-cinema diary-

2002年8月の映画日記


 

2002.8.4 突入セヨ

「突入せよ! あさま山荘事件」

原作:佐々淳行
監督:原田眞人
主演:役所広司、宇崎竜童、伊武雅刀、天海祐希、他

鑑賞日:2002.6.13

公式サイト:http://www.toei.co.jp/asamasansou/


 軽井沢の保養地にて、連合赤軍のメンバー達が人質をとって「あさま山荘」に立てこもる、という事件が発生する。事態収束のため、警視庁から派遣されたのは佐々淳行(役所広司)。だが長野県警はあくまでも、県警主導での事件解決を主張する。警視庁と県警の立場争い、慣れない事態に右往左往する現場の警官たち……収拾がつかぬままに、事件は長期化していくのだった……。


    *    *    * 


 タイトルがずばっと物語っているように、本作は文字通り「浅間山荘事件」を映画化した作品であります。一応「事実を元にしたフィクション」という体裁ではあるのですが(被害者の女性の名前などゼンゼン違ってますし)、作中の主人公である佐々淳行氏による回想録を原作とし、事件のさいの警察側の対応を正確かつ克明に追いかけている……のではないかなぁ、と思います(原作読んでないので分かりませんが)。
 ……ところで、実際の浅間山荘事件はASDが生まれる前の事件ですので、そういう事件があったんだなー、という事を知識として知っているというだけの話で、詳細はこの映画をみるまでまったく知りませんでした。
 おそらくこの映画日記を読んでいる皆様にもそういう方は多かろうと思いますので、あらましをかいつまんで紹介しときたいと思います。


あらまし:
 昭和47年、群馬山中にこもっていた「連合赤軍」と呼ばれる革命運動家達は、警察の捜索の手を逃れるために、冬山を越えて軽井沢へと逃亡する。が、ここで結局彼らは警察に発見され、最終的に逃げのびた一部が「浅間山荘」に逃げ込む。
 猟銃で武装し人質をとった彼らを相手に、警察は人命尊重の観点から威嚇射撃以外の発砲を一切禁止していたために、突入はかなり難航。結果、警察の側に二名の殉職者を出し、運動家達は取り押えられ、人質は無事に保護される。



 ……以上、この一連の突入劇が「浅間山荘事件」と呼ばれるものです。
 連日テレビ中継され、日本中のお茶の間の人々が釘付けになってた……そうですが、実はその後逮捕された連合赤軍メンバーの口から、とんでもない事実が明らかになります。
 軍事教練〜冬山逃亡という追い詰められた状況下で、裏切りや離脱を恐れた彼らはメンバー内で次々にリンチ殺人を繰り返し、結果的に12名の犠牲者が出ていたというのですねぇ……この一連の顛末が「連合赤軍事件」として世に知られているものです。
 ものすごくかいつまんだ説明ですので、詳しく知りたい方はYahoo!などにて「浅間山荘事件」「連合赤軍事件」で検索してみれば、色々と出てくるかと思います。
 要するに、「浅間山荘事件」の裏にはそういう陰惨な事情があったわけなのです。しかるに、この映画をみても、その連合赤軍事件については一言も触れられておりません。ASDも映画を見ておきながら、もしかしたらこれらの事はまったく知らずじまいに終わったかも知れないわけです。
 そう考えると、昭和史を語る上での重要事件である浅間山荘事件を映画化しておきながら、そこの所に触れていないのはハッキリいって致命的な問題と言えないでしょうかッ!? ……てな論調の意見が、この映画の評価として見受けられました。まぁASDも、そういう意見から逆に連合赤軍事件を知るに至ったわけで……まぁ確かに困った事態だなとは思いました(笑)



