第6章 わが国の資産課税
資産に関する課税
*利子・配当やキャピタル・ゲイン(譲渡所得)のような、保有する資産から
生じる所得に対する課税
*資産価値そのものを課税ベースとする、厳密な意味での資産課税
地方税 固定資産税
固定資産の評価額を課税ベースとして毎年課される資産保有税
国税の相続税(贈与税)
資産の所有者の移転が生じる場合に課される資産移転税
1.資産所得課税
(1)利子・配当課税の仕組み
利子所得 少額非課税貯蓄の限度額を超過
20%源泉徴収・総合課税方式と35%の源泉分離課税方式の選択
昭和63年4月以降 マル優および郵便貯金の少額貯蓄の利子に関する非課税制
度が廃止
税率20%(所得税15%、住民税5%)での一律分離課税
65歳以上の老齢者、母子家庭、身障者など一定の要件をみたした人々に対しては、従来の制度と同様、マル優、郵便貯金、少額国債(特別マル優)それぞれについて300万円ずつ、合計900万円までの貯蓄について利子が非課税とされる。
年金財形と住宅財形については元金500万円まで利子非課税
↓
平成14年度税制改正 高齢者マル優制度の段階的廃止(障害者等の少額貯蓄非課税制度は継続)
14年末の時点65歳になっており、郵便局や銀行などで非課税の手続きをおこなえば設定している金額の枠内で、平成17年末まで非課税
配当所得 本則は20%の源泉徴収と申告による総合課税
源泉分離課税を選択 35%
1回の支払配当の金額が25万円(年1回50万円)以上のもの又は発行済株式総数の5%以上の株式に係る配当 総合課税(20%の源泉徴収)
発行済株式総数の5%未満の株式に係る配当で1回の支払配当の金額が25万円(年1回50万円)未満のもの 源泉分離選択課税(35%の源泉徴収):住民税は総合課税
少額配当申告不要制度 1回の支払配当の金額が5万円(年1回10万円)以下のもの 確定申告不要(20%の源泉徴収) :住民税非課税
(2)株式等のキャピタル・ゲイン課税
表 株式譲渡益課税の沿革
株 式 譲 渡 益 課 税 | 有価証券取引税 | |||||||||||||||||||||||||
昭和28年度 |
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平成元年度 |
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平成10年度 |
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平成13年秋 |
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出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/066.htm
昭和28年度の改正 有価証券の譲渡所得非課税
昭和36年 大口の継続取引にかぎって課税
昭和63年4月 政府税制調査会の「税制改革についての中間答申」
株式のキャピタル・ゲインに対する課税方式の改革案
@給与など他の所得と合わせて課税する総合課税(キャピタル・ロスは他の所得から控除)
A譲渡益は他の所得と切り離して一定税率で分離課税(キャピタル・ロスはゲインからのみ控除)
B売却額の一定割合を譲渡益とみなして売却額に一律課税するみなし課税
このうち@Aの課税方式では、納税者番号制が必要となる。
Bみなし課税方式
売却額の5%を譲渡益とみなして20%の税率で課税
1%(=5%×20%)の取引高税、有価証券取引税(株式の税率0.5%)と本質的には変わらない。
表 株式譲渡益課税の概要
区 分 |
概 要 |
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上場株式等
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その他の株式等 | 申告分離課税譲渡益×20%(住民税を含め26%) |
(備考) | 緊急投資優遇措置:13.11.30〜14年末に購入した上場株式等を平成17〜19年に譲渡した場合には、購入額が1,000万円までのものに係る譲渡益は非課税。 |
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/065.htm
(3)国際比較
表 利子所得課税の国際比較
項 目 |
アメリカ |
イギリス |
ドイツ |
フランス |
1.課税方式 |
総合課税 |
総合課税 |
総合課税 |
総合課税と源泉分離課税との選択 |
2.源泉徴収 |
源泉徴収は行わない。ただし、納税者番号を申告しなかった者は30%の税率で源泉徴収される。 |
