2015年度講義計画


[講義概要]
 この講義では、政府の経済学としての公共経済学を学ぶ。公共経済学は従来財政学が取り扱ってきた領域を経済学の手法を用いて分析しようとするものであり、ミクロ経済学の応用経済学としての性格が強い。したがって、講義おいては、ミクロ経済学、経済数学、財政学の基礎的な知識を必要とする。
[講義計画]
補論 経済数学入門   
補論 超入門ミクロ経済学
第1章 政府活動の必要性 
     競争市場の効率性  厚生経済学の2つの基本定理 独占 公共財 外部性 市場の不完全性
第2章 公共財の最適供給 
    公共財の定義 公共財の私的供給による非効率性 私的財の公的な供給 公共財の最適供給
第3章 公共選択 
    中位投票者 投票のパラドックス 単峰型選好と多数決投票均衡の存在 アローの不可能性定理 リンダール均衡
第4章 公的企業の役割
     自然独占 限界費用価格形成原理 公共部門の非効率性 X非効率性
第5章 外部性  
     外部性の結果 コースの定理 私的解決の失敗  ピグー的租税補助金政策
第6章 租税の経済理論
     租税原則 最適課税論
第7章 個人所得課税の理論
     課税と労働供給 最適所得税論
第8章 消費課税の理論
     個別消費税と一般消費税 労働所得税と消費税の等値性
第9章 法人課税の理論
     法人税の転嫁と帰着 
第10章 資産課税の理論
    金融資産課税の理論 土地税制の経済効果 相続税の基礎理論
第11章 地方税の理論
     地方税固有の原則 国と地方の税源配分 租税の外部性 租税輸出と租税競争




[教科書]
橋本恭之『入門財政』税務経理協会(前期)
橋本恭之・鈴木善充『租税政策論』清文社(後期)
[参考書]
J.E.スティグリッツ著藪下史郎訳『公共経済学(上)』東洋経済新報社

[宿題・課題] 講義中に指示する。
[成績評価の方法] 受講生が少ない場合は平常試験の可能性があるが、通常は、期末試験の成績で評価する。
[受講生への希望] 算数にアレルギーをもつ人には、お勧めできない。


2015年度公共経済学講義ノート


第1章 政府活動の必要性


第1節 競争市場の効率性と政府の必要性

(1) 競争市場の効率性と政府の必要性

厚生経済学の2つの基本定理
厚生経済学の第1基本定理
 ある条件のもとでは競争経済が効用可能性曲線上のあるひとつの点(パレート最適)を実現する

パレート最適→他の誰かの経済状態を悪化させることなしに、ある者の状態をよくするように資源を配分することが不可能な状態。

厚生経済学の第2基本定理 
 効用可能性曲線上のあらゆる点は、ある個人から他の個人に再配分することで達成可能である。


P27 図3−1 効用可能性曲線
          効用可能性曲線上のすべての点はパレート最適

     c点 d点  非効率な点


   a点、b点はともにパレート最適→市場経済は分配の平等を保証できない。

   lump sum tax ランプサム・タックス  定額税 or 一括税

   を用いれば、a点からb点への移動が可能。→格差是正が可能。政府の役割。


厚生経済学の第1基本定理は、完全競争市場において自動的に達成される。
競争経済のパレート効率性の3つの条件
  交換の効率性、生産の効率性、生産物混合の効率性


(2)交換の効率性
    MRS=MRS
限界代替率(Maginal rate of substitution)=-△y/△x

P28 図3-2  エッジワースのボックス図と交換の効率性


 MRS=MRS
限界代替率(Maginal rate of substitution)=-△y/△x

個人の効用最大化
Max. U=U(x,y)
Sub.to px+py=M
ラグランジュの未定乗数法
L=U(x,y)+λ(M−px−py)
∂L/∂x=∂U/∂x−λp=0
∂L/∂y=∂U/∂y−λp=0
∂L/∂λ=M−px−py=0
/U=P/P

*限界効用の比=限界代替率

競争市場では、すべての個人が同じ価格で財サービスを入手できる
    MRS=p/p=MRS

(3)生産の効率性

図3-3 エッジワースのボックス図と生産の効率性


技術的限界代替率(RTS)=等量曲線の傾き
(Maginal rate of technical substitute)
生産の効率性:yの生産量が所与のときxの生産量を最大化する。
RTS=RTS

 
費用最小化行動
   費用関数 c=wL+rK
生産関数 y=f(K,L)
     L=wL+rK+λ{y-f(k,l)}
L=w-λMP=0
L=r-λMP=0
w/r=MP/MP=RTS
競争市場では、すべての企業がおなじ価格で生産要素を購入できるので
    
   RTS=w/r=RTS

(4)生産物混合の効率性
りんごとみかんの最適な組み合わせには、技術的に可能な組み合わせと個人の選好の両方を考慮する必要がある。

効率的な生産の組み合わせ:生産可能性曲線
生産可能性曲線の傾き=限界変形率(marginal rate of transformation,MRT)


簡単化のため個人の選好がすべておなじとすると、無差別曲線と生産可能性曲線の接点で最適な組み合わせが得られる。
    MRS=MRT

競争市場では
 消費者の効用最大化   MRS=価格比
 利潤最大化         MRT=価格比
 
結合生産の利潤最大化  所与の生産要素のもとで、x財とY財を結合生産
      R=p1x+p2y   R:収入
     利潤=収入−費用 生産可能性曲線上では費用一定、収入最大化=利潤最大化

     等収入線  y=−(p1/p2)x+R/p2

     売上げ最大化   生産可能性曲線の傾き=等収入曲線の傾き
                 MRT=p1/p

第2節 政府の必要性

「市場の失敗」を生じる原因
1.不完全競争:独占や寡占
    
2.公共財
   
3.外部性

4.不完全市場
   保険市場  介護保険
   資本市場  公的融資制度     →最近では公的関与の見直しも
5.不完全情報
    情報の非対称性   牛肉偽装事件→政府の監視が必要
   
6.失業とその他のマクロ経済学的な障害
    政府による景気対策
  


第2章 公共財の最適供給


第1節. 公共財の定義
(1)純粋公共財:

  非競合性(等量消費、不可分性)、非排除性の双方の性質を持つ      

  例:国防:一般道路  

(2)準公共財
  非競合性(等量消費、不可分性)、非排除性のいずれかの性質を持つ 

  非競合性の性質を持つが排除可能:高速道路
  非競合性の性質を持たないが排除不能:混雑現象の生じた公共財
  
 
第2節.私的財の公的な供給
消費が競合し、排除可能であるにもかかわらず公的に供給されている財:医療サービス、教育サービス
→過剰消費を生じる可能性がある

(1)私的財の公的供給における割当方法
一律的供給: すべての個人に同じだけ供給する。
例:教育、追加的な教育を望む人に対応できない(塾に通うことになる) 

