-cinema diary-

2004年3月の映画日記(復活篇:その3)


 

2004.3.28 英雄ではない


「HERO -英雄-」

監督:チャン・イーモウ
主演:ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イェン、他

鑑賞日:2003.10.1

公式サイト:http://www.hero-movie.jp/


 中国統一を目前にした新の国の王――のちの始皇帝。彼は相次ぐ暗殺者の襲来に脅かされていた。王を狙う趙国の三人の刺客、長空(ドニー・イェン)、残剣(トニー・レオン)、美翔(マギー・チャン)。その三人をことごとく倒したという男・無名(ジェット・リー)が王の前に召し出される。果たして無名が三人の刺客をいかに倒したのか、王はその経緯を本人に語らせるが……。


    *    *    *


 名匠チャン・イーモウ監督による、歴史アクション超大作でございます。
 というか、予告編やTVスポットでガンガン流されていたシーンからの印象で言えば、「風雲」「グリーン・デスティニー」に続くマトリックスばりの特殊効果満載の超絶ワーヤーワーク&クンフーアクション映画、といったようなニュアンスだったんじゃないかな、と思うんですけどね(「風雲」は余計でしょうか?(笑))。
 実際本編を見ても、そういうアクロバチックなアクションシーンはふんだんにあったわけですが、じゃあいざ鑑賞してみると、本作が「アクション映画」だったかどうかに関しては、うーん……と首を傾げてしまうような感じでありました(汗)
 まぁ、アクションが充実しているのは確かなんですけどね。登場人物の多くがスゴ腕の武芸者で、彼らの生き様を描く物語であるがゆえに、アクションシーンは確かにふんだんで充実していたと思いますが……だからと言っていわゆるアクション映画らしいカタルシスを求めると、ちょっと肩すかしをくうような内容だったように思います。
 アメリカの映画会社との合作で、巨額の制作費を投入して、最新のSFX処理も満載で、その上で中国圏の映画のお家芸と言えるワイヤーワークアクションを売りにした時代物・武侠物で……そういう諸々の要素が揃った国際市場を狙った作品というと、アン・リー監督の「グリーン・デスティニー」という先行作品があったわけですが……あちらはストーリー的には結構難解な作品で、文芸映画的なニュアンスも確かにあったかと思いますが、まだあちらの方がいわゆるアクション映画らしい満足感はあったんじゃないかと思います。そもそもは武侠小説が原作でしたし、アクションも明確に武侠物の醍醐味を追及するものになってましたし、ストーリー面を見ても、武芸者の生き様・死に様のような部分に焦点が当たってましたし……何だかんだでちゃんと「武侠物」というジャンルへのリスペクトにはなっていたんじゃないでしょうか。
 しかるにこの「英雄」という作品、アクションシーンの描き方こそ確かに武侠物テイストではありますが、ストーリー自体はマジメな史劇物なんですよね。始皇帝暗殺にまつわる物語として、「羅生門」的な構成を取っているわけですが……個々の登場人物のドラマに関しても、いかにも英雄と呼ぶに相応しい豪快な生きざまとかよりも、普通に歴史の大局的な流れに翻弄される無力な一個人、というような描かれ方になっていたように思いますし。
 ……想像してみるに、そもそも普通の歴史物として製作されようとしていたところを、ジェット・リーやドニー・イェンのようなアクションの達者な役者を揃えられたこと、ワダエミの衣装デザインのおかげで史劇的なリアリズムよりもフィクションらしいダイナミズムや幻想性をより強調する方向にシフトしてしまった事などを踏まえ、さらには興行的な要求なども鑑みて、マジメな歴史物に豪快な武侠物のテイストをあとから取り入れた……という事なんじゃないのかなぁ、と思います。あくまでも推測なんですけどね。
 もしも最初から武侠物として作る気があったのなら、「英雄」などとタイトルを銘打つ以上、無力な個人ではなく、武侠物的な文脈で言うところの、もっと豪傑ぽい人物像を描き出すものではないでしょうか。ところがこの作品の登場人物達は、どちらかというと「英雄」的な強い側面よりも、先ほどから繰り返しているいうに「人間」「一個人」としての弱い側面ばかりが強調されていたんじゃなかろうかという気がします。
 だってさー、武侠物のつもりで見るんだったら、ジェット・リーに無数の矢が降り注ぐ、予告編のあのカットの続きにいやがおうにも期待が高まるではないですかっ(笑) 「人間」ならあそこで潔く観念してしまってもオッケーでしょうけど、「英雄」というからにはやはりそこで大胆に窮地を乗り越えてもらわないと困る、という風に思うのですよ。
 そもそもアクションものとしてみた場合、やはり序盤のジェット・リーVSドニー・イェンの対決シーンがクオリティ、テンションともにピカ一だったように思います。後のシーンは目が慣れてくる事もあるでしょうが、なんか盛り下がっていく一方でして……(苦笑) というか極端にテンションが下がるわけではないのですが、さりとて逆にテンションがアップしていくわけでもなく、盛り上がりのメリハリという点では終始均質なペース配分で、そのおかげでクライマックスに近づくにつれ、相対的にアクション的なカタルシスが乏しく感じられるんじゃないのかな、という気がします。
 うーむ。そうなると最初からもう少しリアリティのある歴史物として描いた方がまだよかったような気もするんですけど。その場合、それこそチェン・カイコーの「始皇帝暗殺」とネタがかぶってしまうでしょうし……難しいですね(苦笑)