20%の税率で源泉徴収を行う。 |
30%(転換社債等については25%)の税率で源泉徴収を行う。 |
源泉分離課税を選択した場合、税率は25% |
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/070.htm
表 譲渡益課税の国際比較
アメリカ | イギリス | ドイツ | フランス | ||||
課税方式 | 総合課税 | 総合課税 | 一定のものを除き 非課税
|
申告分離 | |||
税率 | 10〜38.6%+地方税
|
10、20、40% | 20.0〜48.5%+連帯付加税 (税額の5.5%) |
26% | |||
非課税限度等 | なし | 土地等の譲渡益と合わせて7,500ポンド(約130万円)が非課税 | 他の投機売買所得と合わせて512ユーロ (約5万円)が免税 (超えれば全額が課税) |
年間の売値7,600ユーロ(約82万円)が免税 (超えれば全額が課税) |
|||
譲渡損失の繰越控除 | 可(無制限) | 可(無制限) | 不可 | 可(5年) | |||
譲渡損失の損益通算 | 可
|
不可 | 不可 | 不可 |
(注 |
)アメリカのニューヨーク市の場合28%程度(12ヶ月超保有の場合) |
(備 |
考)為替レートは、1ドル=122円、1ポンド=174円、1ユーロ=108円。 |
出所:財務省ホームページ
日 本 | ア メ リ カ | イ ギ リ ス | ド イ ツ | フ ラ ン ス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
法人段階 | 法人税率 30% | 法人税率 35% (最高税率) |
法人税率 30% | 法人税率 25% [税額の5.5%の付加税] |
法人税率 33
1/3% [税額の3%の付加税] |
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個人株主段階における法人税と所得税の調整方式 | 部分的調整(配当税額控除方式) | 全く調整しない | 部分的調整 (インピュテーション方式) | 部分的調整(受取配当の1/2を株主の課税所得に算入) | 完全調整 (インピュテーション方式) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
法人間配当 |
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|
全額益金不算入 | 全額益金不算入 | 原則インピュテーション方式 (部分的に調整) |
(注)1 |
. 日本では、国税と同様に地方税において配当税額控除方式により、個人住民税と法人住民税の調整を部分的に行っている(控除率:課税総所得1千万円以下 2.8%、1千万円超 1.4%)。 |
2 | .インピュテーション方式とは、受取配当のほか、受取配当に対応する法人税額の全部又は一部に相当する金額を個人株主の所得に加算し、この所得を基礎として算出された所得税額から、この加算した受取配当に対応する法人税の金額を控除する方式のことを言う。 |
3 | .フランスにおいては、法人税付加税が課されているが、インピュテーション方式による計算上、付加税分については調整が行われない。 |
出所:財務省ホームページ
(4)資産所得課税の改革
*貯蓄優遇から投資優遇へ
老人マル優の段階的廃止→高齢者=弱者?
参考資料:林宏昭・橋本恭之「高齢者マル優の廃止と利子所得の総合課税化について」『関西大学経済論集』第49巻3号,1999年
長期保有株式の譲渡益非課税制度
*2元的所得税論
→所得を勤労所得と資本所得の2種類の所得に集約し、資本所得に対しては、低率の分離課税を適用。損益通算は資本所得内で。
北欧諸国で採用。
参考資料:財務省ホームページ二元的所得税の理論的仕組み(PDFファイル)
総合課税 VS 2元的所得税論
公平 VS 効率
*納税者番号制度
国 名 | 番号の種類 | 適用業務 | 付番者(数) |
|
付番維持 管理機関 |
付番の根拠法 | 実施年 | ||||||
アメリカ | 社会保障 番号(9桁) |
税務、社会保険、年金、兵役等 | 約3億8,100万人 (累積数) (1997年現在) |
2億8,142 万人 |
社会保障庁 | 社会保障法 | 1962年 | ||||||
カナダ | 社会保険 番号(9桁) |
税務、失業保険、年金等 | 約3,153万人 (累積数) (1997年現在) |
3,075 |
人的資源 開発省 |
失業保険法 | 1967年 | ||||||