割当手段としての行列:
医者の順番待ち→より需要の大きなものが待つ


(2)公的供給と私的供給の割合の変化

技術の変化 テレビ放送  CATV 料金徴収
             衛星放送 スクランブル

第4節 公共財の最適供給
(1) 社会的厚生の最大化
P39 図3-7 

 総厚生=社会的便益-社会的総費用

P40 図3−8
  総厚生最大化の必要条件   社会的限界便益=社会的限界費用

(2)公共財の最適供給

サミュエルソン・ルール
 公共財供給においてパレート最適を満たすような公共財供給の条件



政府が資源配分を完全に操作可能
 first best
生産関数  F(X,Y)=0
  私的財 X  純粋公共財 Y
X=X1+X2

効用関数 Ui=Ui(Xi,Y)  i=1,2

個人1の効用をある特定の水準U01に固定し、個人2の効用を最大にするような公共財の水準
L=U2(X2,Y)+λ[U1(X1,Y)-U01]+μF(X,Y)

∂L/∂X1=λ(∂U1/∂X1)+μ(∂F/∂X)=0
∂L/∂X2=(∂U2/∂X2)+μ(∂F/∂X)=0
∂L/∂Y=(∂U2/∂Y)+λ(∂U1/∂Y)+μ(∂F/∂Y)=0

(∂U2/∂Y)/(∂U1/∂X1)+(∂U2/∂Y)/(∂U2/∂X2)=(∂F/∂X)/(∂F/∂Y)

  MRS1+MRS2=MRT 公共財が存在する場合のパレート効率性の条件



第3章 公共選択 


第1節.公共財供給と費用負担
(1) リンダール均衡
 公共財1単位あたりの費用負担割合を政府が提示
  →公共財の租税価格

  各個人は提示された価格のもとでの公共財の需要量を政府に報告
  →当初提示された租税価格のもとで公共財に対する需要と供給が一致しない場合は
   政府は公共財に対してより多く需要を報告した個人の租税価格を引き上げ
   需要の少ない個人の租税価格を引き下げる
            
   リンダール均衡のもとでは公共財の最適生産条件を満たしている。
P42 図3−9

(2)一律負担による非効率性
P44図3−10


公共財の最適供給 社会的限界便益曲線と社会的限界費用曲線MSCが一致するところ→Q*

一律負担なら→MSC/3
A,B,Cにとっての望ましい供給量はそれぞれQA QB QC となる。
     ↓
政治過程により供給量を決定

(4) 中位投票者の理論
 QAとQBを投票にかけると、BとCがQBに投票するのでQBが勝利
 QBとQCを投票にかけると AとBがQB に投票するのでQが勝利

                   ↓
     多数決投票の均衡水準は、中位投票者の好む水準に決まる
 
第2節 公共選択の理論



Aさん  1m>5m>10m
Bさん  5m>10m>1m
Cさん  10m>1m>5m

P46 図3−11

投票のパラドックス
→選好の単峰性が満たされないときは、多数決均衡が存在しないときがある。





例題 3人の投票者の間で自民党、民主、共産党で示される3つの選択肢があるとしよう。
  投票者1は、自民党、民主党、共産党の順で選好する。
     2は、共産党、自民党、民主党の順で選好する。
     3は、民主党、共産党、自民党の順で選好する。

  民主党 vs 共産党 → 投票者3、1は民主党を選択 民主党の勝利
  民主党 vs 自民党 → 投票者1、2は自民党を選択 自民党の勝利

  自民党 vs 共産党 → 投票者2、3は共産党の選択 共産党の勝利

             多数決均衡が存在しない



第4章 公的企業の役割


第1節 市場の失敗
(1)自然独占
 電力・ガス→費用逓減型産業:固定費用が大きく、産出量の増加につれて平均費用が逓減
       自然独占

TC=1000+2Q
AC=1000/Q+2

Q=1のときAC=1002
Q=2のときAC=502
Q=10のときAC=102
Q=1000のときAC=3

(2)限界費用価格形成原理

P=100−Q
TR=100Q−Q2

MR=100−2Q

MR=MCより  100−2Q=2
              Q=49

利潤={100*49−(49*49)}−1000+2*49
  =2499−1098=1401 

自然独占数値例

社会的厚生の最大化

 総余剰=総評価−総費用
 総余剰最大化   限界評価=限界費用

消費者の需要曲線:消費者の限界的評価
         需要曲線はある財を購入する際に支払ってもよいと考える価格
   消費者の需要曲線と限界費用曲線の交点で総余剰が最大化される。
  「限界費用価格形成原理」 
    
価格=限界費用  100−Q=2
           Q=98
       利潤=196−1196=-1000   

 限界費用価格形成原理にしたがった場合、利潤がマイナスになってしまう。
 →政府が損失を補填すればよい(ただし、経営努力を阻害、補助金の財源調達の問題もある)

現実的には政府はゼロ利潤点での生産を強要
        AR=AC  

総収入TR=PQ=(100−Q)Q
平均収入AR=TR/Q=100−Q
総費用TC=1000+2Q
平均費用AC=TC/Q=(1000+2Q)/Q

AR=ACより

  100−Q=(1000+2Q)/Q
  100Q−Q=1000+2Q
  
  Q+2Q−100Q+1000=0
  Q−98Q+1000=0

2次方程式の解の公式

aX2+bX+c


2 次方程式 の解は

    98±√(−98)2−4×1×1000 
Q= -----------------------------
        2×1

Q=98±√9604−4000  /2
Q=98±√5604  /2
Q=98±74.85987 /2

Q=172.8598691/2=86.42993

Q=23.14013091/2=11.57007



利潤=総収入−総費用
   =(100−Q)Q−(1000+2Q)

Q=11.57007のとき

   (100-11.57007)×11.57007−(1000+2×11.57007)
 =88.42993454×11.57007−(1000+23.14013091)
 =1023.140131−1023.140131=0

Q=86.12993のとき
  (100-86.12993)×86.12993-(1000+2×86.12993)
 =1172.859869−1172.859869=0


価格=限界費用のときの生産量98よりも過少になる。



第2節 政府の失敗
(1)公共部門の非効率性
  組織のインセンティブ
     民間企業:倒産   公的企業:親方日の丸
  競争
   電信電話公社、→NTT、第2電電

  個人のインセンティブ
   俸給構造に対する制約:国家公務員に準じる
   雇用保証
    
  X非効率性 ライベンシュタインが主張
   公共部門特有の非効率性をさす。公共部門では倒産の心配がないため、高賃金や経営者の努力
   不足を生むと考えられている。

(2)官僚制度
   パーキンソンの法則 公的組織の肥大化
   ニスカネンの仮説 官僚の規模の最大化


第5章 外部性


第1節 外部性(exterality)

   外部性とは、ある個人や企業の行動が、市場を通さずに他の個人や企業に正ないし負の影響を与えること。
   正の外部性 大学教育
   負の外部性 公害

      共有地の悲劇(共有資源問題)   1968年 生物学者のハーディン
           共有地に複数の農民が放牧すると、共有地の牧草がすべて食べ尽くされ、
           資源が枯渇してしまう。


(1)負の外部性    

     

