-cinema diary-

10月の映画日記:その1


 

2000.10.15 じつは実話?

「英雄の条件」

監督:ウィリアム・フリードキン
主演:サミュエル・L・ジャクソン、トミー・リー・ジョーンズ

鑑賞日:2000.9.8



 オヤジ二人熱演であります(笑)。
 舞台は中東、イエメン。アメリカ大使館が抗議デモ隊に包囲され、まさに暴動寸前という中、サミュエル・L・ジャクソン演じる大佐率いる海兵隊が大使一家救出にやってくるわけですが……投石、発砲が繰り返される中、彼は突然デモ隊に向けての発砲を命じ、結果女子供を含む非戦闘員80名が死亡。このニュースは大きく報じられ、大佐は非道の殺戮者として軍事裁判にかけられる事になります。果たして彼の下した命令は、正当なものなのでしょうか。それとも彼は、非情な殺人者なのでしょうか。
 大佐を演じるサミュエル・L・ジャクソンは、とにかく相変わらずのオーバーアクトぶりであります。そういや彼は「評決のとき」でも被告を演じてました。あちらでは、娘のレイプ犯を射殺した父親役……つうか、殺してばっかりだなあ。悪い事をしたのは明白で、その意味の是非を問われているという意味では、共通するものはあるかも知れません。
 そんな彼を弁護するのはトミー・リー・ジョーンズ。二人は、ベトナム時代の戦友という設定です。ジャクソンと比べて、こちらの方は「ダブルジョパディー」に輪をかけてのダレ演技。こういう非熱血な役柄の方が、逆に難しいんでしょうが……。ダメなりに、親友のために張り切る、という微妙な部分をうまく演じたと思います。さすが、アカデミー役者ですな。
 問題の虐殺シーンですが、これがかなりすごいです。某プライベートライアンのように内蔵が見えたり手足が飛んでたりと言うことはないのですが、血の色が鮮烈なのと銃撃の音が強烈(これは見た映画館の音響のせい)なのとで、かなり後味の悪いシーンに仕上がっています。死体の山を勝ち誇ったように見下ろすジャクソンを見ると、誰もが「お前悪役じゃん!」とツッコんでしまうことでしょう(笑)。このシーンを見る限り、彼が無実には絶対に見えません。ここの圧倒的な迫力を見るだけでも、この作品一見の価値はあると思います。
 で、その後真相を探ってトミー・リー・ジョーンズが調査に乗り出すわけですが……ここのくだりはまるっきり「逃亡者」ですね(笑)
 焦点となる裁判シーンはなかなかの迫力です。サミュエル・L・ジャクソンの熱演ぶりもそうですし、ここまで来るとダレてたトミー・リー・ジョーンズにも熱が入ってきて、演技合戦として充分迫力があるシーンと言えるでしょう。検察側を演じるのはガイ・ピアーズ。「LAコンフィデンシャル」に出てましたけど、それよりは「プリシラ」のドラッグクイーンと言った方が早いでしょうか(笑)。憎まれ役を憎々しく演じています。
 ただ、気になったのはラストシーンでしょう。裁判モノとして特別なドンデン返しがなく、結局グレーの部分を残したまま裁判は結審します。結果を書くようなヤボな事はしませんが、その後の出来事のいくつかがテロップで紹介されるなど、何やら実話もののような趣きです。慌ててパンフレットを読み返しますが、この映画は実話モノではありません。うーむ……イエメンとかいう具体的な地名も出てきますけど、いいんでしょうかね、これで。
 余談ですが、この作品の監督は「エクソシスト」のウィリアム・フリードキン。その「エクソシスト」はディレクターズカット全長版が今年公開されますが、それらのシーンは脚本家の強烈な主張を無視し、監督自身がテンポアップのためにカットしたのだそうです。ところが、本作「英雄の条件」では、ファイナルカットを巡ってスタジオ側とかなりもめたあげく、不本意な結果に終わったようで……。「エクソシスト」全長版が公開の運びとなったのも、その事が影響しているのかも知れません。そうなると、「英雄の条件」のディレクターズカット版というのはどんなシロモノなんでしょうね? ちょっとだけ気になりますが……。




