-cinema diary-

2002年3月の映画日記


 

2002.3.2 非友好的ET

「遊星からの物体X」

監督:ジョン・カーペンター
主演:カート・ラッセル、他

鑑賞日:2002.2.12


 南極。雪と氷に閉ざされたこの土地で、ノルウェーの観測基地が壊滅状態になっているのをアメリカの観測隊が発見する。原因を探るべく持ち帰った記録ビデオによれば、彼らはこの南極で、外宇宙からやってきた謎の生命体を発見したらしかった。
 やがてその生命体は、人知れずアメリカの基地にも紛れ込んでしまう。人間そっくりに化ける事が出来るその生命体を巡って、隊員達は徐々に疑心暗鬼に陥っていく……。


    *    *    *


 「ET」と同じ1982年に公開された、SFモンスターホラーの古典中の古典です。こいつも今更ながらに、DVDにて鑑賞しました。
 というか、これは今見ても結構グロかったです(笑) 南極観測隊があんまりプロの探検家に見えない、とか(西部の荒くれ者みたいに見えます……(笑))、謎の生命体であるところの「物体X」に関するSF考察?が結構穴だらけだとか、観測隊員たちのキャラの描き込みが甘いとか、色々とツッコミどころはあるんですけどね……。
 何せホラーとして、これはきっちり怖かったです。いやー、こんな作品幼少のみぎりにうっかり見てしまわないでよかった!(笑)



 ……まあ、ストレートなモンスターホラーですので、ややこしい解説は抜きにして見ていただくのが一番なんでしょうけどね。なんかこう、監督のジョン・カーペンターの作風なんでしょうか、微妙にツッコミどころが多くて、その辺りもなかなか面白かったです(笑)
 例えばこの作品、先にも書きましたが、キャラクタの作り込みがかなり甘い感じです。南極の観測基地に孤立した野郎ども、という以上に、誰それにこんな過去のトラウマがあるとか、何か悩みを抱えているとか、どういう特技があるのかとか、そういう個性のようなものはシナリオや設定の面では何も用意されてなくて、役者の演技アプローチに全部任せっきりなんですよね(笑)
 そんな感じですので、キャラ一人一人に、具体的に共感や反発を抱く事がないのです。誰かが危ない目に会ってたりしても、その人物に感情移入出来ない以上、お前死ぬんじゃないぞー! というような盛り上がりはありません。
 ただ、見方を変えれば、一人一人のキャラに脇役・主役といった重要度の差異があんまり無いので、誰が死ぬのか、誰が生き残るのか、まったく先が読めないんですよね。そういう意味では、確かに怖かったです……。



 ところでこの作品、特に秀逸なのがそのモンスターのデザインだったりします。同じように古典中の古典として知られる「エイリアン」でも、結局モンスターであるエイリアンは着ぐるみでしたが、この「物体X」では恐らくSF映画初の「人型ではないモンスター」が登場しているのですよ。
 これらの造形、かなりグロいわけですが(笑)、現在のようなCG技術があるわけでもなし、そういう時代によくぞここまでのものを作ってくれた、と感心せざるをえませんねぇ。
 で、このモンスターの造形自体がかなり衝撃的なわけですが……実はこの映画、ホントに怖いのはそういう即物的な恐怖ばかりではありません。
 「物体X」は人間そっくりに化け、隊員たちの誰かになりすまして、潜んでいるわけです。実は、それこそがこの作品のポイントなのですよ。
 物体Xは血一滴でも活動する事ができ、そういうものに触れてしまっただけでものっとられる可能性は大なわけです。人間になりすまされて、そんなヤツが隣にいるだけでも、もはやアウトと言えるわけで……。
 ですので、登場人物のほぼ全員が容疑者だったりするわけです。「容疑者の可能性アリ」ではなくて、実際に本編では誰も信用できない徹底した疑心暗鬼が横行しているわけですが……そもそも最初から、誰と誰がクロなのか、あるいはシロなのか、それを理性的かつ論理的に明らかにしようとかいう努力が、実は始めから放棄されていたりもするから恐ろしい話です(笑)
 例えば、「誰それと誰それは会ってもいないから大丈夫」とか、「誰それは誰かさんと一緒にいたからあやしい」とか、そういう風に論理的に推理していけば誰が物体Xで誰がそうでないのかは、ある程度推理出来るはずなのですが……本編ではそういう努力一切無しで、いきなり全員容疑者、全員クロだ!というギラギラした疑心暗鬼の世界が展開されているわけですよ(笑)
 お前ら、知恵と勇気と理性でこの状況を論理的に乗り切っていこうという、文明人らしい行動は取れんのかい! と思わず突っ込んでしまいそうになりました(笑) てゆうか、ホントに怖いのは、そうやってすぐさま一触即発な状況になってしまう、その血気盛んさなのかも知れません……(笑)



