2018年度現代経済入門T(経済学)講義ノート(橋本恭之クラス)

授業概要 / Course Description

 経済学を学び始めたばかりの学生を対象に、現代経済の抱えるさまざまな問題を紹介し、経済学という分析ツールがどのような切り口で、問題解決の処方箋を与えるのか初学者でも分かるレベルで解説します。そして、高校の教科「政治・経済」と大学におけるミクロ経済学・マクロ経済学の橋渡しを行うことで、新入生の学問的関心を経済学にひきつけ、経済学が便利なツールであることを体感してもらうことを目的とします。

授業計画 / Course Content

第1週: オリエンテーション:講義概要、講義計画、成績評価の方法等の確認

 担当者を紹介し、講義の進め方を説明する。現代経済入門の概略と二年生以上で受講する科目との関係について説明する。 なお、テーマ2から4は別の担当者によるリレー講義となる。

2週−第4週: テーマ1:はじめての経済学:財政編

5週−第7週: テーマ2:はじめての経済学:貿易編

8週−第10週: テーマ3:はじめての経済学:金融編

11週−第13週: テーマ4:はじめての経済学:産業編

14週: 講演形式での授業:知っておくと得をする税金の話  授業内での感想文提出あり

15週: 総括  あるいは 「講義のまとめ、到達度の確認、講評」 「現代経済入門」について総括する。 



はじめての経済学:財政編 


第1回 市場の失敗と政府の失敗

〇財政学と公共経済学

  財政学    
           財政とは政府の経済活動
            歳入  租税・公債
            歳出    公共財・サービスの提供

            財政制度の解説や財政の現状を示すデータも提示
            
                       
  公共経済学  政府活動を経済学のツール(主としてミクロ経済学)を利用して分析
            →マクロ経済学の応用としての財政政策は財政学で取り扱う
  

〇市場経済の効率性について

 市場経済   市場機能を通じて需給調節と価格調節
          市場経済の効率性の詳しい説明は、公共経済学にて

 計画経済   政府が需要と供給の情報を集めて、配分を決定→計画経済の崩壊:旧ソ連、中国
                                               
  

  ただし、市場経済も万能ではない→市場の失敗



 アダム・スミス:ミクロ経済学
           需要曲線と供給曲線の交点で、均衡価格と均衡数量が自動的に達成される→見えざる手


p* 均衡価格
Q* 均衡数量



           失業も労働市場において需要と供給により自動的に解消されるはず
           →失業は、労働供給が労働需要を上回り、超過供給が発生している状況
             超過供給が発生すると労働の市場価格(賃金)が低下することで
             労働供給が減少、労働需要が増加し、超過供給が減少していく。
 
            自由放任(レッセ・フェール)
              経済は市場にまかせれば、神の見えざる手にみちびかれて、うまく機能する
              →アダムスミスは政府の役割は最小限とすべきと主張:小さな政府(夜警国家)

           
                               
 ケインズ:マクロ経済学      賃金の下方硬直性:失業は自動的には解消されない
                      不況期には、政府が公共事業をおこなうことで「有効需要」を創出すべき

経済学の歴史について詳しくは、経済学説史で学ぶ
労働市場の分析について詳しくは労働経済学で学ぶ                     

〇政府活動の必要性について

「市場の失敗」を生じる原因
1.不完全競争:独占や寡占
    電力産業 自然独占、地域独占
    
2.公共財
    純粋公共財   消費の非競合性(等量消費、不可分性)、非排除性の双方の性質を持つ      
               例:国防:一般道路

              *消費の非競合性  一度提供されると同時に多数の人が消費できる性質

              *非排除性 フリーライダーとよばれる公共財の利用に対して対価を支払わない人々
                       を排除できない性質

    準公共財     消費の非競合性(等量消費、不可分性)、非排除性のいずれかの性質を持つ 

               消費の非競合性の性質を持つが排除可能:高速道路
               消費の非競合性の性質を持たないが排除不能:混雑現象の生じた公共財
3.外部性
    外部性とは、ある個人や企業の行動が、市場を通さずに他の個人や企業に正ないし負の影響を与えること。
       正の外部性 大学教育
       負の外部性 公害    →環境経済学

