-cinema diary-

2004年3月の映画日記(復活篇・その2)


 

2004.3.28 全身緑色

「ハルク」


監督:アン・リー
主演:エリック・バナ、ジェニファー・コネリー、ニック・ノルティ、サム・エリオット、他

鑑賞日:2003.9.1

公式サイト:http://www.uipjapan.com/hulk/


 科学者ブルース・グレンジャー(エリック・バナ)は同僚のベティ・ロス(ジェニファー・コネリー)らと共に、生物の細胞をナノテクノロジーを使って活性化させる研究を続けていた。ところが実験中の事故から、細胞を活性化させるガンマ線をブルース自らが浴びてしまう。奇跡的に無傷で済んだブルースだったが、感情が押さえられなくなると彼は緑の巨人ハルクに変身してしまうのだった……! さらに、そんな彼の周囲に、実の父を名乗る男バナー(ニック・ノルティ)が姿を見せるようになる。ブルースのこの変身体質に関する重大な秘密を彼は抱えていたのだが……。


    *    *    *


 「グリーン・デスティニー」のアン・リー監督(念のため、この人は男です(笑))による、アメコミの古典的人気作の映画化であります。その「グリーン〜」は「マトリックス」も手がけた香港映画界の大御所ユエン・ウーピンによる格調高い華麗なアクションが魅力だったのですが、同時に展開されるストーリー・ドラマは大変奥行きが深く、まぁはっきり言えば……かなり難解だったわけですが(爆)
 そういう監督がアメコミの映画化を手がけるってんですから、一体どういう事態になるんだ!という所にものすごく興味が牽かれるではないですかっ(笑) ASDも映画自体を楽しもうとかそういう事よりも、「ものすごく興味が牽かれる」点を確認しに映画館へ足を運んでしまいました。ってゆうか2003年の夏はそういう微妙な作品がものすごく多かったような気が……(苦笑)
(今更続編で不安要素だらけの「T3」とか、凡打連発の職人監督と浮沈激しいプロデューサーによる「パイレーツ・オブ・カリビアン」とか、監督急逝によって実績ほぼ皆無の新人監督があとを引き継いだ「BRII」とか……(苦笑))



