-cinema diary-

6月の映画日記、後半。


 

2001.6.25 きたるべきみらい

「メトロポリス」

原作:手塚治虫
監督:りんたろう
脚本:大友克洋
作画監督:名倉靖博
音楽:本多俊之
アニメーション製作:マッドハウス

声の出演:井元由香、小林 桂、岡田浩輝、富田耕生、石田太郎、他


鑑賞日:2001.6.17



 人間とロボットが共存する夢の理想都市「メトロポリス」。探偵ヒゲオヤジこと伴俊作とその甥であるケンイチ少年は、国際指名手配中のロートン博士を追ってこの街にやってくる。
 そのロートン博士は、メトロポリスの実力者レッド公にかくまわれ秘密の研究に携わっていた。その研究とは……今は亡きレッド公の愛娘に似せてつくられた、究極のロボット「ティマ」の開発だった。だが、レッド公の息子ロックはティマの存在を妬み、完成直前の研究室を爆破してしまう。
 爆破による火災の現場に居合わせたケンイチ少年は、成り行きからティマとともにメトロポリスの地下世界に迷い込んでしまう。ロックに命を狙われながらも地上世界への帰還を試みる二人。その地下の世界ではロボットに仕事を奪われた民衆達が蜂起を画策し、その一方で地上ではレッド公がメトロポリスの実権を握るべく暗躍していた。自らの理想を実現するために、ティマを奪回しようとするレッド公。そんなティマに秘められた謎とは――?



   *   *   *


 というわけで、本作は手塚治虫のめちゃめちゃ初期の作品「メトロポリス」のアニメ化です。
 とは言え、これを映像化したのが脚本・大友克洋&監督・りんたろうのコンビ。大友は「AKIRA」で、りんたろうは「X」で東京の街をぶっ壊してみせた実績があります。


 すわ、メトロポリスも東京の二の舞?(爆)


 ま、そんな事はどうでもいいんですけど(笑)
 近年は劇場用のアニメ作品というと、ジブリ作品&子供向けの作品以外はやたらマニアックな作品が多かったんですけど(アニメファン向けか、または海外市場向け)、本作は久々に一般向けに出てきた良作でありました。
 とにかく、アニメーションとしての質がめちゃめちゃすごいです!
 まず冒頭からビックリ。ビルの谷間を縦横にかけ巡るカメラワークはCGを使えばまあ可能ですが、その後ロングに引いてモブシーン(群集シーン)を捉えるにあたって唖然としました(笑)
 モブシーン! うごめく粒のような人間を丹念に描くという……これを手描きでひとつひとつ描いているんだと思うとまさにキ○ガイみたいなショットであります! うおお、まさか日本のアニメでこんな映像が見られるとは!
(注:ちなみにディズニーはモブシーンを「手書き風CG」で描いております。それもすごいと言えばすごいんですけど)
 確かに、今時の作品らしくCGは思いっきり多用されていますが、具体的にロボットのメカがバンバン出てきたりとかではなしに(むしろロボットキャラはすべて手描きです)、背景のビルの景観とか、ケンイチ達が迷う込む地下の工場の景観とか(ややこしい機械が世話しなく動いているのですよ)、そういう地味ぃーなところにさり気なく使われたりしているのですね。その他、背景関係の合成とか、ものすごく地味なところにものすごい手間ヒマかけているんですよ(笑)
 例えば、地下へ下りていくリフトのシーン。カメラはロングショット固定、周囲は背景絵が1枚ですが、稼動しているリフトはCGで描かれていて、乗っている人間達は手描き。この3つをCGで合成処理しています。うわー、めんどくさそうだ!(笑)
 てな具合に、どのシーンも見ているだけでため息モノに仕上がっております。単純に作画枚数の少ないのをCGの見栄えで誤魔化している昨今のアニメとは、根本的なところが違うんですよ!
 とにかく、手描きの絵がホント細かいです。前述のモブシーンもそうですが、ほとんどのシーンに通行人などの複数のキャラが描かれている上に、バストアップ以上のアップのカットが極端に少ないため、ほとんどのシーンが全身の動きを描き出す必要のあるカットばかり。もしオイラがアニメーターだったらこんな絵コンテ描いた奴をしばき倒したくなりますよ(笑) そのくらい、手間暇かかった映像なわけです。
 いやあ、ホントすごい!(さっきからそればっか(笑)) 日本のアニメでここまで「映像」で圧倒させる映像を見せてくれる作品なんて、ジブリ作品を除けばはほぼ10年くらい、絶えて久しかったんじゃないでしょうか。



