-cinema diary-

2002年7月の映画日記


 

2002.7.11 鷹は舞い落ちた

「ブラックホーク・ダウン」

製作:ジェリー・ブラッカイマー
監督:リドリー・スコット
主演:ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、他

鑑賞日:2002.5.10

公式サイト:http://bhd.eigafan.com/


 1993年、ソマリアでは、長く続く内戦のおかげで深刻な食糧危機が訪れていた。国連による救援活動が行われるが、軍事政権側がこれを妨害していた。
 アメリカ軍は国連にも秘密の、とある極秘任務を実行する。軍事政権側の幹部を拉致するために、市街地の真ん中の目標地点をヘリにて強襲する電撃作戦である。だが、ほんの1時間足らずで終わるはずの戦闘は思いがけない激戦に発展していく。ヘリが迫撃砲の攻撃を受け、市街地に墜落したのだ。
 地上部隊が乗員の救援に向かうものの、そんな彼らをソマリア民兵達が取り囲む。そんな両者の攻防戦は、やがて一晩がかりの長い戦闘になっていくのだった……。


    *    *    *


 ううむ、リドリー・スコット、やってくれました……。
 前作「ハンニバル」も映画としては少々いびつな造りというか……サイコサスペンスならではの猟奇的映像美を追及することに終始していた印象でしたが、本作ではさらにとんでもない事になっております。
 1993年のソマリア紛争を題材にしたこの作品、言ってみれば90年代版「プライベート・ライアン」と言ったところでしょうか。かの作品の冒頭30分のオマハビーチの激戦シーンはその後の戦争映画に多大なる影響を与えたと言えるでしょう。って随分気の早い話ですが(笑)、実際にジャン・ジャック・アノー監督の「スターリングラード」なんかもそんな感じでしたし。
 本作はそのオマハビーチ並の激戦を、30分どころか、2時間枠にて延々と描写し続け、結果的にそれだけで1本の作品に仕立て上げたかのような、そんな作品でありました。
 なんつうか、戦争映画でも戦争ドラマでもなくて、「戦争」そのもの、と言ったところでしょうか……(爆) 孤立したアメリカ軍の部隊と、それをぐるりと取り囲むソマリア民兵との衝突の様相を、ほぼ二時間近くに渡って垂れ流しているだけなんですよ、ほとんど(笑) なんかもう、ある意味ものすごく大胆な構成であると言えるでしょう。
 一応、若い兵士たちの苦い成長物語としての側面も無いこともなくて、その辺りややブラッカイマーテイストが無いこともないんですけど……出撃前のシークエンスが、これまた投げやりなまでにフツーなんですよ(笑)  帰還して以後のオチとか、そういうドラマ的な要素もなんかとってつけたような感じですし……。
 そういう意味では、この映画がアカデミー賞において、作品賞ではなくて監督賞にだけノミネートされてた理由が、何となく分かるような気がします。とにかく、一本の劇映画として見た時にこの作品は明らかに破綻しているんですよ(爆) リドリー・スコット監督の興味はとにかく激しい戦闘につぐ戦闘、この苛烈さを描き切る事にしか興味がないみたいで……戦闘シーンのみをひたすら執拗に描き込み、それで実際に二時間の映画として成立しているのですから、その演出力にはただただ脱帽する限りでありました。
 しかし、こんな映画の撮影風景って……あまりの臨場感に、ホントに戦争じみた撮影現場だったんじゃないか、とちらりと思ってみたり(笑)



オススメ度:☆☆☆(しかしある意味ハンニバルよりもグロイですね、これ(爆))




2002.7.11 もはやCG映画ではない

「モンスターズインク」

製作総指揮:ジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン
監督:ピート・ドクター
声の出演:ジョン・グッドマン、ビリー・クリスタル、ジェームズ・コバーン、スティーブ・ブシェーミ、他
アニメーション制作:ピクサーアニメーションスタジオ