おすすめ度:☆☆☆
 



2000.10.15 上海キッド真昼の決闘 (C)らる

「シャンハイ・ヌーン」

製作総指揮:ジャッキー・チェン
監督:トム・ダイ
主演:ジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルソン、ルーシー・リュー

鑑賞日:2000.9.1



 ジャッキー・チェン最新作です。
 これに関して、妙な勘違いをしておりました。てっきりゴールデン・ハーベスト製作の香港映画かと思っていたら、実はハリウッド進出第二弾だったんですね。しかも今回ジャッキーは製作総指揮も兼ねております。クレジットも白人俳優を押しのけてトップに来てますし、まさに大スターであります(笑)
 内容はと言えば、はっきり言ってしまえば「イースト・ミーツ・ウェスト」です。紫禁城の衛兵であるジャッキーが、さらわれたお姫様を追ってアメリカ西部を旅する……と言うもの。また、前作「ラッシュアワー」と同じくバディ・ムービーでもあります。
 前作もそうでしたが、アクションよりコメディの比重が高い作品であります。ジャッキー総指揮とあって、コテコテの香港ギャグがこれでもか、と展開されるわけですが……「ラッシュアワー」では共演のクリス・タッカーの方がギャグ担当で、ジャッキーはどちらかと言うとシリアス担当だったわけですが……今回晴れてギャグ担当となりました(笑) いや、ジャッキーはホントコメディが好きですなあ。
 けれど、実はかなり辛い映画でもあります。アメリカでは時々、すげえ下らないギャグ映画がヒットチャートの上位に名を飾り、日本人の首をひねらせるわけですが……香港のコテコテギャグというのも、日本での受け具合で言えば似たようなものだと思います。
 ジャッキーが日本も大人気である理由、それはやはり、彼が偉大なるアクションスターだからではないでしょうか。しかし、ハリウッドの安全第一主義の中では彼のムチャアクションは本領を発揮できません。結果として、ハリウッドにおいては彼のもうひとつの武器である「コメディ」で勝負せざるをえない……ところが、コメディの受けない日本では、そう言った作品は受けない……。という事です。
 決して、映画のデキが悪いとは言いません。しかしはやり日本人の目から見て、滑っているギャグも見受けられます。中途半端にアクションしているのも、なんか割り切れません。この作品で描かれているアクションシーンは、そのほとんどがカットを割ったり合成したりと、「安全に」撮られているのが丸分かりのものばかりです。まさか彼に「死ね」とは言えないが、このままコメディ路線をひた走ると日本のファンが離れて行きはしないかなあ、と少し心配になってきます……。



 さて、それを踏まえた上で、翌日DVDにて「ナイスガイ」を鑑賞しました。盟友サモ・ハン監督による香港映画です。
 ともかく、「シャンハイ・ヌーン」の不満を一掃する出来映えです。内容はと言えば、例によって巻き込まれ型のサスペンスアクションなのですが、冒頭の路地裏の追っかけっこから息も付かせぬ展開。さすがです。かつてのジャッキー映画は悪役がステレオタイプ過ぎて面白みに欠けていたりしていたのですが、近年では悪役も貫禄たっぷりで、サスペンス的要素も充実してきています。海外市場を考慮して、シナリオに力を入れているのでしょうか。
 アクションの方も盛り沢山です。小技を駆使した追いかけっこは本作でも健在ですし、巨大ダンプカーに轢かれそうになるシーンなど、失敗していたらどうするのかと心配になる、ムチャなシーンもちゃんと存在しています。「ジャッキー=アクション」派なら充分に堪能出来る作品でしょう。
 すでにハリウッドで二作撮っているジャッキーですが、彼はこれからもアジアを拠点に映画づくりをしていくらしいですから、ムチャアクションは香港で、コメディはハリウッドで、という撮り分けをしていくつもりなのかも知れません。




 余談ではありますが。
 「ナイスガイ」でジャッキーが演じる役名は、「ジャッキー」。本作に限らず、結構多いパターンではあります。それが端的に示しているように、ジャッキーって何を演じてもジャッキー・チェン以外の何者でもないんですよね……。非アクションのシリアスドラマとか、絶対に撮れないだろうな、と余計な事を考える今日この頃……(爆)




おすすめ度:☆☆(一応、ファンならオッケーでは?)