 ……ただ、ASD的にはテーマとか志とかよりも、映画としてのデキ云々に着目したいと思いますので、そういう観点から言えばこれはこれで良かったのではないかな、と思います。
 どうしてかと言いますと、ですね。この映画でもしも犯人側の描写を少しでもいれてしまうと、映画が浅間山荘事件ではなく、連合赤軍事件を描く作品になってしまうという問題があるのですよ。
 「突入せよ!」というやや呑気な(失礼)タイトルが示すように、本作はあくまでも、突入する側の警察のドラマを描いた作品です。組織の中で激しくぶつかりあい、目的を完遂するために奔走する男達の信念とか努力とか、そういうものを描くのが目的の映画だったのではないでしょうか。
 つまるところ、そういう男達のドラマを前にした時に、山荘立て篭もりというのは彼らが立ち向かうべき、あるいは解決に導くべき、ひとつの「状況」に過ぎないわけです。さらに連合赤軍事件というのはその状況のバックボーン、ひどい言い方をすれば「裏設定」に過ぎないわけですよ。そこに触れなくても男達のドラマは描ける、だから描かなかった……ということなのではないでしょうか。
 それどころか、突入される敵側のキャラクタを描き込むと、お話の焦点が一気に曖昧になってしまう恐れがあります。
 このお話は実在の事件だけに、勧善懲悪というわけにはいきません。警察側のキャラやドラマを丹念に描いている以上、連合赤軍側の描写を仮にいれるとすれば、それはステレオタイプな悪役キャラではなしに、やはり丹念に人間像やドラマを描かなくちゃいけないのではないかと思います。
 しかし……考えてみれば、ここでの警察側のドラマと犯人側のドラマというのは、実はほとんど接点を持っていません。もちろん状況としては両者は大激突しているわけですが、別に両者の間に巧みな交渉やかけ引きがあったわけでもなし、警察にとっての犯人、犯人にとっての官憲というだけで、両者のドラマはお互いには一切触れていないのですよ。
(極端な話、実話にこだわらなければ、崖崩れになった小屋から人を救出する、というネタでも「男達のドラマ」は成立するわけですから)
 本作の主役である佐々氏は事件対策の中心人物でしたが、彼は同時に警視庁VS県警、上層部VS現場というドラマ的衝突の中心人物にもなっているわけですね。事件解決上の対立が、そのままドラマ的な人物同士の対立に直結しているために、この作品はドラマ的に充実した盛り上がりを見せているわけです。
 しかし、もし連合赤軍を描いた場合、上にすでに書いたように、彼らと佐々氏にはドラマ上の接点がありません。彼らは物語上「立てこもっている犯人がいる」という、ひとつの状況を形成しているに過ぎないからです。
 そういう風に接点のないふたつのドラマを並行して描く、という構成にすると、結果的にドラマ的な緊張を生み出す事が出来なくなってしまいます。ボリュームだけはそこそこある、漫然とした映画になってしまうのではないでしょうか。
 ……もちろん、そういう手法もないわけではないんですけどね。オールスターキャストで、どのキャラにもそれなりに見せ場が用意されていて……魅力ある俳優がちょっと顔を出しては、ちょっといいところを見せて……それを延々綴るだけのいわゆる「娯楽大作」というのが、過去にいくつか無かったわけではありません。
 ズラリ顔を並べたスター達の、各々の演技(ないしは顔見せ)だけがウリの、締まりのない映画……そういった、ただ長いだけのだらだらとした作品を「格調高い大作映画」と誤解するようなフシがあったのが、これまでの日本映画ではなかったでしょうか。果たしてそういう映画は本当にエンタテインメントとして正しい映画だったのでしょうか?
 ……そういう意味では、浅間山荘に挑む警察の奮闘や内紛に限定して着目した本作は、事件の映画化として正しいかどうかはともあれ、「娯楽映画」としては純粋に正しい選択をしたのではないか、というのがASDの見解であります。



 振りかえって見れば、警官隊がどーんと突入していくような、そういうハデなシチュエーションってこれまでの日本映画には見られなかった要素なのではないかと思います。連合赤軍事件の事を考えれば、鉄球ずどーんがハデだからかっこいい、というのは相当頭の悪い見方だとは思いますが(爆)、当時この事件をテレビ中継で見ていた人は皆、その時点では連合赤軍事件なんて知らなかったはずですからね。
 確かに、昭和史の重要事件に対する問題提起能力の無さは困ったものかも知れませんが……映画としては、これでいいんじゃないか、と思いました。
 なんか企画の着目点に対する評価に終始してしまいましたが、実際のところ威嚇以外にろくに発砲も許されない弱腰な警官隊を描いているくせに、このありありとした臨場感は一体何なのでしょうか(笑)
 こういう「組織のドラマ」を描いた日本映画ってどうしても主役がサラリーマンとかになってしまいがちだったんですけど、別に会社が潰れるとか潰れないとかいう話だと、ぶっちゃけた話どっちでもよかったりしますしね(笑)
 そういう意味では、この映画、日本映画ではまれにみる直球の娯楽映画だったように思います。
 ……つうか、このネタで娯楽映画になってるのが問題なんだろう、とは思いますけどねぇ……(苦笑)



