「所得控除に関する一考察」

問題意識
 我が国の所得控除には、基礎控除や配偶者控除といった基礎的人的控除や、障害者控除や寡婦控除といった特別人的控除から、その他の所得控除として雑損控除や医療費控除といった様々な制度が存在している。古くは昭和22年に創設されたが、60年以上経過しており、近年では、給与所得控除に上限を設けるなどの見直しなどによって所得税の課税ベースを拡大する動きのある現代の我が国において、所得税の控除のあり方を再検討することは価値があるものだと考える。そこで、所得税法における所得諸控除の意義や趣旨を、創設当初の背景等を考慮した上で再確認し、その後、所得控除における判例を研究することで、所得控除のあり方を検討する。以上を踏まえた結果、所得控除諸制度を変更した際に所得税収がどの程度変化するのかを計測したい。
先行研究
  森信・前川(2001)は、「1980年代前半は、課税ベースの規模はほぼ40%前後であったが、1980年代後半から1990年代前半になると34%〜37%に低下し、1990年代後半は約33%にまで縮小している」とし、その背景にあるのは「「課税対象とならない社会保障」と「所得控除」の拡大」としている。
  石(1979)は、2つのカテゴリーに分類されるイロージョンを指摘している。それは、「課税ベースの算定ですでに漏れているもので、いわば課税ベースのイロージョン」と「課税ベースから税額を算定する場合に徴税技術上、発生すると考えられる税収のイロージョン」としている。
分析手法
  森信・前川(2001)の分析を踏襲し、所得控除が一因となっている所得税課税ベースの縮小について、マクロ統計(国民経済計算・税務統計等)を用いて計測する。その後、所得税法や判例を基盤に、所得諸控除のあり方を検討する。その考察を踏まえた上で、所得控除の制度を変更後、課税ベースのイロージョンを推計する。
論文構成
1. はじめに
2. 所得控除の現状
3. 所得控除における判例研究
4. 所得控除変更のシミュレーション
5. おわりに

参考文献
石弘光(1979)『租税政策の効果』東洋経済新報社.
鈴木健司(2012)「所得税の所得階層別にみたイロージョンの計測」『日本福祉大学経済論
集』第45号,pp.45-61.
田中康男(2005)「所得控除の今日的意義−人的控除のあり方を中心として−」『税務大学校論叢』48号.
谷川喜美江(2002)「給与所得控除に関する理論的実証」『千葉商大論叢』第40巻3号,pp.193-221.
原正子(2012)「所得控除の整理合理化の検討−人的控除以外の所得控除を中心として−」『税務大学校論叢』74号.
樋口啓子(2006)『所得税制における給与所得控除について』関西大学大学院修士論文.
宮島洋(1986)『租税論の展開と日本の税制』日本評論社.
森信茂樹・前川聡子(2001)「わが国所得税課税ベースのマクロ推計」『ファイナンシャル・レビュー』通巻第57号.
吉井典久(2007)「所得控除の意義について」『税研』vol.23,no.3,pp.16-21.

Joseph A. Pechman(1986), The rich, the poor, and the taxes they pay, Wheatsheaf Books LTD.

参考資料
財務省(2011)『平成24年度税制改正大綱』.
税制審議会(2009)『所得税における所得控除と税額控除のあり方について』答申.