負の外部性:公害
  市場均衡  需要曲線=供給曲線(私的限界費用)
  社会的均衡 需要曲線=社会的限界費用

  市場均衡では過剰生産をもたらす。

(2)正の外部性



正の外部性:大学教育

  市場均衡  私的限界便益(需要曲線)=私的限界費用(供給曲線)
  社会的均衡 社会的限界便益=私的限界費用

市場均衡では過少供給をもたらす。



    
第2節 外部性に対する私的解決
(1)外部性の内部化
  マンションの管理組合   設備の管理を「集団的に」決定

(2) コースの定理
   外部性は所有権を適切に割り当てることで解消される。
 例:漁業権   漁期、漁獲制限    

  コースの定理
   外部性が発生するときには、関係者が団結し、外部性が内部化され、効率性が保障される。

例: 喫煙者と非喫煙者の間の取引
     

(3)司法制度の利用
   アメリカ   1989年  タンカーの原油流出事故
                  裁判所は10億ドルを上回る補償金を徴収
   


(4) 私的解決の失敗
    *フリーライダー 喫煙者への補助金を誰が支払うのか?
             密漁
    *高い取引費用    訴訟費用
   
第4節 外部性の公共的改善策
   ピグー的租税補助金政策 租税(罰金)と補助金
補助金:わが国の補助金は、ほとんどが国から地方団体への資金の移転
       一般補助金  地方交付税
       特定補助金 生活保護費補助金:国がおこなうべき仕事の委託
     奨励的補助金:特定産業への補助金(所得政策?)

    前提条件: 
(1) 政府の情報能力の完全性
政府が外部便益(費用)を測定できる
(2)政策関与の非対称性
      外部性を発生させる財にのみ課税ないし補助金を
      −複合汚染 原因の特定が困難
(3)財政の中立性    
      租税・補助金の収入・支出を同額に

実例:
  租税特別措置 公害防止設備 特別償却(初年度特別償却)  


第6章 租税の経済理論


第1節 租税原則
(1)租税原則の変遷
 アダム・スミス 自由放任
 →政府の役割は市場では供給できない国防、行政、司法などの必要最小限:夜警国家、小さな政府
 
  課税の根拠として利益説:必要最小限の国家が提供する公共サービスの対価


アダム・スミスの4原則
   1.公平性        税制は公平でなければならない
   2.明確性        何が課税対象になっているかが誰の目からみても明らかでなければならない
   3.便宜性        納税の時期や方法が納税者にとって便利でなければならない
   4.最小徴税費     租税を徴収するさいのコストができるだけ小さいほうが望ましい
                      

19世紀ドイツ歴史学 アドルフ・ワグナー
  課税の根拠として義務説:納税は国民の義務であるとする考え方
  →国家は社会的家父長的保護機関とする考え方
   国民には国家の維持に必要な資金を負担する倫理的な義務がある


ワグナーの9原則
  1.財政政策上の諸原則
   課税の十分性 
   課税の可動性
  2.国民経済上の諸原則
   正しい税源の選択
   租税の作用を考慮して税種の選択
  3.公正の諸原則
   課税の普遍性
   課税の平等性
  4.税務行政の諸原則
   課税の明確性
   納税の便宜性
   最小徴税費の努力

現代の租税の3原則
 1.公平性
 2.効率性(中立性)
 3.簡素(徴税費と納税協力費の最小化)



(2)課税の公平性
 応益原則
各個人が享受する公共財の受益に応じて税負担を配分
問題点:フリーライダーの発生
受益と負担の関係が明確な道路目的財源のガソリン税など一部の税


応能原則
支払い能力に応じて税負担を配分
a.水平的公平(horizontal equity)
「等しい経済力を持つ人々の等しい取扱い」
所得・消費・効用
b.垂直的公平(vertical equity)
「異なる経済力を持つ人々の異なる取扱い」
累進課税の根拠
 →犠牲説(sacrifice theory)
 税負担から生じる犠牲(マイナスの効用)を個人間で均等にする

均等絶対犠牲
 税負担による犠牲の絶対量を均等にする
均等比例犠牲
 所得の総効用に対する犠牲の割合を均等にする
均等限界犠牲(最小犠牲説)
 限界的な犠牲を個人間で均等にすればよい、税負担による犠牲の最小化

能力説の前提
1.税制の中立性
 税制は所得に対して何等の影響を与えず中立的である
2.効用の所得依存性と所得の限界効用の逓減
 各家計の効用関数は所得にのみ依存し、所得の限界効用は正で逓減する
3.選好の同一性
 各家計の効用関数は同一である
4.功利主義的な社会的価値観
 すべての家計は社会的価値判断において同等に評価される

疑問点
*各家計の所得稼得意欲への影響(効用は所得にのみ依存、労働供給の問題)
→効率性の問題を無視



(3)課税の効率性

課税の超過負担(excess burden):死重損失(deadweight loss)
→課税による資源配分のロス、所得税による労働供給阻害など

ランプサム・タックス(定額税)と所得税、消費税などを課税したときの効用水準の差ないし税収の差として計測
(第8章参照)

厚生経済学の第1基本定理
ある条件のもとでは競争経済が効用可能性曲線上のあるひとつの点(パレート最適)を実現する
→ただし、個人間の公平性は保証されない。


厚生経済学の第2基本定理
効用可能性曲線上のあらゆる点は、ある個人から他の個人に再配分することで達成可能である。
→再配分の手段としてランプサムタックスが利用可能な場合:ファーストベスト

政府は、ランプサムタックスではなく、資源配分をゆがめる所得税や消費税を使わざるをえない。

セカンドベストの最適課税論
利用可能な税が限定される場合に次善の方法を探るもの


第2節 税制改革の理論
(1)包括的所得税論
  包括的所得税論
包括的な所得にもとづき課税することが望ましいとする租税理論
  シャウプ勧告、レーガン税制改革時の財務省報告
 
 シャンツ、ヘイグ、サイモンズ 
2時点間の経済力の増加
        Y=C+ΔW
 包括的所得=市場で評価された消費価値額+資産価値の純増
  1.消費
    要素所得および移転所得からの消費
    自家消費
    所有資産・耐久消費財の使用価値(帰属サービス消費)
  2.資産純増
    純貯蓄の蓄積
    所有財産の価値増加
通常所得と認識されないもの
フリンジ・ベネフィット(現物給付、年金、健保の雇用主負担)、帰属家
   賃、未実現のキャピタル・ゲイン、社会保障給付

表2-1 包括的所得税と現行所得税との主な違い P27
フリンジベネフィット:現行の所得税では社宅、独身寮が原則課税となっているものの、課税されるケースは限定的
生活保護費:生活保護法第57条において「被保護者は、保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。」
        アルバイトなどの勤労所得が発生した場合には生活保護費が減額される仕組みとなっており、実質的には課税

公平性のメリット
  「経済状態」を測定する基準として「包括的所得」がもっとも優れている
   →福利厚生面での待遇の違いをも考慮にいれた課税ができる
効率性のメリット
    課税ベースを拡大することになるため、同じ税収を調達しようとする場合、より低い税率での課税が可能
    税率の引き下げは、所得税のもつ労働への阻害効果を低下

