第9章 地方財政健全化法の概要
地方財政健全化法 2007年6月22日制定、2009年4月全面施行
「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」
→財政健全化の度合いを判定する指標としてフロー指標に加えて、ストック指標を採用
早期に健全化に対する警告措置をおこなえるようにした
第1節 地方財政健全化法制定の経緯
2006年6月 北海道新聞が夕張の財政危機についてスクープ
2006年7月3日『地方分権21世紀ビジョン懇談会報告書』
→“再生型破綻法制”の検討に早期に着手し、3年以内に整備すべき
2段階手続き 早期是正措置→再生手続
2006年7月7日 「基本方針2006」が閣議決定
2006年12月8日『新しい地方財政再生制度研究会報告書』
新たなたなフロー指標を設け、公営企業会計も連結して把握
2007年3月 「地方財政再建促進特別措置法」にもとづき夕張市は「財政再建計画」を策定
夕張市の(事実上の)財政破綻
→民間企業の破産と違い、銀行の債務カットなし
第2節 地方財政健全化指標の概要
健全化法において採用された健全化指標
@実質赤字比率 (当該地方公共団体の一般会計等を対象とした実質赤字額の標準財政規模に対する比率)
A連結実質赤字比率(当該地方公共団体の全会計を対象とした実質赤字額又は資金の不足額の標準財政規模に対する比率)
B実質公債費比率(当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模を基本とした額に対する比率)
C将来負担比率(地方公社や損失補償を行っている出資法人等に係るものも含め、当該地方公共団体の一般会計等が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模を基本とした額に対する比率)
○実質赤字額 実質収支の赤字額
地方財政と国の赤字の概念は違う
国 歳出>税収のとき 財政赤字=歳出−税収
プライマリーバランス(基礎的財政収支)
歳出から公債費、歳入から公債金収入を差し引いた収支
地方財政
形式収支 1年間の歳入決算総額と歳出決算総額の差額
実質収支 形式収支から用地取得や工事の遅れ等によって生じた翌年度に繰り越すべき財源を差し引いた額
→地方の借金である地方債収入が歳入に含まれている
ほとんどの地方団体が黒字団体になる
○実質赤字比率 実質収支の赤字額を標準財政規模で割ったもの
標準財政規模とは地方税収等に普通交付税を加えた金額
(2004年度以降は、地方財政法施行令附則第11条第3項の規定により、臨時財政対策債の発行可能額も含む
臨時財政対策債とは、地方の財源不足に対応するために、地方財政法第5条の特例として発行される地方債
地方財政法第5条 「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。ただし、次に掲げる場合においては、地方債をもつてその財源とすることができる。
一 交通事業、ガス事業、水道事業その他地方公共団体の行う企業(以下「公営企業」という。)に要する経費の財源とする場合
二 出資金及び貸付金の財源とする場合(出資又は貸付けを目的として土地又は物件を買収するために要する経費の財源とする場合を含む。)
三 地方債の借換えのために要する経費の財源とする場合
四 災害応急事業費、災害復旧事業費及び災害救助事業費の財源とする場合
五 学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費(公共的団体又は国若しくは地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものが設置する公共施設の建設事業に係る負担又は助成に要する経費を含む。)及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費(当該土地に関する所有権以外の権利を取得するために要する経費を含む。)の財源とする場合
適債事業
@交通・ガス・水道などの公営企業
A出資金、貸付金
B地方債の借換え
C災害復旧事業費
D標準税率以上で普通税を課している公共施設等の建設事業
適債事業の例外として、臨時財政対策債を発行
○地方債発行の意義
財源調達機能 大規模な社会資本の建設事業を実施する場合、
突発的な災害等により復旧事業が必要になった場合
る単年度の経常的な収入のみでは賄いきれないことに対応
年度間調整 年度間で発生する地方団体の歳出の変動に対応し、歳入とのアンバランスを年度間で調整
世代間の公平 社会資本整備に係る経費をその償還というかたちで後年世代に送ることによって世代間の公平を図る
財政政策の補完 国の財政政策の補完として、地方の単独事業を奨励するため
○連結実質赤字比率 地方団体の特別会計などを加えた赤字の比率をみるもの
○実質公債費比率
過去に発行した地方債の利払いと償還に要する費用が、標準財政規模のどの程度になるかをみたもの
○将来負担比率 地方団体が出資した法人の負債額を含めて、将来負担することになる負債残高を現在時点で算定し、
標準財政規模に対する割合でみた指標
表9-1 早期健全化基準と財政再生基準 早期健全化基準
第3節 地方財政健全化法とその影響
(1)先行研究
賛成派
土居・外山・吉岡(2011) 健全化比率と各種の指標との関係を検討
荒井(2009) 財政健全化や財政再生が、適切に進められるように国が関与するのは当然
菅原(2013)広田啓朗・湯之上英雄(2015) 政健全化指標を改善するため基金を取り崩している可能性を指摘
反対派
高木(2008) 人件費削減に偏った財政再建策が採られること、地方分権に逆行する可能性への懸念を表明
川瀬(2008) 健全化法は、国の関与を強め地方分権に逆行するものだと指摘
反対派の意見は、指標への批判というより指標を使った財政再建策の内容に対する批判
(2)健全化法と地方団体の財政状況
「平成26年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要(確報)」
2014年度決算 財政再生基準以上の団体は、北海道夕張市のみ
夕張市の実質公債費比率 は61.0%、将来負担比率724.4%
早期健全化基準を超えた地方団体はゼロ
(2013年度決算時点では、青森県大鰐町が早期健全化基準に抵触)
個別指標では
実質赤字比率 早期健全化基準以上の団体なし
連結実質赤字比率 早期健全化基準以上の団体なし
実質公債費比率 財政再生基準以上の団体は1団体(夕張市:61.0%)
将来負担比率 早期健全化基準以上の団体は1団体(夕張市:724.4%)
地方公営企業の実態をみることができる資金不足比率の状況
経営健全化基準以上の公営企業会計は13会計(2013年度決算:18会計)
交通事業2会計、病院事業2会計、市場事業1会計、宅地造成事業3会計、観光施設事業4会計、その他事業1会計
資金不足額がある公営企業会計は58会計