-cinema diary-

5月の映画日記。


 

2001.5.30 クールかつスタイリッシュ


「スナッチ」

監督・脚本:ガイ・リッチー
主演:ジェイソン・ステイサム、ブラッド・ピット、ベネチオ・デル・トロ、
ビニー・ジョーンズ、デニス・ファリーナ、他

鑑賞日:2001.4



 裏世界で賭けボクシングのプロモーターをしているターキッシュは、パイキーと呼ばれるジプシー達とトラブルを起こしてしまう。負傷してしまった手持ちのボクサーの代わりにリングに立ったのは、そのボクサーをノシてしまったパイキーの若者・ミッキー(ブラピです)。しかし、八百長で沈むハズだったのに最初の一撃で相手をノシてしまい、ターキッシュは裏ボクシングの元締めブリック・トップに目をつけられるハメに。
 ベルギーにて86カラットの特大ダイヤの強奪に成功した凄腕の強盗・フランキー。彼はNYのボスの元へ戻る前に、その他のブツの換金のためにロンドンに立ち寄る。その特大ダイヤに目をつけたロシア人のバイヤー・ボリスは故買屋のソルらを雇い、ダイヤを奪わせるが、彼らが襲撃したのはブリック・トップが経営する、賭けボクシングの窓口。彼に目をつけられたソル達は、ボリスの狙っていたダイヤを追うハメに。
 一方で、フランキーの帰還を待ちきれずに、彼のNYのボス・アビーはロンドンにやって来る。ダイヤの行方を追って彼は私立探偵トニーとともに、ロンドン中をかけ巡る……思惑が交錯する中、ダイヤを手にするのは一体誰なのか……?


   *   *   *


 とまあ、関係あるのかないのか、いろんな登場人物が複雑に絡み合っていますね(笑) このまま語り続けたら最後まで行ってしまうのでここまでにしておきます(笑)
 本作はよくクールとかスタイリッシュとか表現されますが、実際にはどんくさいオヤジばかりがズラリと登場しまして、見た目で言えばクールでもスタイリッシュでもございません(笑) かのブラピにした所で、往年の清潔感あふれる二枚目っぷりはどこへやら、「ファイトクラブ」に輪をかけての小汚い汗くさいカッコで登場しております。
 では、ナニがクールかつスタイリッシュかと言いますと、関係あるのかないのかすら分からない濃ゆーいメンツそれぞれのエピソードが、ダイヤと賭けボクシングを中心にものの見事に一本に繋がってしまう、そのシナリオ運び、その演出にあるわけです。まさにクール! まさにスタイリッシュ!
 で、この話って何が言いたかったの? という話をしてもまあ小難しいテーマとかそんなものは何も見えてこないとは思いますが(爆)、これだけの話を2時間足らずで見事語り切っている、その手際のよさ自体が見どころと言えるかも知れません。
 こういうお話ですから、特に主役らしい主役というのはこの作品には存在しませんでして、むしろそういう複雑なストーリーそのものが主役である、と言えるでしょう。
 そんなお話を盛り立てるのは、一癖もふた癖もある個性派の役者たち。あの映画この映画で脇役や悪役を演じているあの人この人、濃ゆーいメンツがズラリ顔を揃えております(笑) シナリオや演出はあくまでも複雑なストーリーを追う事に終始し、それを彩る個性的なキャラ達は、やはり濃ゆーい個性をお持ちの役者さん達に委ねられているわけですね。皆さん不気味に不敵に、生き生きと演じていました(笑)



 こういう複雑な人間関係をめぐるどうのこうの、それも犯罪映画という話をすれば、どうしてもクエンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」を連想してしまうんですけど……。
 「パルプ〜」が3本のエピソードの中で雑多な登場人物を取り敢えずリンクして見せただけなのに対し、「スナッチ」ではここまで複雑に入り組んだ利害関係のあれやこれやの顛末を、ダイヤと賭けボクシングという二つの要素を中心として見事1本に繋げてしまったという所がスゴイわけですよ。
 そういう意味では、ガイ・リッチーはタランティーノを越えた!と言っても過言ではないかも知れません。そもそも、タランティーノって今現在一体どこで何をしているんでしょう……?(爆) スタイリッシュな作風で一世を風靡した人が、一気に過去の人になってしまった事を実感した作品でありました。



 ちなみにタランティーノ、新しい企画が動いているらしいんですけど……「バトルロワイアル」にお世辞言ってる場合じゃないぞ!(笑)



オススメ度:☆☆☆☆☆


2001.5.1 悲鳴は沈黙を破ったか


「ハンニバル」

監督:リドリー・スコット
主演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、レイ・リオッタ、他

鑑賞日:2001.4.12


 全米を震撼させた「バッファロー・ビル」の事件から10年、優秀な捜査官となったクラリス・スターリング。不祥事をきっかけに配属替えになった彼女は、ハンニバル・レクターの追跡に復帰する事になる。
 その頃、隠遁生活を送っていたはずのレクターは、イタリア・フィレンツェに姿を見せていた。そんな彼を密かに狙うのは、かつての彼の被害者で、唯一の生存者である大富豪メイスン・ヴァージャー。彼はレクターを表舞台に引き出すためにあれこれと策略を練っていたのだ。クラリスがレクターの捜査担当に復帰したのも、その一環。そんな陰謀が、やがて二人を巡り合わせる事になって……。