税務執行面の問題点
  農家の自家消費を把握
  帰属家賃への課税

理論面の問題点
  ・所得の発生源の違いを考慮していない  不労所得に重課 or 軽課
  ・貯蓄二重課税(第8章参照) 

 


(2)支出税論
古典的支出税
 N.Kaldor,”An Expenditure Tax”,1955.
 担税力の指標としての消費
 個人は彼が共同のプールよりとりだすものにしたがって課税すべきで、
 彼がそこに投入すべきものにしたがって課税されるべきでない
          ↓
    直接税として支出に課税
          
現代的支出税の課税ベース
1978年 ミード委員会報告『直接税の構造と改革』
Y=C+S
 貯蓄非課税 C=Y−S 適格口座
  
負債の返済、利子支払い 控除(貯蓄として)
     借入金の受取      課税
(例外 住宅ローン  控除 利子支払い、負債の返済 課税)
事業用資産の購入  控除
当該資産からの収益 課税
     
包括的支出税ないし2段階支出税の選択を勧告
包括的支出税:消費支出に累進税率表を適用
2段階支出税:付加価値税と追加的な支出税の組み合わせ



支出税のメリット
*行政上の利点
 所得算定の問題 事業所得の算定が簡単 償却資産は即時控除
         キヤピタル・ゲイン 再投資される場合は非課税
 資産の売却収入は課税
 所得平均化の問題 累進的な所得税は変動所得に対して平均化が必要
          消費は変動が少ない
 年金 拠出は控除、引出しは課税
*経済的利点
  経済的中立性 現在消費と将来消費の選択を歪めない
  貯蓄促進
*公平上の利点
  毎年の変動する所得への課税より変動の少ない消費への課税が望ましい
  支払い能力を生涯所得で捉える
   所得税は比較的早い時期に稼ぐ者に不利

支出税のデメリット
*行政上の欠点
  納税協力の問題  適格口座
           借入金に課税
*経済的欠点 より高い税率
*公平上の欠点
   富の蓄積 権力と威信と精神的平安を生む
   苦労して蓄積した富と前の世代から贈与された富を区別できない 
*移行上の問題
  退職しようとする人が多額の貯蓄をしている
  支出税移行後には貯蓄の取り崩しに課税


(3)最適課税論

ファースト・ベスト(最善)の最適課税論  政府の利用可能な税体系になんら制約のおかれていない状況で社会的厚生を最大によるような課税を探るもの
                          →ランプサム・タックス(定額税)をもちいれば、パレート効率を維持しながら所得分配の公正を達成することができる。
セカンド・ベストの最適課税論 政府は、所得税や消費税のように何らかのひずみをもたらす租税しか使用できない場合に社会的厚生を最大にするような税率を模索



社会的厚生関数
 
  W=W(U1,・・・,Ui,・・・,UI)      (2-1)

W:社会的厚生、Ui:第i家計の効用水準

限界社会的重要度は正


∂W
──  >0
∂Ui

限界社会的重要度が正になる社会的厚生関数は、バーグソン・サムエルソン型の社会的厚生関数とも呼ばれている。


功利主義的な社会的厚生関数
   功利主義:ベンサムという哲学者が唱えた考え方で「最大多数の最大幸福」をみざすもの


   W=UA+UB                (2-2)

ロールズ的な社会的厚生関数
  社会的厚生は、最も恵まれない人の効用にのみ依存



 一般的な社会的厚生関数の関数計     
  W=(1/γ)ΣUγ     γ≠0      (2-3)

γ=1  功利主義的な社会的厚生関数
γ→-∞  マキシミン原則にもとづくロールズ的な社会的厚生関数

p.34  
図2-1 社会的無差別曲線

(a)図 功利主義的な社会的厚生関数を想定した場合の社会的無差別曲線
(b)図 中間的なケース、原点に対して凸の曲線
(c)図 マキシミン原則を採用する場合の社会的無差別曲線であり、直角に折れ曲がる



図2-2 効用可能性曲線:ある者の効用水準を所与としたときに、別の者が達成可能な効用水準の組み合わせを示したもの

 効用可能性曲線上では、パレート最適が満たされているものの、その分配は必ずしも公平な分配を保証しない。

厚生経済学の第2基本定理:ランプサム・タックスを利用可能な状況にあれば、効用可能性曲線上の任意の点への再分配が可能


図2-3 功利主義的社会的無差別曲線と効用可能性曲線
  完全平等は、この45線上での所得分配において達成
  功利主義的社会的無差別曲線と効用可能性曲線との接点はF点
   →功利主義のもとでは、それほど大きな再分配は要求されない

図2-4 一般的な社会的無差別曲線と効用可能性曲線
 
社会的無差別曲線と効用可能性曲線との接点はGとなり、功利主義的な社会的無差別曲線の場合よりも、平等主義に近づいている

図2-5 ロールズ的な社会的無差別曲線と効用可能性曲線
  社会的な厚生を最大化する点は、H点となっており、完全平等の点と一致
                   ↓
  累進的所得税と社会保障給付による所得再分配では、効率性のロスが発生するために、効用可能性曲線の形状が変化
                   ↓
  完全平等をめざした場合には、原点Oでしか完全平等が達成されない:貧困の平等
                   ↓
  ロールズのマキシミン原則にしたがったとしても、再分配が効率性を損なうような形でしかおこなえない場合には、完全平等は達成されない


図2-6 累進課税と効用可能性曲線

 
最適間接税論
 、Ramsey(1927)の古典的な論文を出発点
   ラムゼー・ルール 価格弾力性の高い財(奢侈品)に軽課、価格弾力性の低い財(必需品)に重課すれば、最適な課税が達成されるという命題
                                  ↓
   複数家計が存在する場合、課税に対する労働供給、需要の弾力性、その社会の所得分布状況、人々の平等性への価値判断の違いによって変化

最適所得税論
Mirrlees(1971)の研究を出発点
家計の所得を稼ぐ能力に上限が存在しないならば、最高限界税率は100%に設定すべき

能力の上限と下限が存在するケースでは、その上限と下限では最適な限界税率はゼロとなる

最適線形所得税

 Mirrleesの論文
   家計の行動を規定する効用関数をコブ・ダグラス型に仮定した場合には、最適な税率構造は均一税率(フラット・レート)と、課税最低限(ないし人頭補助金)から構成されるフラットレート・タックス(線型所得税)となる
   →最適な均一税率と課税最低限の組み合わせは、課税に対する労働供給の反応の度合いと公平性への価値判断に依存

第3節 租税帰着
(1)帰着の概念
 帰着:租税の最終的な落ち着き先

法制上の帰着:法律上で想定されている税負担の落ち着き先
経済的帰着:税負担が市場での取引を通じて最終的に落ち着く先
        →経済的帰着では、すべての税は、最終的には個人に帰着することになる。