 ちなみにDVDには、1時間以上にも及ぶ気合の入ったメイキングが入っていたりします。最近の作品だとメイキングとか言いながら単なる事前プロモーションのインタビューが入っているだけだったりもしますが(まあそれも資料性が皆無というわけではないのですが)、やっぱりせっかく収録するならばこういうツッコんだメイキングが見たいものでありますなぁ。
 あと、監督ジョン・カーペンターによる解説音声が、副音声として収録されておりまして……これが実は一番貴重なんじゃないかと思いますが、残念ながら日本語字幕が収録されていないため、何を言っているのかはサッパリだったりします。くっそー、残念!


おすすめ度:☆☆☆☆




2002.3.2 黙示録を今!

「地獄の黙示録・特別完全版」

監督:フランシス・フォード・コッポラ
主演:マーティン・シーン、マーロン・ブランド、ロバート・デュバル、デニス・ホッパー、他

鑑賞日:2002.2.4

公式サイト:http://www.apocalypse.jp/


 泥沼の様相を示しているベトナム戦争。アメリカ軍は莫大な人員と物資を投入しながら、ゲリラ活動を続ける北ベトナム軍を打ち破る事が出来ずにいた。
 そんな折、秘密部隊所属のウィラード大尉(マーティン・シーン)に下ったとある命令。それは、軍の命令に逆らってカンボジアとの国境地帯に潜伏しているカーツ大佐(マーロン・ブランド)を抹殺せよ、というものだった。
 カーツ大佐は現地民を兵士に仕立てあげ、北ベトナム軍に対してゲリラ戦を展開しているという。そんな彼のやり方を軍は認めようとしなかったために、彼は軍を離れたのだ。
 そんな彼を、軍は裏切り者として抹殺しようとしていた。ウィラード大尉はカーツ大佐の元へと向かって、ボートで河をさかのぼっていく。その旅のさなか、大尉とボートのクルーは、戦場の様々な姿を目撃するのだった……。


    *    *    *


 さて、「地獄の黙示録」であります。
 ……てゆうか、何を書けばいいんでしょうかね(笑) この映画の撮影裏話に関してはすでに独り言の方に書きました(こちら参照)。てゆうか、映画日記用にネタをとっとけば良かったと今更後悔してます(笑) この映画を見に行った日の顛末についてはこちらを参照。
 で、本編の感想ですが……実はASDさん、この作品を見るのはこれが初めてではなかったりします。もちろん完全版ではなくて、オリジナルの2時間半のやつですが。
 最初に見たのは高校生ぐらいの時、NHKの教育テレビで放送していたものでした。BS未導入のその当時、とても貴重な字幕・ノーカット放送だったんですよねぇ……(しみじみ)。
 えーっと、その時の感想はですね、正直に言えば????という感じでした(笑) ワケがわかんなくて、呆然としてしまいましたね……(笑)
 とにかく、何が言いたいのかさっぱりなんですよ。反戦……まあ反戦は反戦なんでしょうねぇ。あまりこれを見て、戦争を賛美しているような作品にも見えませんし。でも、「プライベートライアン」ぐらいに血まみれぐちょぐちょで、単純な生理的嫌悪をもたらすものでもありませんし。
 うーむ、なんかピンときません。



 で、今回の「完全版」です。今回は単にカットされたシーンを復元したのではなしに、何でもオリジナルの編集前のフィルムを持ち出してきて、あらためてもう一回、最初から編集をやり直したのだそうであります。ま、ぱっと見では既存のシーンには特に何の変更もないように見えますが……。
 ロードムービー的な趣向の本作ですが、見てすぐに分かるのは、2つばかりエピソードが増えているという事でしょうか。それ以外にも細々としたシーンが増えていて、個々のエピソードの1話1話の起承転結が強調されているような、そんな印象を受けました。
 よりロードムービーらしくなった、とでも言えばいいんでしょうかね。一本の映画というよりは細かいエピソードによる連作っぽい感じ、と言えばいいのでしょうか……。
 ですので、むしろある意味では2時間半の旧バージョンよりも見やすくなってたかも知れません(笑) そういう一つ一つのエピソードに対してあーだこーだと思いを巡らせるのも可でしょうし、全体をひとつのお話と捉えてその深遠なる意味を考察してみるのもアリでしょう。
 そんなこんなで、この映画をかなり久しぶりに見たASDさんは、特に退屈には感じませんでした。……ま、意味不明なのは相変わらずだった、という事はここに明記しておきますけど(爆)



