-cinema diary-

2003年9月の映画日記


 

2003.9.12 運命的な失敗(笑)

「ターミネーター3」

監督:ジョナサン・モストウ
主演:アーノルド・シュワルツェネッガー、ニック・スタール、クレア・デインズ、クリスタナ・ラーケン、他

鑑賞日:2003.7.14

公式サイト:http://www.t3-jp.com/

 「T2」から10年後。来たるべき「審判の日」は回避されたはずだったが、青年となったジョン・コナー(ニック・スタール)は未だ不安に怯えつつ、ホームレス同然の放浪生活を送っていた。自分の名前をどこかに残して、ターミネーターに襲われる事を警戒していたのだ。
 そんな折、未来から新たなターミネーター・T−X(クリスタナ・ローケン)が送られてくる。ジョン・コナーのみならず、未来の革命軍で幹部となる複数の人物達を目標とし、次々に任務をこなしていくT−Xは、やがてジョンの幼なじみであるケイト・ブリュースター(クレア・デインズ)の元に現れる。たまたまジョンもその場に居合わせ、同時に狙われる事となるが、そこに革命軍側が送り出したT-101型ターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)がやってきて……。


    *    *    *


 つうわけで、T3でございます。
 「ターミネーター」シリーズは、1&2ともにSF映画史、アクション映画史に残る大傑作だったわけでして、その待望の最新作!ということでめちゃめちゃ期待しつつ映画館へ足を運んだような方には、さぞガックリ来るような内容だったように思います(苦笑)
 ASDはといえば「今更T3かよ!」「いまさらシュワかよ!」と割と半信半疑で見に行きましたので、思いがけずイケてる映画だったなぁ、という風に思えましたが……。まぁ普通はそういう懐疑的な人はわざわざ映画館にまで足を運びませんよねぇ……(笑)
 うーむ。
 まぁこの作品に関しては、あの「ターミネーター」シリーズの最新作!シリーズ集大成!というような見方ではなしに、機械VS人間の戦いを描く新たなシリーズの開幕編だと思った方がすんなりと楽しめるんじゃないかと思います。その開幕編のスペシャルゲストとして、シュワが出てくるんだな、的に解釈しておけばいいんじゃないでしょうか(笑)
 そもそも「T1」で暗示された破滅的な未来は、色々伏線が残されていたとはいえ「T2」にて一応はすっかり払拭されたはずなのですよ。せっかく苦労して回避した審判の日なのに、それを今更続編つくって蒸し返すなんて、ナニ考えているんでしょうかねぇ?(苦笑)
 そこへ持ってきて、肝心のジェームズ・キャメロンは抜け、シュワ以外のオリジナルキャストが抜けて、さらにはシュワ自身の年齢的な問題もありますし、とにかく続編つくるのにこれだけ不安要素が揃ってる映画なんて、今時滅多にお目にかかれませんな(笑)

 (うんちく話その1:ジェームズ・キャメロンは映画プロデューサーのゲイル・アン・ハードと離婚する時のゴタゴタで、自身が持っていた続編の製作権を手放しちゃったので、T3には関われなかったのだ、と言います。ただ、キャメロン自身T3にはそもそも全く興味が無かったらしいですが(苦笑))
 (うんちく話その2:「T2」にてジョン・コナー役でデビューを飾ったエドワード・ファーロング。子役で成功した俳優はあとが続かないというジンクスがありますが、紆余曲折ありながらも今も役者として活動しております。「T3」にも当初オファーされておりましたが、薬物関連でイロイロ問題を起こしまして、直前になってキャスティングを下ろされてしまいました。あーあ(苦笑))

 ……まぁそんなこんなで、「全世界待望の続編!」などと宣伝展開されているのとは裏腹に、実はかなり不安要素の目立つ作品なんだということはおわかりいただけるかと思います。
 うーむ。そんな中、新たに監督を任されたのはジョナサン・モストウ。「ブレーキ・ダウン」「U−571」と、過去の監督作はいずれも傑作揃いでしたが、果たして彼はこの超難題と言える続編をどのようにまとめてくれるのでしょうか。……あるいはまとめきれずに、失敗のままに終わるのでしょうか(笑) ASD的には他の何よりも、そこのところに興味があったんですけどね(笑)
 ……なに、意地が悪いって? いいじゃないですかー別に。マトリックスだって期待されてた割には(以下検閲削除)