租税帰着の経済分析の3つの手法
  絶対的帰着                     特定の税の増税による分配状況の変化をみるもの
  差別的帰着(differential tax incidence)     予算規模を一定としたときの税制改革による分配上の変化を測定する考え方
  均衡予算帰着(balanced budget incidence) 税制改革による予算規模の増加ないし、減少にともない、歳出が増加ないし、減少する場合の分配上の変化を測定する考え方



(2)従量税と従価税の違い

従量税(specific tax):産出量1単位当たりの税であり、日本の税制ではたばこ税、酒税などが該当
従価税(ad valorem tax):価格に一定比率の税率を課税する、消費税など

従量税と従価税の経済効果の違い

 いま、ある企業の総費用曲線(TC)を
    TC=aQ2+bQ+c (2-4)
と想定する。ただし、Qは生産量である。(2-4)式をQで微分すると限界費用曲線(MC)は、
    MC=2aQ+b               (2-5)
となる。利潤最大化の必要条件、価格(P)=限界費用(MC)より、企業の供給曲線は、   
  P=2aQ+b (2-6)
となる。

従量税は、生産量をQとし、税額をTとすると
     T=tQ     (2-7)
と表すことができる。
 従量税課税後の総費用曲線は
    TC=aQ2+bQ+c+T     (2-8)
となり、税額分を足したものとなる。(2-8)式のTに、(2-7)式の右辺を代入すると
    TC=aQ2+bQ+c+tQ     (2-9)
となる。(2-9)式を生産量Qで微分すると限界費用曲線(MC)は、
    MC=2aQ+b+t    (2-10)
となる。利潤最大化の必要条件を使うと、従量税課税後の供給曲線は、   
  P=2aQ+b+t    (2-11)
となる。

課税後の供給曲線(2-11)式と課税前の供給曲線(2-6)式は、従量税t円の差となっているため、
従量税が課税されるとt円だけ供給曲線が平行にシフト

従価税が供給曲線に与える影響

課税前の供給曲線
     P=aQ+b                (2-12)
供給曲線に、税率t%の従価税を課税
          P= aQ+b+t(aQ+b)
           =(1+t)(aQ+b)


(3)完全競争市場の下での個別物品税の租税帰着

図2-7 企業が納税義務者のケース

完全競争市場の下で、単位当たりt円の従量税が課税
      ↓
供給曲線が左上方へシフト
      ↓
消費者価格が上昇するとともに、均衡数量は、Q0からQ1へと減少
      ↓
供給曲線のシフトの幅は、税金分のt円となっているが、均衡価格がp1までしか上昇していない
      ↓
消費者価格への税金分をどの程度転嫁できるかの度合いは、需要曲線と供給曲線の傾きに依存

(4)独占市場での租税帰着

消費者の需要曲線は、
   P=100−Q     (2-13)

独占企業の費用関数は、
TC=2Q+10        (2-14)

(2-14)式をQで微分し、限界費用(MC)をもとめると
MC=2


 独占企業は、消費者の需要曲線に直面することになるので、総収入(TR)は、(2-13)を代入することで
    TR=P×Q=(100−Q)×Q=100Q−Q2     (2-15)

(2-15)式をQで微分すると限界収入(MR)は、
    MR=100−2Q                      (2-16)

独占企業の利潤最大化の必要条件、限界収入(MR)=限界費用(MC)を使うと、利潤を最大化するような最適な生産量は
    100−2Q=2
     Q=49
となる。
 このとき、消費者の支払う価格は(2-13)式より
   P=100−49=51
となる。
 この独占企業にt円の従量税が課税
 課税後の利潤最大化の必要条件は、MR=MC+tとなる。
 税額  t=2とすると、利潤を最大化するような生産量は
     100−2Q=4
      Q=48
となる。課税後に消費者の支払う価格は、 
        P=100-48=52
となり、消費者の価格上昇は1円となる。
 
独占市場の場合には、消費者の価格は、従量税のt円の2分の1だけ上昇





第7章 個人所得課税の理論


第1節  課税と労働供給 

p99
図5-1 課税と労働供給
 
  消費者の予算制約
  Y=w(24−X)   
消費者の効用関数
  U=XY
L=XY+λ(Y−w(24−X))
LX=Y+λw=0 (1)
LY=x+λ=0   (2)
Lλ=Y−w(24−X) (3)
 
(1)(2)より
  Y/w=X=−λ
(3)に代入すると
   Y=w(24−Y/w)
Y=24w−Y
   Y=12w
X=12W/W=12

t%の比例所得税  T=tw(24−X) 
消費者の予算制約   Y=w(24−X)−T=(1−t)w(24−X)
L=XY+λ(Y−(1-t)w(24−X))
LX=Y+λ(1-t)w=0 (1)
LY=x+λ=0   (2)
Lλ=Y−(1-t)w(24−X) (3)
(1)(2)より
  Y/(1-t)w=X=−λ
(3)に代入すると
   Y=(1-t)w(24−Y/(1-t)w)
Y=24(1-t)w−Y
   Y=12(1-t)w
X=12(1-t)W/(1-t)W=12
税収はT=tw(24−12)=12tw

t=0.5 w=1000円なら 

Y=12×0.5×1000=6000円
T=12×0.5×1000=6000円
 

定額税 T(労働時間に依存しない)
消費者の予算制約  Y=w(24−X)−T   
L=XY+λ(Y−w(24−X)+T)
=Y+λw=0 (1)
=x+λ=0   (2)
λ=Y−w(24−X)+T (3)
(1)(2)より
  Y/w=X=−λ
(3)に代入すると
   Y=w(24−Y/w)-T
Y=24w−Y−T
   Y=(24w−T)/2
X={(24w−T)/2}/w




比例税と同じ効用水準を達成する定額税
比例税の効用水準は

     u=12*6000=72000

定額税の場合の効用水準   
U=XY={(24w−T)/2}/w × (24w−T)/2


    72000={(24w−T)/2}/w × (24w−T)/2

両辺に4Wを乗じると
    72000×4W=(24w−T)(24w−T)
w=1000円より
     288,000,000=(24000−T)

    √288,000,000=(24000−T)

    T=24000-√288,000,000=24000-16970.56275=7029.43725

    同じ効用水準を達成するような定額税の税収は7029.43725となり、比例税の税収よりも多くなる

p101
図5-2 社会保障給付による予算制約の屈曲
社会保障給付の水準が高いと端点解が生じる可能性が高くなる
→労働供給ゼロ

第2節 最適所得税論

マーリース 1996年にノーベル経済学賞を受賞

マーリースによる数値計算:効用関数をコブダグラス型に特定化した場合の最適な税率表は線型


(1)最適線形所得税論

Stern(1976) 所得税の税率構造については線型に限定したうえで、最適な限界税率と人頭補助金の組み合わせを探る研究

p106 図5−4 線形所得税

税額をT、所得をY、限界税率をt、課税最低限をDとおくと

   T=t(Y−D)
    =tY−tD
となる。ここで-tDは、一人当たり同額の補助金である人頭補助金であり、これをGとおくと
   T=tY−G
となる。


線型所得税は、比例税とは違い累進性の定義を満たしている。

累進性の定義:Musgrave and Thin(1948)の4つの定義
@平均税率が課税前の所得が増加するにつれて上昇する。(平均税率累進性)
A課税前所得の変化率に対する税負担額の変化率の比率が1以上。(税負担累進性)
B課税前所得の変化率に対する税引き後所得の変化率が1以下。(残余所得累進性)
C限界税率が課税前所得の所得が増加するにつれて上昇する。(限界税率累進性)

