第4章 わが国の法人課税

1.法人のとらえ方−法人実在説と法人擬制説
(1)法人実在説:独立の法的人格を認められた実体として捉え、経営者によって運営される独立の意思決定単位であり、法人自体が担税力をもつという考え方
   →法人にも累進税率表を適用すべき?

(2)法人擬制説 法人を個人株主の集合体
         →法人税の負担は、株主の配当の減少、キャピタル・ゲインの減少をもたらす
           個人所得税の前払い、個人所得税と法人税の2重課税の調整が必要

個人所得税と法人税の2重課税の調整方法
 完全統合方式 
  →法人所得への課税は、留保所得への課税が株主のキャピタルゲインとの間で、配当所得への課税が株主の配当所得との間で、2重に課税されているとして、留保所得と配当所得のいずれについても個人所得税と法人所得税を完全に統合
 部分統合方式受取配当税額控除方式支払い配当控除方式
  →配当所得のみを個人所得税と統合

 受取配当税額控除方式
  インピューテーション方式
   → 仮に法人税がない場合の個人の課税ベースを配当以外の課税所得、課税後配当所得、法人税を加算することで算出し、その課税ベースに累進税率を適用することで所得税額を計算し、法人段階で配当について前払いした税額を差し引くことで最終的な税額を決定

 支払配当控除方式:法人税の課税ベースから配当を控除


配当軽課措置
  平成2年4月1日以前:配当部分の税率を留保部分の税率より低い税率で課税
  昭和63年時点 留保分43.3% 配当分33.3%
  平成2年4月1日以降 普通法人に対する法人税率は37.5%に一本化
  2重課税の調整措置は、個人段階での配当税額控除のみ


2.わが国法人課税の現状
(1)税収に占める法人税の比率

図4-1 主要な税目の国税収入に占める比率の推移:橋本恭之『税制改革シミュレーション入門』税務経理協会p69


(2)国際比較
 法人税率の国際比較
国     税 地  方  税
日  本
法人税

30.0%

 11年度改正前 34.5%

 10年度改正前 37.5%

事 業 税

9.6%

11年度改正前 11%

10年度改正前 12%

道府県民税

 法人税額の   5%

市町村民税

 法人税額の12.3%

アメリカ
法人税

35%

州法人税

8.84%

イギリス
法人税

30%

──

ド イ ツ
法人税

25%

付加税

 法人税額の 5.5%

営 業 税

19.65%

フランス 
法人税

33 1/3%

付加税

法人税額の   6%

──

※ アメリカの「地方税」は、カリフォルニア州の例である。
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/083.htm

法人所得課税の実効税率の国際比較

(注)1 .日本の実効税率は、法人事業税が損金算入されることを調整した上で、「法人税」「法人住民税」「法人事業税」の税率を合計したものである。
.アメリカの「地方税」は、カリフォルニア州(州法人税)の例である。なお、一部の市では市法人税が課税される場合があり、例えばニューヨーク市では連邦税・州税(7.5%、付加税[税額の17%])・市税(8.85%)をあわせた実効税率は45.95%となる。このほか、一部の州・市では、法人所得課税のほか、支払給与額等に対して課税される場合もある。
.ドイツの実効税率は、付加税(法人税額の5.5%)を含めたものである。なお、ドイツの「国税」は、連邦と州の共有税(50:50)であり、「地方税」は、営業収益を課税標準とする営業税である。
.フランスの実効税率は、付加税(法人税額の6%)を含めたものである。また、法人利益社会税(法人税額の3.3%)を含めると実効税率は36.43%となる。
 (ただし、法人利益社会税の算定においては、法人税額より500万フランの控除が行われるが、実効税率の計算にあたり当該控除は勘案されていない。)
 なお、フランスでは、法人所得課税のほか、職業税(地方税)が課税される。
.諸外国については、2001年7月現在の税制に基づく
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/084.htm

3.法人税の仕組み 
(1)課税ベースと法人税額
収入(益金)−費用(損金)=「所得」:課税ベース
 企業会計上の利益≠課税ベース
租税特別措置等により一致しない
益金→資本等取引以外から生じる一切の利益

(2)減価償却
定額法
   (取得価額−残存価額)/耐用年数=年当たり償却額
残存価額:スクラップ価格
 定率法
  取得価額×(1−償却率)=残存価額


(3)税率
 平成10年度改正
○ 法人税の税率引下げ
基本税率 37.5% → 34.5%
中小法人の軽減税率 28 % → 25 %
公益法人等、協同組合等の軽減税率 27 % → 25 %
○ 法人事業税の税率の引下げ等
普通法人の基本税率 12 % → 11 %
特別法人の基本税率 8 % → 7.5%

平成11年度改正

法人税の税率を次のように引き下げ、法人の平成11年4月1日以後に開始する事業年度について適用する

 

現 行 

改正案 

 普通法人の税率

34.5% 

30 % 

 中小法人の軽減税率

25  % 

22 % 

 公益法人等、協同組合等及び
 特定の医療法人の軽減税率

25  % 

22 % 

 特定の協同組合等の特例税率   

30  % 

26 % 

 4.法人課税の問題

(1)引当金・準備金の見直し

 
 主要国の税制上の引当金の概要
  日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス



 