鑑賞日:2002.5.1

公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/monstersinc/



モンスター・シティ最大の企業モンスターズ・インク社は、モンスター・シティのエネルギー源である子供たちの悲鳴を日夜集めていた。サリー(ジョン・グッドマン)はそんなモンスターズ・インクのエリート社員。相棒のマイク(ビリー・クリスタル)とのコンビで、トップクラスの営業成績をおさめていた。
 だがある日、ふとしたことからモンスターズインクに人間の女の子が紛れ込んでしまう。成り行きからその子をかくまうことになってしまったサリーとマイクは、何とかこっそりと女の子を元の世界に戻そうとするが……。


    *    *    *


 残念ながらアカデミー賞の長編アニメ部門において、見事「シュレック」に破れ去ってしまった、ピクサー渾身の一作でございます。
 ……って、かなりイヤな紹介ですね、それも(笑)
 でも見比べてみる限りでは、断然こちらの方が面白いんですけどねぇ……(笑) 日本でも(シュレックとは違って)かなりの大ヒットになりましたし、ますます持ってなんで負けてしまったのかが不思議な感じなんですけど……。



 「シュレック」の場合、やろうとしている事が盛大に空回りしている分非常に分かりやすい映画だったのですが(笑)、ピクサーの場合は本作で4本目の長編という事になりますので、娯楽映画として大変こなれた、良作でありました。
 まぁある意味非常にソツのない完成度で、それゆえに特に語る事がなかったりするという事情もあるかも知れませんが(笑)
 内容に関しても相当充実しています。舞台となるのはモンスター達が暮らすモンスター・シティ。彼らはごく平和な街にごく普通に生活しているわけで、まずその普通っぷりの徹底からして微妙におかしいんですけどね(笑)
 この辺は、ピクサーの過去作にも通じる部分なんですけどね。モンスターが人間と同じように生活している、というネタに対して、「モンスターの暮らしってこんなものだろう」みたいな中途半端な想像力は働かせずに、ずばっと身も蓋もなく人間くさい生活描写をするんですよ(笑) 仕事にはノルマがありますし、成績を競争するライバルもいますし、残業もあれば研修もあるわけで……。
 ある意味、相当ベタと言えばベタな感じでしょう。ただ、このあたりがベタな分、本作の登場人物であるモンスター諸君のキャラクタが、ちゃんと観客の目から見て感情移入出来るものになっているわけですね。
 これってようするに、「子供アニメのキャラだからこんなもんでいいだろ」という、当て推量で構築されているされているキャラではない、っつう事なのではないでしょうか。ベタベタなパロディ的要素ももちろんあるんですけど、その一方できちんとイマジネーションを働せている部分だって皆無ではありませんし。そのあたりのさじ加減が、絶妙なんだと思います。
 結果的に、登場キャラ一人一人がきっちりと存在感を持っているわけですよね。それゆえに、お話を転がした時の彼らのその場面場面でのリアクションが、とても納得の行くものになっているんじゃないかと思います。
 本作はフルCGで製作されています。例えば、モンスター達の「毛並」の表現など、これまでにないリアルな出来ばえになってましたし……そういう風に技術的に唸ってしまうような描写も色々あるんですが、「CGでスゴイ事やってみました!」という部分に終始する段階は、この映画の場合とっくに過ぎてしまっているんですよね。技術は技術として、それを使ってどういう風に映画を作るのか、という段階に到達しているのではないでしょうか。結局は、ごく当たり前の作劇手法で、ごく当たり前に娯楽映画として真面目な映画づくりをする……ピクサー作品の一番の魅力は、そこのところにあるのかも知れません。



 ……しまった、きれいに収まり過ぎた!(笑)