「ナイスガイ」おすすめ度:☆☆☆☆(劇場で見逃したことを恥じました(笑))



2000.10.15 技術点なら満点

「タイタンA.E.」

監督:ドン・ブルース、ゲイリー・ゴールドマン
声の出演:マット・デイモン、ビル・プルマン、他

鑑賞日:2000.8.30



 みのやんさん曰く、「ハズレっぽい映画」……だそうです(笑)。
 この作品、公開がなんか妙に早く終わるのが気にかかったんですが……実際作品を見て、妙に納得してしまいました(笑)
 絵柄の好き嫌いはともかくとして、単純に作画技術だけを比較すれば、アメリカのアニメは日本製とは比べ物にならない程高いレベルにあります。特にディズニーをみていると、それがよく分かるのですが……。
 にも関わらず、作られるのは動物がおしゃべりしているようなおとぎ話ばかり。実にもったいない話です。ディズニークラシックなどで、やたら派手なアクションシーンなどを見ていると、描いてるアニメーターはもっとエンターテインメント色の強い作品もやってみたいんだろうなあ、と憶測してしまいます。いっその事、某スターウォーズみたいなSFアクションでも作ればいいのに……。
 などと考えていると、コレが出てきました。「アイアンジャイアント」を別格とすれば、企画の内容で日本アニメに並ぶシロモノはこれが初めてなのではないでしょうか。人物を2Dで、宇宙船などのメカを3Dで描くという手法は日本のアニメでも模索されていますが、さすがに技術は向こうの方が上のようです。そもそも実写のSF作品を見れば分かるように、CGの技術は当然のように向こうの方が上ですし、SFセンス爆発のアニメーターも少なくなさそうです(笑)。これで面白くならないはずがない……と思ったら、実際面白くならないんですよね(笑)
 絵の方はともかく、この作品の場合シナリオや設定にかなり問題がありそうです。何しろ、主人公に感情移入する余地がほとんどありません。巻き込まれる形で冒険に乗り出すのはいいとして、物語の後半を迎えるまでまったく自発的に行動しようとはせず、すべて周囲に流されるままという人物が主人公として適役と言えるかどうか……。そういう意味では、映像が素晴らしい分逆にフラストレーションの溜まる作品でありました。
 そう言えば、この映画を見ていてなぜか「レンズマン」を思い出してしまいました。エドワード・E・スミス原作のスペースオペラで、1985年に日本でアニメ化もされています。アメリカで映像化されたという話は聞いた事がないので、これが唯一の映像化作品だったと思います。宇宙を舞台とした冒険アクションという意味では同ジャンルの作品ですが、「タイタン〜」で主人公の手のひらに光る地図が浮かび上がっていた描写と、「レンズマン」の手の甲に光輝く"レンズ"の描写、ヴィジュアル面でも共通箇所が見出せますね。ついでに言うと、巻き込まれ型の導入部分も少年の成長物語である点も一緒です。さらに言えば、宇宙船をCGI描いている手法まで一緒です(笑)。
 そして、肝心な事がもうひとつ……個人的には、最新技術満載の「タイタン〜」よりも、15年前のローテクアニメの方が面白かったです……(爆) 負けてどうするんだよ〜(笑)




おすすめ度:☆☆(技術点ならあと2つは行きますが……)



