-cinema diary-

2002年8月の映画日記


 

2002.8.5 慌てちゃいかん

「パニック・ルーム」

監督:デヴィッド・フィンチャー
主演:ジョディ・フォスター、フォレスト・ウィティカー、他

鑑賞日:2002.7.1

公式サイト:http://www.panicroom.jp/


※ネタバレ有り?※

 離婚して娘と二人暮らしを始める事になったメグ(ジョディ・フォスター)。彼女がニューヨークに借りたその部屋には、「パニック・ルーム」と呼ばれる防犯用の隠し部屋があった。家中を監視出来るモニタ、別回線の電話、絶対に侵入不可能な分厚い鋼鉄製の扉……ここに逃げ込めば身の安全は完全に保証される。そんな部屋が役に立つ事などよほどのことのはずだったが、引っ越してきたその晩に、何者かが家に押し込んでくるのだった……。


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 デビッド・フィンチャー最新作です。いつもながら、スタッフロールの文字デザインが面白いですねぇ(笑)
 一応ネタバレ有りとしましたが……てゆうか、これに関しては予告のつくり方がうますぎるというか、ちょっと騙しが入っているような気も(笑)
 予告篇ではとにかく問題のパニックルームの存在のみが強調され、そこで何が起こるのかなど、まったく告知されてませんでしたからね。そっから先のことはなるべく知らないで見た方が面白いだろうとは思いますが、開始30分以内にはネタはほぼ割れてしまいますので……書かない事には紹介のしようがないというか、何と言うか(笑)
 実は男達の目的は、パニックルーム内にあるのですよ。そこに金庫があって、その中身に用事がある、という設定なのです。一方のジョディ・フォスターは取り敢えず娘と二人でパニックルームに身を隠しますが、引っ越してきたばかりで防犯装置の使い方とか部屋の装備とかはよく分かっていません。しかも娘のサラが糖尿病?か何かの病気にかかっていて、そんな所にこもっている場合じゃないよ!という状況に陥るのです。
 かくして、パニックルームに入りたい男達と、何とかしてそこから出たいジョディ親子とが、壮絶な知能戦を展開する……という映画なのですなぁ。
 ま、実際にはそんな「知能戦」言うほどトリッキーなネタは用意されてはいないのですが(笑) 男達もさほど犯罪のプロフェッショナルというわけでもなく、不測の事態に足並はバラバラ。ジョディも追い詰められてヒステリー一歩手前という状態だったりします。オチに至るまで特にすげぇドンデン返しとかがあるわけでもないですが、なかなかに楽しめる一作だったのではないかと思います。
 面白いのはカメラワークで、建物の階を行ったり来たりする異様にトリッキーな長回しを成立させるために、どうでもいいような背景描写とかをフルCGで描いてたりするんですよね(笑)
 以前「ホワット・ライズ・ビニース」なんかでも似たような事をやってましたけど……そういうヘンにトリッキーなところが、わざとらしくて逆に面白かったです。
 トリッキーな映画に見せかけて実はかなり実直な内容なのかも知れませんが……なかなかに手堅い造りが、興味深い一作でした。
 でもなぁ。娘の病気についてはっきりとした伏線がないのは、いくらなんでもまずいだろ、とは思いますけどね(笑) これをしっかりやっておくだけで、かなり評価が違っていたと思うんですけど……。



おすすめ度:☆☆☆




2002.8.5 ホームドラマ

「レジェンド・オブ・フォール 果てしなき想い」

監督:エドワード・ズウィック
主演:ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス、ジュリア・オーモンド、エイダン・クイン、ヘンリー・トーマス、他

鑑賞日:2002.6.25


 モンタナの牧場で退役軍人の父(アンソニー・ホプキンス)に育てられた三人兄弟。彼らは父の意志に背いて、第一次世界大戦のヨーロッパ戦線に出征し、末弟のサミュエル(ヘンリー・トーマス)が戦死する。
 残された彼の婚約者スザンナ(ジュリア・オーモンド)は、次第に次男のトリスタン(ブラッド・ピット)と惹かれあうようになっていくが、自由を愛するトリスタンの生き方では、彼女を幸せにすることは出来なかった。彼女を巡って上の兄アルフレッド(エイダン・クイン)と対立するトリスタン。変化していく時代の中、一家の歩んだ道とは……。