 あと余談ですが、この映画を見て「警察を必要以上に英雄視し過ぎ」という批判もありましたが、それもどうかとASDは思いますけどね(笑)
 デカイ顔してる割にからきしだらしの無い県警はヘタレの一言ですし、猟銃が貫通しちまうジュラルミンの盾とか、装備もトホホですし……「警官」という個人は確かに英雄でしたが、「警察」という組織はとことんコケにされてたように思います(笑)
 ま、あくまでもASDはそう感じた、という事で……。



 ※今回の感想文を書くに当たって、こちらに公開されている本作のレビューが大変参考になりましたので、勝手にリンク貼っておきます(汗)
 当時の事件の様子とかも大体読めばわかる形になっておりますので、参考にしてくださいまし。



おすすめ度:☆☆☆☆



2002.8.4 強烈なサスペンス

「ブレーキ・ダウン」

監督・脚本:ジョナサン・モストゥ
主演:カート・ラッセル、J・T・ウォルシュ、キャサリン・クインラン、他

鑑賞日:2002.6.11


 砂漠のハイウェイをドライブするジェフ・テイラー(カート・ラッセル)とその妻エミー(キャサリン・クインラン)。だが途中で車が故障し、立ち往生してしまう。そこへ一台のトラックが通りがかり、修理を呼ぶためにエミーが最寄のドライブインへ向かうことに。だがジェフはその後自力で車を修理し、エミーを追いかけるが、ドライブインに彼女の姿は無かった。やがて問題のトラックに追いつくジェフだったが、運転手(J・T・ウォルシュ)は彼の妻など見たこともないと言い張る始末。さて、エミーは一体どこへ消えたのか……。


    *    *    *


 ううむ、こんな映画を今まで見逃していたとは!
 今回DVDで鑑賞しましたが、劇場公開時にすぱっと無視していたのを大きく後悔してしまいました……というか、サスペンスとしてあまりにも強烈過ぎます!(笑) 劇場で見ていたら逆に身が持たなかったかも知れないですねぇ……って、そこまで言うかってな感じですが(笑)、正味90分と非常にコンパクトな作品ながら、中身はものすごく濃い一作でした。
 何にもないハイウェイの真ん中で奥さんと行き別れた主人公。彼女はどこへ消えたのかっ! 二人は果たしてどんな事件に巻き込まれたのかっ! ……てな感じで、先の読めない事このうえない、すんごい映画でした(笑)
 まぁストーリーは確かに巧みとは言え、見終わったあとで振り返ってみると謎は意外にしょぼかったような気もしますけどね(爆) ストーリーそのもののインパクトよりも、むしろ演出の勝利、語り口の勝利!と言ったところでしょうか。
 普通こういったプロットだと、大抵は離れ離れになった夫婦がこの事件をきっかけに絆を深めるとか、主人公の絶体絶命ダイハード的活躍を描いてみたりとか、そんな風にしがちなんじゃないかと思うのですが……本作ではそういう物語的な盛り上げとか、テーマとか、そういう「演出」はむしろ徹底的に抑えられているのですね。あくまでも、何でもないドライブが一転して恐怖に……という「何でもなさ」が強く強く強調されているんですよ。主人公の視点に終始して、とにかく抑揚を徹底的に抑えて、彼が遭遇する出来事を淡々を追いかける……その過剰な盛り上げの無さが、逆に最大限の緊張感をもたらしていたと思います。
 カート・ラッセル演じる主人公も追い詰められて神経質になっているとは言え、その行動には大変リアリティが感じられました。ウソのようなヒーロー的な活躍もしませんし、マクガイバー的な超絶アイデアを披露してくれるわけでもありませんし(誰が知ってるんだこのネタ(笑))。
 そういう諸々が、主人公の置かれた境遇に、強烈なシンパシティをもたらしているのではないかと思います。
 ついでに言うと、陰謀を仕掛けた側の人間(ひとつだけネタばらしをしておきます。失踪事件は超自然的な事象ではなく、あくまでも人為的な事件です)の人間描写も深くツッコまれてはいないのですね。悪役としてのキャラクタ像を魅力的にしようとか、悪人としての心理に深くツッコもうとか、そういうのも一切ありません。ただ主人公の目に映る悪役、というだけの描写なのですが、それが逆にものすごく得体の知れない感じで、これまたコワイんですよ!(笑)
 そういう得体の知れなさも含めて、あくまでも「主人公の視点からどう見ているのか」というのが突き詰められていたのではないかと思います。
 ……これってある意味、ものすごくバーチャル感覚なんじゃないでしょうか。
 もし自分が主人公の境遇に置かれたら……という事を、90分かけて行う追体験的イベントっぽい側面のある映画だったように思います。
 淡々とした話運び、抑え気味の演技、演出……そういうものがすべて、物語と観客との距離を可能な限りゼロに近づける事に成功していたのではないでしょうか。こういう映画の世界に入り込みやすい、感情移入しやすい人ほど、この映画はメチャメチャ怖い映画になってたんじゃないかと思います。
 いやぁ、ジョナサン・モストウは確かに凄い映画を撮りました! いやー、素晴らしかった!



