていない電子商取引における消費税の課税方法の問題がある。インターネットの急速な発展・普及に伴い、パソコンや携帯電話から商品やサービスを取引する電子商取引が浸透し、国境を越える取引が容易に行えるようになった。しかしながら、インターネットを介した取引では、ユーザーの所在地や本人確認を保障するのがないなど、匿名性も高く、国際的な取引になると消費税を徴収することができないという問題が生まれた。また、輸入する商品が有形物であれば、税関(保税地域)を通すことにより消費税を課すことが可能だったが、役務の提供(サービス)である場合にはその取り扱いは明確にされていない。この電子商取引市場は、スマートフォンの普及などにより、さらなる規模拡大を見込めるため、電子商取引における消費財の税収損失はさらに増加することが予想できる。

 このように、消費税にはまだ調達能力があると考えられる。

 

【論文の目的】

 消費課税とは、物品・サービスの個人の消費に負担能力を見出して課税するものである。2009年における消費税収の構成比は25.3%であり上昇傾向にある。わが国において、重要な税源となっている消費税には、逆進性の問題、軽減税率導入やインボイス方式導入の是非、益税の問題、国際的な電子商取引における消費課税の問題などがある。

 消費税収の調達能力をあげる方法として、益税問題の要因である消費税法第9条の小規模事業者に係る納税義務の免除、第37条の中小事業者の仕入れに係る消費税額控除の特例、および第30条仕入れに係る消費税額の控除の見直しがあげられる。また、今後さらなる発展をしていくだろう電子商取引における消費税の課税方法の問題があげられる。国際的な電子商取引の規模は、スマートフォン等の普及等に伴い、さらなる拡大が見込むことができ、税収損失は上昇していくと思われる。

論文の目的は、消費税収の調達能力を上げる方法を研究することである。特に、益税・損税問題、電子商取引に対する課税問題を中心に、租税の「公平・効率・簡素」の原則を守りながら、わが国どのような対応を行っていくべきか、望ましい消費課税のあり方を研究したい。

 

【論文構成】

はじめに

1 消費税法の諸問題

 第1 益税および損税問題の実態

第1項     消法第9条、免税点制度

第2項     消法第37条、簡易課税制度

第3項     消法第30条、仕入税額控除

 第2 電子商取引の実態

2 判例研究

 

3 益税及び電子商取引による税収ロス

 第1 免税点制度、簡易課税制度および仕入税額控除における益税

2 電子商取引における税収損失推計

3 消費税10%、20%にしたときに見込める税収

おわりに

 

【参考文献】

伊藤丈嗣(2009)「課税売上割合が95%以上の場合に生ずる益税問題-消費税率の引き上げを見据えて-」『日税研究賞「入選論文集」』32,pp.189-214.

財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(平成2212月末現在)」

佐藤明弘(2008)「消費税の仕入税額控除の制限について―95%ルールの見直しと交際費等支出課税―」『税大ジャーナル』国税庁,8, pp.155-180.

鈴木善充(2011)「消費税における益税の推計」『会計検査研究』pp.45-56.

辻富久(2002a)「電子商取引の発展に伴う課税ベースの侵食について()」『税経通信』税務経理協会, 57(5), pp.45-55.

辻富久(2002b)「電子商取引の発展に伴う課税ベースの侵食について()」『税経通信』税務経理協会, 57(7) ,pp.23-31.

林亜紀(2009)「グローバル経済化での日本の消費税制のあり方 電子商取引の扱いを中心として」,pp.267-353.

水野忠恒(2009)『租税法[4]』有斐閣, pp.759-789.



[1] 財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(平成2212月末現在)」

http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/2212.htm