デンマーク | 統一コード (10桁) |
税務、年金、住民管理、諸統計、教育等 | 全住民 |
534 |
内務省中央 個人登録局 |
個人登録に関する法律 | 1968年 | ||||||
スウェーデン | 統一コード (10桁) |
税務、社会保険、住民管理、諸統計、教育等 | 全住民 |
887 |
国税庁 | 人口登録制度に関する勅令・政令 | 1968年 | ||||||
ノルウェー | 統一コード (11桁) |
税務、社会保険、諸統計、教育、選挙等 | 全住民 |
449 |
登録庁 | 人口登録制度に関する法律 | 1970年 | ||||||
韓 国 | 住民登録 番号(13桁) |
税務、社会保障、旅券の発給等 | 全住民 |
4,727 |
内務部 | 住民登録法 | 1993年 | ||||||
シンガポール | 統一コード (1文字 8数字) |
税務、年金、車両登録等 | 全住民 |
402 |
内務省 国家登録局 |
国家登録法 | 1995年 | ||||||
イタリア | 統一コード (文字及び 数字の 組合せ) |
税務、諸許認可等 | 約5,000万人 (1997年現在) |
5,753 |
財政省 |
納税者登録及び納税義務者の納税番号に関する大統領令 | 1977年 | ||||||
オーストラリア | 統一コード (9桁) |
税務、所得保障等 | 約1,250万人 (1996年現在) |
1,916 |
国税庁 | 1988年度税制改正法 | 1989年 |
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/187.htm
納税者番号制度についてのその他資料http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/nouzei.htm
2.相続税・贈与税
(1)税制改正の推移
昭和25年 「累積取得税」 相続や贈与があるたびに取得した財産の累積額に
対して累進税率を適用し、算出された税額から過
去に支払った税額を控除して納税額を決定
28年 相続税法改正において、主として財産取得に関する公的記録の維持
が困難であるという税務行政上の理由から累積課税が完全に廃止さ
れた。
33年の税制改正
遺産税的な要素を加味した取得税体系である法定相続分課税制度
(遺産総額から導かれる課税価額の合計額から基礎控除を差し引いたもの
を、法定相続人が民法に規定される相続分を取得した場合を想定して相
続税額を算出し、この総額について各相続人の実際の財産取得額に応じ
て按分)
養子縁組の増加によって節税
昭和58年創設 「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」
被相続人等が事業または居住の用に供していた宅地等のうち200m2
まで相続税の評価額は一定割合 全部が事業用の場合は60%
全部が住居用の場合は70%
事業居住併用の場合事業用の部分は60%
居住用の部分は70%
税制改正 法定相続人に含めることのできる養子を、実子相続人のある場
合には被相続人の養子のうち1人を、実子相続人がいない場合
には養子のうち2人までに制限している。
「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」
小規模宅地に乗ずべき一定割合を、事業用宅地については40%に、
居住用宅地については50%に
表 近年における相続税の主な改正
橋本恭之『税制改革シミュレーション入門』税務経理協会p87表5−2参照
表1 近年における相続・贈与税改正の推移
相続税の主な改正 |
贈与税の主な改正 |
||
抜本的税制改正前 |
基礎控除2,000万円 |
基礎控除 60万円 最低税率10%(課税価格50万円以下) 最高税率75%(課税価格7000万円超) 住宅取得資金の贈与の特例 300万円まで非課税 |
|
抜本税制改革後 (昭和63年1月1日以降適用) |
基礎控除4000万円 |
基礎控除 60万円 |
|
平成4年度改正 |
基礎控除4800万円 |
基礎控除 60万円 |
|
平成6年度改正 |
基礎控除5000万円 |
同上 |
|
平成13年度改正(現行) |
小規模宅地の課税の特例 事業用400m2以下(平成11年〜)80%減額 居住用等240m2以下 80%減額 |
基礎控除 110万円 住宅取得資金の贈与の特例 550万円まで非課税
|
(2)相続税・贈与税の仕組み
[相続税の仕組み]
step1.
正味の遺産額=遺産総額−債務・葬式費用−非課税財産+相続前3年前の贈与
step2.