2000.10.15 華麗なる歴史絵巻

「グラディエーター」

監督:リドリー・スコット
主演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス

鑑賞日:2000.8.18



 今年もヘンな映画をいっぱい見てきて、個人的なフェイバリットもいくつか存在しますが、とりあえず人に素直にお薦め出来るという意味では、本作は今年のベスト3に入るかも知れません。
 監督はリドリー・スコット。と言うとどうしても浮かぶのが「エイリアン」であり「ブレードランナー」だったりします。そのイメージが強すぎる彼なので、ビジュアルに走ればこの2作には追い付かず、かと言ってドラマに走れば「らしくない」と言われる……そういうジレンマを抱えているわけですが、本作はでそれを見事に打ち破ってくれました。
 まず圧倒されるのは、そのスケールです。冒頭のローマ軍対ゲルマン人の戦い。史劇ものらしい豪華さを描きつつ、戦場の土と血の匂いが濃厚に漂ってくるようなリアリズム。かと言って絵が地味に埋没することもなく、戦場の混乱を「絵」として切り取ることに見事に成功しています。……結構バイオレンスな描写に、「プライベートライアン」をやや思い出してしまいましたが(笑)
 そして中盤以降描写される、ローマの街やコロシアムなどは、従来の史劇スペクタクルが群集の人数でしか出せなかったスケール感を、見事に表現しています。実際に組んだ巨大セットに加え、ミニチュア、CGイメージ、これらをデジタル合成によって巧みに組み合わせることで、実写だけでは撮れないスケール感をうまく醸し出しているわけですね。
 そして何よりもラッセル・クロウの微妙な存在感がたまりません。皮肉な話ですが、かつてこう言った史劇スペクタクルがばんばん作られていた時代とは違って、現代の映画づくりはリアリティが重視されます。顔の知れたスターでは、彼らの固有イメージを映画世界に持ち込んでしまうため、そう言ったリアリズムを遮る事になってしまいます。
 そう考えると、このラッセル・クロウのようにそこそこに顔が売れておらず、演技力でもってうまく映画の世界観、ストーリーに溶けこみつつ、さらに役柄なりのカリスマ的存在感を醸し出す……そういう役者こそ、この映画には必要だったのではないかなと思います。知名度優先のキャスティングでは、こういった微妙な存在感はまず出せなかったはずです。それでもビック・バジェットである以上、ある程度のネーム・バリューは必要で……そう考えると、スターとしての彼の微妙な位置付けが、実にうまく働いているとは言えないでしょうか(ファンの方ゴメンナサイ)。




おすすめ度:☆☆☆☆(「人に薦めてガッカリされる度」は極端に低いでしょう(笑))



-全くの余談-
 白泉社・月刊ヤングアニマル(「ベルセルク」が連載されている雑誌です)に連載中の「拳闘暗黒伝セスタス」(作・技来静也)というコミックがあります。「グラディエーター」と同じく古代ローマ帝国を舞台に、少年拳奴の活躍を描いた作品です。こちらは剣ではなく、拳闘――ボクシングが題材ですが。舞台設定が何かと似ているので、合わせて読むと何かと楽しめるかも、であります。単行本が5巻まで出てますので、よろしければどうぞ(まるっきり宣伝ですな(笑))。



-さらに余談-
 上で「無名」呼ばわりしたラッセル・クロウですが、その後アカデミー主演男優賞も取りましたし色々ゴシップで世間を賑わせたりもしましたし、アッという間に立派なハリウッド・スターになっちまいましたね……(汗)
(2001.7.17 追記)