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 えー、ブラピの出世作として結構有名な作品なんじゃないかと思います。ASDさん今の今まで未見だったんですけど、ようやっと鑑賞がかないました……。
 とは言え、なんかコメントに苦しい作品だったような気が(爆) 確かにブラピは男前でしたけど……なんかそれだけだったような気がしないでもないです(爆)
 監督のエドワード・ズウィックは「戦火の勇気」とか「マーシャル・ロー」とか社会派の作品で知られる監督ですが、本作は……どうなんでしょうね(爆) 何だか原作の小説っていうのがあるみたいですし、多分こういう歴史ロマンス大作、みたいな感じの作品を格調高く映像化してみました、というノリの作品だったのではないでしょうか。
 まぁ確かに、モンタナの雄大な自然は美しい映像としてフィルムに収められておりますし、一人の女性をめぐる兄弟の愛憎のドラマとか、時代に翻弄されながらも自分を貫き通すアンソニー・ホプキンスの頑固オヤジっぷりとか、見どころはそこそこありますし、何よりブラピが男前でございますので、そういう二枚目がお好きな女性の観客には、なかなか見応えのある作品だったのではないか、と思います。ASD的にはどこに着目したものかサッパリてな感じですが(爆)



 しかしそこで終わってはビミョーに悔しいので、ASDさんちょこっと調べものをしてみました。
 何を調べたのかと言いますと、「トリスタンとイゾルデ」というワーグナーのオペラに関してでございます。なんでそんなものを調べたのかと言いますと……主人公の名前がトリスタンですし、作中でも一言だけ触れられていたような気がしますし……。まぁ、単に気になっただけなんですけどね。
 以下、かいつまんで説明します。
 トリスタンとイゾルデ、というのは、タイトルになっている二人の男女の悲恋物語でございます。
 父親の嫁になる姫イゾルデを迎えにいった王子トリスタン。ですが二人はそれ以前に一度顔を合わせていたのでした。戦争で負傷したトリスタンを、イゾルデは恋人の仇とは知らずに(トリスタンが戦争で殺した、という設定になってるようです)助けてしまうのです。
 ここですでに惹かれ合う二人ですが、立場がそれを許しません。一度は毒を飲んで死のうとしますが、間違えて「愛の薬」を飲んでしまったためにお互いの愛がよりいっそう盛り上がるのでした。その事実がいずれ父王にバレてしまい、トリスタンは成敗されてしまうのです。悲嘆にくれたイゾルデも、その後を追って……。
 というお話なんですが。……うーん、これで合ってるのかなぁ。なんか紹介してたサイトを2、3斜め読みしただけなんですけどね。
 こうやってあらすじを挙げてみると、この「レジェンド・オブ・フォール」という作品、このオペラをモチーフにしているのは間違いないと思われます。実際トリスタンとスザンナは弟サミュエルが死ぬ前からちょっとイイ雰囲気になってたりしますし、人の婚約者を巡ってあれやこれやモメる、という展開も似ております。殺した男の恋人、というオペラの設定と、死なせてしまった弟の恋人、という設定も似てますし……。



 とまぁ、調べてみて、だからどうしたという考察までは頭が回りませんでしたが(爆) この映画を見た方、これから見る方の参考になればなぁ、と思います。



 ……しかしまぁ、読んでもあまり益のないどうでもいい感想文ですね(爆)



オススメ度:☆☆☆(取り敢えず映像に+1)




2002.8.5 フェラーリ走る

「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」

監督:マーチン・ブレスト
主演:アル・パチーノ、クリス・オドネル、フィリップ・シーモア・ホフマン、他

鑑賞日:2002.6.24


 全寮制の名門校の生徒であるチャールズ(クリス・オドネル)は感謝祭の休日の間のアルバイトとして、盲人である退役軍人スレード中佐(アル・パチーノ)の身の回りの世話をする事になる。だが気難しいスレード中佐は大人しく家にこもってなどいないで、強引にニューヨーク旅行へとチャールズを付き合わせることになるのだった。
 一方で、チャールズは学校でとある事件に巻き込まれ、その事で思い悩んでいた。そんな彼の悩みなどお構いなしに、スレード中佐はチャールズを連れまわすのだったが、彼の旅にはとある目的があった……。