 ……余談ですけどこの映画、一度見ると当分は二度と見たくない気がしますねぇ。
 いや別に見るに耐えないシーンがあるとかいうのではなしに、最初に見た時の心臓ばくばくっぷりを、美しい思い出として胸の奥にしまいこんでおきたくなるんですよ……(笑)



オススメ度:☆☆☆☆☆(文句なしです)




2002.8.4 スター映画?

「ザ・メキシカン」

監督:ゴア・ヴァービンスキー
主演:ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、ジェームズ・ガンドルフィーニ、他

鑑賞日:2002.6.3


 組織の下っ端であるジュリー(ブラッド・ピット)は、「メキシカン」というアンティーク銃を受け取りに、メキシコへと送られる。一方でジュリーがなかなか組織から足を洗わないのに業を煮やした恋人のサマンサ(ジュリア・ロバーツ)は、二人で行くはずだったラスベガスに一人で向かうことに。
 そんな彼女の元に現れたのは殺し屋リロイ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)。ジュリーがきちんと銃を持って帰ってくるための保険として、サマンサは人質に取られたのだったが、遠く離れたメキシコの地で、ジュリーは銃を手に入れて早々に、あれやこれやのトラブルに巻き込まれていた……。


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 全世界の映画ファン待望の、ブラピ&ジュリア・ロバーツ共演の一作であります!
 ……って言ってみただけなんですけど(笑) それでもまぁ、それなりに大きなトピックになる組み合わせではあるかと思います。
 でも、実際に同じフレームに収まっているシーンは意外と少ないような気が(笑) お話の3分の2くらいは、メキシコで奮闘しているブラピと、ラスベガス行きの旅を殺し屋と二人で続けるジュリア・ロバーツと、ふたつのお話を並行して描いているような感じなんですよね。まぁ後半でそのふたつのお話は一応繋がるのですが、そうなってなかったらマジで金返せ、てなものです(笑)
 てゆうか、二人分のお話をそれぞれそこそこのボリュームで描いているおかげか、この映画ものすごく長いんですよ(笑) 軽妙なコメディサスペンスなのに130分近いなんて、そんなのアリですか! てな感じです。
 まぁすげぇ退屈とは申しませんけど……二人が共演のスター映画、という程度の甘い認識でたまたま見てしまった一般人にはチトきつい内容だったかも知れません(なんじゃそりゃ)。
 ちなみにブラピですが、本作では極めて珍しいコメディ演技を披露しております。コメディ映画への出演自体はそんなに珍しくないような気もしますが、いつもはどっちかってぇとボケ役というか、2枚目役というか、いつも通り演技派的に構えているブラピを周囲がコケにして笑いをとる、という感じですが、本作のようにブラピみずからがコミカルに世話しなく立ち回る役どころというのは、もしかしたら初めてのような気がします……。
 あとはやはり、殺し屋リロイが良かったですかねぇ。殺し屋なのにめちゃめちゃいい人なんですが(笑)、退場の仕方がちょっともったいない感じでした。



 全体的には、コメディとしてはかなり独特なタッチがなかなか興味深かった一作なのですが……単純なスター映画としては少々凝り過ぎな気もします。そういう意味では逆に、狙ったような配役がマイナスだったような気もします……まぁ二人とも役にははまってない事もないんですけどね(どっちやねん)



オススメ度:☆☆☆



 


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