-cinema diary-

2002年4月の映画日記(その2)


 

2002.4.17 必見です

「ロード・オブ・ザ・リング」

監督:ピーター・ジャクソン
主演:イライジャ・ウッド、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン、他

鑑賞日:2002.3.8

公式サイト:http://www.lord-of-the-ring.com/


 ホビット族の青年フロド・バギンズ(イライジャ・ウッド)は、叔父のビルボ・バギンズ(イアン・ホルム)から、彼が若かりし頃の冒険で手に入れた不思議な指輪を托される。
 実はその指輪は遠い神話の昔に瞑王サウロンが作ったもので、世界を闇の力で征服する強大な力が込められていたのだ。
 滅びたはずのサウロンは徐々に復活の兆しを見せていた。彼の軍隊は人間たちの国に勢力を伸ばし、やがてその魔の手は指輪を持つホビット族にも迫ってくる。
 フロドは、魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)や人間族の戦士アラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)、エルフやドワーフ達の助力を受けながら、指輪を遠い火山へと捨てにいく旅に出るが、それは困難に満ちた旅だった……。


    *    *    *


 うっかりしていました。上映時間、2時間ちょっとぐらいだろう、と高を括っておりましたらば、実際には3時間8分もありました(笑)
 まあその3時間は決して退屈ではないのですが、これからご覧になる方は一応体調を鑑みた上で鑑賞される事をオススメします……(笑)



 のっけからナンですが、本作品は強くオススメの一作であります(いきなり)。
 映画ファンとしてというよりは、物書きの立ち場から、ご同業(笑)の皆様に広くオススメしたい一作でありました。
 この「指輪物語」、原作の方はファンタジーの原点、古典中の古典として知られております。1955年という発表年次から言って、確かに充分な古典なのですが……単に古い、というだけではありません。
 割と有名な話ですが、テーブルトークRPGの元祖「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は、エルフやドワーフといった設定の多くを「指輪物語」から引用しております。「指輪」をゲーム化したものが、この「D&D」だったのですね。
 その「D&D」をコンピュータで遊べるように、と作られたのが「ウィザードリィ」や「ウルティマ」という作品でした。そしてこの二作の強い影響を受けつつ、日本で登場したのが「ドラゴンクエスト」です。
 ドラクエに関しては説明不要でしょう。多くのライバル作を生み、特に「ファイナルファンタジー」シリーズとドラクエとで、ファンタジーとはいかなるものかを広く知らしめる事になるわけです。
 コンピュータ以外に目を向ければ、「D&D」をお手本に、日本にテーブルトークRPGを導入しようという流れの中で出てきたのが「ロードス島戦記」です。このゲームは小説化され、今のライトノベルの元になったのでした。
 また一方ではそういうRPG的ファンタジーのパロディとして「フォーチュンクエスト」や「スレイヤーズ」があり、そういう作品の活劇としての面白さ、笑いなどの娯楽性を継承する形で、いわゆる「ライトファンタジー」というジャンルが成立していったわけでして……。
 ……今現在、オンラインでファンタジー小説を発表されているアマチュア作家さんの中には、上に挙げたタイトルのうちのどれかに影響を受けてファンタジーを書き始めた、という方は多いのではないかと思います。
 もちろん例外もあるでしょうし、「指輪」の影響も必ずしもゲームだけにしか及んでないという事もないとは思いますが……(笑)
 取り敢えず、「指輪物語」は単なる古臭い古典文学ではなしに、ファンタジーの「今」に強く影響を及ぼしている作品である、という事はお分かりいただけると思います。



