-cinema diary-

2002年5月の映画日記


 

2002.5.3 この樹なんの樹

「パルムの樹」

原作・監督・脚本:なかむらたかし
声の出演:平松晶子、豊口めぐみ、阪口大助、日野由利加、他
アニメーション制作:パルムスタジオ

鑑賞日:2002.3.28

公式サイト:
http://www.palm-net.co.jp/(パルムスタジオ)
http://www.palmenoki.com/(東宝)


 パルムは、老学者フォーが心を病んだ妻シアンのために作った木の人形だった。彼は本物の少年のように振る舞い、シアンを慕っていたが、彼女の死と共に心を閉ざしてしまう。
 そんな二人の元に突然現れたのは、地底国タマスの女戦士コーラム。彼女は天界から持ち帰った「トートの卵」を持って、逃亡している身だった。卵の力を得て心を取り戻すパルム。やがてコーラムには追っ手がかかり、彼女は卵を置いて立ち去ってしまう。
 その追っ手達によってフォーは殺害され、パルムは旅に出る。その中で彼が出会ったのは、シアンによく似た面影を持つ少女ポポ、地底人の少年シャタといった仲間たち。パルムはそんな彼らと一緒に、卵を地底へと届ける旅を続けるのだったが……。


    *    *    *


 ふはは、この映画のために、お隣の富山県までクルマをぶっとばして見に行きましたよ(笑)
 しかし、知名度めちゃくちゃ低そうな作品ですなぁ……。「ターンAガンダム」「機動警察パトレイバー」等々、この春に公開されたアニメ映画の中でもダントツにマイナーだったような気が……(爆)
 まあ上に挙げた2本にしても本作にしても全国ロードショーと言いながらも、かなり規模の小さい公開だったんですけどね(つうか金沢で公開になってたのターンAだけだしぃ……)。本作の場合一応出資元のWOWOWの方で割と頑張って宣伝かけてたので、そこであの美麗な映像を見てなかったら、ASDさんも見に行ってなかったかも……。



 で、この原作・監督のなかむらたかしって一体誰なんでしょうか(爆)
 相当なアニメファンでもない限りその名前は知らないのでは、と思いますが、かの有名な「AKIRA」の作画監督を担当していた人です……って言っても通じませんね、おそらく(爆)
 パンフレットによれば、「天空の城ラピュタ」の作画監督に誘われていたものの、その話を蹴ってオムニバス映画「ロボットカーニバル」に参加していたそうです。うう、ますます分からん(笑) 世界名作劇場の「ピーターパンの冒険」でもデザインを手掛けていましたが、これが一番メジャーなんじゃないのかなぁ……っていうか、ここに名前をあげた作品って、どれも10年以上前の作品ですけどね(爆)



 まあそんなウンチクはさておき、実際に本編を見てみますと……。
 ともかく、映像が絶品であります。
 いわゆる「異世界ファンタジー」な本作ですが、ファンタジーって意外にアニメではハズレが多いんですよね(爆)
 ASDNに出入りしているようなオンライン作家の皆さんならば、ファンタジーにおいて「世界観を細部に渡って構築する」というのがいかに大変な事かは、ご理解いただけると思います。これが映像作品の場合、目に見えるものは全てデザインしなくてはいけないから大変なのです。
 ですので、SFやファンタジーというジャンルが比較的多いアニメの世界でも、真正面から「異世界構築」に挑んで成功している作品というのは、ホント数えるほどしかないのではないでしょうか。
 しかも、SFの場合は未来っぽさ、メカっぽさがそこそこ出ていればオッケーというケースも多いのですが、ファンタジーの場合SFと違って世界観そのものが主役になるケースが多く、「らしさ」と同時に作品の独自性も強く求められるわけですねぇ。
 また、セル画の表現力の相性問題もあります。SF的な無機質な表現よりも、ファンタジーらしい有機的な表現の方がはるかに難しいわけですから……それらの条件を鑑みるに、SFよりもファンタジーの方がずっとずっと大変、という事になるわけです。……この「パルムの樹」という作品、そういう意味では紛れもない成功作だったと思います。
 とにかく、世界観にまつわる設定の細やかさは絶品の一言です。細々とした小道具、動物や植物など、詳細に組み上げられた異世界設定……絵として簡単に描けそうなものからこんなの絶対に思いつかないだろ!てなものまで、丁寧に構築され描画されているわけですねぇ。これだけのものを個人のイマジネーションが生み出しているわけですから……思わず「すいませんでした」と頭を下げてしまいそうな感じでした(笑)
 ともかくそのくらい、すんごいのですよ。