 ちなみにジェット・リーとドニー・イェンは、1992年製作の香港映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱」という作品ですでに一度共演しております。その後乱作された「ワンス〜」シリーズの中でも、同作のクライマックスの対決シーンは随一の出来と評判も高く、それと同じ組み合わせが十年越しで再現された、まさにドリームマッチなのですな(笑)
 それと、考えてみたらジェット・リーなんて人は香港でもハリウッドでも、あくまでも「アクションスター」なのであって、こういう文芸調の大作映画に出る機会なんて、そうそう無さそうですしねぇ……しかも主演と来てますし(爆) そういう意味でも貴重といえば貴重な作品だったのかも知れません。
 しかしジェットってば、顔も童顔ですけど声も貫禄ないですね、と何げに思ってみたり(爆) 香港映画は音響製作の行程の都合なのか、セリフは役者本人以外の専門の声優?さんが吹き替えるのがかつては一般的だったわけで、かつて香港時代に演じていたキャラの方がセリフ回しがカッコよかったような気がするのはASDだけでしょうか(爆) まぁそういう風に文芸映画に主演、と考えると何げに不安にならない事もないのですが(爆)、彼の場合作中の役回りは完全に狂言回しなので、演技力が強く問われるわけでもなく、まぁ順当にこなしていたのではなかろうかと思われます(笑)
 むしろ文芸映画と捉えたときに、頑張ってたのはやはりトニー・レオンとマギー・チャンでしょうか。本作はストーリー構成が「羅生門」パターンで、同じ人物なのに回想シーンによってまったく違う顔を見せるのですな。無論、役者には複数パターンのキャラづくりが要求されるわけで、難しいところをよく頑張ってたと思います。
 あと、「グリーン・デスティニー」にも出てたチャン・ツィイーですが……彼女の場合「グリーン〜」以後にこの手の時代物で、こういう「戦う女の子」的な役を、実に何度となく繰り返し演じてきてますので、またしてもこういう映画に出ておいてどーなのかな、と思ってみたり(苦笑)
 まぁ彼女の場合、チャン・イーモウの「初恋の来た道」でブレイクしたという経緯がありますので、オファーされれば断るわけにもいかんかったのでしょうが……(笑) 役回り的には完全に脇役で、ちょっと割を食ってたかなぁ、という気がします。赤のエピソードで出番が終わってたら、彼女のキャリアはだいぶ危機に晒されていたんじゃないかと、勝手に心配してみたり(爆)
 ……とまぁ、あれこれ言ってきましたが、ハリウッド映画に対抗するために、アジア映画界の持てる力全てを結集した超大作!というニュアンスで捉えれば、割と頑張ってた方なんじゃないかな、とは思います。もっとアクション映画らしいアクション映画を、というのはあくまでも贅沢っちゃ贅沢な要求なのかも知れませんけどね……。



オススメ度:☆☆☆(決して見て損というわけではないです)




2004.3.28 愛だとか呪いだとか

「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」

監督:ゴア・ヴァービンスキー
主演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、他

鑑賞日:2003.9.25

公式サイト:http://www.movies.co.jp/pirates/


 鍛冶屋の青年ウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)は、総督の一人娘エリザベス(キーラ・ナイトレイ)に密かに思いを寄せていたが、港を襲った海賊船ブラックパール号によって彼女はさらわれてしまう。ウィルは彼女を奪還するために囚われの海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)の脱獄に手を貸し、海に出ていくのだった。
 そのブラックパール号は元々はジャックの船で、彼は自分を陥れたバルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)への復讐を企んでいたのだが、実はウィルも、一連の騒動に本人の知らないところで深い関わりを持っていたのだった……。