 まあ何で意味不明に感じるのかと言えば……考えてみますと、ラストに登場するカーツ大佐が狂気に陥っているという事実、そこがポイントであるような気がします。
 主人公ウィラード大尉はこの任務に疑問を感じ、カーツ大佐の資料を読み解いていくうちに軍に反旗を翻した彼に同調していくわけですが、その物語の観客であるASDは、すでにマーロン・ブランドのわがままっぷりなどから、カーツ大佐がどういう状態の人物なのかを既に知ってしまっているんですね(笑) それゆえに、「カーツの方が軍よりも正しい」と思考するウィラード大尉の思いに今ひとつ同調出来ないのではないか、と思います。
(そもそも、物語後半の彼のいる村の様子をみれば、カーツ大佐を是正的に見る必要があるのかどうかはかなり疑問な感じ……)
 思い返してみれば冒頭部分、彼がホテルで酩酊しているくだりのモノローグでも、平和な生活に逆に空虚さを覚え、戦いに身を投じる事でリアルな現実に身を投じたがっている――そうやって戦場行きを切望している、そんな心情が語られていました。
 要するに、彼自身は自分が戦闘に身を投じるという事自体は是正しているわけです。多くの「反戦」戦争映画の場合、主人公はどこかイヤイヤ戦場に身を投じていき、その辺りに「戦争ってヤなものなんだ。出来れば行きたくないな」という割と単純な戦闘拒否=反戦という即物的な感情が込められているわけですが、本作ではそういう単純なやり方で反戦テーマを表現しようとはしていない、という事なのでしょう。撃たれるとイタイから戦争はイヤ、というのは非常に分かりやすい反面、主張としてはかなり幼稚ですからね(爆)
 ともすればこの映画、単純な反戦映画ではないのかも知れません。戦争行為、戦闘行為そのものは是正も否定もせずに、あくまでも「ベトナム戦争」=アメリカが敗北した戦争という固有の出来事に限定した上で、そういう敗北を導き出したアメリカ的な価値観(のようなもの……なんかよく分かってないんですけど(笑))を批判したりとか、その辺りの問題提起こそが、本作の目的だったのではないかなー、と思います。



 ちなみに本作は、字幕翻訳家として有名な戸田奈津子氏の出世作でもあります。
 完全版のリリースに合わせて、既存の字幕にも変更が加えられているのですが……字幕の翻訳って、かなり意訳が多くて、ときには「ホントにそういう意味か?」と首をひねるような「超訳」になっているケースも無いわけではありません。
 で、本作なのですが……有名な一番最後のセリフの訳が、見事に変更されているのですよ(爆)
 ぶちぶち文句を言いながらも中古で格安で手に入れたLDを所有しているマニアなASDさんですが(爆)、後日LDで該当の字幕を確認してみたところ、確かに微妙に変わってました。
 うーん……確かに直したものの方が意味は分かりやすいと思うんですけどね。訳文としては限りなく超訳っぽい翻訳になってました(笑) やかましいマニアからは苦情が来そうだなあ……(笑)
 あと全くの余談ですけど、久々に聴いたドアーズの「The End」はやっぱりカッコ良かったです、ハイ。てゆうかこの曲、この映画にあまりにもハマり過ぎ……。



オススメ度:☆☆☆☆(しかしやっぱ2000円は高いッス……)




2002.3.2 国民的ヒーロー

「ヴィドック」

監督:ピトフ
主演:ジェラール・ドパルデュー、ギヨーム・カネ、イネス・サストレ、他

鑑賞日:2002.2.1

公式サイト:http://www.vidocq.jp/


 ヴィドック(ジェラール・ドパルデュー)はかつては名の知れた大泥棒であったが、改心して警察官となり、街の悪を一掃した。警察を引退した後も私立探偵として悪と戦い続けている彼だったが、ある日謎の怪人を追っているさなかに、その命を落とす。
 作家を名乗る青年エチエンヌ(ギヨーム・カネ)は、彼の最後を物語にするために、その死の真相を探ろうとする。だがそんな彼の背後にも、ヴィドックを殺した犯人の姿がちらつき始める。果たして、ヴィドックを殺した謎の怪人の正体とは……?