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 名優と呼ばれて久しいアル・パチーノに初めてのアカデミー主演男優賞をもたらした作品です。何度もノミネートされて、本作でようやく悲願を果たした、というわけで……さすがに本作における彼の演技はマジですごい事になっております(笑)
 映画自体さほどぱっとしたところがあるわけでも無いのですが、アル・パチーノのすごいキャラの立った演技と、その相手役を極めてソツなく演じたクリス・オドネルとのやりとり……2時間半の上映時間はほぼそれでもっていると言って過言ではないかも知れません(笑)
 もちろんこの二人のニューヨーク行きがただの珍道中に終わるわけではなしに、アル・パチーノには彼なりに目的がありますし、クリス・オドネルが巻き込まれた事件も意外に大事になってたりしてまして、それがラストでのアル・パチーノの長い長い演説シーンに繋がるわけですなぁ。
 まぁあまりにもクサい演技にうんざりする向きもないわけではないと思いますが、演技が見所になるっつうのはこういう演技の事をいうんだ!というお手本のような映画でした。
 ちなみにタイトルの意味は、本編を見ればわかります。いやー、いくらなんでもそれはムチャだろう!(笑)



おすすめ度:☆☆☆




2002.8.5 蝶のように舞い……

「アリ」

監督:マイケル・マン
主演:ウィル・スミス、ジェイミー・フォックス、ジェフリー・ライト、ジョン・ボイト、マリオ・バン・ピーブルズ、他

鑑賞日:2002.6.21

公式サイト:http://www.ali-movie.jp/


 アマチュアから転向し、22歳の若さでヘビー級チャンピオンの座を獲得したボクサー、カシアス・クレイ(ウィル・スミス)。斬新なファイトスタイルでボクシング界に革新をもたらした彼だったが、ブラック・ムスリムへの傾倒、マルコムXとの親交と断絶、「モハメド・アリ」への改名、徴兵拒否によるタイトル剥奪などなど……彼の人生は、リングの外でも戦い続ける人生であった。


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 「インサイダー」のマイケル・マン監督による、タイトル通りモハメド・アリの半生を綴った伝記映画です。主演はおなじみウィル・スミス……なんですけど、本作のウィルはあんまりウィルっぽくありませんなぁ。まぁウィルの映画じゃなくて、あくまでもアリの映画なんですけどね。
 伝記映画としてはまぁ必要充分といいますか、モハメド・アリってこんな人だったんだ、というのがよく分かるようにはなっていたと思いますが……なんだかいろいろと中途半端だったような気も。
 例えばアリは、ブラック・ムスリムとの付き合いから改名を果たし、マルコムXと親交を持つなど、「白人との戦い」にかなり意識的な人物だったわけですが……ではマルコムXやらブラックムスリムを通じて、そういう黒人の闘争の現代史を丹念に綴っているかといえば、いまひとつツッコミが足りないような気がします。
 改名で親と喧嘩したり、徴兵拒否でタイトルを奪われたり、ラストのフォアマン戦でカミさんと喧嘩したり……マルコムXとの出会いと別れなど、なんかこう、色々と失うものの多い人だったんだなぁ、などと思ってみたり。アリというキャラを是正的に書きたかったのか、否定的に描きたかったのか……どうもそれが曖昧だったのがASD的に引っかかる部分でありました。
 常にアグレッシブなアリですが、結局が常に何と戦っているのかが曖昧というか何というか……敵対する誰かがいるのではなしに、彼は常に何かの「状況」と戦っているのですよ。改名騒動にせよ、徴兵拒否にせよ、リターン・マッチにせよ。そういう、目に見えない敵と戦う、という微妙なシチュエーションが多かったように思います。演じるウィル・スミスも大変だったんじゃないでしょうかねぇ。なんの予備知識もなしにストーリー追いかけるASDさんもちょっと大変だった気もしますが(爆)
 うーむ。やっぱりモハメド・アリ本人の活躍とか、その時代の空気とか、そういうものに理解がないとちょいと厳しい映画だったかも知れません。