→線形所得税は限界税率累進性以外の定義を満たす。


P106
図5−5 線形所得税と平均税率


p107
図5−6 等税収曲線と社会的無差別曲線

最適税率は等税収曲線の左側→ラッファーカーブ
分配を重視するなら最適税率は高くなる
労働供給が非弾力的なら最適税率は高くなる

(2) 最適非線形所得税論

能力に上限が存在しないケース: 最適な最高税率は100%

能力に上限と下限が存在するケース
p109 図5−7

最適な税率表はs 字型最低所得と最高所得で限界税率ゼロ

(3)新しい最適所得税論

Diamond(1998):能力分布をより現実的なものに想定することで、最適な税率表はS字型にはならない
Saez(2001)
「アメリカの実証研究のおいてあきらかにされた労働供給の弾力性などを参考にすると、アメリカの最高限界税率は50%以下にすべきではなく、80%程度とすべきかもしれない」




第8章 消費課税の理論


第1節 課税の効率性
(1)超過負担

p157注2)
超過負担を計測する際の需要曲線は、通常の需要曲線でなく、補償された需要曲線が望ましい
→通常の需要曲線は、価格が変化したときの需要量の変化を描いたものだが、これには純粋な
相対価格の変化の効果である代替効果と所得効果が含まれている。
(補償された需要曲線:通常の需要曲線と異なり、価格と所得が変化しても同じ効用水準が得られるような所得補償をおこなった場合の需要曲線。)     


p157 図8-1

消費者余剰:消費者が支払ってもよいと考える価格と実際に支払う価格の差

生産者余剰:生産者が売ってもよいと考える価格と実際に受け取る価格の差

総余剰=消費者余剰+生産者余剰

超過負担   三角形 EFG





(2)一般消費税と個別消費税


P159
図6−2 一般消費税と個別消費税の比較

  一般消費税の方が同じ税収のもとでより高い効用水準を達成することができる。
  →一般消費税はランプサムタックスと同様に所得効果のみを生じている
                        ↓
             社会にはX財とY財の2財しか存在しないという単純化の仮定をおいたため

    
現実には、一般消費税は余暇に課税していないという意味で、すべての財に課税しておらず、超過負担を発生させることになる。

ラムゼー・ルール(逆弾力性命題)
  需要の価格弾力性が大きい財(奢侈品、嗜好品) 課税による超過負担が大きいので軽課
  需要の価格弾力性が小さい財(必需品)       課税による超過負担が小さいので重課
 
複数家計が存在する場合の最適課税ルール
→低所得者の需要が相対的に多い財については低い税率で課税すべき
(大阪大学財政研究会編『現代財政』創文社,1985年10月参照)

第2節 ライフサイクル・モデル
(1)労働所得税と消費税の等値性

(旧)政府税制調査会
「財貨・サービスの消費に幅広く等しく負担を求める性格から、勤労世代など特定の者への負担が集中せず、
その簡素な仕組みともあいまって貯蓄や投資を含む経済活動に与える歪みが小さいという特徴を有する。」

単純なライフサイクル・モデルにおいては、労働所得税(賃金税)と消費税の間には等値性が成立する

2期間のライフサイクルモデルによる等値性の証明

第1期は、勤労期間で、第2期は退職後の期間とする。
第1期には、所得を獲得して、その1部を消費し、残りを2期めの消費のために貯蓄する。
2期目は退職後のため、1期目の貯蓄とその貯蓄から生じた利子所得を消費する。
この人は、死ぬまでに貯蓄はすべて消費してしまうと仮定する。

 まず、所得をY、1期の消費をC1、貯蓄をSとおくと、第1期の予算制約は、

   Y-C1=S              (8-1)

となる。
 次に、第2期の消費をC2、利子率をrとすると、第2期の予算制約は、
  
 C2=(1+r)S           (8-2)

となる。
 (8-2)式の右辺のSに(8-1)式の左辺を代入すると

 C2=(1+r)(Y -C1)

となる。両辺を(1+r)で割り算すると

 C2/(1+r)=Y-C1

となる。右辺のC1を左辺に移項すると

 C1+C2/(1+r)=Y           (8-3)   生涯の予算制約式

となる。

(2)労働所得税と消費税の比較
消費税の税率をτ、労働所得税の税率をtとする。
消費税課税後の生涯の予算制約式は

 (1+τ)C1+(1+τ)C2/(1+r)=Y    (8-4)

となる。
労働所得税課税後の予算制約式は、

 C1+C2/(1+r)=(1-t)Y         (8-5)

となる。この2つの生涯の予算制約式は、消費税と所得税の税率の関係を適切に設定することで全く同じものとなる。
(8-4)式の両辺を(1+τ)で除すると、

  C1+C2/(1+r)=1/(1-τ)Y       (8-6)

となる。ここで(1-t)=1/(1-τ)が成立する場合には、(8-6)式と(8-5)式は完全に一致することになる。

消費税と労働所得税の等値性は、現実の世界では成立しない理由
1.一般均衡分析では必ずしも労働所得税と消費税の等値性は成立しない。
 井堀(1984)は「青年期の所得だけにかかる労働所得税と、青年期、老年期両方にかかる消費税では、
 貯蓄に与える影響が異なり、したがって、要素価格に及ぼす効果にも差が生じる。
 経済全体の均衡を考える一般的均衡分析では消費税と労働所得税は等値ではなく、
 それぞれの最適値は一意的に定まる」
2.移行期を考慮した世代重複モデルを想定すると、労働所得税と消費税の影響は世代によって全く異なる。
 ある時点で、所得税から労働所得税へ切り替わるという税制改革を想定した場合、
 すでに労働所得税のもとで課税されてきた世代は、消費税への移行に伴い、
 若年期での労働所得税と老年期での消費税の双方を負担するのに対して、
 これから労働市場に参入する世代は、労働所得税を負担せず、消費税のみを負担することになる。
3.職種の異なる複数家計の存在を考慮すると等値性は成立しない。
    親からの莫大な遺産から生じる資産所得のみで、生涯を通じて全く働くことなく暮らせる家計と勤労者の双方を考慮した場合
    →消費税であれば両者に課税することができる

(3)利子所得税と消費税の比較

P165
図8−3 利子所得税と消費税の比較

利子に対する比例税率をθとすると、課税後の予算制約式は、

C1+C2/{1+(1-θ)r}=Y         (8-7)

となる。この式のC1を移項すると

C2/{1+(1-t)r}=−C1 + Y

となる。両辺に{1+(1-t)r}を乗じると

 C2=−{1+(1-t)r}C1 +{1+(1-t)r}Y (8-8)