 さて……実際の映画ですが、やはり原点だけあって、登場するのはいかにもファンタジー!というものばかりですよね。
 ホビット、エルフ、ドワーフといった種族の設定は定番中の定番中でしょうし、彼らが「指輪を捨てる」というクエストのためにパーティを組み、平原や山岳地帯を越え、奥深いダンジョンをさまよいながら、遠い目的地を目指していくわけで……って、それってなんかRPGの展開そのままではないですか(爆)
 こうやってあらすじだけ抜き出していくと、なんかすげぇいかにも、って感じがしますよねぇ。サウロンという魔王も復活(!)しそうですし、主人公達を阻むのはオークやトロールといった、これまた定番な連中ですし。
 こういうお話を巨額の予算を投じてCG満載で映画化、って、ホントにそれで大丈夫かなあ……と心配になる向きもあるかもしれませんが、ご安心を。
 世の中には、エルフやドワーフや魔王復活、という凡庸で陳腐なネタを、いまどきなんのヒネリもなく採用している作品というのは確かに存在します(爆) でも、そういう作品が創意工夫のない陳腐な作品に見えるのには、実は確たる理由があるのですよ。
 それは……それらの要素がそれこそ何の創意工夫もなく、「ファンタジーってそういうものだから」と漫然と引用されているだけだから、なのではないかとASDは思います。
 要するに、エルフやドワーフが出てくるから陳腐なのではなく、それらのネタがどこかから丸々引用してきた、借り物の設定であるがゆえに陳腐なのですね。そういう諸々のネタ自体、引用されまくってもうすでにネタ自体の賞味期限が切れてしまったかのような印象もありますが……実際はネタ自体に責任があるわけではなしに、後続作品の多くに引用されまくった挙げ句、「定番」になってしまった……そういう「出がらし」状態だからこそ、陳腐なのではないか……と、ASDは思います。
 出がらしだからといって、元のお茶の葉の質に問題があったわけではない、という事です(どういう例えやねん(笑))
 そういった定番ネタを、後世の人々は「そうするのが当然だから」というような何気なさで引用してきたわけです。誰かのネタを模倣しているのだということも、そもそも誰のネタを引用しているのかさえも無自覚なままに、「そういうものだから」と引用する……陳腐なのは、まさにそういう行為そのもの、なのですね。



 ……オリジナルな創意工夫が皆無である以上、そういう安易な作品たちが「陳腐」という評価を受けるのは、まあ当然でしょう。
 だからと言ってその原典までもが、同じネタを扱っているから陳腐だ、定番だ……というのは、ちょっと的外れですよね。
 この「ロード・オブ・ザ・リング」も、心ない人間が映画化していたら、もしかしたらそういう陳腐な映画になっていたかも知れません。
 引用され、使い古された挙げ句、人々の間で常識として定着してしまった既成のネタ……一歩間違えればそれを単に孫引きして並び立てただけの、世紀の大駄作が出来上がっていたかも知れないわけですから(笑)
 もちろん、それらのネタの出発点がこの「指輪」であるのは確かですから、当然エルフはエルフらしく、ドワーフはドワーフらしく描写されているのは当然の事です。そこを大きく曲げてあると、世界中の「指輪」ファンに怒られてしまいますからね(笑)
 皆が満足するイメージを描写しつつ、それが陳腐な定番になり下がってしまわないようにする……それは微妙に大変な話ではないでしょうか(笑)
 確かに「指輪」は古典であり、いまや定番なのかも知れませんが……その古典を、オリジナルの風格を失わぬままに見事に映像化してしまったわけですから、それに関しては素直に評価すべきではないかな、と思います。



 そんなこんなで……ASDがこの作品を見て強く感じたのは、つまるところこの「指輪物語」は「原点」でも「古典」でもなくて、これこそが「オリジナル」のファンタジーなのだな、という事を、この映画を見て強く感じました。
 イマドキの日本におけるファンタジーの状況は、この作品からは随分と遠く離れたものになってしまってます。
 その現状の姿が、果たしていいと言えるのか悪いと言えるのかはここでは明言は避けますが(笑)、こと「指輪物語」という原典からの変遷をみるに、それらは古典から発展し進化したというよりは、唯一のオリジナルに対するデッドコピーのなれの果て、と言えるのかも知れません。この映画が示してくれたオリジナルの「品格」を前に、我々はそれを引用/定番化することでいかにそれらの品格・品位を台無しにしてきてしまったものなのか、とちょっとだけ反省してしまいました……(笑)



 まあ、映画自体は王道ストーリー+CGてんこもりという、最近の大作映画の定石をまったく外すものではなかったんですけどね(笑)
 そういう意味では、映画としては確かに「今」の時代の作品になっていますので、それだけに難しい事を言わずにぜひぜひ、堪能していただきたいと思います。「ライトファンタジー」でしかファンタジーを知らない人には、ぜひぜひオススメ……というより、ひとつ勉強だと思って見て下さいまし(笑)



 ……でもなぁ。三部作の第1話って事で、お話が思いっきり「つづく」で終わってますので、逆にフラストレーションが溜まるような気も……(爆)



おすすめ度:☆☆☆☆☆(映画的にどうこうというより、物書きとして見なくちゃイカンでしょう(笑))



 


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