(平成6年度
 末残高)
負債性引当金は原則として認められない。
 
負債性引当金は原則として認められない。
 
負債性引当金に関し、税法上は一般的な規定がなく、企業会計に従い個別に認められる。 負債性引当金は、引当金に関する一般的な規定に基づき一定の要件を充足すれば認められる。
貸倒引当金(注1) 46,726億円   ×   ×   〇    〇
返品調整引当金 N.A.   ×   ×   ×    ×
賞与引当金  87,768億円   ×   ×   〇    〇
退職給与引当金(注2) 139,335億円   ×   ×   ×    ×
特別修繕引当金  N.A.   ×   ×   〇    〇
製品保証等引当金  2,511億円   ×   ×   〇    〇
(注1)@個別の債権について、具体的な判断をすることなく、法定率又は実績率で繰入を認めるものについて記載。
    Aアメリカでは、総資産平均残高5億ドル以下の金融機関についてのみ認められている。
(注2)@退職一時金に関し、内部留保となるものを記載。
    Aドイツでは、一定の要件を充たした場合に税法上、退職年金引当金が認められる。
出所:税制調査会「これからの税制を考える−経済社会の構造変化に臨んで−」平成9年1月、付属資料26頁引用。
 
  

(2)フリンジベネフット課税

 
 内訳別法定外福利費(常用労働者1人1ヶ月平均)

企業規模
 
法定外
福利費
  計
住居に
関する
費用
医療・
保健に関
する費用
食事に
関する
費用
文化・体育娯楽に関する費用 私的保険制度への拠出金 労災付加給付の費用 慶弔見舞等の費用 財形奨励金等の費用 その他の法定外福利費
成7年実額計
5,000人以上
1,000〜4,999人
300〜 999人
100〜 299人
30〜 99人
13,682円
23,601
17,439
11,317
8,069
6,907
6,330円
11,708
9,442
5,864
2,724
1,342
760円
1,875
819
396
381
228
1,456円
2,315
1,644
1,182
1,026
1,023
1,179円
1,910
1,236
888
802
977
1,144円
765
1,181
1,051
1,177
1,551
227円
95
102
233
318
403
466円
629
644
367
321
334
537円
1,408
570
346
197
 91
1,538円
2,897
1,801
989
1,123
959
(備考)資料は、労働省「賃金労働時間制度総合調査」(平成7年)による。
出所:税制調査会提出資料
 
 フリンジ・ベネフット税の主な課税対象

 
社宅
 
住宅貸付
 
社内食堂
 
従業員割引
 
福利厚生施設 社用車
 
オースト
ラリア




 
課税
非営利団体等の
被用者で老人や
障害者の看護を
住み込みで行う
場合は非課税

 
課税





 
課税





 
課税
購入価額が
最低市場価
格の75%以上
の場合は非
課税 

 
  課税





 
 課税
業務遂行
に用いた
割合に相
当する部
分は非課
ニュー
ジーランド


 
 非課税
(個人段階で課税)



 
課税




 
非課税
(個人段階で課税)



 
  課税




 
  課税




 
 課税
業務遂行に
用いた割合
に相 当する
部 分は非課
出所:税制調査会提出資料
 

(3)法人税と個人所得税の統合

 
主要国の負担調整に関する仕組み
   国
項目
日 本

 
アメリカ

 
イギリス

 
ドイツ

 
フランス

 
法人間配当







 
@原則:80%益金不参入
A株式保有割合25%以上
の特定株式等に係る配当
は全額益金不参入





 
[持株比][益金不参入率]
20%未満・・・70%
20%以上80%未満・・・80%
80%以上・・100%



 
全額損金不参入








 
インピューテーション方式
受取配当額とそ

の1/2を課税所得
に算入し、受取
配当額の1/2を算
出税額から控除
 する。

 
@原則:インピューテーション方式
受取配当額とその
1/2を課税所得に
算入し、受取配当
額の1/2を算出税
額から控除する。
A子会社から受け取る配当については益金不算入
法人税と所得税の調整方式

 
部分調整方式
 配当税額控除方式より、
所得税と法人税の調整
を部分的に行う。

 
非調整方式
 所得税から、配当
 に係る法人税は全
 く控除せず。

 
部分調整方式
インピューテーション方式
により、所得税と
法人税の調整を部
 分的に行う。
完全調整方式
インピューテーション方式に
より、所得税と法
人税の調整をすべ
て控除。
完全調整方式
インピューテーション方式に
より、所得税と法
人税の調整をすべ
て控除。
(注)1.ドイツでは、法人段階の調整措置として、法人税率が留保分45%に対し、配当分30%となっている。
  2.フランスでは、個人株主段階で、受取配当については、公社債利子を併せて独身者で年8,000フラン、夫婦者で年1,6000フラン
  を限度として所得控除が認められる。
出所:税制調査会提出資料



(4)法人税の転嫁の可能性

  1)生産物価格への転嫁 消費者に前転
  2)賃金の切り下げ 従業員に後転
  3)配当の減少      株主へ後転


古典的な見解−企業が短期的な利潤を最大化する場合
 価格転嫁なし:課税前に利潤を最大化する価格が設定されているなら
        法人税を転嫁しようと価格を引き上げることは
        利潤の減少につながる
利潤最大化ではなく売上高最大化行動をとる場合には
 価格転嫁の可能性あり
 実証分析:結論えられず 


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