となる。この式は、切片が{1+(1-t)r}Y、傾きが−{1+(1-t)r}の一次関数となっている。同様にして、消費税課税後の予算制約式は、

 C2= −(1+r)C1+(1+r)Y /(1+τ) (8-9)

と変形できる。
(8-8)式  利子所得税を増税した場合には、この予算制約式のグラフが回転

(8-9)式  消費税を増税した場合には、傾きは不変で切片のみが減少する


同じ税収のもとで消費税のほうが利子所得税よりも高い効用水準を達成することができる。


(4)ライフサイクルからみた貯蓄二重課税論

P167 表8−1 所得税と生涯税負担


p169 表8−2 消費税と生涯税負担





第9章 法人税の理論


第1節 法人の捉え方
(1)法人実在説と法人擬制説
法人実在説:独立の法的人格を認められた実体として捉え、経営者によって運営される独立の意思決定単位であり、法人自体が担税力をもつという考え方
   →法人にも累進税率表を適用すべき?

法人を個人株主の集合体
         →法人税の負担は、株主の配当の減少、キャピタル・ゲインの減少をもたらす
           個人所得税の前払い、個人所得税と法人税の2重課税の調整が必要


(2)地方税としての法人課税

地方税としての法人課税  法人住民税、事業税

利益説:公共サービスへの対価として法人も税を負担すべきだ
      →生産活動をおこなうにあたって、地方団体が提供している道路などを利用しているから、その対価としての税金を払うべき

              ↑
      事業税の外形標準化(平成15年度改正、平成16年度から適用)
   
   
(3)租税理論からみた法人税の位置づけ
 包括的所得税
   法人税は所得税の前払い
      シャウプ勧告(1949) 所得税の源泉徴収
      カーター報告(1966)  所得税の最高税率で源泉徴収課税、法人税と所得税の完全統合(留保、配当を個人に帰属させて、個人段階で完全調整)

 支出税
   理論的には、法人の収益は最終的にはすべて個人に帰着するので法人税は不要
   →現実には個人段階で法人の収益相当部分を把握するのは困難
                  ↓
             支出税の前払いとしての法人税

    支出税のもとでの法人税の課税ベース
     キャッシュフロー=収入-仕入-投資   「一定期間の資金流入-消費以外の資金流出」

   ミードレポート(1978)におけるキャッシュフロー法人税の3つの課税ベース
    @Rベース    税・サービスの実物取引に係るキャッシュフロー
    AR+Fベース  実物取引+金融取引に係るキャッシュフロー
    BSベース    非法人の株主に関する資本取引に係るキャッシュフロー  

第2節 法人税と企業行動
(1)減価償却
  定額法
   (取得価額−残存価額)/耐用年数=年当たり償却額
残存価額:スクラップ価格

 定率法
  取得価額×(1−償却率)=残存価額

         (1−償却率)=残存価額/取得価額
         1−償却率=(残存価額/取得価額)(1/n)
            償却率=1−(残存価額/取得価額)(1/耐用年数) 
          
 数値例
  取得価額 1000万円  耐用年数 10年  スクラップ価格 100万円

  定額法 毎年償却額  90万円
  定率法  償却率=1−(残存価額/取得価額)(1/耐用年数) =0.205672
   

定額法 定率法
償却額 残存価額 償却額 残存価額
1年後 90 910 205.67 794.3
2年後 90 820 163.37 631.0
3年後 90 730 129.77 501.2
4年後 90 640 103.08 398.1
5年後 90 550 81.88 316.2
6年後 90 460 65.04 251.2
7年後 90 370 51.66 199.5
8年後 90 280 41.04 158.5
9年後 90 190 32.60 125.9
10年後 90 100 25.89 100
900 900


平成19年度税制改正
・償却可能限度額(取得価格の95%相当額)および残存価額の廃止(平成19年4月1日以降に取得された減価償却資産) 耐用年数経過後の残存簿価1円
・新たな定率法の導入
定額法の償却率の原則2.5倍に設定された「定率法の償却率」(耐用年数省令別表第十に規定)が適用され、従前の制度に比して、早い段階において多額の償却を行うことが可能に。
・法定耐用年数の見直し
 半導体用フォトレジスト製造設備  8年→5年
 フラットパネルディスプレイ又は
 フラットパネル用フィルム材料製造設備   10 年→5年

(2)利潤動機による投資の決定

t期の予想収益:Rt
利子率:r
K0:初期投資
T:設備の耐用年数


NPV:Net Present Value 投資収益の純現在価値

NPV>0 なら投資をおこなうことになる。

法人税による予想収益への影響

   課税後予想収益=R−t(R−K0/T)

K0/T:定額法による原価償却額

法人税率↓ なら 予想収益上昇、投資増大
法定法定耐用年数の引き下げ  なら 予想収益上昇、投資増大
定率法が採用された場合は、早期に費用回収ができるため、投資増大

(3)企業価値の最大化

   新古典派の投資理論
    目的関数   将来にわたる企業価値の割引現在価値
              ↓
    資本コストとTax AdjustedQ が設備投資の要因

  資本コスト     資本を1単位追加したときの限界的な資本の費用→資本コストが低ければ投資は増大
  Tax AdjustedQ  法人税制を考慮したトービンのQ

  トービンのQ=株式で評価された企業の価値/資本の再取得価格で割った値

    株式で評価された企業の価値=株式市場が評価する企業の株価総額+債務の総額

    Q<1  資本ストックを売った方が利益があがる→企業の設備投資は減少
    Q>1  資本ストックを増やして生産量を増加させたほうが有利→企業の設備投資は増加

    買収の目安にも使われている    Q<1 なら買収してその企業を解体して売り払うと儲かるから。

詳しくは前川聡子(2005)『企業の投資行動と法人課税の経済分析』関西大学出版部を参照。

第3節 法人税の転嫁と帰着

転嫁(Shifting)
税法上の納税義務者が税負担を他の人々に移転すること。

帰着(Incidence)
税負担が最終的に落ち着き先のこと。


(1)転嫁の経路

  @生産物価格への転嫁  消費者に前転
  A賃金の切り下げ      従業員に後転
  B配当の減少        株主へ後転

(2)古典的な見解:部分均衡分析
  企業が短期的な利潤を最大化する場合
  価格転嫁なし:課税前に利潤を最大化する価格が設定されているなら
           法人税を転嫁しようと価格を引き上げることは
           利潤の減少につながる

   利潤=(1−法人税率)(生産物価格×生産量−総費用(Q))

   π=(1-t){pQ−TC(Q)}

   利潤最大化
      dπ/dQ=(1-t)p−(1−t)MC=0
                P=MC  価格=限界費用    法人税率は利潤最大化の条件に影響を与えない。