 まぁそれはそれとして。
 一応本作はアメコミですし、ってことはぶっちゃけ年少の観客もいるわけですし……そういう意味では心配していたほど異常事態が発生していたわけでもなく(苦笑)、おおむね娯楽映画らしい分かりやすい内容に終始していたように思います。
 そもそもアン・リーにしてみれば珍しく女性が主人公では無い映画だったり、こういう単純明快な内容だったり、色々とチャレンジも多かったのではないでしょうか。マンガのコマ割りっぽい画面分割・カット切り替えなど、ビミョーに「スパイダーマン」のサム・ライミっぽいのがちょっと笑えたりしましたが(笑)
 そもそもこの作品、他のアメコミ映画化作品とは趣きが随分と異なるんですよね。「バットマン」にせよ「スパイダーマン」にせよ、「Xメン」「デアデビル」にせよ、通常のアメコミ作品は「正義のヒーロー」の活躍を描いているものです。そしてその活躍とは、具体的にはライバルに当たる悪役とのサシの対決であるわけです(Xメンはグループ戦ですが)。
 要するにそういう善VS悪の構図をとった上で、ハイテク小道具満載とか、特殊能力を活用したりとか、そういう特色をストーリー的にもビジュアル的にも生かしていけば、内容の是非はともかく娯楽映画としては一通り成立するんじゃないかな、と思います。
 ところが、本作「ハルク」はそういう意味では2つのハンデを背負っているのですな(笑) 善対悪、という意味では本作はブルースの父が、ブルースに立ちふさがる存在として登場するわけですが、具体的に対立構図が見えてくるのは中盤以降ですし(それまでは敵味方不明)、その上後半のクライマックス部分に至るまで実力を交え合う機会は皆無だったり。そこに至るまでの話でメインになっているのは、あくまでもブルース=ハルクという存在なんですね。要するに彼の正体がどうのこうのという陰謀劇であったり、彼が怒って暴れる、という部分でのカタルシスであったりと言った要素が、お話を動かしていく主軸になっているわけです。これは従来のアメコミ映画の図式からは外れる、イレギュラーな図式であると言えるかと。
 となると……陰謀云々は徐々に明らかにしていくとして、「彼がいかに怒りを爆発させるのか」というのが大きなポイントとなるのですね。そこにお話としてのカタルシスがあるわけですから、用意周到にシチュエーションを誘導して、確実にそこへと盛り上げていく必要があるわけです。まぁそこへ持ってきて、ブルース自身の出生の秘密ってのがあれやこれや絡んでくるわけですが。
 興味深いのは、登場人物の大半が血縁関係とか恋愛関係で相関図にして結べてしまえる、という事でしょうか。主人公ブルースとその父、ブルースと恋人ベティ、そのベティの父親で軍人のロス……父親同士は元同僚(上司と部下?)で、ブルースの父の秘密実験に関して深い因縁があり、その因縁が今になって再燃しているばかりか、渦中の人物であるブルースは娘の恋人であるわけですから、話が盛り上がらないはずがありません。さらにはベティに横恋慕している民間研究所のなにがしってのがあれこれちょっかいかけてきて、それがブルースの変身を促してしまったり……。そんな風に登場人物の誰と誰をとっても、必ずその間には何かしらの因縁や葛藤があるのですよ。こういう人物相関なわけですから、どういう風にストーリーを動かしても必ず衝突やら確執があるわけです。これは正直、上手いなと思います。
 まぁ強いて難点を挙げるならば、主人公の父親が最終的にはアメコミ的文脈で言うところの「悪役」になるわけですが、そこの部分がややとってつけたような印象が無きしもあらずだったように思います。最初からそこがクライマックスのつもりだったのだとしたら相当回りくどいなぁと思うんですが、もしかしたら「悪役と戦わないのは困る」という風に映画会社かコミック出版社の方からクレームがついて、ホントに後から付け加えたのかも知れません(笑)
 ……というわけで、そういう風に単純に正義VS悪者の図式に頼れない、というのがまずハンデのひとつだったわけですが、もう一つのハンデというのが、主人公ハルクには「巨大化して怪力」っつう意外にこれと言って特殊能力が無い、という点であります(爆)
