第4回 社会保障の現状と課題

第1節 日本の社会保障の現状

社会保障給付の対国民所得比
  1970年度  5.8%
  1980年度 12.4%
  2004年度 23.5%

表 社会保障の給付と負担の見通し(対国民所得比率、%)

2004年度当初予算 2015年度 2025年度
社会保障給付費 23.5 27.0 29.0
  年金 12.6 12.9 12.2
  医療 7.1 9.2 11.2
福祉等 3.8 4.7 5.7
   うち介護 1.4 2.7 3.6

出所:厚生労働省「社会保障の給付と負担の見通し−平成16年5月推計−」

年金給付は今後横ばい→2004年年金給付の成果
医療、介護の伸びが増大


用語解説
社会保険:リスクを社会的にプール、強制加入によりモラルハザード、逆選択を回避。
モラルハザード:保険加入による自己規律低下。
逆選択:リスクの高い人ほど保険に加入すること。


第2節 2004年年金改革とその評価

2004年金改革の概要
保険料率の改定
  2004年10月より毎年0.354%引上げ、最終18.30%固定
マクロ経済スライド
 新規裁定者:賃金上昇率−労働人口減少率−平均余命延び率
  既裁定者:物価スライド−労働人口減少率−平均余命延び率
      (名目年金額下限型)
国庫負担引上げ
    1/3から1/2へ

2004年年金改革の影響分析

給付負担比=年金給付/年金保険料
→年金給付が拠出に見合ったものになっているかを確認する指標

表 世代間の給付負担比の変化

1930年生まれ 1950年生まれ 1970年生まれ 1990年生まれ
改正前 4.03 1.48 0.89 0.56
改正後 3.98 1.28 0.81 0.66
変化率 -1.20% -13.50% -9.00% 17.90%

備考:各世代の勤労者世帯(片稼ぎ世帯)の世帯主の負担と給付を想定。
負担には雇用主負担分を含む。
出所:関西社会経済研究所(橋本恭之・前川聡子他)『ゼミナール 社会保障の一体改革』日本経済新聞経済教室ゼミナール2004年9月10日〜10月19日

現行制度では若い世代ほど給付負担比が低下
2004年年金改正により世代間格差は縮小
            ↓
        世代間格差の縮小は不足

公的年金の一元化

出所:経済財政諮問会議ホームページhttp://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2004/0826/item3.pdf


図 スウェーデン方式のイメージ図

・全国民が所得に応じて比例的に保険料を拠出し、拠出に応じて給付額が決定
・低所得者に補完する最低保証年金を支給→最低保証年金の財源は、租税で調達。
・所得が一定水準までは、所得比例年金の増加額に応じて最低保証年金が100%カット。
・所得が一定水準を超えると、所得比例年金の増加額の一定割合が削減。
・最低保証年金がゼロになる所得水準を超えると、年金給付は所得比例年金のみとなる。

財政運営方式として「みなし掛け金建て」の年金制度
→所得比例年金の大部分(点線の下)は賦課方式で運営、残りが積み立て方式で運営。


出所:民主党マニフェスト2004年4月引用。

 民主党の年金一元化案

 ・保険料総額が一定水準に達するまでは、定額の最低保証年金と所得比例年金の合計額を支給。
・定額の最低保証年金は、保険料総額が一定水準を超えると徐々に削減。
・保険料総額が多い場合には最低保証年金は給付しない。
・最低保証年金の財源は、年金目的消費税など全額租税で調達。


税方式のメリット・デメリット
 ・未納未加入問題解消
 ・消費税率引き上げは景気にマイナス
             ↓
          相続税・贈与税の増税も考慮すべき

第3節 医療改革の方向性について

医療費の地域格差

1人あたり老人医療費(万円) 人口10万対病床数 在宅死亡率(%)
全国平均 75.8 1,469 13.9
北海道 93.8 2,134 8.3
兵庫県 75.9 1,263 15.7
長野県 59.4 1,254 19.8

出所:1人あたり老人医療費は『老人医療事業年報』人口10万対病床数は『医療施設調査』より作成
在宅死亡率は『人口動態統計』

1人あたり老人医療費は、最大の北海道と最小の長野県では約1.6倍もの格差
             ↓
     医師誘発需要:医療需要は供給側の要因にも依存:病床数が多いほど医療需要増大
             ↓
     病床数がほぼ同じ兵庫県より長野県の医療費が低い
             ↓
        長野県は在宅死亡率が高い:ターミナルケアの重要性を示唆



医療保険の都道府県別再編

出所:厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0327-2b.html#1
図 厚生労働省による医療保険再編のイメージ

都道府県別に医療保険を再編すれば財政基盤の安定と保険者機能の強化が期待できる。

後期高齢者と前期高齢者の分離


出所:厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0327-2b.html#1
図  厚生労働省による高齢者医療制度改革の基本的考え方

・前期高齢者については、国保、又は政管健保、組合健保など被用者保険に加入
・制度間での高齢者比率の違いを考慮した財政調整をおこなう
・後期高齢者については、加入者の保険料、国保及び被用者保険からの拠出と公費負担で財源調達をおこなう新たな制度に加入
                   ↓
 高齢者医療制度の見直し案は、75歳以上の高齢者からも保険料を徴収する点では異なるが、各種医療保険からの拠出金、公費負担で財源調達する点では現状と変わらない。
                   ↓
  制度を複雑化し、負担と給付の関係をあいまいにすることで効率性を阻害するおそれも。
                 
診療報酬制度の現状と課題

出来高払いの診療報酬制度
医療機関が提供した保険医療サービスの対価を各種健康保険に診療報酬点数表に従って請求し、受け取るシステム。
診療報酬点数表は、個々の医療サービスを1点10円として点数化したもの。
例:診療所の初診料は274点、再診料は73点。

包括払い制度:疾病毎の定額払い制度、フランスなどで実施