タイトル・愛媛県森林環境税について(2015年5月)

県の広報誌で、2013年11月13日に『県森林環境税にかかる県民意見交換会』が開かれるというのを知り、私も参加しました。この意見交換会、東・中・南予の各地方局で開かれ、広報誌では募集人員は各10名程度ということでした。でも行ってみると会場の大会議室は人でいっぱい。多分200人ほどいたと思います。意見交換とは名ばかりで実際は環境税由来の補助金を受けている人たちが、如何にこの補助金が有益かを述べ合い補助の対象拡大をアピールするための意見発表会でした。意見交換会のために用意した資料を基に、森林環境税の問題点について指摘していきます。


森林環境税の使い道は『森をつくる活動』『木をつかう活動』『森とくらす活動』の3つに大別されます。
『森をつくる活動』は主に林業家への補助金。
『木をつかう活動』は公共施設を木造で建設するための補助金。
『森とくらす活動』はイベント開催や学校での体験学習開催のための費用。
※文中の事業費などは2012年度の決算として県が公表しているものです。


『森をつくる活動』
森林そ生集団間伐促進事業(1億8190万円)
集落等山地災害危険地区整備事業(5022万円)
奥地水源林保全整備事業費(6457万円)
搬出間伐促進緊急対策事業(810万円)
林業家への直接の補助である、これら4つの事業を合計すると3億479万円で全歳出額の48%を占める。この実態からも森林環境税が実は林業応援税であることがよくわかる。中心的な事業である『森林そ生集団間伐促進事業』だが、県森林局によるとこの事業で行われる間伐率は30%。だが九州大学の中間ちひろ、佐藤宣子両氏が熊本県の森林環境税を調査した報告(注1)によると「地域振興局及びNPOが,事業規定である間伐率40%程度での混交林化は困難という点を指摘した。その理由として,事業前の成立本数が密な場所では,40%程度の間伐では広葉樹が侵入できるほどの明るさにはならないためとした」とのことである。したがって本県の規定である、間伐率30%は林業家にとっては有難い数値かも知れないが、条例の趣旨である水源のかん養、県土の保全、地球温暖化の防止、生物多様性の確保に有益であるとは言えない。

『集落等山地災害危険地区整備事業』は山林の土砂流出防止機能が著しく低下し、降雨によって集落等に被害を及ぼす恐れのある場所での間伐に対する補助だが、このような場所でも間伐率の規定は40%である。このような場所の植林地にも補助金を出すことで、どんな所でも植林してしまえば県が面倒を見てくれると考えるモラルハザードが起きるのではないか。また本当に集落に対する危険を解消したいなら間伐率をもっと上げるか、植林を規制し自然林への移行を促すべきだろう。


『木をつかう活動』
この意見交換会で、林業関係者川下側代表として愛媛県木材協会副会長で製材業者の方の発言があった。「消費税増税前の駆け込み需要により製材業は多忙を極めている。木材乾燥機も現在フル稼働であり、乾燥機を新たに導入したい。そのために森林環境税から補助金を出してほしい。また現在、福島原発事故の影響により東日本産木材が敬遠され、西日本産の木材に対する需要が高まっている。この機会に関東の需要に応えたいが愛媛からは距離があり輸送費がかさむ。なので輸送費に対しても補助金を出してほしい。」とのことである。

これはまだ要望として意見が出された段階だが、こういう意見が出ること自体が驚きだった。県民の多くはこの税金が環境のために使われていると思っているはずだが、製材所の乾燥機や遠方への輸送費のどこが環境のためになるというのか。また、福島原発事故の風評被害につけ込むような商売の仕方はいかがなものか。民間企業がやることにとやかく言う気はないが、そのことに県民から集めた税金が使われるとなったら話は別で、個人的に絶対反対だし、県民の多くが同じ気持ちを持つのではないか。


『森とくらす活動』
県民参加の森設置・提供事業(1317万円)
この事業で行われているのは、主に愛媛森林公園と久谷ふれあい林の整備管理である。この2か所は、県民が森林を利活用するための拠点フィールドとされているが直線距離で9キロほどしか離れていない。なぜ中予地区のこれほど近い場所に2か所の拠点フィールドがあり、東予や南予には一か所もないのか。税金は等しく負担しているのに受益者が偏っているのは不公平である。またどちらもスギやヒノキなどの人工林中心で園内で見られる植物や昆虫・動物の種類は少なく、自然公園としての魅力にも乏しい。

