第7章 税制改革論
1.包括的所得税(Comprehensive Income Tax)の特徴
(1)包括的所得の定義
シャンツ、ヘイグ、サイモンズ
2時点間の経済力の増加
Y=C+ΔW
包括的所得=市場で評価された消費価値額+資産価値の純増
1.消費
要素所得および移転所得からの消費
自家消費
所有資産・耐久消費財の使用価値(帰属サービス消費)
2.資産純増
純貯蓄の蓄積
所有財産の価値増加
通常所得と認識されないもの
フリンジ・ベネフィット(現物給付、年金、健保の雇用主負担)、帰属家
賃、未実現のキャピタル・ゲイン、社会保障給付
(2)包括的所得税の意義
1.同等の所得の個人への水平的公平の取扱い
2.異なる所得の個人へは垂直的公平の取扱い
3.課税ベースの拡大により税率の引き下げが可能
(3)包括的所得税の問題点
*所得の定義の不明確性
所得の発生源の差異を考慮していない
勤労所得 不労所得
*貯蓄二重課税
個人Aは第1期と第2期働く Bは第1期のみ
第1期 第2期 現在価値
所得
個人A 100 110 200
個人B 200 0 200
貯蓄
個人A 50 0
個人B 150 0
包括的所得税課税ベース
個人A 100 115(110+50×r)
個人B 200 15(150×r)
所得税(税率10%)
個人A 10 11.5 10+11.5/(1+r)=21.386
個人B 20 1.5 20+1.5/(1+r)=21.485
2.支出税論
(1)古典的支出税
N.Kaldor,”An Expenditure Tax”,1955.
担税力の指標としての消費
個人は彼が共同のプールよりとりだすものにしたがって課税すべきで、
彼がそこに投入すべきものにしたがって課税されるべきでない
↓
直接税として支出に課税
(2)現代的支出税の課税ベース
1978年 ミード委員会報告『直接税の構造と改革』
Y=C+S
貯蓄非課税 C=Y−S 適格口座
負債の返済、利子支払い 控除(貯蓄として)
借入金の受取 課税
(例外 住宅ローン 控除 利子支払い、負債の返済 課税)
事業用資産の購入 控除
当該資産からの収益 課税
法人税は廃止
贈与と相続
受領者の消費に含まれる
支出税=労働所得税+贈与・相続
(3)税率
課税ベースがせまいため包括的所得税と同額の税収をあげるためには、より
高い税率が必要
(4)支出税の利点
*行政上の利点
所得算定の問題 事業所得の算定が簡単 償却資産は即時控除
キヤピタル・ゲイン 再投資される場合は非課税
資産の売却収入は課税
所得平均化の問題 累進的な所得税は変動所得に対して平均化が必要
消費は変動が少ない
年金 拠出は控除、引出しは課税
*経済的利点
経済的中立性 現在消費と将来消費の選択を歪めない
貯蓄促進
*公平上の利点
毎年の変動する所得への課税より変動の少ない消費への課税が望ましい
支払い能力を生涯所得で捉える
所得税は比較的早い時期に稼ぐ者に不利
(5)支出税の欠点
*行政上の欠点
納税協力の問題 適格口座
借入金に課税
*経済的欠点 より高い税率
*公平上の欠点
富の蓄積 権力と威信と精神的平安を生む
苦労して蓄積した富と前の世代から贈与された富を区別できない
*移行上の問題
退職しようとする人が多額の貯蓄をしている
支出税移行後には貯蓄の取り崩しに課税
3.最適課税論
(1)最適課税論の基本的性格
特定の租税体系と一定の税収を前提として、社会的な厚生を最大化するように課税。
最適消費税
最適線形所得税
最適非線形所得税
(2)最適消費課税論(T):代表的家計経済
ラムゼー問題(1927)
逆弾力性命題 価格弾力性の高い財に軽課
価格弾力性の低い財に重課
超過負担の最小化
分配の問題を無視
(3)最適消費課税論(U):複数家計経済
社会的厚生関数の導入
W=W(U,・・・,U,・・・,U)
W=△W/△U>0
高所得家計ほど消費税の負担額が大きくなければならない
(4)最適所得税論
能力説の現代的解釈
最小犠牲説 →厚生最大化
労働供給外生 →労働供給内生化
ラッファー・カーブ
*最適非線型所得税論
最適な税率表はs字型 最低所得と最高所得で限界税率ゼロ
*最適線型所得税論
最適税率は等税収曲線の左側
分配を重視するなら最適税率は高くなる
労働供給が非弾力的なら最適税率は高くなる
(5)最適課税論への批判
タックス・デザイン→タックス・リフォーム
(6)最適課税論からの教訓
効率と公平のトレード・オフ
タックス・ミックス