    *    *    *


 どうでもいい話なんですけど……「ザ・セル」のターセムとか「チャーリーズ・エンジェルス」のマックGとか、最近マトモな名前を名乗らない監督が多くないですかね? 別にそれがイカンとは言いませんが、なんかうさんくさい印象は拭い切れませんし、デキも(ピー)な場合が多いですし……(爆)



 とまあ前置きはともあれ……実は本作を鑑賞していた時のASDさん、かなりおつかれモードで、半分寝ぼけながら見てました……(爆) いや一応全編通しでは見ているんですけどね。一応、それを考慮した上で今回の映画日記をお読み下さいませ。
 さて、本作のウリは何と言ってもそのビジュアルにあります。「スターウォーズ・エピソード2」にて採用された、24pHDカメラという映画用デジタルビデオをいち早く導入しまして、デジタル加工しまくりの、凝りまくりの映像が全編に渡って展開されております。
 例えば街の全景はCGですが、実写の映像も色調がまるで絵画ちっくに嘘くさいものに加工されていたりして、SFXで作った画なのかそうではないのか、その境界が実に曖昧だったりします……人物もフルCGですよ、と言ったら何気に信じてしまいそうになったりして……(爆)
 他にも、普通のデジタルビデオを使用した超接写映像などをフラッシュバック的に挿入してあったりと、とにかく珍妙な映像の連続でありました。
 ……というか、ブレまくりの接写映像など、寝不足でお疲れモードで鑑賞するにはなかなかツライものがあったんですけど(爆)



 さて、タイトルにもなっている「ヴィドック」というのは、フランスでは有名な実在の人物であるらしいです。あらすじにも書きましたが、元々は犯罪者で、後に警官になり、数々の手柄を上げ……「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンのモデルにもなった、大変有名な人物らしいです……という事なのですが、そんなの日本人にはさっぱりですがな(笑)
 しかもそのヴィドックさん、冒頭いきなり死んでしまいます(笑) その死の謎を追いかけつつ、回想形式でヴィドックさんの活躍が綴られるわけです。
 で、ですね。実は彼と対決する敵は、かなり超自然っぽい相手なのですよ。要するにヴィドックさん、そういう人間離れした悪とも対決する、すんごいヒーローだという事で……。
 えーと……そんなにスゴイ人だったんですか? てゆうか、中年太りのこのオヤジが、そんなすごいヒーローに見えるかと言いますと、その辺り非フランス人の観客たるASDさんは今一つ実感を持てないわけで……。冒頭では彼を死に追いやった怪人相手に、結構ハデなアクションが展開されているわけですが……どうにもこうにも、そんなに強そうに見えないんですけど、このおじさん……(爆)
 まあ、そういう意味では、ストーリー面での説得力が、イマイチって言えばイマイチだったかも知れません。
 凝りまくりのビジュアルとか、全体に漂うゴシックなムードとか、ファンタジー書きには何気にたまらない映画だったんですが……今度体調のいい時に、あらためて見てみる事にします(笑)



オススメ度:☆☆☆




2002.3.2 らしさ

「トゥルー・クライム」

監督・出演:クリント・イーストウッド
出演:アイザイア・ワシントン、ジェームズ・ウッズ、他

鑑賞日:2002.1.23


 エヴェレット(クリント・イーストウッド)は、勘だけが頼りの昔気質の新聞記者。かつては全国紙で活躍していたが、失敗を重ね今は地方紙の記者に甘んじている。女にもだらしなく、父親としても頼りない。
 そんな彼はある日、不慮の事故を起こした同僚の代わりに、死刑囚ビーチャム(アイザイア・ワシントン)のインタビュー記事を書くことになる。彼の勘はビーチャムが無実だと告げていたが、彼はその日の深夜に、死刑執行を待つ身だった。わずか12時間というタイムリミットの中で、エヴェレットは独自に調査を始めるが……。


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 DVDにて鑑賞。
 実話を元にしたお話……なのだそうですが、実話を元にかかれたサスペンス小説の映画化、という事で、実際のところは実話もののような落ち着いた印象は随分と希薄でありました。何かこう、いかにもという感じのサスペンス映画に仕上がっておりまして……いつもの淡々としているイーストウッドの作風から見ると、随分とにぎやかな印象の作品でした(笑)
 死刑寸前の死刑囚をわずか1日というタイムリミットで救う、という展開もなんか無理矢理っぽい感じですし、全体的なノリも随分と世話しない感じです。囚人役のアイザイア・ワシントンがかなりかなりぐっと来るイイ演技を見せているだけに、無理にサスペンス仕立てに盛り上げていかなくても、もうちょい落ち着いた感じにすればいいのに……という気もしないでもなかったり(笑)
 ちなみに、「ダーティ・ハリー」に代表されるようにタフガイを演じる事の多いイーストウッドですが、本作の主人公は結構だらしない感じです(笑) ……が、最近年寄りっぽさをあんまり隠さなくなったイーストウッドには珍しく、妙に若々しいキャラ作りで……うーん、全体的にらしいのからしくないのかハッキリしない作品でしたかね(笑)