愛媛森林公園 久谷ふれあい林
愛媛森林公園  久谷ふれあい林

都市近郊林保全事業(47万円)
全額が丸山墓地の整備費に使われているが丸山墓地は森林ですらない。条例の目的である水源のかん養、県土の保全、地球温暖化の防止、生物多様性の確保のどれにも当てはまらない。このような使途を容認すると、税による支出の対象が際限なく広がる危険性がある。

丸山墓地
丸山墓地

「森林わくわく体験」推進事業(517万円)
森林に親しむための学習として小、中学校10校・幼稚園6園が参加している。参加人数を見ると最も少ない愛南町立長月小学校は66人で、最多は東温市立川上小学校593人。これだけ参加人数に幅があるのに事業費は一律30万円というのはなぜなのか。予算を使い切るための帳尻合わせでやっているとしか思えない。学習内容は環境保全というより木材や林業に親しむためのものがほとんど。農業や水産業に対してはこのような活動は行われていない。なぜ林業だけを特別扱いするのか。税ではなく寄付金でまかなう性格の事業ではないか。


このほかに公募事業としてボランティアグループの活動に3681万円を支出している。活動内容で多いのが放置竹林の整備。放置竹林の広がりは問題だが、放置せず自力で竹林を維持管理している人には何の補助もなく、放置した人の竹林は県がボランティアを使って整備してくれるというのはおかしくないか。


県は基金を使った事業について調査審議させるためとして愛媛県森林環境保全基金運営委員会を設置している。今回の意見交換会の司会を務めたのも運営委員会委員長で愛媛大学名誉教授の江崎次男氏だった。その肩書きから第三者的な立場から公平な議事進行を予想していたのだが、結果は期待を裏切るものだった。議事の途中、他県はもっと税額が高いとか、前回の意見交換会では増税に対する反対意見は全く無かったなど、環境税を維持拡大する方向に偏った意見を度々挟んでいた。

確かに愛媛より高額の税を課している県もある。例えば1000円の県が岩手、山形、福島、茨城、岐阜で1200円の県が宮城など。しかし平成24年4月現在で森林環境税を導入している33の県のうち税額500円以下が22県と2/3を占める。また高額の県でも福島は木質バイオマス、茨城は霞ケ浦の水質対策、岐阜は水源林の公有化、宮城は太陽光発電への補助と独自の施策を行っている。愛媛のように林業への補助中心で独自の施策もなく高額の税金を徴収している県は特殊な例である。

加戸知事が始め、中村知事が増額した愛媛県森林環境税だが、いったい誰のためになっているのだろう。補助金の交付を受けている山林所有者や林業関係者が利益を得ていることは間違いない。県の官僚も担当部局の格上げや権益拡大などで予算増加の恩恵を受けている。政治家も自身への投票が確実な基礎票の獲得という恩恵を受けている。では税金を納めている県民はどうか。環境のためと言いながら林業家にしかメリットのない間伐事業、受益者の偏った一過性のイベント、効果の不確かな環境学習。税の使途が条例の趣旨(注2)に沿っていないし、県民や環境のためにもなっていないのではないか。

財源と権限を委譲し、地方のことは地方が決めるようにすれば地方の未来はバラ色である、かのように語られる地方自治の拡大。愛媛県森林環境税がその危険性を如実に物語っているのではないか。補助金を受け取る立場の人たちは数十万から数百万円の収入増がかかっているので動員がかかれば意見交換会でもどこでも出て行き、アンケートがあれば積極的に回答し、この制度がいかに素晴らしいか声高に語る。一方、税を負担する県民は、そもそも興味を持ってないし、たとえ実態を知ったとしても年700円のために何か行動を起こそうとは思わない。県は、そうやって集まった受益者の声を取り上げ、さもこの制度が県民全体の支持を得ているかのように見せかける。愛媛県森林環境税は、地方自治の悪しき例の典型として長く語り継がれることになるのではないか。


(注1)中間ちひろ・佐藤宣子(九州大学)
「森林環境税」による間伐事業の現状と課題−熊本県を事例として− 
九州森林研究63:9−14,2010 

(注2)愛媛県森林環境税、条例の趣旨
『この条例は、水源のかん養、県土の保全、地球温暖化の防止、生物多様性の確保その他の森林の有する公益的機能の重要性にかんがみ、森林環境の保全及び森林と共生する文化の創造に関する施策に要する経費の財源を確保するため・・・』

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