 前述のように、バットマンには色々カッチョいいハイテク小道具がありますし、スパイダーマンにはクモ人間的特殊能力がありますし……それらはユニークなアイデアとしてストーリー上のアクセントになっていると同時に、映画としてはビジュアル的な特徴にもなっているわけです。勿論、対戦する悪役の個性も注目のしどころであるわけですが。
 ところがそういうのと比べてみると、ハルクってば特異な技能のない、単なる大男なんですよね(爆) しかも日本人にウケの悪い緑色と来てますし……(「シュレック」「グリンチ」等々……)そもそも単に「巨人」と捉えても、やはり日本人のセンスでカッコいいと思えるデザインでもないですよねぇ……。まぁ100歩譲ってデザイン面でイケてるとしても、それが単に大暴れするだけでカッコいい映像になったりするものかと言えば、あながちそうとも言えないわけですよ(苦笑) 映画の方では巨体からは想像もつかない俊敏さや跳躍力を見せていたわけで、それなりに頑張ってはいたわけですが。
 つまりは、巨人ハルクが大暴れする、その暴れっぷりに映像的なインパクトを持たせなくちゃいけないのはもちろんですが、そういう暴れっぷりにストーリー面で説得力やカタルシスを持たせるためのドラマ的な下地がしっかり作れていないと、ハリウッド版「ゴジラ」と同じ轍を踏むだけなんですよねぇ……(苦笑) 本家日本版ゴジラの場合、単に巨大恐竜が街を壊す、暴れる、という迫力だけではなしに、「戦争における大量破壊」の象徴として、人々の平和な日常を脅かす、という意味合いがあったわけで、だからこそ恐ろしい破壊王たりえたわけで……怒り狂って暴れるハルクにも、そういうストーリー的・ドラマ的なバックボーンが必要なのですよ。
 そういう意味では、単に映像的に迫力のあるものが作れればオッケー、ではなしにきちんとストーリー面・ドラマ面の演出がしっかりしている監督っていうのが、この作品には必須だったのではないでしょうか。そう考えてみると、ハリウッドの商業主義から離れて小難しい文芸作品ばかり撮ってきたアン・リーのような監督に、敢えてこんな娯楽映画を撮らせようと思い立った判断は、実は意外にも正しかったのかも知れません。
 心配していたアクション演出に関しても、「グリーンデスティニー」でユエン・ウーピンのような才能ある人間が支えていたように、これはILMや周囲のスタッフがきちんと頑張っていたように思います。まぁアン・リー自身のアイデアが皆無だったと断言するものではありませんが(爆)(なんでもハルクのモーションキャプチャーの一部を監督本人が演じているとかいないとか……)、何よりちゃんと物語の背景がしっかり作り込まれているからこそ、アクションにも充分なカタルシスが感じられるわけで、映像のインパクトだけが勝負、という安易なところに陥らなかったのは、実に立派だと思いました。
 考えてみたら、「Xメン」をサスペンス映画で評価されたブライアン・シンガーが撮ってたりするのも似たような理由なのかも知れませんねぇ。「ワイルドスピード2」のジョン・シングルトン監督も元はやっぱりドラマ路線の人ですし、「英雄」のチャン・イーモウも、ヨーロッパの格調高い映画祭で高く評価されるような、芸術性の高い作品を撮ってきた人ですし……。
 そういう文芸作品やドラマ作品をメインに撮ってる監督が、こういうベタな娯楽映画、それもアクションを手がける、というのはここ最近のブームになっているのかも知れませんね。それが良いのか悪いのかは分かりませんが……90年代を振り返ってみると、前半はジェームズ・キャメロンやリュック・ベッソンのような才能・センスのある人が優れたアクション映画を撮る時代だったのに、後半になってくると某ブラッカイマーやジョエル・シルバーのようなプロデューサーが、無名な監督に取り敢えず撮らせてみては凡打に終わる、という時代だったわけで(そのプロデューサーのところにリュック・ベッソンの名前がまた入ってくるというのも皮肉な話(苦笑) ブラッカイマーはむしろ成功作の多い部類と言えるかも知れませんけど)、これはこれで新しい流れなのかもしれないなー、と、ちょっと小難しい事を考えてみたASDでした。
 まぁ確かにカメラマンや編集スタッフ出身の新人監督が不相応なアクション大作をとるぐらいなら、文芸映画出身で確かな演出力のあるベテラン監督がアクション大作を撮っても、別に悪いという事もないんでしょうけどね(笑)