2000.10.15 風雲急を告げる

「風雲/ストームライダース」

鑑賞日:2000.8.10



 のっけからナンですが、とんでもない映画です(笑)
 中華ファンタジー風時代劇+伝統芸能と化したワイヤーアクション……「チャイニーズゴーストストーリー」などに代表されるようにもはや香港映画のお家芸のようなものですが、本作ではそれに加えてCGを使いまくり! 登場する武闘家たちが繰り出す「技」のエフェクトはほとんどCGで描かれてますし、ファンタジーらしい幻想的な風景の多くも、CGで大胆に描かれています。
 まず唖然とするのがオープニングタイトル。まるで「ファイナルファンタジー」のムービー画面のように、登場人物までもがすべてCGで描かれているのです(笑) 続いて、前半の山場とも言える主人公・風の父と雄覇の対決シーン。何せ二人の武闘家が、フルCGで描かれた断崖絶壁を前に縦横無尽に飛びまわりながら戦うのですから(笑)、これは少なからず衝撃的であります。
 とにかく、どのシーンを見ても「あっ、CGだ!」と分かる造り。CGであることが有り難かった、古き良き過去を思い出してしまいます(っつっても数年前)。この作品が作られたのは98年。今ではここまではっきりと「CG」っぽい映像はハズかしくて使えないでしょう。過去の作品だからこそ許されるという事もあるのかも知れませんが、そのあまりにも堂々とした映像、時代的なものよりも、香港映画ならではの大胆さを思い知らされたような気分です。CGも確かにウソくさいのですが、衣装やら設定やらセリフやら、他にもかなりキている部分があります。例えば主人公の雲の衣装……上半身ハダカに、カッコ良くマントをなびかせて……。そう、まるっきり漫画かアニメでなければ「カッコいい」とは呼べない、恥ずかしさバクハツの代物なのです。生身の役者がそんな事を堂々とやって許される世界……もはやそんなのは、香港映画かインド映画くらいなものでしょう。そういう大胆な事を恥ずかしげもなく堂々とやってくれているものですから、逆にすがすがしくさえ思えてきます(笑)
 近年、人材の多くがハリウッドに流出している香港映画ですが、そっちではどうしても薄まってしまう香港パワーが、この映画では純度100%で味わうことが可能です……。




おすすめ度:☆☆☆☆
 



2000.10.15 I am always Hurricane.

「ザ・ハリケーン」

監督:ノーマン・ジュイソン
主演:デンゼル・ワシントン

鑑賞日:2000.8.3



 不世出のボクサー、ルービン・”ハリケーン”・カーター。時代を築いたチャンピオンでありながら、時代は黒人である彼には非情でした。偏見から投獄され、少年院で過ごした少年時代。偏見と戦いながら、実力でチャンピオンの座を勝ちとって行ったボクサー時代。その絶頂期に彼は、殺人のぬれぎぬを着せられ、刑務所に送られます。
 自由のための孤独な戦い。獄中で記した半生記は多くの人々の心を動かしますが、裁判で彼は再び有罪の判決を受けます。絶望かと思われたその時、彼に光明をもたらしたのは一人の少年でした。
 スラムで育った少年レズラは、古本バザーでこの”ハリケーン”の自伝に巡り合います。この本との出会いが、彼らの運命を変えました。本に感銘を受けたレズラは獄中のカーターに手紙を送り、そして二人の交流が始まります。彼の無実を信じるレズラの気持ちは、やがて周囲の大人達を動かして……。

 

 いや、実に素晴らしい作品でありました。
 本作は、時代を築いたボクサーでありながら、無実の罪で投獄され、自由のために戦い続けた男――ルービン・”ハリケーン”・カーターの半生を綴った、実話ものです。
 少年院で過ごした少年期、人種差別と戦いながらチャンピオンの座を勝ち得るまでの絶頂期、そして起った、不幸な事件……彼は殺人罪で、無実のままに投獄されます。
 映画は、カーターが投獄され、獄中で自伝を執筆するまでの彼自身の物語と、そんな彼が執筆した自伝に感銘を受け、彼のために周囲の大人達を動かしていく少年レズラとカーター自身との交流、そして無実に向けてやり直された裁判……これらを、過去と現在を行き来しながら描いていきます。
 割合に長い作品ではありますが、事実関係がかなり込み入っている事もあってか映画ではそれらの展開をかるくなぞる程度で、そんなに突っ込んだ内容にはなっていません。むしろ淡々としていないこともないのですが……。
 ともすれば単調になっていたかも知れないこの映画に、見事に命を吹きこんでみせたのが、主人公”ハリケーン”を演じるデンゼル・ワシントン。彼はこの役のために1年もの間トレーニングにはげみ、40代にして本物のボクサーのような肉体を作り上げてしまいました。作中では三度、ボクシングの試合のシーンが描かれますが、彼はスタントなしで実際にファイトを演じています。伝説のチャンピオンのボクシングシーンを再現しようというのですから、大したものです。
 トレーニングもさることながら、血気あふれる青年期、王者の貫禄にあふれる絶頂期、投獄され孤独な戦いを強いられるその焦燥感、そしてその獄中で悟りを開いたかのような、老成した落ち着きのある男……彼はこれらすべてを、完璧に表現しています。彼の演技が、まさにこの「ザ・ハリケーン」という映画の、血肉となっているわけです。これを見逃すと損。




