今から7年前。日曜の集会、火曜の書籍研究、木曜の神権宣教学校、 すべての集会に娘を連れて出かけていた。
伝道を控えた頃、夫の両親にきちんと言っていない事が、 どうしてもすっきりしない。そのまま行動したくない。賛成してくれないと思うので、 ずっと言えなかった。その8月に、とうとう義母に、エホバの証人となり、伝道者となって、宣べ伝えたい旨を話した。
自分は言えて、心が軽くなった。実家の母親にも言った。その時は、何をバカなと言いながらも、 深刻ではなかった。私がやめたら、皆が救われない。皆のためにしているのだと、 必死だった。話した後も、まだ強制的に止められないので、ずっと行っていた。それまでは、別に反対しなかった主人も、事の重大さに気づいたようで、一転して反対の 立場を取り出した。
9月に入って、職場の昼休憩に、家に帰ると、夫の両親がいた。話を聞いてくれと言う。
もう仕事ですからと、昼食も食べないまま、職場に戻った。そして、退社後、帰宅すると、 又両親が来ている。1週間、10日と、ぶっ続けに両親が来続けた。 両親が、エホバの長老や司会者にも、話を聞きに行っていた。実家の親からも、毎晩、 毎晩電話がかかって来る。何で、皆でこぞって、止めさせようとするのか。苦しくて、辛い。 が、止めるわけには行かない。実家の母は、「私があなたを刺して、殺してでも止めさせる。そして、自分も死ぬ。」とまで言った。 母は心配して、ずうっーと泣いて、食事も出来なかった。 父親は心労からか、心臓を悪くして、入院する事になった。
他のエホバの証人と会わせるのが、悪いと思ったのか、ある日、帰宅すると、 エホバの姉妹達の写真や書籍が全部無くなっていた。
「どうして、こんなひどい事を・・」 声も出ず、呆然と立ち尽くした。「これは、サタンがやっている事なんだ。サタンなんだ。」と思い、 1日も早く、この状態から救い出される事を、エホバ神に祈り続けた。こういう状況で、週3回の集会が、主人の監視付きになり、一歩も部屋の外へ出して貰えなくなった。
しかし、隙あらば、家を飛び出そうと構えていた。実際、何度も飛び出したが、玄関で待ち構えている 主人に、取り押えられた。幾ら暴れても、主人の腕力にはかなわない。力づくで押え込まれた。 大声で泣きわめき、暴れ、もう修羅場のような争いが続いた。
そんな私達の争いを、 いつも2才の娘が、黙ってじいっと見ていた。 こんな事が続く中、娘の様子がおかしいのに気づいた。娘から笑顔が消えていた。
不安そうで、理由も無いのに、すぐ泣きじゃくった。そして、訳も解らないのに、 主人と一緒になって、「お母さん、集会に行ったらダメなんだよ。絶対にダメなんだからね。」 と言い続けた。私は悩み苦しんだ。実家の父は、私のために心臓を悪くして、入院した。優しかった夫も、 身も心も疲れ果てている。愛する娘までもが、笑う事を忘れてしまった。
エホバに仕える事は、こんなにも辛くて、苦しい事なのか。こんなにも周りの者を責め、 傷つけなければ、エホバの側に立つ事が出来ないのか。自分自身も、身も心も疲れ果て、 極限の状態まで来ていた。会社の人にも心配されるほど、やつれ切っていた。研究司会者の姉妹とは、大っぴらに連絡は取れなかったが、会社では、幾らでも電話出来る。
密かに、電話したり、会ったりしていた。姉妹はいつも「ご主人やご両親の言われる事を、 真剣に考えたら、ダメですよ。サタンは巧妙ですからね。いろんな角度から、小百合さんの心を、 何とかエホバへの忠誠から引き離そうと試みますよ。苦しいでしょうが、サタンに惑わされないよう、 頑張りましょう。」と言った。
私は、どうなろうと、どういう結果になろうと、この信仰を貫く決意を、その時、すでに固めていた。とうとう主人や両親は、最後の手段として、離婚を真剣に考え始めた。
それは、 本当に最後の最悪の解決方法だと、全員が承知していたので、安易に決断すべきでないとも、 よくわかっていた。
その最後の決断を下す前に、他の救済方法は無いものか、色々懸命に捜し求めていた。知人の知人を通して、芝山牧師と教会を知った。そして、連絡などしていた最中、ちょうど、 教会主催の異端セミナーが開かれる事を知った。
主人と義父は、嫌がる私を連れて、 出席しようとした。柱にしがみついてでも、行かないと言えたが、主人や両親の言葉に動かされた。
「それ程まで、ものみの塔の教えが正しいと思い、エホバ神に忠誠を誓っているのなら、 どんな事を聞いても、大丈夫じゃないのか。本当の真理なら、ぐらつく事もあるまい。 それとも行かないという事は、自分の学んで来た事に自信が無いのかい?」嫌々ながら、後をついて行った。そのセミナーの講師は、K先生だったが、 話される事すべてに、反発を感じ、嫌で嫌でたまらず、少しでも早く、その場を離れたい一心だった。
しかし、その中で、全く知らなかった教理の、移り変わりを初めて知り、動揺したのは事実だった。
あれ程、自信に溢れて、この組織こそ、ただ一つの真理と思い続けていた心に、何か、 すっきりしないものが、生まれ始めていた。そして、どうしても真実を確かめたくて、すぐ姉妹に連絡を取り、疑問点を質問した。
