研究計画書 16M3065 若林 優哉
論文の目的
「酒税法上のビール系飲料の課税バランス 原料による酒類の判定の問題について」を研究目的とする。
サッポロビールは2014年6月4日、低価格のビール類「第3のビール」として昨年に発売した「極ZERO(ゼロ)」の販売を6月中旬に終了すると発表した。これはサッポロと国税局の発泡酒の定義について異なる見解があった可能性が高いとみられている。その後、サッポロは製法を変え、発泡酒の「極ゼロ」を7月15日に発売している。酒税法では、麦芽の使用量や副原料の使用規定などによって異なる税額が定められている。サッポロビールは税務当局が第3のビールに該当しないと判断され、サッポロはビールと同じ1キロリットルあたり22万円の税金を納付する必要があるため、これまで納めた税額との差額分約116億円を追加納付しなければならなくなった。この事件の引き金になったのは、発泡酒の定義が明瞭でないことが考えられる。このような問題が起こる背景には、酒税法の課税方式に問題があるといえる。1つは、発泡酒やリキュールなどの酒税法の課税根拠が原料によって分類されることに問題があるといえる。今後も色々な原料を用いた多くの種類の酒類が販売されることも考えられるため昔の物品税と同じような問題が起こる可能性がある。この問題を是正するためにも諸外国の酒税制度を参考として酒類のイノベーションに左右されない課税制度を考えていきたい。
先行研究
先行研究では、経済的な視点からは、独立行政法人経済産業研究所の発行した「ビールと発泡酒の税率と経済厚生」では、現行の税率では、2400億円程度の経済厚生上のロスが発生しており、酒税全体のバランスがビールの偏重した課税となっていることに課題があるとしている。また、酒税法上の制度的問題としては、「今後の酒税制度の方向と問題点--特に従価税制度を中心として」や「酒税の性格とあり方 : 個別消費課税の経済学的根拠に基づく検討」などを内薗 惟幾や高橋 洋輔などが発表している。(取り寄せ中)
先行研究の中では、日本の酒税法についての制度を論ずるものは数多くあったが年代の古いものが多く、諸外国の酒税の税制と比較した論文は少ない。
分析手法
@発泡酒など新ジャンルの開発イノベーションに左右されない課税方式を採っている諸外国の酒税制度を調べ、従量税と従価税の違いが与える影響を研究する。イギリスやアメリカは酒税の課税目的がそもそも国の警備が目的であるため、日本独自の政策を考える必要があるかもしれない。
A原料による酒類の判定をせずに、アルコール度数のみで課税システムを構築した場合にどのようなメリットとデメリット(密造酒の定義)が存在するのかを検証し、導入の可能性を測る。
B現行の酒税法のままで新ジャンルが税収に与える影響を検証し、各酒類の税率をどのように変更すれば影響を抑制することができるかを研究する。
C逆進性の測定も行う。
参考文献
・梶善登(2013)「酒税制度の概要及び論点について−アルコール関連問題及び経済理論からの観点―」
・桑原龍太・内薗惟幾(2006)「税制改正特集 酒税改革をめぐる諸問題 今後の酒税制度の方向と問題点−特に従価税制度を中心として」『酒類食品統計月報』13巻3号,pp 2-6
・慶田昌之(2012)『ビールと発泡酒の税率と経済厚生』RIETI Discussion Paper Series12-J-019
・高橋洋輔・朴源・石塚孔信(2012)「酒税の性格とあり方 : 個別消費課税の経済学的根拠に基づく検討Economic grounds for excise and the alcohol tax in Japan」『経済学論集 鹿児島大学』 73号 p.49 -89
・高沢修一(2015)「酒税法第7条及び第9条の憲法適合性」『大東文化大学経営学会 経営論集』 28・29号,pp 121-133
・濱田由紀雄(2008)「酒税法改正と清酒製造」『醸造論文集』 63巻,pp 24-37
・蓮尾 徹夫(2006)「酒税法改正について」『日本醸造協会誌Journal of the Brewing Society of Japan 』101巻7号,pp 470-486
・三木義一(1992)「現代税法と人権」『勁草書房』
・内薗 惟幾(1971)「今後の酒税制度の方向と問題点−特に従価税制度を中心として」『酒類食品統計月報』13巻3号,pp 2-6
・内薗 惟幾(1973)「値上げを実現した清酒業界の問題点−消費停滞打破策と適正生産,従価税問題」『酒類食品統計月報』15巻5号pp 8-11