研究テーマ『消費税の逆進性に対する有効な対策』





目次

第一章 はじめに



第二章 消費税制の現状と課題

一節 現状と課題

二節 政府税制調査会の議論

三節 包括的所得税論と支出税



第三章 消費税の経済効果

 

第四章 消費税の逆進性の緩和策

一節 複数税率化

二節 給付付き消費税額控除

三節 給付付き消費税額控除の問題点



むすび





問題意識

・日本の財政は公債発行残高が700兆円を超えており、財政を安定させるために増税が必要である。

・増税する項目においては、消費税が良いと考えられる。なぜなら日本は国際的に消費税への税率が低いからである。





論文の目的

今日の日本の消費税は、国際的にみて低い水準にあると言えるため、今の日本の財政状態を考えた際、政府も近い将来税率を上げざるを得ない状況が来ると考えられる。そのような状況になった場合、消費税の逆進性に対する有効な政策は何が望ましいか、またその政策にはどのようなシステムを導入が必要か、さらに問題点や課題はないのかについて考察していく。





先行研究のサーベイ



・大竹・小原(2005)によると、『1999年において、消費階級第1分位の消費税負担率は1.59%、第10分位の負担率は4.05%である。非耐久財でも同様の傾向がある。必需品だと考えられる食費の負担率は、消費階級別データでみると生涯消費額階級に関わらず、所得の一定割合である。その意味で、食費は他の費目に比べると所得に対してほぼ比例的であるといえる。』と述べ消費税は累進的だとした。

・一方、橋本(2010)は、現行の消費税の逆進性は、それほど大きいものではないものの、生涯所得に対しても逆進性はあるとした。この逆進性を緩和するには、複数税率化よりも給付付き消費税額控除の導入の方が有効と考えている。

・森信(2009)は、『消費税の逆進性緩和対策としては「複数税率」もあるが,複数税率の導入は実質的に「消費税の物品税化」につながり,消費税の特性である水平的な公平性を大きく損なう。また軽減税率の対象を選択することが極めて困難であることに加え,課税ベースが大きく侵食されて,結果的に基本税率が高くなることにもつながるため,逆進性緩和策として適当とはいえない。』と考え、むしろ消費税の公平性できるカナダ型給付付き消費税額控除が適当としている。





分析手法



分析手法としては、橋本恭之(2010)では、消費税が現在の5%の税率のままで分析されたものであるため、今後消費税率が上がった場合を想定していない点がある。そこで、私は今後消費税率が5%、10%、15%へと上がった場合、格差是正のために給付付き消費税額控除がどれほど消費税の逆進性を緩和できるか、ジニ係数を用いて分析する。





参考文献



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