オススメ度:☆☆☆(某チャットでT氏に「金をドブに捨てる」と言われたほど悪くはなかったッス(苦笑))




2004.3.28 事前の認識

「コンフェッション」

監督・出演:ジョージ・クルーニー
脚本:チャーリー・カウフマン
主演:サム・ロックウェル、ドリュー・バリモア、ジュリア・ロバーツ、ルドガー・ハウアー、他

鑑賞日:2003.9.1

公式サイト:http://www.confession.jp/


 数々のヒット番組を世に送り出してきた人気TVプロデューサーのチャック・バリス(サム・ロックウェル)。だが彼の素顔は、テレビで見せる人気者の姿とはまったくかけ離れていた。見境なしに女性を口説きまくる悪癖の持ち主であるばかりか、彼は何とCIAに雇われた非合法の殺し屋だったのだ。自分の企画がなかなか採用されず無為に日々を過ごしていた無名時代、政府のエージェントを名乗る男ジム(ジョージ・クルーニー)にスカウトされたのだったが、その後番組が大ヒットし、人気プロデューサーになっていってもなお、彼は殺し屋稼業をやめようとはしなかった……。

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 というわけで、ジョージ・クルーニーの監督第一作であります。
 うーん、彼の監督としての手腕はどんなものなのでしょうかねぇ。スター俳優が監督業に進出、といってもクリント・イーストウッドやロバート・レッドフォードのように成功している人もいれば、ケビン・コスナーのようにうーんそれはちょっと、という人もいるわけで、前例もさまざまですし……。
 まぁ本作を見る限り、監督としての手腕そのものは特に問題無かったんじゃないでしょうか。作風が「オーシャンズ11」のスティーヴン・ソダーバーグに似ているような気もしましたが……そもそもはクリエイティブな事に挑戦したいとかいう動機ではなくて、単に監督が決まらないうちに製作中止になりかけていた企画を続行させるために、仕方なく自分で……というノリですので、シナリオを忠実に映像化することに終始していたんでしょう。作為的な演出をせず、実録風味のカメラタッチを採用すれば、まぁソダーバーグ風にはならざるを得ないかな、と言ったところですが(笑)



 ……ところで、実はASDはこの作品をみただけでは、いまいちピンと来ませんでした(苦笑) ここに何を書けばいいのかなー、とちょっと頭を抱えていたのですが、本屋さんにて原作本のあとがき……もとい解説部分を立ち読んできまして(って立ち読みかよ(笑))、本作のポイントがどこにあったのかおぼろげに理解出来た気になってきたので(気になってきたのであって、理解したとは言いませんが(苦笑))、つらつらと書いてみたいと思います。
 まず何故ピンと来なかったのかと言えば、それはASDが、チャック・バリスという人物の事をまるで知らなかったからなんじゃないかと思います。映画本編で描かれているチャック・バリスは、とにかくとんでもない野郎でして(苦笑)、見境なしに女の子をナンパしては手込めにしてますし(おかげでPG-12指定です(笑))、ほとんどノリで殺し屋になったのも同然ですし……。
 ところが、実際のチャック・バリスの社会的なイメージと言いますと、そういうものでは無いみたいなんですよね。彼の作った番組は日本でもパクられているぐらい有名なものですし、チャック自身も、自身の番組に司会者として登場し、お茶の間の好感度もけっこう高かったんだそうです。そういう人物を、徹底的にだらしのない人物として描いた挙げ句、CIAの殺し屋だって言ってるんですからねぇ……。
 要するにこの作品って、高潔というイメージの歴史上の有名人物を、人間味あふれる生々しいキャラとして描きました、みたいなノリの映画だったんですよ、実は(笑) そういう意味では、元ネタであるチャック・バリスやその番組を知っているアメリカの観客なら興味深く見られる作品だったのでしょうが、日本人がみるには結構キツい作品だったのかなー、という風に思います(苦笑)
 そういう意味では……もしかしたら原作も読んでおいた方がいいのかも知れませんね。原作はチャック・バリス自身の自伝で、「マルコヴィッチの穴」のチャーリー・カウフマンが脚本を手がけております。そのカウフマンによる「マルコヴィッチの穴」には俳優ジョン・マルコヴィッチが本人役で登場してますし、またカウフマン脚本、ニコラス・ケイジ主演の最新作「アダプテーション」では、ケイジがカウフマン自身を演じるというメタフィクション的な内容なわけで、本作も「自伝の映画化」と言いつつ凝った仕掛けがあるのでは、と疑ってしまいますが(笑)、実際のところは割と原作に忠実なシナリオであるらしいです。
 というか、そういう「凝った仕掛け」が仕組まれているのはむしろ映画ではなくて、原作の方なのですね(笑) バリス=CIAの殺し屋というのもその自伝の中に書かれている事ですし、自伝と言いつつ実際には存在しない架空の人物が登場していたり、実在の人物が事実に反して、いない事になってたり、ノンフィクションを名乗りつつ実はフィクション要素を多分に含んでいるわけで……そうなってくると「バリス=殺し屋」という話自体、今一つ信憑性が疑わしくなってきたり来なかったり(笑)
 この件に関してCIAは勿論関与を認めるはずがありませんし、バリスのコメントとしては「いざというときに国の関与を否定するために、非公式に外部の人間を雇っているわけだから、仮に事実だったとして認めるはずがない」という事で、そもそも事実かどうか確認のしようがないのでありました(苦笑) うーん、となるとそれを分かっててウソついてる可能性が濃厚だったり(爆)
 この自伝自体は、出版された当初はあまりと言えばあまりなウソっぷりに書評からは完全に無視され大コケしたらしいのですが、映画化されたおかげで無事ベストセラーになったそうです。翻訳本の解説によれば、チャック・バリスが本書を書いたころは本人が製作した映画「ゴングショー」の興行が惨敗に終わった直後で、こういうウソをつきたくなるほど本人が殺伐とした心境にあったのだろう、というようなもっともらしい事が書いてありましたので、ASDもなるほどなー、へぇー、と思った次第です(笑)
 まぁ確かにそれらの事実を鑑みた上で本作を鑑賞すると、結構興味深い作品であったと思います。人気番組のプロデューサーの大いに問題のある人物像、そういう彼だからこそ作り得た物議をかもすような不謹慎な番組づくり……とまぁ、見るべき点は実は多かったと思いますが、日本の観客が予備知識もなしに見てもねぇ、とちょっと悩ましい作品でもあったかな、と思います(苦笑)



