バリアフリー住宅(1999年3月)


障害者にとって住むところを探すというのは切実な問題です。私は1994年に脊髄損傷になりました。病院を退院して職業訓練を受けるための訓練施設に入ることは決まっていたのですが、その後は行く所が無い状態でした。幸い後遺障害による保険金や労災の保証金などでまとまったお金が入ることになり、そのお金で土地を購入し自宅を建てることにしました。これはその時の記録です。家を建築中、私は職業訓練施設の寮に入っていたので業者とは電話やファックスでしか連絡が取れず現場へもほとんど行けませんでした。その割にはちゃんと住める家になりました。


進行日記
94.年末 大手ハウスメーカーA社に連絡。松山市近郊での土地探しを依頼する。
A社を選んだのは、入っていた病院にたまたまパンフレットが置いてあったこと、大手なので安心感があること、プレハブ工法で安そうだったこと、土地探しもやってくれることなどが主な理由。
95.1.25 A社の担当者と三ヶ所の土地を見て回る。一ヶ所目は60坪ほどと敷地も広く南向きの斜面で日当たりは良さそうだが、回りの道路の傾斜がきつく値段も1400万円と予算をオーバー。二ヶ所目は値段は1200万円で予算内だが古い団地などに周りを囲まれ環境が悪そう。三ヶ所目は北向きの斜面だが傾斜はゆるく、回りは古くからの農家や畑で環境が良い。値段も40坪で1200万円と手頃。何しろ夏までには家を立てて住める状態にしなければいけないので、三ヶ所目の土地に決めてしまう。A社の担当者もここが本命と思ってたようだ、それならあちこち行かないで最初からここに連れてきてくれれば良さそうなものだが、それが不動産を案内するときのセオリーなのだそうだ。
95.1.27 さっそくA社より先日購入を決めた土地にもとづき建物の見取り図が送られてくる。フリーハンドの簡単なものだが手際が良い。平屋で建坪は20坪ほど、普通なら土地が40坪なら建坪40坪程度の二階家になるのだろうが、私の提示した1200万円の予算ではこんなものか。
95.1.29 家を建てる上での一般的な希望とバリアフリーにするための設備など、資料を元に自分の考えをレポートにして担当者に送る。折り返し連絡があり、希望をすべて反映させるとかなり予算をオーバーするとのこと。とりあえず希望に添って設計してもらい見積もりを出し、その時点で再度検討することにする。
95.1.30 手付金を払う。土地の分が120万円。建物の分が100万円。
95.2.6 何度か見取り図をやり取りした後、この日部屋ごとの寸法が入った予備設計図面が届く。コンセントやTVアンテナ端子の位置を決め連絡する。
95.2.12 見積もりが出るが予算を300万円オーバーしていてかなり厳しい。
95.2.16 コストを下げるためあらゆる点を見なおす。例えばジャロジー窓を片開きの窓にし、屋根を瓦からカラーベストに変え、玄関はタイルでなくモルタル仕上げにし、テラスをなくしエアコンを後付けにするなどなど。
95.2.25 詳細打ち合わせのためA社の支店へ行く。入り口に二段ほど段差があり車イスを抱えてもらう。壁紙や床材、照明器具など決めなければならないことは多岐にわたり11時に始まった打ち合わせは17時までかかった。途中弁当が出たがなかなかの豪華版。
95.2.27 トイレの可動式手すりに何を使うか悩んでいたが最終的にTOTOの製品に決め連絡する。手すりが結構高いのだ。
95.3.19 いよいよ本契約(建築工事請負契約)をし地鎮祭を行う。最終的な設計図面を受け取る。
95.6.10 建築現場での最終チェック。外見はほとんど完成してるように見えるが、中は骨組みや部材が剥き出しのままでスロープもまだ。業者の人や設計担当の人に車イスを抱えてもらい中に入る。コンセントや照明のスイッチ類の取りつけ位置、風呂場やトイレが指示通り進んでいるかチェックする。洗面所のカウンターがこちらの指定より低く膝がつかえるので直すよう頼む。外構(家の周りのスロープや植栽)について打ち合わせる。
95.7.25 完成検査。浴室のカランの位置が指定と違うなど、細かい問題はあるがすぐにでも住みたいのでOKということにして鍵の引渡しを受ける。


敷地と家の見取り図

バリアフリー住宅の見取り図


バリアフリー住宅の駐車場 家の北側
車が2台停められる。
バリアフリーキッチン 既製品の流し台
膝が入るようになっているがその分収納が少ない。
バリアフリー洗面所 洗面所
水栓はシャワーヘッドのついたもの。洗濯機の下は8センチほど下げてある。
バリアフリートイレ トイレ
ほぼTOTOのカタログどおり。
バリアフリー浴室 浴室
入り口はシャワーカーテンのみ。
バリアフリー住宅の玄関 玄関ドア
上がりかまちとの位置関係から、らせん状に傾斜をつける。


後から気づいた事
  • 収納場所をもっと取っておくべきだった。車イスの通る幅を確保しなくてはならず、後から棚を入れようとしても入れられない。ウォークインクロゼットは無理でも、窓を減らして空いた壁を造り付けの棚にしておけば良かった。
  • 照明器具の蛍光管が切れても自分では変えられない。照明器具を天井ではなく壁につければ良かったかも。
  • 平屋ということもあり夏暑く冬寒い。もっと断熱のことを考えておくべきだった。 駐車場は2台分以上有ったほうが良いが、その場合横に並べて停められたほうが便利。
  • 業者はバリアフリー住宅について経験があるとか力を入れているとか言うけど、あまり当てにならない。自分で資料を集め、設計の段階で詳しく説明し、工事中何度も足を運ばないと思い通りの家はできないと痛感した。
家を建てるにあたり参考にした文献
  • 「シルバー住宅」吉田紗栄子 財団法人 経済調査会発行
  • TOTO通信1994JUL−AUG号 TOTOの広報誌。障害者用住宅の特集で、建築家が設計した、ため息の出るような美しい家が紹介されている。
  • TOTO身体障害者用カタログ 身障者用の浴室、トイレ洗面所などの施工例や改造例が広さに応じて詳しく紹介されている。寸法、品番、価格入り。
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