 ……で、実際見ての印象ですが、いかにも続編を狙ったようなラストシーンのせいで全体的に消化不良というか、中途半端な印象に終わってしまったのが残念ではありましたが……それを除けば、当初不安に思っていたよりは意外と健闘してたんじゃないかと思います。
 印象的なのはやはりアクション描写でしょうか。「マトリックス」がカメラワークやスローモーションといった「カメラの使い方」という方向性で、映像の奇抜さやスタイリッシュさで魅せるタイプのアクション映画だったのに対し、本作ではもう少し正統派といいますか、アクション映画らしい迫力、ものをぶっ壊すカタルシスを、ストレートに追求するようなタイプのアクション映画だったんではないかな、という風に思いました。
 んー、これは何げに良かったですよ。「マトリックス・リローデッド」の100人組み手のような、ギャグと紙一重のアクションになんか違和感を感じていた身には、この正統派のガッチリとした重厚感たっぷりのアクションシークエンスは、なかなかに堪能させてくれるものがありました。



 ……まぁしかし、なんぼアクションが良くても、やはり肝心なのはストーリーですよねぇ。確かにその辺りの物足りなさは否めないかと。
 うーん。ストレートなネタバレは避けますが、本作のラストシーンって、明らかにアンハッピーエンドなんですよね。単に結末が明るいか暗いかという問題ではなしに、最終的に登場人物達の努力のいくつかが、無に帰すような方向性に結実してしまっているわけで、フラストレーションの溜まりそうなエンディングではありました。
 まぁ「意外な結末!」という方向で多少はインパクトもあったというか、うまくまとめてはありましたし、テーマ的な展開も上手くそっちに落とせるように努力はしてあったと思いますけどね。そもそもこれは機械VS人間の壮大な叙事詩、という方向で続編を作りたいプロデューサーサイドの意向でこういうラストになっちゃったわけで、ジョナサン・モストウにはあんまり責任のある話ではないのでしょうし(笑)
 ……まぁそれはそれとして、いくつか細かい矛盾が出てしまっているのは、これはどーなんでしょうか(苦笑) ジョン・コナーの年齢に関してですが、「T1」は製作年次と同じ1984年が舞台で、ジョン・コナーの誕生は同年かその翌年。1991年製作の「T2」では敢えて近未来の1994年を舞台としてましたので、ジョンはT2の時点では9〜10歳だったのですが……。
 なのに「T3」の作中では、ジョンは12歳の時に家出した、という事になっているんですよ。この家出というのがT2の事件の事を言っているわけですが、それだとちょっと計算が合わないような気がするのですが……。これはただの計算ミスなのか、それとも観客にも知られていない歴史改変が行われていて、今後のシリーズ展開で明らかになっていったりするんでしょうか。うーむ、どうなんだ!
 あと、本作からの新設定として、T-101型の動力源として「水素電池」なるものが取り上げられてますが……水素電池は不安定になると爆発する、という設定で、これが作中でけっこう上手い使われ方をしているのですが、冷静に考えてそんな物騒なものを体内に仕込んでいるとすれば、「T2」のあの有名なラストシーンの時点でサラ&ジョンのコナー親子は木っ端微塵になっているような気がするんですが……(笑)
 あー、まぁこれは重箱の隅つつきもいい所なんでしょうかね。両作品のT-101はそれぞれ微妙に仕様が異なる機体なのかも知れませんし(笑)



 それはそれとして、個人的に興味深かったのはスカイネットがどーのこーの、という描写でしょうか。回避されたはずの「審判の日」が大きくクローズアップされる本作ですが、「T1」公開当時は巨大コンピュータが反乱を起こして……という設定にもそれなりにリアリティがあったわけですが(苦笑)、インターネットが日常的に普及した2003年の今振り返ってみれば、そんな設定にはさほどのリアリズムも存在しないわけで、その辺りをきちんと踏まえた描写になってたのには結構感心させられるものがありました。
 また、前作は前作で、公開当時「究極のアクション映画!」的な言われ方がされてたわけですが、「T2」って結局T-101が一人も人殺しをしないまま終わってますし、T-1000はT-1000で、刃物以外にこれという武器が無いんですよね。そういう意味では、実は意外とドンパチ方面での充実度が、一見ハデなように見えて、今一つだったんじゃないかな、という気がします。かく言うASD自身、公開当時にその辺りを不満に思った事を今思い出しました(苦笑)
 「T3」ではそういう密かな不満への溜飲を下げるがごとく、ドンパチの非常に充実した内容になってましたねぇ(笑) 米軍の秘密基地を舞台にまるで戦争めいた様相を見せておりますし(笑) シュワと対峙する最新型のT−Xもプラズマガンやらなんやら、物騒な武器を腕に内蔵していたりしましたし(……サイコガンみたいですね(笑))
 アクション要素はアクション要素で充実しているとして、「審判の日」を回避する、というストーリー自体にタイムリミットサスペンスっぽいニュアンスもありますし……ああ、こういう風に並べ立ててみると、意外に評価出来るポイントは多いじゃないですかっ(笑) 前述のようにオチの展開がすっきりしない、という事をのぞけば、やはり結構頑張ってたんじゃないかな、という風に思います。