 ただ、ここまで誉めちぎっておいてナンですが、シナリオは結構ヌルイです(笑)
 基本的なお話の骨格はボーイ・ミーツ・ガールものなんですけど、実際の全体としては各キャラが等しく描かれている、群像劇風の内容に仕上がっています。誰を主人公とも解釈できますし、反対に誰を主役と想定しても主役つうには物足りないです(笑) まあ、これはシナリオを手掛けた大友克洋のクセというか何というか……「AKIRA」だって、そういう感じでしたしねえ。
 っていうか、ナニが弱いってケンイチ少年のキャラが作中で一番弱いんですよ(爆) ティマは何もしてなくてもかわいいからオッケーなんですけど(爆)、ケンイチ少年がアレではボーイ・ミーツ・ガールとして成立しないよ!(笑)
 まあキャラの話はそれで置いておくとして、ストーリー自体も実は結構入り組んでいます。メトロポリスの実権を握ろうとするレッド公ですが、大統領との権力確執とかイマイチ全貌が掴めませんし(笑) かと思えば、中盤以降の地下世界の住人の蜂起――地下の街に住む人間達と、ロボット社会を管理している上の人間達との確執なんていうシチュエーションから、ロボットと人間の違いとは何か、みたいな古典SFらしい問いかけもなされています。
 ともあれ……そういう古典SFっぽいストレートなテーマを絡めつつも、レジスタンス活動だったりごみごみとした地下世界の描写だったり、手塚アニメのように思わせといて実は「AKIRA」ちっくなお話に仕上がっているんですよね。結局ラストは――――ですし(笑)
 そういう意味では、今ドキのアニメとしても古き良き古典SFとしても、それなりに見せてくれる作品ではありました。なんか、なつかしの手塚キャラ総出演!てなノリもありますし。
 個人的には――地下に押し込められた、ロボットに職を奪われた労働者層と上層階級との軋轢、そんな中で崇拝されるロボットとして作られたティマ――そういった要素から、手塚版「メトロポリス」の元ネタであるところの、フリッツ・ラングの無声映画「メトロポリス」もちらっと想起させる作品だったかな、と思いました。



オススメ度:☆☆☆☆(シナリオがヌルイので−1。とは言えジュブナイルだと思えばこんなものか……)




2001.6.25 呑み込まれるな

「トラフィック」

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マイケル・ダグラス、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、ベネチオ・デル・トロ、他

鑑賞日:2001.6.8


 アメリカ社会に蔓延する麻薬。メキシコで生産され、国境を越えてアメリカに持ち込まれ、売り捌かれる――犯罪組織によって巧みにコントロールされる巨大な流通システム――”トラフィック”。
 麻薬取締局の長官とドラッグに溺れるその娘。内部の汚職に立ち向かう捜査官。自分の夫が麻薬組織のボスであることを知った妻――”トラフィック”を巡って展開される、様々な人間模様。家族の絆を取り戻すため、おのれの正義を貫くため、自らの生活を守るために――人々は”トラフィック”に立ち向かい、あるものは呑み込まれていく――。


   *   *   *


 というわけで、本作はアメリカ社会に蔓延するドラッグと、それにまつわる巨大な流通システムを巡る人々のドラマを描いた作品です。
 監督はスティーブン・ソダーバーグ。ジュリア・ロバーツ主演の「エリン・ブロコビッチ」および本作の2本が、アカデミー賞の作品賞および監督賞にダブルノミネートってんですからすごいですねー(笑) ちなみに、本作「トラフィック」の方で無事監督賞を取っております。
 さて、ソダーバーグ作品と言えば特徴的なのが、臨場感あふれる手持ちカメラの映像。普通こういう映像は手に汗握るアクションシーンとかで使うものなんでしょうが、彼の場合ごく普通の会話シーンなんかで使っています。これによって、映像がなにやらドキュメンタリータッチになるんですよねー。
 ところが、彼の作品は結構「スター映画」が少なくないです。「アウト・オブ・サイト」ではジョージ・クルーニーとジェニファー・ロペスが主演でした。「エリン〜」の主演はジュリア・ロバーツで、すんげえわざとらしいまでの熱演を見せてくれます(笑・でも彼女はこれでアカデミー主演女優賞をゲットしましたね)。本作でも、マイケル・ダグラスがかなりクサイわざとらしい演技を披露しております。
 つまり、役者の作為的なクサイ演技を、ドキュメンタリーっぽいごく自然な感じで演出するというちょっと不思議な作風なんですよね(笑)
 ですから、映画の雰囲気がかなり役者の魅力や演技スタイルに左右されるという事になっているような気がします。「エリン〜」は職人監督の作品らしからぬホントにスター映画らしい作品でしたし、それに対して本作の方では、ソダーバーグテイスト全開の濃ゆーい感じの作品に仕上がっていました。
 それでも面白いのは、どっちに仕上がっても「ソダーバーグらしい」作品にはなっているというわけですね(笑)
 普通監督の個性が目立つ映画というのは、相当に自己主張の強い演出が為されているものなんですが、ソダーバーグの場合非常にナチュラルテイストなのが「らしい」という、一風変わった感じの監督だなー、と割とどうでもいい感想を持ってしまいました。