 ですが。
 ……ううむ。なんかアニメ作品をレビューするたびに同じ事を言っているような気がしますが……。
 ひとつ弱点があるとすれば、それはストーリーです。
 この作品の場合でも、やはりストーリーの不備がかなり目につくんですよねぇ。
 そもそもこの作品は当初テレビシリーズとして企画されていたそうですが、実際に本編を見てみても、ストーリーがまるっきりダイジェストである事が見て取れます。まあ、2時間で描き切るのが無理な話ではないと思いますが、プロットを一から練り直した、というよりは、単に脚本を再構成して尺をあわせただけ、というように見えました。
 要するに、「総集編」のように見えてしまう、という事なんですよ。場面転換が頻繁かつ唐突で、シーンの繋がりも不自然なところが多かったですし。
 そのせいか、展開もやっぱり不自然だったように思います。
 例えばこの作品、スピルバーグの「AI」でも語られていた「ピノキオ」テーマがかなり直接的に描かれています。人間になりたい、と強く願うがゆえに、人形であるという側面が強く浮きぼりになってくるわけで……。
 それだけでも複雑なテーマだと言えるのに、パルムの場合は彼にとっての母親であるシアンの存在というのが彼の内面に強く影響しているわけで、彼女が心を病んだ要因とかがパルムにも影響してくると、単なる成長物語とは言えなくなってくるわけです。さらにはヒロインのポポにしても、シアンのそっくりさんという以上に彼女自身の、母親との不和という問題もありますし、似たような問題は街で出会うシャタ達親の無い子供達も抱えているわけで……ううむ、果たしてこの作品が言いたかった事が何なのか、考えれば考えるほど分からなくなってきます(汗)
 しかも単に母と子のドラマというのではなしに、「トートの卵」というアイテムを巡って、地底国の存亡をかけた陰謀が展開したりしているわけで……もう何が何だかさっぱり分かりませんがな(爆)



 うーむ……どうなんでしょうか。も一回見なくちゃ理解出来んのでしょうか。
 というかこの作品、いっその事劇場公開ではなくて、実際に全13話くらいのシリーズになっていれば良かったのかも知れません。WOWOWがスポンサーに名前を連ねてますが、そのWOWOWにてシリーズものとして放送してくれれば、なんぼかましだったのではないかなぁ、とも思います。
 アニメーションとしてはかなりハイレベルな作品なだけに、そういうシナリオの未整理な部分がホントにもったいない一作でありました。
 余談ながら、音楽はかなり素晴らしいんですけどね。「マクロスプラス」で美しいアカペラを聴かせてくれた新居昭乃嬢が本作でも美しい歌声を披露して下さってます。劇場の売店で売ってたサントラ盤、思わず買ってしまうところでありました……(笑)
 サイフとかなり真剣に相談してしまった、ボンビーなASDさんでした(笑)



アニメーションとしてのオススメ度:☆☆☆☆☆
劇映画としてのオススメ度:☆☆



2002.5.3 炸裂セガール拳

「DENGEKI/電撃」

製作:ジョエル・シルバー
監督:アンジェイ・バートコウィアク
主演:スティーヴン・セガール、DMX、アイザイア・ワシントン、マイケル・ジェイ・ホワイト、他

鑑賞日:2002.3.26


 デトロイト市警の刑事オーリン・ボイド(スティーブン・セガール)は、手荒なやり方が周囲に疎まれ、犯罪無法地帯にある分署へと転属になってしまう。そこでも独断先行の挙句、潜入捜査官を誤認逮捕してしまう始末。
 そんな折、警察の保管庫にある押収されたヘロインが強奪されるという事件が発生。ボイドは相棒の警官クラーク(アイザイア・ワシントン)と共に捜査に乗り出す。そこで浮かび上がってくるのは、誤認逮捕の際に潜入捜査官の取引相手だった、ラトレル・ウォーカー(DMX)という謎の男だった……。


    *    *    *


 というわけで、最近イマイチパッとしないスティーブン・セガールの最新作であります。
 「マトリックス」「ロミオ・マスト・ダイ」の敏腕プロデューサー、ジョエル・シルバーの作品でもあるのですが……あの御仁も最近は当たり外れが激しいからなぁ。ある意味、「とても心配な」一作だったんですが……まあその心配は、見事に的中したというか何というか(爆)
 セガールさんと言えば……デビュー当初からなんかうさんくさい人でしたよね(笑) 日本で合気道を習得し、CIAやFBIにも在籍していたとかなんだとか、そういう履歴の持ち主なのですが……実際にはそーゆー組織と縁があったのは格闘技のトレーナーとしてで、やはり格闘技コーディネーターとしてハリウッド入り、そのままアクションスターとしてデビュー、というのが実際の経歴であるらしいです。
 って、やっぱうさんくさいですね(笑)
 そういう経歴の持つうさんくささやヘンな日本趣味を出演作品の随所で炸裂させているセガールさん、そのアクションの素晴らしさとは裏腹に、彼自身のキャラにはなーんかトホホ感が付きまとっているのでありました(爆)
 むしろ彼の主演作の場合、そういううさんくさい要素の薄い作品の方が、当たりである場合が多いように思います。普通の軍人を演じていた「沈黙の戦艦」「エグゼクティブ・デシジョン」辺りなんかは、まだフツーにオススメ出来るんですけどね(ま、後者はチョイ役ではありますが)。
 この作品のセガールも、日本趣味も武道家気取りもなく、めっちゃ普通の刑事役でしたので、至って素直に楽しめる作品だったのではないかとは思います。……でも、別にこの人でなくても、っていう気もしますけどね(爆)
 お話の方はまあ、ありがちな刑事ものであります。ストーリーもありがちですし、セガールさんも実にありきたりなはみ出し刑事をごくありきたりに演じてくれていたのではないでしょうか。シナリオも……なんかあらすじ書こうと思っても記憶によみがえって来なかった、という辺りの事情から、そのデキを察して上げてください(爆)



