第14章 資産課税の理論
14.1 金融資産課税の理論
(1)資本所得課税の理論
資本所得の最適課税論(井堀利宏(2003)『課税の経済理論』岩波書店参照)
動学モデルで分析(最適所得税論、最適間接税論などは静学的な分析)
世代重複モデル(OLGモデル):ライフサイクルモデルが重複しているモデル
王朝モデル:無限期間生存する代表的な家計を想定。
最適資本所得税の命題 資本税率はゼロにすべき→資本蓄積を促進することで、経済成長を引き上げることが可能
→公平性の観点は無視した場合の結論
効率性重視 株式投資の優遇税制
公平性重視 資本所得も総合課税の対象に
(2)2元的所得税論
労働所得と資本所得に分類し、労働所得は累進課税、資本所得には比例税で課税。
北欧型 資本所得税と法人所得税の税率がほぼ同じ
勤労所得税の最低税率と資本所得税の税率が同じ
ドイツ型 資本所得税、法人所得税の税率が異なる
勤労所得税の最低税率と資本所得税の税率が異なる
土地税制の経済効果
(1)地価の決定要因
地価は、「地代」と安全資産に振り向けた場合に得られる収益が均衡するところで決定
(14-1)
「地価は、土地の利用収益の割引現在価値の合計に等しい。」
地価上昇の原因
・土地の生産性上昇
・地代の上昇
・利子率の低下
(2)固定資産税の帰着:伝統的見解と新しい見解
伝統的見解
・土地への固定資産税は、すべて土地保有者に帰着
・家屋への固定資産税は、家屋の保有者でなく、家屋の賃貸人の負担となる
新しい見解:一般均衡分析
・家屋への固定資産税は、家主に帰着する
(3)土地譲渡所得税
ロックイン効果(凍結効果):土地譲渡益への課税が土地の供給(土地売却)や有効利用を妨げる
14.3 相続税の基礎理論
(1)遺産税と取得税
表14−2 相続税の課税方式の類型
(2)遺産動機による経済効果の違い
「遺産消費動機」:親は、子供に財産を残すこと自体に喜びを感じているという考え方
親の効用関数に消費と同様に遺産が含まれる
→橋本(2009 ) 相続税を強化することは経済成長を阻害しない
「利他的遺産動機」子どもの効用が直接親の効用関数に含まれる。
バローの中立命題の論文がこのタイプ
→相続税の増税は、経済成長率にマイナス
「偶発的遺産動機」 死亡時期が不確実なため、意図せざる遺産が発生
→相続税の増税は、経済成長を阻害しない
「戦略的遺産動機」 親は将来子どもに面倒を見てもらうことを期待して、財産を残そうとする
→相続税の増税の効果は、不明
(3)内生的成長モデルと相続税
新古典派経済成長モデル 経済成長率は、人口と外生的に与えられる技術進歩に影響
内生的成長モデル
・技術進歩を研究開発(R&D)により説明するタイプのモデル
・人的資本を考慮したタイプのモデル