(3)一般均衡分析
   部分均衡  他の条件は所与、特定の市場のみを分析
   一般均衡  財市場、要素市場などの相互依存関係を考慮

ハーバーガー・モデル    
  A.C.Harberger,"The Incidence of the Corporation Income Tax," Journal of Political Economy, Vol.65, pp.506-521.
詳しい解説は、古田精司(1993)『法人税制の政治経済学』有斐閣を参照。

    法人部門と非法人部門がそれぞれ資本と労働を用いて異なる商品を生産
    法人部門の資本 K1 非法人部門の資本K2
    法人部門の労働 L1 非法人部門の労働L2

    K+K2=K   L1+L2=L

    生産要素は、市場で移動

    法人部門へ資本課税
            ↓
法人部門の課税後利潤が低下、非法人部門へ資本が移動
            ↓
        法人部門では、資本を減らし、労働に代替、非法人部門から法人部門へ労働が移動
            ↓
      法人部門の生産物価格が上昇、消費者に一部が帰着、労働者にも帰着(生産物価格の上昇が需要を減少させ、労働需要も減少、賃金低下)           
 
   法人税の帰着の度合いは、法人部門の生産物に対する需要の弾力性、労働と資本の代替の弾力性、両部門の労働集約度に依存。
   →理論分析では結論は不確定、実証分析が必要




        
(4)法人税転嫁の実証分析         

K-Mモデル

  Krzyzaniak, M. and Musgrave R.(1963),The Shifting of the Corporation Income tax, Baltimore, Mayland: The Johns Hopkins Press.

アメリカの産業別データによる実証分析
  法人税が資本収益率に与える影響を推計
   100%を超える過剰転嫁
 

昭和39年12月12日に提出された長期答申『今後におけるわが国の社会、経済の進展に即応する基本的な租税制度のあり方』
 →法人税の転嫁について研究
 木下専門委員 アンケート調査→転嫁の可能性あり
 古田専門委員 法人税の転嫁に関する実証分析(K-Mモデルを利用)
            非常に高い転嫁度

       →法人税以外の要因を分離することが難しく、確定的なコンセンサスはえられていない。



第10章 資産課税の理論    


第1節 金融資産課税の理論 
(1)資本所得課税の理論
 資本所得の最適課税論(井堀利宏(2003)『課税の経済理論』岩波書店参照)
   動学モデルで分析(最適所得税論、最適間接税論などは静学的な分析)
        世代重複モデル(OLGモデル):ライフサイクルモデルが重複しているモデル
        王朝モデル:無限期間生存する代表的な家計を想定。
   


最適資本所得税の命題    資本税率はゼロにすべき→資本蓄積を促進することで、経済成長を引き上げることが可能
                   →公平性の観点は無視した場合の結論

            効率性重視   株式投資の優遇税制
            公平性重視   資本所得も総合課税の対象に

(2)2元的所得税論                   

労働所得と資本所得に分類し、労働所得は累進課税、資本所得には比例税で課税。

北欧型  資本所得税と法人所得税の税率がほぼ同じ
       勤労所得税の最低税率と資本所得税の税率が同じ

ドイツ型  資本所得税、法人所得税の税率が異なる
       勤労所得税の最低税率と資本所得税の税率が異なる

第2節 相続税の基礎理論

ライフサイクルモデルへの遺産の導入
  @利他的な遺産動機    子どもの効用が直接親の効用関数に含まれる。
                    バローの中立命題の論文がこのタイプ
  A遺産消費動機   遺産額自体が親の効用関数に含まれる
                比較的分析が簡単というメリットがある
  B死亡の不確実性   死亡時期が不確実なため、意図せざる遺産が発生

遺産消費動機にもとづくライフサイクルモデル

         T
  U=(1-β)Σ(1+δ)-(i-1)Ci1-1/γ/(1-1/γ)+β (1+δ)-(T-1) B1-1/γ/(1-1/γ)
          i=1
                                      
   β:遺産についてウェイトパラメータ

  
  生涯消費+遺産額=生涯賃金+年金給付+遺産受取額

   このタイプのモデルなら効用最大化の必要条件は不変

   遺産の受取額の増大→消費額の増大
   遺産のウェイトパラメータが大きくなる→消費額の減少
   
   相続税の増税は、生涯所得を減少させ、生涯消費を減少させる効果を持つ
   →相続税は減税すべき?
     労働供給を内生化した場合には遺産受け取り額の増加が労働供給の減少につながる可能性もあり



第11章 地方税の理論


第1節 地方税固有の原則
  租税原則   公平  効率 簡素
  地方税固有の原則  応益性、負担分任、普遍性、安定性と伸張性

(1)応益性
税負担配分の原則としての、応能原則(能力説)と応益原則(利益説)

応能原則  所得、消費などの経済力に応じて負担を配分する考え方

水平的公平 等しい経済状態の人々を等しく取り扱うこと
垂直的公平 異なる経済状態の人々に異なる取り扱いをすること

応益原則 公共サービスからの受益に応じて負担を配分する考え方

国税     応能原則   所得分配、経済安定
地方税   応益原則    資源配分

応益原則からは、租税よりもむしろ使用料や手数料といった形で財源を調達したほうが望ましい

ゴミ収集サービスを完全に有料化した場合には、不法投棄の可能性を増す

応益性の性格を持つ税を地方税として採用することが現実的な対応:例 固定資産税、都市計画税、事業所税など


(2)負担分任の原則
行政サービスの受益者である地域住民がその行政サービスを分担すべきだという考え方

人頭税  サッチャー政権下のコミュニティ・チャージ
1993年に現在のカウンシル・タックス(counsil tax)に置き換えられた

日本では均等割りが存在する。課税最低限が国税より低い理由ともされている。

(3)税源と税収の普遍性


地方税としては、どの地域でも課税対象となるものが存在し、かつ税収が見込めるものであることが必要


(4)安定性と伸張性

第2節  国と地方の税源配分
(1)伝統的税源配分論
   シャウプ勧告


(2)新しい税源配分論
  地方分権下での課税自主権を持つ地方公共団体の行動は、他の地域の地方公共団体や地域住民の行動に影響を与える可能性がある。
              ↓
       財政的外部性(fiscal externality)

地方公共団体の目的が地域住民の厚生最大化のみと考えると、他地域の住民の犠牲のもとで、自地域の住民の負担を最小化するような行動をとる可能性もある。
→地方税の負担を最小化しても、交付税により全額補てんされるケースなど。


歳出面の財政的外部性
スピルオーバー
   工場誘致のための補助金政策
   ふるさと納税へのおみやげ送付 

歳入面の財政的外部性 
   租税の外部性
     租税輸出   
     租税競争
    
税源配分を考えるときは、これらの経済的影響を考慮に入れておこなうべき


第2節 租税の外部性 
(1)租税輸出
     東京都 ホテル税

(2)租税競争

   税率の引き下げ競争→税収が減少→公共財の供給量が過小に


試験問題と模範解答


2011年度秋学期模範解答


2012年度春学期試験問題と解答

2015年度春学期試験問題

2015年度春学期試験問題解答


Copyright(c) 2000-2017 by Kyoji Hashimoto
Last Updated 2017年6月26日 7:13:45