 むしろASD的には、監督であるアンジェイ・バートコウィアク氏に注目したいところであります。この人、ジェット・リー主演の「ロミオ・マスト・ダイ」の監督でもあるのですが、この人の作品には何故か白人の登場人物が異様に少ないのですよ(笑) 「ロミオ〜」は中華街のマフィアと黒人マフィアとの抗争を描いた作品と言うことで、白人のメインキャストが一人もいないという大胆な作品でしたし(爆) 本作でも、セガールさんの他は主要キャストのほとんどが黒人俳優ですし……。
 しかも両作とも、ガンガンに流れてるBGMが、ヒップホップとかR&Bとか、黒人アーティストの曲をずらりと取り揃えておりまして、さながら映画そのものが2時間のミュージック・クリップの様相を呈しているのであります。ううむ、これぞ現代のブラックエクスプロテーションムービー、と言ったところでしょうか(笑)
 そんなブラックな映画を撮っているバートコウィアク氏ですが、メイキングを見る限りごく普通の白人のオッサンでありました……あれ?(笑)
 ってゆうか、「ロミオ〜」と主要キャストが3人も被っているせいか、雰囲気がほとんどおんなじなんですけどね(笑) さながら「ロミオ・マスト・ダイ2」という感じでした(爆)



オススメ度:☆☆




2002.5.3 こだわりの一品

「クリムゾン・リバー」

監督:マチュー・カソヴィッツ
主演:ジャン・レノ、ヴァンサン・カッセル

鑑賞日:2002.3.19

公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/crimsonriver/


 アルプス山脈に近い、雪深い地方の村で起きた殺人事件。捜査のためにパリからやってきたのは、ベテラン刑事ニーマンス(ジャン・レノ)だった。その村にあるゲルノン大学は、古い歴史を持つ由緒ある大学で、学生のほとんどは村の出身者。大学を中心にした閉鎖的な社会が、そこには構築されていた。
 一方、新米刑事のマックス(ヴァンサン・カッセル)は、墓地の落書き犯を追っていた。荒らされた墓石の主は、幼くして交通事故で死んだ少女。その少女について調べるうちに、彼もまたその村へとたどり着く。二人が捜査を進めていくにつれて、大学に秘められた秘密が明らかになってくるが、犠牲者もまた増えるのだった……。


    *    *    *


 なんかグロそうなので、劇場での鑑賞は見送ってしまってた一作です。先日WOWOWで見逃したのが悔しくて、DVDを借りてきてしまいました。返却した次の日に、再放送がありました……(爆)
 フランスでベストセラーになったサスペンス小説の映像化、という事らしいです。監督が結構過激な作風で知られる人なので果たしてどうなる事かとちょっと心配してたんですけどね。フタを開けてみれば、ごくごくソツのない、フツーのサスペンス映画だったと思います。
 てゆうか、映画化としてはごくフツーに、当たり前に映像化されているんですが……むしろヘンなのはその内容つうか、ストーリーの方なんですよ(笑)
 片田舎の村にある閉鎖的な大学で起きた怪事件、どこか奇妙な村の人々……という事で、これってまんま「ツイン・ピークス」じゃねぇのか、とついつい思ってしまいました(笑)
 てゆうか、ツインピークスなんて、今どき分かる人いるんだろうか……(爆) そういうカルトな海外TVドラマが昔あったんですよぅ。ASDもかじる程度にしか見てなかったんですけどね(笑)
 まあ、そんなこんなでカルトちっくな雰囲気バリバリの本作ですが、事件の謎が解明されるにつれてカルトっぽさはさらに加速していく一方。おいおい、こんな展開になってどうやって決着をつけるんですかっ! と勝手に心配していましたらば、至ってフツーに犯人が判明して、殺人事件解決!という方向でフツーに解決してしまいました。なんか拍子抜け……(笑)
 まあ、確かに犯人は意外な人物だったんですけどね……犯人探しミステリとしては、ちょっとズルいような気もしないでもないです(笑) せっかくのカルトっぷりですし、個人的には「謎のカルトと全面対決」ってな感じの派手な路線を期待してたんですが……残念。
 あと、一応猟奇殺人を扱ったサスペンスものなので、結構グロいシーンは続出します……と書いてみて気がついたんですけど、殺しはそんなに猟奇的でもなかったかも。でも登場する死体は、作りこみが実に丁寧だったりするんですけどね(笑) もはやアートの領域でございました。
 しかもDVDには、その死体のプロップの製作過程がメイキング映像として詳細に刻銘されているのでありました。何でまたそこまでこだわりますかね……ううむ、フランス人って不思議だ(爆)



オススメ度:☆☆☆(サスペンスとしてはどうなんだろうか、これ……)



 


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