 それから、兎にも角にも本作の一番の注目ポイントは、シュワ演じるT-101型のキャラに関してでしょうか。
 ここ映画日記でも、近作のシュワ主演作を取り上げるたびにシュワのアクションスターとしての資質がどーのこーの……という話題を論じてきましたので、まぁ本作でもそれを回避するわけにはいかないんですが(笑) まぁ今回は演出の方でアクションをガンバってたので、シュワがサボっているのが目立たなかった、というミもフタもない見方も出来なくはないのですが(爆)、実はシュワ自身、かなり変則的な手段でこの問題にひとつの答えを出しているんですよね。
 というのは……シュワはこれまで常に「無敵のヒーロー」っぽいキャラを演じてきまして、どんなに「普通の男」的なキャラを演じたところで、この呪縛からは逃れられなかったわけですが、本作はかなり変則的な方法でこの呪縛からついに逃れることに成功しているのですよ!
 ここで過去のシリーズを振り返ってみると、「T1」でのシュワは主人公達を追い詰める冷徹なロボットを演じていたわけで、悪役としてはこれ以上なく強く恐ろしい存在でした。これが「T2」になると、設定上はT-101よりも最新型で強いという事になっているT-1000との激突を果たすわけですが、作品上では取り敢えず互角の戦いを見せておりました。重量級でブルトーザーのようなT-101と、何にでも姿を変えられるしなやかさが持ち味のT-1000、剛と柔の激突、というメリハリの付け方も何げに効果的だったわけですが……。
 それが、今回の敵であるT−Xは、液体金属の下にT-101のような骨格フレームを内蔵しているという設定で、上記の剛と柔を同時に兼ね備えている、というような描かれ方になっているのですね。とにかく戦えば容赦なしに強いですし、プラズマガンなどの強力な武器をあらじめ標準装備しているというのも、従来型ターミネーターには無い強みです。途中で切り替わる火炎放射器はショボいのでは、という意見をネットで見かけましたが、あれだって化石燃料を使わずにプラズマ放電?であれだけの火力を得ているわけですから、なかなかに侮れませんよ(笑) 作中で「対ターミネーター用ターミネーター」という言われ方をしているのも納得の強さなのです。
 そういうT−Xを前にして、T-101もアクション的に頑張りは見せてくれるのですが、やっぱT−Xの容赦ない強さばかりが目について、シュワはアクション的にはあんまり見せ場がない感じです。っていうかむしろ明らかに弱いですね(爆) クレーンに吊るされたままビルに突っ込んだり、結構ヒドい扱いを受けたりして、ボロボロに奮闘している様子が弱いからといって役立たずに見えるのを防いでいるのかも知れませんが(笑) それにT−Xはデフォルトで若い女性の姿をしてますので、両者が並べば、視覚的にT-101の方が強そうには見えますけどね。
 まぁそれはそれとして、T-101型はむしろ「戦うマシン」として無敵に強い!とかいう方向の魅力よりも、旧式である事や観客にも周知の存在である事を逆手に取って、結構ユーモラスな扱われ方をしているのですね。例えば冒頭、タイムスリップしたばかりのシュワは当然ハダカで徘徊するわけですが……服を装備するために酒場を訪れるのは「T2」と同じなのですが、行った先では男性ストリップショーが行われていて、店は女性客で満員。そこへシュワちゃん、素っ裸で乗り込んでいくという……恐ろしいまでに捨て身のギャグを放ってくれるのですな(笑)
 しかも、これまたシリーズではトレードマークとも言えるサングラスですが、ここも笑いをとるポイントになっているんですね。T-101はとにかくサングラスにこだわって、機会あるごとに入手を試みるわけですが、アクションのたびに壊れてしまい、また新たに入手して……を繰り返しているのです。これはつまるところ、一種の繰り返しギャグであると言えるかと思います(笑) うーむ、過去にコメディも挑戦していたシュワですが、むしろ本作はそういうコメディ路線の系譜にも繋がる作品だったのかも知れません(爆)
 そういうパロディ的な扱われ方も印象的なのですが、前作のT-101がまっさらな状態から色々学習して人間くさくなっていったのに対して、本作では送り込まれた時点である程度プログラムされていて、最初から中途半端に人間くさかったりするんですよね。笑えないギャグを絶妙なタイミングで放ったり、ジョンに対して結構辛辣な態度をとったり、意外にも皮肉屋として描かれているのです。
 んー、これは何げにチャレンジだと思いますよ。こういう役回りなので作中では主役というより、主人公を支える脇役としての印象が強いわけですが、人間味を帯びていくロボット、ではなしに機械のままできちんとキャラの立った存在として描かれているわけです。タイプは大きく異なりますが、「エイリアン2」のビショップのような役回り、と言えばお分かりいただけるでしょうか。
(そのビショップを演じていたランス・ヘンリクセンは、元々「T1」でターミネーターを演じる予定だったというのも何やら奇遇ではありますが(笑))
 クライマックス手前で、彼はプログラムを書き換えられてジョン・コナーらの敵に回りそうになるのですが、その際に見せる葛藤は必見でしょう。前作のようにロボットが人間らしいアイデンティティに目覚めるのではなしに、あくまでもT-101というロボットキャラのままで、ロボットらしいアイデンティティをT-101は主張しているわけで……恐らくシュワルツェネッガーがこれまでのフィルモグラフィで演じてきたキャラの中では、本作のT-101は格段に深い奥行きを持ったキャラとして描かれているのです。
 いやー、これはすごいです! 「アクションスター」としての再起を賭けた(有終の美を飾る?)作品において、おそらく初めてシュワはアクション以外の部分で評価出来うる演技を見せてくれているのですよ! 妻子を失って復讐に燃える男を演じた「コラテラル・ダメージ」なんかは、役どころ自体の設定からは想像もつかないくらいに奥行きの薄い演技にしかなってませんでしたし(爆)、その他の過去作の演技もそれと似たり寄ったり、本来はシュワにそういう深みのある演技とか期待しちゃイカンはずなのですが、本作「T3」ではそれを見事に覆してくれたわけです。先述のコメディ演技云々という話と合わせて考えてみればこの「T3」、まさにシュワルツェネッガーのこれまでの俳優人生の総決算的な内容になっていたのかも知れません。