オススメ度:☆☆(情報収集はぬかりなく(笑))




2004.3.28 疾走

「茄子・アンダルシアの夏」

原作:黒田硫黄
監督・脚本:高坂希太郎
アニメーション制作:マッドハウス
声の出演:大泉洋、小池栄子、筧利夫

鑑賞日:2003.8.22

公式サイト:http://www.nasu-summer.com/


 スペインを一周する自転車レース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」。その真っ最中に、レーサーのペペ(声:大泉洋)はスポンサーから解雇通告を突きつけられる。やがて生まれ故郷のアンダルシア地方の村を通過するが、その日は奇しくも兄アンヘル(筧利夫)の結婚式だった。しかも結婚相手はペペのかつての恋人カルメン(小池栄子)。諸々の事情を吹っ切るかのように、当日のレースでペペは無謀なダッシュを試みるが、果たして逃げ切れるのか……。


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 てゆーかこのタイトルどーなんでしょうか(笑) チケット買うときに窓口で「茄子一枚」というのはちょっと抵抗あったんですが……(笑)
(「アンダルシアの夏、一枚」と言ってこの危機を回避したASDのような人が、全国の劇場には大勢いたに違いないっ!(笑))
 本作はスタジオジブリのアニメーターで「もののけ姫」などで作画監督も務めていた高坂希太郎氏の監督デビュー作という事になってます。黒田硫黄原作のコミック「茄子」所載のエピソードを自ら脚本・作画監督も兼任してのアニメ化です。
 なんでも高坂氏自身アマチュアの自転車レーサーで、国内のアマチュア大会への出場経験も豊富なんだそうであります。そういう意味ではその経験が充分に生かされた内容で……なんかこう、執念さえ感じさせるような、こだわりの一作でありました(笑)
 と申しましても作品そのものは1時間に満たない中編映画であり、内容的にさほどツッコんだものがあったわけでもないんですけどね。あらすじに書いたようにレースの背景に当たるドラマなどそれなりに混み入ったものにはなっていましたが、別にどろどろした人情ドラマが展開されているわけでも、そういうドラマがストーリーの行く末を大きく左右したりするわけでもありませんでしたし……まぁそれでもよくまとめてあったんじゃないかな、と思いますけどね。この辺りのソツのないまとめ方は監督の持ち味なのか、原作の持ち味なのか、原作未読の身にはなかなか窺い知れないものがありますが。
 まぁ見所はやっぱりレースシーンでしょう。というか「自転車で走ってるシーン」を懇切丁寧にしっかりと描く、というのがこの作品の一番の見所であり、多分監督の一番描きたかった要素なんじゃないかな、と思います。題材そのものが結構地味だっつうのは否めないと思いますが、こういう地味なものでもきちんと丁寧に描き込んで掘り下げていけば、充分に鑑賞に耐えうる物になるんだぞ、というお手本のような作品だったんじゃないでしょうか。
 単に作画的にリアルに丁寧に描き込まれている、というだけに留まらずに、風を切る感覚とか、猛スピードでカーブに突っ込んでいくスリル感・スピード感とか、その辺の「チャリンコに乗ってる感覚」が実に丁寧に、それらしく描けているんですよね。かくいうASDも高校・大学の計7年間近くチャリンコで通学してましたので(特に高校は金沢市郊外の山間部にありましたので、朝の通学はまさに心臓破りでございました(笑))、この映画で描かれているような「感覚的な描写」には大変納得のいくものがありました。
 特にクライマックスの猛ダッシュシーンなんか、もう「壮絶」の一言でありまして……(笑) その通りだよ!そう描くしか表現のしようがないよ!てな具合に、ムチャな演出に大爆笑しながらおおいに納得してしまったASDでありました(笑)
(言葉で説明しても面白くないので実際に見て下さい、としか言いようがない(笑))
 また、単にチャリンコを漕いでる動作等がリアルだ、というだけには留まらず、自転車レース関連のディティールの描き込みもなかなか見応えがあったかと。実況中継はチトやりすぎな気もしましたが(多分本職のアナウンサーと解説者に喋らせているので、リアルはリアルですが逆に映画としては浮いた印象かと)、レースそのものの勝負としての駆け引きなんかもうまく描けていて、自転車に興味のない人でも「いったいナニが『ツール・ド・なんとか』っつうものの魅力なのか」を具体的に把握できるような、そんな作品に仕上がっていたんじゃないかな、と思います。
 奇抜なアイデアも無ければ、昨今流行の萌えとも無関係ということで、思い返してみれば極めて地味な作品でありましたが(このレビューの中でASDは一体何度「地味」と繰り返せば気が済むんでしょうか(爆))、内容的には結構充実した、クオリティの高い作品だったと思います。