 ま、本作の場合「麻薬はイカン」という社会的なテーマを直接的に打ち出していますんで、純粋に映画として楽しもうとすると結構不満もない事もないんですけど……(爆)



オススメ度:☆☆☆(結局主役は「麻薬」なのがちょっと……)









2001.6.25 「バトルフィールドアース」を忘れたいあなたへ

「シビル・アクション」

監督:スティーヴン・ザイリアン
主演:ジョン・トラボルタ、ロバート・デュバル、他


鑑賞日:2001.6.23


 傷害事件専門の弁護士であるトラボルタ。金儲け第一をモットーとしてこれまで成功してきた彼は、多額の賠償金目当てに大企業相手の公害訴訟を手掛ける。しかし、裁判が進むにつれて環境汚染の実態を知っていった彼は、次第に正義に目覚めていく。だが、現実は厳しかった……。


   *   *   *


 WOWOWにて鑑賞。ちょいと拾い物でした。
 しばしの低迷時期を経て94年の「パルプ・フィクション」で復活を遂げたトラボルタですが、意外と最近の作品でも劇場未公開だったり、マイナーな作品が結構あるんですよね。本作が劇場公開されたかどうかちょっと分かりませんが、ASDはWOWOWで見るまではこの映画の事は知りませんでした(笑)
 とにかく、キャストが意外に豪華といいますか、ASD好みなんですよね(笑) 主演はトラボルタ、その彼と対決する企業側の弁護士がロバート・デュバル。「ディープ・インパクト」でもシブイ演技を見せておりましたが、本作でも実に老獪なベテラン弁護士を楽しそうに演じております。法学校で教鞭を取っているという設定もあって、指摘がいちいち的確なんですよね(笑) 相当な野球ファンで、試合のある日には必ず遅刻してくるってのも面白かったです(笑)
 トラボルタの事務所の同僚にウィリアム・H・メイシー。「エアフォースワン」なんかにもチョイ役で出てましたし、「ER」のモーゲンスタイン部長も有名ではありますが、彼の場合は「ファーゴ」の情けない婿養子とか(妻の狂言誘拐を企むが失敗、ドツボにはまって……)、「マグノリア」の元天才少年とか(かつて子供クイズ番組のチャンピオンだったが今はただのオッサン。いきつけのバーのウェイターをやってる好青年にホレてしまってドツボに……)、「情けなく転落していく中年男」を演じさせると右に出る人がいませんね(笑) 本作でも裁判費用を捻出するために、事務所の経費を切り詰めまくって余剰な従業員を解雇してあげくの果てに自分の家まで売り払い宝くじにハマるも成果無しというふうに、やっぱりドツボにはまっています(笑)
 被告側の企業の下請け?で実際の汚染源である工場の社長を演じるのはダン・ヘダヤ。「エイリアン4」でエイリアンにやられる研究船の船長を演じていた眉毛の太いオッサンですが、この人はデンゼル・ワシントン主演の「ザ・ハリケーン」で、黒人ボクサーのルービン・カーターに無実の罪を着せた人種差別主義者の刑事を実に偏執的にねちっこく演じております。本作でも、絶対に口を割らない偏狭なガンコオヤジ社長を憎々しげに演じておりました。
 これだけのメンツの中、トラボルタが相変わらずイミもなくさわやかなスマイルを振りまいているわけですね(笑)
 実際の本編の方はまあフツーと言いますか……演出がややトリッキーなのがちょい鼻につきますが、まあ裁判ものらしい適度に締まった作品だったと思います。



 そうそう、この作品ってどうやら実話ものらしいんですけど……水質汚染、環境汚染にまつわる訴訟っていうネタが「エリン・ブロコビッチ」と思いっきりカブッているんですけど……(笑)
 まあ、あちらはあちらという事で。ただ、こちらの方が実話らしい落ち着いた映画でしたけどねー。



 ところで、上にあげている役者の皆さんですがクレジットを特に確認してませんので、ひょっとしたら勘違いしているかも知れません……再放送で確認だけいれておこうかな……(爆)



オススメ度:☆☆☆(WOWOWが見られる人は再放送をチェックしよう(笑))



 


鑑賞順リストへトップページに戻る