課税遺産額=正味の遺産額−相続税の基礎控除(5,000万円+1000万円×法定相続人数)
step3.法定相続分に課税遺産額を分割
@独身の場合
父1/2 母1/2
A配偶者と子供がいるとき
配偶者1/2 子供全員で1/2を等分
B子供がなく、配偶者と両親がいるとき
配偶者2/3 両親で1/3を等分
C配偶者がいて両親、子供がなく、被相続人の兄弟がいるとき
配偶者3/4 兄弟全員で1/4を等分
step4.法定相続分に対応する相続税を計算
step5.相続税額の按分
相続税総額を各相続人の実際相続額比率で按分
step6.税額控除
配偶者の税額控除=相続税総額×課税相続分に占める配偶者のシェア
未成年者控除
贈与税額控除
相続税の計算例:橋本恭之『税制改革シミュレーション入門』税務経理協会p89図5-3参照
[贈与税の仕組み]
一年間の贈与財産額−基礎控除(110万円)
配偶者の特例
婚姻期間が20年以上の配偶者から、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与を受けた場合、
その年分の贈与税の課税価格から2,000万円までの金額を控除。
*住宅取得資金の贈与の特例
550万円まで非課税 110万円×5=550万円
(3)国際比較
区分 | 日 本 | ア メ リ カ | イ ギリ ス | ド イ ツ | フ ラ ン ス |
課税方式 |
遺産所得課税方式 (法定相続分課税方式) |
遺産課税方式 |
遺産課税方式 |
遺産取得課税方式 |
遺産所得課税方式 |
課税客体 |
相続又は遺贈により取得した財産 |
被相続人の死亡時ににその所有に属していたすべての財産 | 被相続人の死亡時に にその所有に属して いたすべての財産 |
相続又は遺贈により取得した財産 |
相続又は遺贈により取 得した財産 |
納税義務者 |
相続人又は 受遺者 |
遺言執行者又は 遺産管理人 |
遺言執行者又は 遺産管理人 |
相続人又は受遺者 |
相続人又は受遺者 |
国税収入に占める相続税収の割合 | 4.3% |
1.8% |
1.3% |
0.6% |
1.7% |
課税最低限 (配偶者と子3人) ( 子3人 ) |
9,000万円 8,000万円 |
1億6,250万円 8,125万円 |
9,245万円 4,623万円 |
1億7,281万円 8,641万円 |
3,780万円 1,890万円 |
最低税率 | 10% | 18% | 40% |
7% | 5% |
最高税率 | 70% | 55% | 30% | 40% | |
税率の刻み数 | 9 | 18 | 1 | 7 | 7 |
(4)相続・贈与税の問題点
*相続税の負担水準
図 市街地価格指数と相続税の課税割合の推移
出所:不動産研究所「市街地価格指数」、『国税庁統計年報書』各年版より作成
*法定相続分課税制度の問題
遺産取得税(inheritance tax)方式 継承者の取得財産に課税
遺産を分散すればするほど課税額が少なくなるので富の分散へのインセンティブをもつ
遺産税(estate tax)方式 被相続人の遺産に課税
*贈与による負担回避
年間110万円までの贈与は非課税
*金融資産との負担のアンバランス
小規模宅地の特例
*農地の問題
相続税の納税猶予制度
昭和50年の相続税法改正 農地の細分化防止
農業投資価格 「その地域において恒久的に農業の用に供されるべき農地等として自由な取引が行われるものとした場合における
その取引において、通常成立すると認められる価格」
農業投資価格を超える農地の評価額に課税する相続税を、相続人の農業の 継続を条件として納税猶予
農地の相続人が死亡時までないしは20年間農業を継続した場合には、納税猶予が免除され、納税の義務は消滅する。
(5)相続税と贈与税の一本化
贈与税の課税方式の類型
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課税方法の概要 |
特 色 |
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一生累積 |
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一定期間 |
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暦年課税 |
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出所:政府税制調査会「わが国税制の現状と課題−21世紀に向けた国民の参加と選択−」(平成12年7月14日)