 んー、誉める一方でけなすところが無いのかと言いますと……まぁ何度も繰り返しているようにぱっと見地味なのはどーしても否めないと思いますし、わずか1時間とは言えドラマ関係が、よく作り込んである割には結局動きもなく淡泊だとか、ヒロインの声を当てているのが小池栄子ってのはどうなんですか、とか(爆)、せっかくの劇場公開作なんだから上下トリミングしてもいいからワイドスクリーンサイズで上映しろよ、とか(てゆうかワーナーマイカルもよく律儀にスタンダード上映したものだなと思いますが(笑))、まぁそういう些細な諸々ぐらいでしょうか。上映時間の短さに関しては、入場料が割安に設定されてましたので、特に不満要素ではありませんでしたしね。
 ところでちょっと意外だったのは、この作品って監督がジブリのアニメーターですし、終劇後のスタッフロールでもジブリ所属のアニメーターの名前もちらほら見かけましたし、キャラクターデザインからCGの使い方に至るまでどこまでも果てしなくジブリくさい作品で(笑)、誰がどう見てもスタジオジブリ謹製だと思うでしょうが……意外や意外、そうではないのですよ(笑)
 実際の製作元は「メトロポリス」やら「パトレイバー3」やら劇場向けの大作でおなじみのマッドハウスでありました。どうせ日本テレビが製作に一枚噛んでるんですから、ジブリで作ればいいじゃん、という気もするんですが……(苦笑)
 うーむ。そんなに「ハウル」が忙しいんでしょうか。ジブリは「猫の恩返し」のような感じで、どんどん若手演出家の作品を作っていきたい、みたいな事を言っているわけですが、結局いつの間にか宮崎駿が乗り出してきているんですよねぇ(笑) 新作の「ハウルの動く城」も、元々は若手の監督が手がける予定で動いていた企画だったはずですし……(ジブリの公式サイトの製作日記かなんかに昔そのように書いてあったような記憶が)。
 うー。このままジブリ批判に突入してもアレなんで、この辺で止めておきますが(笑) 



オススメ度:☆☆☆(みるとチャリンコに乗りたくなる映画、という話には偽り無しですな(笑))



 


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