第3章 わが国の所得課税
1.所得税制の推移
 昭和24年 9月 シャウプ勧告
        直接税中心主義
 総合課税を徹底し、資産所得を原則課税とするなど課税ベースを拡大
 最高税率の85%から55%への大幅な引き下げ
 税率区分の14段階から8段階への削減  
 シャウプ税制からの乖離
 昭和28年度の税制改正 有価証券の譲渡所得課税の廃止
            利子所得の分離課税(税率10%)

表 所得税(国税)の税率の範囲と段階数
 税率の範囲段階数
昭和25年(シャウプ勧告)
  28年
  32年
  37年
  44年
  45年
  59年
  62年
平成元年
   11年
20〜55%
15〜65%
10〜70%
8〜75%
10〜75%
10〜75%
10.5〜70%
10.5〜60%
10%〜50% 
10%〜37%
8段階
11段階
13段階
15段階
16段階
19段階
15段階
12段階 
5段階
4段階


所得税(国税)の税率表

平成7〜10年度

平成11年度

課税所得(万円)

税率(%)

課税所得
(万円)

税率
(%)

330

10

330

10

900

20

900

20

1,800

30

1,800

30

3,000

40

1,800〜

37

3,000〜

50

 

 


参考資料:所得税の変遷(当館の財政学資料集

2.所得税の仕組み
(1)所得税制
 所得の種類  
 現行の所得税法における所得
  給与所得、利子所得、配当所得、不動産所得、山林所得、事業所得
  退職所得、譲渡所得、一時所得および雑所得の10種類
  山林所得と退職所得は、他の所得と分離して課税される。
  利子所得は昭和62年度の税制改正により一律分離課税が適用
  譲渡所得のうち土地・建物といった不動産に関するものは、分離課税
  配当所得については、源泉分離課税制度を選択することができる。
  
 税額の算出
@所得金額の調整
 給与所得控除 概算的な経費控除という側面 
        給与所得に対する負担を他の所得と均衡させるための側面
  180万円まで 40%
  360 〃   30 
  660 〃   20
  1000 〃   10
  1000万円超   5
最低控除65万円
給与収入300万円  180*0.4+(300-180)*0.3=72+36=108
 
A総所得金額の算出
 一時所得と山林所得のような変動性のある所得
   数年間に平準化するという調整
B課税所得の算出
 課税所得金額は、総所得金額から人的控除(基礎・配偶・扶養)、社会保険料控除とその他の諸控除を差引くことで得られる。
人的控除(基礎・扶養・配偶者・配偶者特別) 各38万円 
(ただし、特定扶養親族などの割り増しなどあり)
社会保険料控除(社会保険料全額、制度、収入によって差有り) 
その他の所得控除
 生命保険料控除   支払い保険料の明細を会社に提出
 医療費控除 
   診療・治療・出産のための診察費用・入院費用
   通院・入院の交通費 
      通常 10万円以上が医療費控除の対象
 寄付金控除 
   関西大学(公益法人)への寄付金
   1万円以上の寄付をしたとき
C累進税率表の適用
D税額控除の適用
 外国税額控除、配当控除、住宅税額控除


*配偶者控除・配偶者特別控除の消失控除制度

配偶者控除・配偶者特別控除制度の仕組み



なお、配偶者特別控除は、共稼ぎ世帯だけでなく、片稼ぎ世帯でも合計所得金額1000万円以下の納税者にしか適用されない。
                        
 
給与所得税の計算方法 (特別減税を除く)
 給与収入−給与所得控除=給与所得
 給与所得−所得控除=課税所得
      基礎・配偶・扶養・社会保険料
      生命保険料、医療費、寄付金等
 
2000年税制のもとでの税負担
橋本恭之『税制改革シミュレーション入門』第8章参照。

 
(2)住民税制
 市町村税
 都道府県税
  前年度の所得を課税標準とする所得割と均等割
  均等割は、市町村分については人口によって異なる。
         人口50万人以上 2500円
         人口5−50万人  2000円
           それ以下  1500円
  都道府県の均等割りは人口とは関係なく 700円である。
  所得割り
  人的控除   各33万円 
  配偶者特別控除 33万円  
   

表 住民税の税率表

平成9年度・平成10年度

平成11年度

課税所得

(万円)

税率(%)

課税所得

(万円)

税率(%)

都道府県

市町村

都道府県

市町村

200

2

3

5

200

2

3

5

700

2

8

10

700

2

8

10

700〜

3

12

15

700〜

3

10

13



平成11年度からの所得税・住民税の恒久減税
 減税規模(平年度)
4.1兆円(国税 3.0兆円、地方税 1.1兆円)
(1) 最高税率の引下げ
1) 所得税
(改正前)            (改正後)
課税所得
3,000万円超の金額 50% 課税所得 1,800万円超の金額 37%

2) 個人住民税
(改正前)                  (改正後)
課税所得  700万円超の金額 15% 課税所得  700万円超の金額 13%

(2)定率減税

(1) 所得税
   所得税額から所得税額の20%相当額(25万円を限度)を控除。

2)個人住民税
    個人住民税所得割額から個人住民税所得割額の15%相当額(4万円を限度)を控除。

(3)扶養控除額の加算
1)所得税
・ 特定扶養親族(年齢16歳以上23歳未満の扶養親族)に係る扶養控除の額(改正前58万円)に5万円を加算。

2)個人住民税(平成12年度分から適用)
・ 特定扶養親族(年齢16歳以上23歳未満の扶養親族)に係る扶養控除の額(改正前43万円)に2万円を加算。

 (注)平成11年分の所得税については、16歳未満の扶養親族に係る扶養控除額につき10万円の加算措置が講じられていた(平成12年度税制改正で加算措置は廃止)。



3.現行の諸問題
(1)所得税とインフレーション
 累進的な所得税制のもとでは、税率区分と課税最低限を長期間固定しておけば、名目所得の上昇にともなって納税者が上位の限界税率の階層に押し上げられるブラケット・クリープと呼ばれる現象が生じる。また、それまで課税最低限以下であった所得者を課税対象にとりいれることによって、必然的に負担率を上昇させる。したがって、所得税の累進度はインフレーションの度合によっても大きな影響を受ける。
 