しかし、言いくるめられて、「それにしても、サタンの思う壷ですよ。エバが狡猾な蛇の 誘惑に負けてしまったのも、もとはと言えば、蛇の言う事に耳を傾けたからでしょ。 私なら、気持ち悪くて、そんな本なんか見るのも、触るのも嫌ですけどね。」
この姉妹との対話によって、生じ始めていた組織への疑いが、いとも簡単に払いのけられてしまった。そして、少しでも組織を疑ったという事への、罪悪感に心を痛め、前にもまして、心を硬くして行った。
すべての集会に行くのを止められ、2ケ月間、全く霊的食物を取る事が出来ず、 日に日に弱って行く自分を感じ、何とかしなければと必死だった。何とかして集会に出たい、 兄弟姉妹達に会いたい、ただもうその一心だった。ある日曜、主人に嘘をつき、「お腹が痛いから、薬を買いに行く」と、家を出た。主人は心配して、 「大丈夫かい?僕が連れて行って上げるよ。」と優しく、本当に心配して言ってくれた。
うまくだまして、家を出た。集会に行ける!!と、胸が高鳴った。しかし、嬉しいはずなのに、 優しい主人に嘘をついた、すまなさに、胸が締めつけられるような、後悔を覚えた。しばらくして、 主人が来て、家へ連れ戻された。私は、最低の事をしてしまった。どんなに謝っても罪は消えない。その時の、主人の言葉は、 今でも忘れる事が出来ない。
今まで見た事もないような、冷たい顔で、 「今日、自分がした事が、どんな事かわかっているのか。僕は本当に心配していたのに、 君は僕をだまして、嘘をついて集会へ行ったんだぞ。何が神の組織だ。今までは、 君をだましている組織を憎んでいたけど、こうなっては、君自身も信じる事が出来なくなった。 夫婦の間で、信頼関係が無くなったら、もう終りだね。」と言った。しばらく後、K先生が、私に是非会いたいと、言って下さっていると聞いた。
会うだけでも、会ってくれないかと、主人に嘆願された。来るのは勝手だが、 話をするつもりは、全く無いと冷たく返事をした。心では、「あの人が来るん?何で来るん?神戸の人じゃろ。」と思っていた。
本当に来られて、「え!ほんまに来たわ。」とびっくりした。先生は、全然失礼な態度じゃなく、 不思議にその場を離れる気になれず、反発を感じながらも、5時間近く話し合った。そして、「次回は、実際に参考資料と照らし合わせて、調べたいですが、いかがでしょうか。」 と言われた。
この時初めて、もしかして、この人の言うように間違いだったら、 この人の言う事を聞いてみてから、決めてもいいんじゃないか、と思った。
「すべてをかけているものが、間違いだったら、どうしよう。」と思った。 これは、真剣に調べてみなければ、という気持ちになった。後で思うと、3ケ月以上集会を止められ、兄弟姉妹達との接触もままならなかったのが、 良かった。
マインドコントロールされていた状態から、思考が徐々に正常な状態に戻って行っていた。 だからこそ、「調べてみよう」と思えた。
集会を止められていなかったら、絶対にこういう気持ちには、なっていなかった。それから、自分から司会者への連絡も一切断ち、聖書そのものを読み、間違いの資料を読み 続けた。
組織の色眼鏡をはずし、心素直に、聖書を読んで行った時、その時、 はっきりと何が真理かがわかった。
このようにして、イエス様に出会え、信じる事が出来た。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<振り返ってみて>★ 主人と両親によって、強制的にでも、エホバの証人との接触を断たれたのが良かった。
マインドコントロールされている者にとって、組織との接触を断つのが、何よりも一番重要な事。★ まず、マインドコントロールによって、その渦中では、家族がどういう気持ちでいるか、 どういう気持ちで、そのような行動を取っているか、親族の「気持ち」というものを、 考える事が出来ない。
その部分が欠落していて、いっさい出来なかった。 間違いを知り、本当の神様を知った時、頑なな心が溶けて、暖かい目で人を見れるようになった。 ものの見方が、変えられて行った。★ 自分が救出されたのは、何よりも家族の愛情があったから。
周囲の者が、それぞれが、 大きな犠牲を払って、私の救済のために尽力してくれた。
主人は仕事で忙しい中も、出来る限りの時間を割いてくれた。昼休憩に帰宅して来た。 夫婦の対話の時を、少しでも多く取るようにし、時間を献げてくれた。実家の両親は、仕事を休んで、2週間泊まり込んでくれた。2才の娘の世話をし、 昼食を作って、私を待ってくれた。
義父は、あと2年、小学校校長の職務があったが、 もうそれを投げ打ってもよい、私の救済の方が大事だと言い、それほどの犠牲を払い、尽力してくれた。
実の妹は、間に入って、どこまでも冷静に、私の思いも受け入れながら、周囲との間を取り持ってくれた。この妹の存在が、どれほど有難かったか知れない。
K先生が、月1回づつ神戸から出向いて、学びをして下さった。後は、 芝山先生が引き継いで、加計まで来ては、聖書の学びを続けて下さった。★ 家族は、感情的になるばかりで、らちがあかない。救出には、専門的知識を持った人が、 絶対に必要。エホバの証人の知識もあり、且つ、聖書の知識もある、そのような人物が必要。