オススメ度:☆☆☆




2002.8.5 ジェット・リーVSジェット・リー

「ザ・ワン」

監督:ジェームズ・ウォン
主演:ジェット・リー、デルロイ・リンド、ジェイソン・ステイサム、他

鑑賞日:2002.6.14

公式サイト:http://one.eigafan.com/


 宇宙に125あると言われるパラレルワールド。その宇宙それぞれに存在している「自分」。彼らを一人ずつ抹殺すれば、その能力は残りの自分達に吸収される。その能力が一人に集約されたとき、人は全能の存在《ザ・ワン》になる……。その法則に気付いたユーロウ(ジェット・リー)は全能の力を手に入れるべく、それぞれの世界の「自分」を抹殺し続けていた。そうやって最後に一人残ったのが、ロスで警官をしているゲイブ(ジェット・リー:2役)だった。
 自分とそっくり同じ顔を持った男に命を狙われ、ユーロウの犯した殺人の嫌疑をかけられるなど、追い詰められたゲイブは、やがてユーロウとの対決を果たすのだった……。


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 あらすじをお読みいただければ分かるとおり、本作はジェット・リーが二役で、お互いに壮絶な殴り合いを展開するという、何げにすげぇ映画でありました(笑)
 しかし……ネタがすげぇだけになんかもったいない感じの映画であります。SF的な設定を駆使して、ジェット・リー同士が戦うまでのお膳立てをきっちり整えたところまではいいんですが……。
 確かに、本編ではそのお膳立てのとおりに、二人は戦っております。しかしただ戦っているだけではなしに、あらすじの通りもう一人の自分が現れたことで身に覚えのない殺人嫌疑がかけられたり、いらん逃避行のような事をやってみたり……要するにSFよりも、サスペンスの方に力点が置かれているのですな。
 そんな暇があったら、とっとと戦ってくれ!てなものですが(笑)
 むしろASD的には、「自分と自分が戦う」というシチュエーションに対して哲学SF的にマニアックな方向からアプローチして欲しかったんですけどねぇ……。何だか娯楽映画として非常に分かりやすい、サービス満点な映画を作ろうとして、単なるサスペンス&アクションという平凡なところに無理に落とし込もうとしているような感じがしました。ううむ、実に勿体無い。
 まぁこういうSF仕立ての作品ですので、別にワイヤーアクションとかCG合成とかがバリバリに使われているのはしょうがないと思うのですよ。ジェット・リーのファンの人は常に「素のリーの技」を見たがる傾向がありますが……本作は合成なしじゃ絶対に成立しないでしょう。ジェット・リーは二人もいませんからね(笑)
 それは冗談としても、彼は確かにクンフーの達人ですが、どちらかと言えばマッチョな方向で容赦なく無敵だ!というのではなしに、むしろクンフーという「技」の持つ華麗さ、美しさを極めるという方向での達人なんじゃないかと思うのですね。
 ですので、CGを使ったりワイヤーワークを駆使したり、そういう作為を盛り込むことで、クンフーの持つスタイリッシュさを極めてくれる方が、彼本来の特性を生かせるんじゃないかなぁ、と思うのですよ。香港時代の映画には、そういう職人芸的ワイヤーワークがリーの技の冴えをよりいっそう引き立ててましたしね。
 そういう意味では、本作のようなトリッキーな設定は別に方向性として間違っちゃいないと思うのです。思うんですけどねぇ……映画自体の方向性が、思いっきり間違っていたような気が(爆)
 ……というか、敢えて言ってはいけない事をずばっと言うならば、この作品はある程度アクションの出来る俳優ならば別にジェット・リーじゃなくても充分に成立するんじゃないかと思うんですよ(爆) いや完全に同じアクションは出来ないでしょうが、ジェット・リーでなければ絶対に不可能な映画だとは、正直思いませんでした。
 そういうところに、わざわざジェット・リーという得難い逸材を持ってくるのは……やっぱり、もったいないなぁと思わざるを得ない感じでした。
 もったいないと言えば、デルロイ・リンドの扱いももったいないなぁ……。彼は最近このテのB級アクション映画には欠かせない脇役になりつつありますが……演技派になれとは申しませんが、味のある役者なのであんまりつまらない映画ばかりに出ないで欲しいなぁ、と思ってみたり(笑)
 あともうひとつびっくりした事。この映画の監督ジェームズ・ウォンって、あの「ファイナル・デスティネーション」を監督したお人なんですよ! ううむ、あちらの映画はけっこういい出来だったのに、こちらは一体……(汗)
 やっぱり映画はシナリオが肝心、つう事なんでしょうかねぇ……。



おすすめ度:☆☆(B級アクションマニアな人はどうぞ)



 


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