〜「麺」紀行・第一回〜

■美味しい田舎そばのお店■

私は以前はそれ程のそば好きではありませんでした。
しかし、このお店に出会ったことにより、私の嗜好は大いに変化したのです!
そう、この店こそ、そばなら日本一(!)と私が思うお店なのです。
今回は、本コーナーの第一回にふさわしい、素晴らしいお店のご紹介です。




私たち夫婦は、とある一軒のそば屋さんにしょっちゅう出掛けます。
そのお店は鹿児島県曽於郡有明町と言う所にあります。
(要するに鹿児島県の右側の端です。日本地図をお持ちの方はご確認下さいね。)
私の家からクルマで5分くらいのところにこのお店はあります。
「三七十庵(みなとあん)」と言うお店です。
ご覧の通り、田舎にあるような、どちらかと言えば”ひなびた”感じのありふれた外観のお店ではあります。

「三七十庵」の名前の由来については箸袋の裏に誇らしげに記されています。
それは次の通りです。

・・・おかげさまで港に近いそば屋で28年
名前の由来
志布志町の町境から3分、大隅町の町境から7分の位置に有り、志布志の港に近いと言う事で港にあやかり、三七十庵とする。志布志の港も繁栄し三七十庵も繁盛するようにと願いをこめてつけました。
平成6年12月KTSテレビ 平成7年10月と12月 MBCテレビで取材放送         庵主

・・・と、このように簡潔ながら、しっかりと店主のポリシーが貫かれている様子が伺えるのです。
また、マスコミの取材は上記のみならず、その後もテレビに度々取り上げられ、新聞のグルメ特集にもちょくちょく掲載される、そんな超有名店なのです。

田舎のお店らしく、県道沿いにあり、大きな看板とのぼりで一目でその存在が分かります。
駐車場も広く、30台位は停められるでしょうか。



では、早速店内に入ってみましょう。
店内はカウンターは無く、全てテーブル席となっており、70席程度あります。
そば屋さんとしては少々大きい方ではないでしょうか。
真ん中の土間状の客席を中心に左右に座敷席、正面に厨房があります(ここらの写真は割愛させて頂きます。)
今回は壁の貼りモノを撮影しようと思い、入って左側の座敷席の一番右奥に座りました。



「さて、今日は何にしようかなぁ・・・」
一番楽しいひとときですね。
メニューの数は結構多いと思いますが、お客さんが注文するのはある程度、決まっているようです。
「よし、いつものヤツにしようか!」
いつものように、夫婦同じモノを注文しました。



注文した品が来るまで、店内を見回してみます。
すると、ある、ある!
鹿児島県内の”そば処番付表”なるものが!
これは鹿児島市内の大変なそば好きな方が、県内全域を行脚してそのランキングを決められた番付表なのです。
ご覧になってわかる通り、堂々、東の正横綱にランクされています。
この事実からもこのお店が相当高い評価を受けていることが伺えます。

また、このお店のご主人は大相撲が大好きなご様子で、店内のあちらこちらに大相撲関係の貼りモノがしてあります。
いつかの場所の番付表やカレンダー、その他いろいろで、そんなご主人の嗜好もこのお店の特徴に一役買っているようです。

さて、注文の品が来ました。
コレが私の一押し「みなとそば定食」です。
ご覧下さい、このボリューム!
これで700円です。
文句なく安いと思います。
このお店で一番売れるのがこのメニューらしく、店内でもこの注文の声が幾度となく響きます。
今の季節でしたら、これに加えて、「鍋焼きそば」も人気のようです。



注文した品は割合、すぐに届けられます。
まぁ、待つとしても10分くらいでしょうか。
店内には5人くらい(店主さんも含めて)のスタッフの方がきびきびと働いていらっしゃいます。
何より、その手際の良さで押し寄せるお客さん達をもろともせずにてきぱきとこなして行きます。
私は、この店に来て、そんなスタッフの方の姿を見る度に「あぁ、プロだなぁ」と感心することしきりなのです(笑)。

さて、この「みなとそば定食」ですが、これは次の4品から構成されています。

(1)田舎そば・・・このお店の一番人気商品。単品では550円。写真からも分かる通り、ねぎ、椎茸、揚げ、えのき、わかめ、天かす、蒲鉾、ゆず等が沢山入った、手打ちそば。味はどちらかと言えばアッサリ系であるが、数多くの素材が渾然一体となり、実に上手い!そばは”そば粉”を主原料に、山芋と少量の水と小麦粉を加えて手打ちで作られている。手打ちなので当然、商品の数には限りがある。こちらではこのような比較的麺が短いそばのことを”そば切り”と言うが、まさにそれである。歯ごたえは柔らかく味はまろやかで、そば自体の色は白っぽい。スープは昆布だしとかつおだしのミックスだと思われるが、そのコクのある美味しさに、ついつい最後の一滴まで飲み干してしまうくらいだ(笑)。冬の寒い日は勿論、夏の暑いに日も、自然の恵みがたっぷりのこのそばを目の前にすれば、我々の食欲も大いにそそられようかと言うもの。本当に生きてて良かったと思わされる程である!私はいつも、このそばに”一味”をかけて食べる。そうすると、このスープのコクが更に際立つような気がして、本当に止められない。まさに”病み付き”とはこの事だろう(笑)。尚、このそばに関しては”持ち帰り”も出来る。