4.不完全市場
   保険市場  介護保険
   資本市場  公的融資制度     

5.不完全情報
    情報の非対称性   牛肉偽装事件→政府の監視が必要
   
6.失業とその他のマクロ経済学的な障害
    好況 インフレ
    不況 失業
    政府による景気対策が必要


〇政府の失敗  詳しくは財政学、公共選択論で扱う
  公共部門の非効率性    X非効率性
  パーキンソンの法則     公的組織の肥大化

理解度を深めるための小テスト

欠席者は必ず小テストで自習すること、解答は図書館にて橋本恭之『入門財政(第3版)』税務経理協会をかりて
p.36〜p.37を見て、自分で確認すること!

 


第2回 経済安定化機能について

ビルトインスタビライザーと裁量的財政政策
     詳しくは、初級マクロ経済学、財政学で学ぶ

景気の変動
不況期 失業
好況期 インフレ

景気の自動安定化機能(ビルトイン・スタビライザー)
   累進的所得税、法人税 景気に感応する
   好況期には税収を増加、個人や法人の消費需要を抑制
   不況期には税収が減少、需要増加

 

裁量的な安定政策(フィスカル・ポリシー)
    好況期 増税
  不況期 減税、公債発行
     
  ハーベイロードの前提
    政策運営が少数のエリートにより実施されることで、不況期の減税だけでなく、好況期の増税も適切に
    実施される
   →ブキャナンはケインズ政策の非対称性を指摘
   
  

 金融政策 詳しくは金融論、金融政策で学ぶ
  中央銀行による貨幣供給の調整、公定歩合の引き上げ、引き下げ等

ケインズ経済学

 大恐慌  1929年10月〜    詳しくは経済史で学ぶ

 ケインズ 『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)
   不況期には政府が積極的に公共投資をおこなうことで有効需要を創出すべき

   需要には波及効果があり、その波及効果の大きさは限界消費性向に依存する。 

〇需要の波及効果 

  限界消費性向=消費の増加分/所得の増加分=Δ消費/Δ所得=ΔC/ΔY

例:100億円の所得の増加に対して、消費が80億円増加すると限界消費性向は0.8

初期の需要増大効果が100億円、限界消費性向が0.8なら、波及需要の合計額は、

100億円+100億円×0.8+100億円×0.8×0.8+100億円×0.8×0.8×0.8・・・

初期の需要増大をA、限界消費性向をbと置き換えると

A+A×b+A×b×b+A×b×b×b・・・
=A+Ab+Ab2+Ab+・・・
=A・(1+b+b+b・・・)

等比数列の和の公式

初項をA、公比bとし、第n項までの和をSとすると
 b≠1のとき
  
=A(1-b)/(1−b)

nが無限大のときついて考える

限界消費性向bは、  0<b<1  なので、nが無限大のとき

はゼロに収束する

 
したがって、

A/(1-b)=A・1/(1-b)=100×1/(1-0.8)=100×=500
        乗数(値)

乗数  1/(1−限界消費性向)
    ただし、乗数の値は前提条件をゆるめたり、税制を考慮することで変化する
    (詳しくは、マクロ経済学、財政学で学ぶ)

限界消費性向の値がおおきいほど乗数の値も大きくなり、波及効果も大きくなる。
→不況期にみんなが倹約すると景気は益々悪くなる:倹約のパラドックス 


○消費関数

限界消費性向は、所得と消費のデータが与えられれば、消費関数を推計することで得られる。


仮想的な所得と消費の数値例(現実のデータを使用するなら『国民経済計算年報』)

1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年
所得 100 150 200 250 300 350 400
消費 90 140 130 200 210 240 300