 というわけで、本作は1991年のアカデミー賞受賞作「羊たちの沈黙」の続編であります。
 というか、同作の原作の、続編である小説作品「ハンニバル」を映画化したのが本作、という事で、一応2本の映画には関連がないわけではありませんが、まあ別モノだと思って鑑賞するのが無難だとは思います。


   *   *   *


 そもそも、前作「羊たちの沈黙」は映画として完璧に近い作品でありました。
 猟奇殺人、美しき捜査官、狂気の殺人鬼。そういうセンセーショナルな要素をセンセーショナルにアピールする事も可能だったはずなのに、そういうハデな要素をストレートに訴求するのではなく、FBI捜査官クラリスと獄中の殺人鬼レクターとの対話を物語のメインに据え、人間に普遍的に介在する狂気を描き出す……そんな作品でありました。
 完璧な脚色、完璧な演出、完璧な演技。結果出来上がった、完璧な映画。
 それが、映画「羊たちの沈黙」だった、と言えるわけです。そのデキの完璧さが評価されて、アカデミー賞を取ったと言っても過言ではないでしょう。
 では、その続編である「ハンニバル」はどうなのでしょうか。
 ある意味本作は、前作と非常に対照的な作品である、と言えるでしょう。
 そもそも、ストーリーそのものが前作と大きく趣きを変えています。前作では檻の中に静かに佇んでいたレクターですが、今回彼は檻の外に解き放たれ、存分に悪のカリスマっぷりを振りまいてくれます。
 そう、ある意味では「羊たちの沈黙」で避けられていたセンセーショナルな要素を、逆にストレートに追及した一作であるとも言えるでしょう。前作を「静」とするならば、本作は明らかに「動」を描いた作品なのです。
 そんな作品を撮ったのは、リドリー・スコット。CM出身の映像派の監督です。「エイリアン」「ブレードランナー」でその映像センスが高く評価される一方で、「テルマ&ルイーズ」のようにドラマにも定評があります。しかしながらこの監督、ドラマを追求すれば映像がお留守になり、映像を追求すればドラマがお留守になるという、分かりやすい監督でもあるんですよね(笑) 「レジェンド・光と闇の伝説」のようにこだわりゆえにコケてしまうケースもありますし、かと言って「GIジェーン」のように雇われ監督に徹しても、枠の中で面白みを発揮できるほど器用な人でもありません。
 そういう意味では、アカデミー賞を取った「グラディエーター」の成功はある意味奇跡的とも言えるかも知れません。「華麗なる歴史絵巻」という方向性でビジュアルを追求しつつ、愛憎渦巻くドラマにも比重を置く。映像とドラマが、うまくバランスのとれた一作でありました。
 では、「ハンニバル」はどうなんでしょうか。
 確かに、その映像は絶品の一言です。冒頭の魚市場の銃撃戦で見せてくれる生々しい臨場感。大富豪メイスンの豪邸、フィレンツェの街並などの絵画的なまでの美しさ。血みどろのバイオレンスシーンも、もはやアートの領域に達しているかのような美しさを見せてくれます。
 反面、レクターにせよクラリスにせよ、目まぐるしいストーリーの中での「駒」としての要素が強く、レクターの狂気の世界に引きずり込まれるクラリス、というような微妙なドラマはきっちり描き切れているとは言い難いです。
 そういう意味では、ビジュアルばかりが突出したアンバランスな作品である、という見方が出来るかも知れません。そのアンバランスさが映画としては失敗しているとも言えるかも知れませんが、ある意味そんなアンバランスのままに強引に突き進む、そういうパワフルさが魅力である、とも言えるかも知れません。
 そう考えれば……ストーリーの上で前作と「静」と「動」の対称を成していた本作は、そういう「完璧なデキ」と「危ういアンバランスさ」という部分でも、うまい具合に好対称を成しているという風には言えないでしょうか。そういう比較を楽しめる余裕のある方は、是非見ていただきたいと思います。金返せ、とか文句言わないように(笑)


   *   *   *


 てな事を書いておりましたら、とんでもないウワサを小耳に挟んでしまいました。
 何でも、本作には劇場公開版とは別に、大幅にカットされた削除シーンを復刻した「4時間完全版」つうのがありまして、そっちをミニ・シリーズものとしてTVの方で放送する、というのです。上で「弱い」と指摘しました、ドラマ的な描写が大幅に復活するそうで……。
 でもその前に、あのグロいシーンの数々をどうやって放送するつもりなのか、それがとっても気にかかるのですが……まさかモザイクかけるわけにも行きませんしねえ。どうなんでしょうねえ(笑)



オススメ度:☆☆☆