    *    *    *


 うーん……この作品を劇場で見たのが9月の話、でもってこの映画日記を書いているのがそれから半年が経過した3月だったりします(苦笑) すでにDVDも発売されているわけですが、何よりビックリだったのは、この作品のジャック・スパロウ役が好評だったジョニー・デップ、勢い余ってこの作品でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされちゃったんですよ!(爆)
 いやー、これにはさすがに驚いた!(笑) 残念ながら受賞は逃してしまいましたが……これまでインディペンデント系、アート系の作品であれこれ活躍してきたデップ本人にしてみりゃ、この作品でアカデミー賞とってもフクザツだろうなー、と思ってみたり(苦笑)



 まぁそんなわけで、本編の感想ですが。
 海賊映画と言えば、無声映画とか白黒映画の時代は、西部劇と並ぶハリウッド映画の王道だったわけですが……今やほとんどその面影もありませんなぁ。近作だとレニー・ハーリン監督の「カットスロート・アイランド」あたりのトホホ作品しか思い浮かばないのがなんともかんとも……(苦笑)
 ちなみに、「パイレーツ・オブ・カリビアン」というこのタイトルを日本語に訳すと「カリブの海賊」となります。ついでに言っておけば、この映画はディズニーピクチャーズ製作による作品です。つまりこれってばディズニーランドの有名なアトラクション「カリブの海賊」の映画化なんですな。
 ……なんてこった!!
 そもそもディズニーランドっていうのはディズニー映画にちなんだアトラクションが楽しめる、というのがウリのテーマパークなわけでして、アトラクションの方を映画化して一稼ぎ、ってのはどうにもこうにも本末転倒のような気が……(苦笑)
 プロデューサーがあのジェリー・ブラッカイマーってのも何だか不安になってくるのですが、監督が「ザ・リング」「メキシカン」のゴア・ヴァービンスキーなんですよねぇ……。この監督、ディズニーとは熾烈なライバル関係にあるドリーム・ワークスでずっと撮ってた監督なのに、それが何故かこの作品ではディズニー作品を手がけているわけで、裏の事情は一体どーなっとるんだ、と要らぬ勘ぐりをしてみたりみなかったり(苦笑)
 まぁ本作の場合、アメリカ本国ではともかく日本では上記ジョニー・デップと「ロード・オブ・ザ・リング」でエルフのレゴラスを演じたオーランド・ブルームの美男子共演!で女性客狙いの宣伝展開をしてましたので、ブラッカイマーがどうとか、監督がどうとか、そんな事はあんまり関係なかったかと(苦笑) 
 しかし、そのオーランド・ブルーム君ですが公開後の評価がさっぱりでしたなぁ……(苦笑) まぁ作中の設定自体が、彼の方が若造でデップの方が一枚上手のくわせもの、となってましたので、逆にオーランド君の方がデップよりもスターのオーラをバリバリに放っていたりしたらそれはそれで困った事になってたんじゃないでしょうか(笑) そもそも「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラス役だって、演技力でもスター性でもなしに、単純に美男子っぷりが注目されてただけですし(爆)、そういう意味では青二才の若造をソツなく演じていて、それなりに好感度のあるキャラにはなってたんじゃないでしょーか(ややなげやり)。



 えーと……その他に何か書かなくちゃいけない事ってありましたかねぇ?
 監督が監督なのでアクションへのこだわりとか、あんまり期待してもしょうがないような気がします。何よりファミリー映画ですので、血しぶきドバーなチャンバラとか期待してもしょうがないですし、呪われた海賊云々と言いつつアンデッドな皆様がぞろぞろ出てくるのも関わらず、おどろおどろしいホラー要素とかもソコソコのものでしかありませんでしたし……。
 そういう意味では、ジョニー・デップが悪ノリした素晴らしい名演技を見せてくれなければ、この映画はひどく退屈な代物だったんじゃないかなぁ、と意地悪な事を言ってみたり(爆) まぁガイコツぞろぞろのCG描写とか結構器用に作りこんであるので見ていて飽きませんし、何よりデップ演じるキャプテン・スパロウのキャラは必見ですので、見て損のない映画だったんではないでしょうか。



 ……どーでもいいんですけど、ゴア・ヴァービンスキー監督の作品って、何でこう無意味に「呪い」がキーワードになっている作品ばっかりなんでしょうか(苦笑)

  「ザ・リング」……呪いのビデオのお話。
  「メキシカン」……呪われたアンティーク銃を巡るお話。
  「パイレーツ・オブ・カリビアン」……呪われた海賊たちのお話。

 「マウス・ハント」は未見なので何とも言えませんが、ナンデこんな妙なフィルモグラフィなんでしょうかねぇ……だからと言って作家性の強い御仁でもありませんしぃ(苦笑)



おすすめ度:☆☆☆



 


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