おすすめ度:☆☆☆☆(D・ワシントンの演技に対して)
 



2000.10.15 約束はいらない

「エスカフローネ」

監督:赤根和樹
声の出演:坂本真綾、関智一、他

鑑賞日:2000.7.16



 アニメです。それも日本のアニメです。
 こういったアニメらしいアニメを劇場で見るのも、何だか久しぶりな気もします(「人狼」はこれの後で見ました)。いとこのUtayo氏と二人で見に行ったのですが、客が我々を含めて三人しかいない……唖然としました(笑)
 ま、考えてみりゃ何でこれを金沢で上映したのか、不思議な話であります。この作品、いつぞやの「アイアン・ジャイアント」と同じくワーナーマイカルのみの上映で、しかも上映館は極端に少なかったようです。だから上映してくれた英断には拍手を贈りたいのですが……。
 この映画の元になったTVアニメシリーズ「天空のエスカフローネ」は、1996年にテレビ東京系列で放送された作品です。テレ東という事から予測がつくように、実は金沢では放送されていません(爆)。そう考えると、どんなお客さんを見込んでいたんでしょうかね……?
 それに、元のTVシリーズからはすでに4年が経過してます。「なんで今更エスカフローネ?」と思ってしまいます。TVシリーズが大ヒット作だった、という事もありませんし、クオリティアップのために4年かけて作っていた、というわけでもなさそうです……作画のクオリティは、正直言って劇場作品としては???です。「異世界ファンタジー」という、アニメにはもっとも不向きなのではないかと思われるジャンル(自然の風景、動物やモンスターなどの生物の描写など、セル画のニガテ科目がてんこもり)である事を考えれば、頑張っている方だとは思うのですが……。
 こういったTVシリーズからの映画化作品というのは、続編だったり番外編だったり、とにかく元のシリーズを見ていないと何が何だか分からない、というケースが少なくないです。まあアニメの場合、お客さんにはマニアックな人が多いので、ビデオやら関連書籍やらで、予習はバッチリなんでしょうけどね(笑) とは言え、僕もUtayoっちも、TVシリーズは見ていません(爆)
 ただし、見てなくても大丈夫な内容ではありました。基本的にTVシリーズのリメイクで、作画はすべて新作カットです(という事をお断りするのは、アニメの場合総集編とかも未だに存在するので……)。シナリオも、TVシリーズの展開を踏まえた上でのオリジナル。まあ悪く言ってしまえば、ダイジェスト版なんでしょうが……。
 実際、見ていても「ああ、ダイジェスト版だなあ」と思わせる部分が少なくありません。必要の無い設定や登場人物がけっこう多かったですし、展開も唐突な部分が多々あります。一番の問題は、主人公であるヒロインの性格に、大きな問題があると言うこと……これ見ていて、イライラする人多いだろうなあ、と思いながら見ていました。
 まあ、いいんですけどね……ASDとしては、坂本真綾の声が聞ければそれで満足ですし(爆)
 ただ、彼女は子役出身で芸歴はかなり長いので、若手の声優と比べれば演技力は段違いです。うまいだけに、本作の場合逆にヒロインが支離滅裂に見えるという……何かと不敏な作品でありました。




おすすめ度:☆☆(アニメがお好きな方はどうぞ)

 


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