(2)課税単位

課税単位の類型
類      型 考    え    方
稼 得 者 単 位  稼得者個人を課税単位とし、稼得者ごとに税率表を適用する。
(実施国:日本、イギリス)
夫婦単位
又は
世帯単位
合算分割
課  税
均等分割法
(2分2乗課税)
 夫婦を課税単位として、夫婦の所得を合算し均等分割(2分2乗)課税を行う。具体的な課税方式としては、次のとおり
 独身者と夫婦に対して同一の税率表を適用する単一税率表制度(実施国:ドイツ)
 異なる税率表を適用する複数税率表制度(実施国:アメリカ(夫婦共同申告について夫婦個別申告の所得のブラケットを2倍にしたブラケットの税率表を適用))
不均等分割法
(n分n乗課税)
 夫婦及び子供(家族)を課税単位とし、世帯員の所得を合算し、不均等分割(n分n乗)課税を行う。
(実施国:フランス(家族除数制度))
合算非分割課税  夫婦を課税単位として、夫婦の所得を合算し非分割課税を行う。

(注)1

.イギリスは、1990年4月6日以降、合算非分割課税から稼得者単位の課税に移行した。
.アメリカ、ドイツでは、夫婦単位と稼得者単位との選択制となっている。
.諸外国における民法上の私有財産制度について
(1) アメリカ :連邦としては統一的な財産制は存在せず、財産制は各州の定めるところに委ねており、一般的にアングロサクソン系の州は夫婦別産制、ラテン系の州は夫婦共有財産制。
(2) イギリス :1882年の妻財産法(Married Women's Property Act 1882 )により、夫婦別産制が採用。
(3) ド イ ツ :原則別産制。財産管理は独立に行えるが、財産全体の処分には他方の同意が必要。
(4) フランス :財産に関する特段の契約なく婚姻するときは法定共通制(夫婦双方の共通財産と夫又は妻の特有財産が併存する)。

出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/029.htm


 夫婦の所得を合算してその2分の1に対して累進税率を適用し、さらにその税額を2倍した額を夫婦の納税額とする2分2乗方式がある。

 
平成9年税制のもとでの所得税負担
夫婦共稼ぎ子供なし、社会保険料35万円づづ、年収500万円づづ
平成7年の特別減税は無視
給与所得控除
 180*0.4+(360-180)*0.3+(500-360)*0.2=154
所得金額 500-154=346万円
課税所得 346−(38+35)=273万円
所得税 273*0.1=27.3 27.3*2=54.6万円 
 
夫婦片稼ぎ子供なし、社会保険料45万円,年収1000万円
給与所得控除
 180*0.4+(360-180)*0.3+(660-360)*0.2+(1000-660)*0.1=220
  72      54        60         34
所得金額 1000-220=780万円
課税所得 780−(38+38+38+45)=780-159=621万円
所得税 330*0.1+(621-330)*0.2=91.2万円 
       33      58.2

参考資料:税制調査会答申http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/zeichof/z011.htm#8


 
(3)業種間の所得税負担の格差
    クロヨン
        合法的な節税手段の有無
        所得捕捉率格差

実証研究:林宏昭『租税政策の計量分析』日本評論社

(4)課税最低限

所得税制の国際比較
国 名
区 分

日  本

アメリカ

イギリス

ドイツ

フランス

国税収入に占める
所得税収入の割合

[11年]
31.4%

[11年]
74.6%

[10年]
35.7%

[11年]
35.9%

[11年]
18.3%

国民所得に占める
所得税負担割合

[11年]
4.0%
(6.5%)

[10年]
11.7%
(14.3%)

[10年]
13.3%
 

[10年]
9.3%
 

[10年]
5.1%
 

課 税 最 低 限

384.2万円

299.8万円

137.0万円

368.0万円

279.5万円


 

最 低 税 率
[住民税の最低税率]

10%
[5%]

10%
[4%]

10%
 

19.9%
 

8.25%
 

最 高 税 率
[住民税の最高税率]

37%
[13%]

38.6%
[6.85%]

40%
 

48.5%
 

53.25%
 

税率の刻み数
[住民税の税率の刻み数]

4
[3]

6
[5]

3
 

 
 

6
 


(備考)1

.課税最低限は、夫婦子2人(日本は子のうち1人が特定扶養親族に該当するものとし、アメリカは子のうち1人を17歳未満としている。)の給与所得者の場合である。
.(  )書は、住民税を含めた場合である。アメリカの住民税の税率は、ニューヨーク州個人所得税による。
.諸外国は2001年7月適用の税法に基づく。
.邦貨換算は次のレートによった。(1ドル=119円、1ポンド=173円、1マルク=55円、1フラン=16円)
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/027.htm

(5)所得税負担の国際比較
各国の実効税率  橋本恭之『税制改革シミュレーション分析』p39 図2−5参照

日本とアメリカの税率構造の比較 橋本恭之『税制改革シミュレーション分析』p43 図2−7参照

日本とアメリカの実効税率の比較  橋本恭之『税制改革シミュレーション分析』p43 図2−8参照

(5)所得税改革の方向性について
 課税最低限引き下げ(各種所得控除の見直し)
 税率のフラット化