 この表の数字で、縦軸に所得、横軸に消費をとった散布図→ほぼ右上がりの関係

 この図に、任意の関数をあてはめたものが消費関数

 C=a+bY   

C:消費  Y:所得  a:切片   b:傾き

最小自乗法(計量経済学入門等で学ぶ)を使用すると、

 C=24.64+0.65Y

経済学では、aを独立的消費ないし基礎消費、bを限界消費性向と呼ぶ

消費関数の性質について
 平均消費性向=C/Y
 限界消費性向=ΔC/ΔY

 平均消費性向は所得が上昇するにつれて低下
 限界消費性向は所得に関わらす一定


例題:限界消費性向が0.6、初期の需要増大が100億円とする。波及需要の合計額と乗数値を求めなさい


欠席者は、図書館にて橋本恭之『入門財政(第3版)』税務経理協会をかり、
p.275〜p.279を見て、自習すること!


第3回 国と地方の財政
 

詳しくは、財政学、地方財政論で学ぶ

〇財政の3大機能
資源配分機能
  公共財は、市場では供給できない。  
  公共財の性質
  等量消費(or 消費の非競合性):多くの人が同時に利用できる性質
  非排除性:フリーライダーと呼ばれる対価を支払わない人々の利用を排除できない性質 
  政府が無償で提供し、その費用を租税の形で強制的に徴収する

所得再分配機能
  市場にまかせておけば、能力の差、初期の資産保有の差などにより所得分配に格差が発生 
      政府が介入して分配を是正:累進所得税、相続税、奨学金、生活保護費

経済安定化機能
  財政編:第2回授業参照

   ビルトイン・スタビライザー(景気の自動安定化装置)
   裁量的財政政策(フィスカルポリシー)

〇国と地方の役割分担

  資源配分機能
     地方自治体の役割は、便益の及ぶ範囲が地理的に限定された地方公共財の提供
     例:消防サービス
  所得再分配機能
     地域間の経済力格差を前提とすると、所得再分配は主として国の役割
     地方自治体は、生活保護などの窓口サービスを提供
  経済安定化機能
     立案と実施は国が中心

〇国と地方の財政関係

<国と地方の財政規模

国と地方の歳出決算額 単位:億円、%

出所:『地方財政白書平成29年度版』(平成27年度決算)

http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/chihou/29data/2017data/29czs01-03.html#s032引用。




当初予算   会計年度の最初に成立していた予算
補正後予算  会計年度の途中の経済事情の変化に対応して作成された補正予算を考慮した予算
決算       会計検査院の検査を経て、国会に提出

          分析には決算額を使用するのが基本!


歳出純計額(平成27年度)

国 70兆6,583億円(42.0%)    地方 97兆6,833億円(58.0%)

*歳出面では、 国<地方

<国税と地方税>

 国税、地方税の税収   
平成27年度 国税 59兆9,694億円 地方税 39兆986億円
             60.5%           39.5%

     三位一体の改革による税源移譲で多少は、国の比率が低下し、地方の比率が上昇
     (近年は再び地方税比率が低下傾向)

用語解説
三位一体の改革   税源移譲 国庫補助負担金の廃止縮減  地方交付税の見直し をセットにした地方財政改革

*歳入面では、国>地方

<国と地方の財政関係>

歳出面と歳入面のギャップを埋めているのが、国庫支出金、地方交付税


国庫支出金   特定補助金
地方交付税   一般補助金
   


*図中の地方道路税等は、平成21年度からは地方揮発油税等→財政制度はたびたび改正されるため教科書の記載の改訂が追いつかないことが多いので注意

補足用語解説
地方譲与税  国税として徴収するが、税収の一部ないし全額を地方に譲与するもの
          便宜上国が地方自治体に代わって徴税を代行しているという性格を持つ

理解度を深めるための小テスト

欠席者は必ず小テストで自習すること、解答は図書館にて橋本恭之『入門財政(第3版)』税務経理協会をかりて
p.2〜p.5を見て、自分で確認すること!


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Last Updated 2018年2月5日 15:43:29