おすすめ度:☆☆☆




2002.3.2 あくまでもシンプルに

「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」

監督・脚本:ジョエル・コーエン
製作・脚本:イーサン・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ジョン・ゲッツ、ダン・ヘダヤ、M・エメット・ウォルシュ、他

鑑賞日:2002.1.22

公式サイト:http://www.kinetique.co.jp/bloodsimple/


 アメリカ南部のとある片田舎。レイ(ジョン・ゲッツ)は、自分が働いているバーの経営者の、その妻アビー(フランシス・マクドーマンド)と付き合っていた。
 自分の妻の浮気に気づいたその夫マーティ(ダン・ヘダヤ)は、彼女の素行調査に雇った私立探偵(M・エメット・ウォルシュ)にレイを殺すように依頼するが、やがて彼はオフィスにて、死体になって発見される事になる。
 そんなマーティを最初に発見したのはレイだった。彼はアビーが犯人だと誤解し、彼女を庇うために死体を処分しようとする。その一方でマーティを殺した犯人はふとした事から自分の犯罪がバレたと思い込み、その証拠を持っているはずのレイやアビーに魔の手を伸ばし始める……。


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 DVDにて鑑賞。
 えー、なんかネタバレちっくなあらすじで申し訳ありません。つうか、公式サイトの方にはもっと詳しくネタバレしてましたけどね……(笑)
 さて、本作はジョエル&イーサンのコーエン兄弟のデビュー作「ブラッドシンプル」の、その完全版であります。
 と言っても本作の場合、完全版というにはちょっと珍しい事になってたりします。というのは……実は本作品、元のバージョンよりも短くなっているんですよ(笑)
 通常、映画というものは上映時間の都合とか全体的なテンポ・整合性などを鑑みて、結構沢山のシーンが切られていたりします。でもって、大抵多くの場合、諸般の事情でイヤイヤながらにカットしているケースが大半なんですよね。
 で、普通はそういうのが、監督の「どうしてもこれは入れたかった」みたいなわがままで復活するわけですが……それにも関わらず、本作「ブラッドシンプル」の場合は逆に何故か短くなってしまっているのですねぇ。不思議ですねぇ……(笑)
えー、どういう事かと申しますと、今回の「完全版」では編集をやり直してまして、その結果オリジナルにあったいくつかのシーンを「テンポが悪い」という理由で無情にもカットしてしまったのでした。
 本作のDVDには映像特典として、カットされた部分の新旧の比較映像が収録されておりまして……見比べてみれば、確かに無い方がスッキリしているように思えました。



 まあこれには、コーエン兄弟がインディペンデント系でずっと映画を作り続けている事と関連があるのかも知れません。
 メジャースタジオで映画を作っていると、どうしても一般にウケる映画にするために、上映時間やら年齢制限やら、時にはスター俳優のわがままとか(笑)、そういう事情で映画の内容をアレコレいじらなくてはイカン場合が多々あるわけですが……。
 しかし独立系の映画は、スターや観客よりもクリエイターの作家性の方が優先されている、そういう映画づくりがなされている場合が多いのではないかと思います。そもそもそういう映画を好む層にも、そういう作家性こそがウリになっているハズですし。
 この「ブラッド・シンプル」にしても、「諸般の事情で不本意なデキになってしまった」から手を入れているわけではなしに、当時は当時で、ベストを尽くしているわけですよ。
 それを、今あらためてベストを尽くしたのが今回の「完全版」なわけですから、そういう意味ではクオリティアップのために短くなってしまった、というのも充分アリなのでしょう。



 ……え、内容ですか? そうですね、お話自体は……人々の勘違いによってこんがらがっていくサスペンス、という事で、まあコーエン兄弟らしい作品だったと思います(笑)
 まあ、最近のコーエン兄弟というと味のあるヘンな登場人物がいっぱい登場する、ちょっととぼけた作風が魅力なのですが、本作はどちらかと言うとごくフツーのサスペンスものっぽい感じでした。結構シリアスなお話で、「ファーゴ」とかが好きな人は多分はまりそうな感じです。「ビッグリボウスキ」とかのバカっぽい路線が好きな人には、ちょっと期待外れかも……そういうASDさんは、おバカ路線が好きなんですけどね(笑)
 ……ああ、気が付くと感想よりもうんちくの方が多いんですけど……(爆)



おすすめ度:☆☆☆



 


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