 ……確かにこの「T3」、続編としても無理矢理作られた感は否めませんし、さらに続編に無理に繋げるためにちょっといびつな作品になってしまった事も否定は出来ません。
 がしかし、シュワをアクションスターとしてスターダムに押し上げたこのシリーズの最新作が、シュワに初めてそれなりに奥行きのある演技をさせてくれているのですから、この部分だけでも充分評価に値するのではないか、という風にASDは思います。
 考えてみれば、前半に散々書いたように、本作「T3」はそもそも企画し製作された時点で「失敗作」になることが運命づけられた作品だったのかも知れません(爆) 結局アンハッピーで終わったラストシーン、まぁ続編を意識してのラストである事も確かなのですが、見方を変えればあのラストはそのまま「T1」に繋がっていくラストでもあるわけで、そういう意味では「新シリーズ開幕篇」ではなくて「シリーズ総決算の完結編」という風に受け止める事も出来るわけですよ。ですが、シリーズが無事にストーリー的につじつまのあった完結を迎えたかどうか、ってのと、シリーズの最新作として納得のいく終わり方になっていたかどうか、というのは、まったく別の問題ですよね(笑)
 そういう意味では、誰が監督に起用されていたとしても、それなりに気の毒だったかな、という気はします。そう考えると、本作のジョナサン・モストウの奮闘は充分に賞賛に値するものだったのではないでしょうか。プロデューサーサイドの要求にも、シリーズの続編として要求される事にも充分に答えた上で、低迷の続いていたシュワにここまで充実した仕事をさせて……てな風に絶賛してみたところでこの映画がじゃあ100%傑作かというと、まぁ実際はそうでもないんですが(笑) むしろもっとヒドい失敗作になるところを、「ちょっと成功作とは言い難い」レベルに留められたんですから、やっぱその手腕は評価すべきですよ(笑)



オススメ度:☆☆☆☆(個人的にはとても良かったと思います……けど(笑))



 


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