オススメ度:☆☆☆☆




2002.7.11 実在します

「ツバル」

監督:ファイト・ヘルマー
主演:ドニ・ラヴァン、チュルパン・ハマートヴァ、他

鑑賞日:2002.4.30

紹介ページ:http://www.alcine-terran.com/data/tuvalu/tuvalu.html


 外の世界を知らぬままに育った青年アントン(ドニ・ラヴァン)は、荒廃した街の一角にある古びた室内プール場にて生まれ育った。父親によって外に出る事を禁じられ、寂れたプールが彼にとっての全てだった。
 そんなアントンの兄グレーゴルは、街の再開発のためにプールを取り壊そうと画策していた。彼の差し金によってプールは査察を受け、安全基準を満たすように建物の修繕を命じられてしまう。もちろん、そんな資金はどこにもなかった。
 その一方で、アントンはプールの常連だった故グスタフ氏の娘エヴァ(チュルパン・ハマートヴァ)に心惹かれるが、彼女は父親の形見であるボートを修繕するために、プールの心臓部であるボイラーの部品を盗み出そうとしていた。果たして、プールは無事に存続出来るのだろうか……?


    *    *    *


 上のあらすじを読んだだけでも、結構意味不明な映画であることは推察していただけるかと思います。ってゆうか、何故にプール?(笑)
 何と言いますか、非常にシュールというかカルトというか……。
 何しろこの作品、90分の劇中にセリフがほとんど無いのですよ。
 「ほとんど」というのは、名前を呼んだりとか、簡単な名詞くらいは飛び出してくるので、完全に無声というわけではないです。が、セリフはおおむね解読不可能な言語でかわされていますし、当然字幕なども出ません。一応ドイツ映画ですが、ドイツ語ってわけでもないみたいですし……。
 会話はほぼジェスチャーだけで進んでいくような感じですので、ある意味サイレント映画っぽい趣きの映画だったと思います。
 ま、意欲的な表現だとは思うんですけどねぇ……さすがにそれを90分じっと鑑賞するのは、少々キツかったかも知れませんね(笑)
 しかしメイキングを見ても、何故室内プール場が舞台なのかという謎は明らかにされませんでした(笑) 監督はさも何でもないかのように話してますし、こういう市民の社交場みたいなノリのプールって、ヨーロッパでは普通にあるものなのかも知れませんねぇ……断言は出来ませんけど(笑)
 その辺も含めて、日本人の観客にはとにかく奇異に映る作品だったかも知れません。まぁ、無国籍で時代も不明な内容を見るに、奇異な印象は狙いでもあるとは思いますけどね。
 あとは……なんか書かなくちゃいかん事ってありましたかね? ヒロインを演じたチュルパン・ハマートヴァが何げに可愛かったとか、そんなどうでもいいことぐらいでしょうか(笑)



 あー、そうそう。タイトルの「ツバル」っていうのは何なのかを解説しておきますと……。
 父親の形見である船を修繕しようとするエヴァですが、彼女が船を直して、いざどこへ行こうとしていたのかと言いますと、それが「ツバル」という島なのですね。プールで生まれ育ち、外の世界に憧れるアントンにとっても「船長になる」というのは夢であり、そういう諸々の象徴となるのが「ツバル」なのだそうです……っていう事らしいです(とお茶を濁す)。
 時に、このツバルという島は、実在する島だったりします。
 というか、ASDも知らなかったんですけどね(笑) この感想を書くに当たって公式サイトがないかなーとヤフーで検索してみたところ、色々と発見出来たという話だったりします。
 取り敢えず島の概要に関してはこちらを見ていただくとして、ちょっと面白いのがこの島のドメインである「.tv」に関するお話(こちら参照)。何とこのドメインのおかげでツバルは国連加盟を果たしたというのですから、何げに凄い話でありますな(笑)
 どこの国やねん、というようなドメインと言えば「.to」とか(トンガでしたっけ?)も有名ですけど……まぁそういう話もあるんだな、という事で(笑)
 ……映画本編の感想とは関係のない話で、どうもスンマセン(笑)



オススメ度:☆☆


 


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