(2)粟飯・・・この店のご飯は全てコレ!実に健康的。量も適量で柔らかめに炊いてあり、非常に食べ易いのが特徴。

(3)山芋・・・勿論、すりおろしてある。妻の言によると、酢でさらってあるらしい。そう言えば、我が家で食べる山芋と比較して、サラッとしている感じはする。定食のみに付いて来るもので、単品ではない。私は先ず、コレに醤油をかけて一口に食べるのが大好きである。

(4)自家製漬物・・・普通は大根の漬物が付く。あっさりした薄めの塩味のスライスした漬物である。これは商品全てにサービスで付いて来る。

(5)蛇足だが美味しいお茶・・・このお店のある有明町は鹿児島でも有数の緑茶の産地である。皆さんは緑茶と言えば静岡を連想されるだろうが、決して静岡ばかりではないのである。お店に入り、席に付き、注文するときにこのお茶が玖須と共に運ばれて来る。お客はこの美味しい緑茶をすすりながら、美味しい蕎麦の来るのを待つわけだ。

このお店はまずまずの広さにもかかわらず、ランチタイムともなると大勢のお客さんが押し寄せます。
従って、12時を回れば待たなければなりません。
私たちはこのようなことにならぬ様、11時半までか1時前くらいに入店するようにしています。
本当にこのお店は大繁盛しているようです。

ただ、このように大繁盛しているお店は、それなりの理由があるようです。
料理が美味しいことは最低条件でしょうけれども、それ以外に次のようなことが挙げられると思います。

(A)お店の雰囲気が良い・・・満員のお客さんが来る様なお店ですから、活気があります。また、そこで働くスタッフの方もキビキビしていて実に気持ちがいいです。また、上記のように、様々な貼りモノやのぼり等があちらこちらに配置され、独特の雰囲気を醸し出しています。

(B)ポイントカードの導入・・・商品にかかわらず、一回食べれば1ポイントたまるポイントカードを発行しています。それが24ポイントためれば1食分のサービスが受けられるのです。私たちは夫婦で食べに行くことが殆どなので、3ヶ月も行けばすぐいっぱいになります。このお店では年間500人もの人がこのサービスを受けるそうですから、リピーターの多さが分かろうかと言うものです。

(C)味が安定していること・・・私は最初、このお店のそばを食べたとき、「ちょっと薄いかな?」と思った程でした。
しかし、足を運べば運ぶ程、はまって来るのですね!そして、いつ来ても同じ味、と言うのがまた大切な要素だと思うのです。これは最近、本当に大切なことだと考えます。

(D)顧客管理が徹底していること・・・上記の通り、このお店はポイントカードを発行していますが、その裏に住所と氏名を書く欄があるのです。私は勿論、書いていました。すると!何とこのお店から年賀状が届くのです!!これには本当に驚きました。そして、私は思いました・・・やっぱり、繁盛する店には必然性があるのだ・・・と。

こう言う訳で、私たち夫婦はこのお店に殆ど1週間に1回は行っているのです。
特に土曜日のお昼にこのお店の暖簾をくぐると、「あ〜、週末だなぁ」と言うリラックスした気分になります。
そして、美味しい蕎麦を味わいつつ、満員のお客さんとお店の活気を共有しつつ、とても満足した気分で帰宅することが出来るのです。

私は思います。
このお店はとても素晴らしい、と。
と、同時にこのお店は努力している、と。
このようなお店に巡り合えて、私は本当に幸せです。
また、このようなお店が地元にあること自体、ある意味、奇跡かも知れません。
私は「このお店はひょっとして日本一なのではないか」、と思うのです。
このお店のご主人は50代半ばくらいの方です。
これから何年、暖簾を守れる方か私には分かりません。
しかし、郷土の、いや我が国の宝としてなるべく長い間、これからも頑張って頂きたいと願ってやみません


★お店のご案内
自家製そば 三七十(みなと)庵 
庵主:福松 了二
〒899-7401
鹿児島県曽於郡有明町伊崎田8779-13
電話:(0994)74-0364
営業時間:午前11時〜売り切れ迄(通常17時半くらい迄)
定休日:日曜日


(2002/11/17)
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