いま、日本経済は、深刻な不況に苦しんでいる。近年、不況対策として所得税減税がおこなわれてきたことは皆さんもご存じなことと思います。財政学は、このように身近な経済問題を対象とするだけに、比較的取り組みやすいと考えられる。しかし、所得税減税ひとつをとっても、同じ減税規模であっても、どの程度の所得の人々を対象とするかによって、人々の所得分配や消費にもたらす影響は違ってくる。また、一時的な減税をおこなっても、人々が将来の増税を予測することで、所得税減税の効果が打ち消されてしまうという意見もある。所得税減税が、人々の所得分配に及ぼす影響を調べるためには、所得税制に関する正確な知識が要求される。所得税の減税が、個人消費を拡大するか否かについて考えるためには、様々な経済理論の知識が要求される。したがって、応用経済学としての財政学の学習には、現実の財政制度の理解に加えて、基礎となるマクロ経済学、ミクロ経済学の土台が築かれていなければならない。「学問に王道なし」というように、本格的に財政学を学ぶには、マクロやミクロの学習を終えてからにして欲しい所である。
とはいえ、なるべくなら最小限の努力でそれなりの成果をあげたいというのが大多数の学生諸君の本音であろう。そこでまず、財政学を学ぶうえで最低限要求される前提条件からみていこう。
◆財政学学習の前提条件
ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学の教科書と比べると、財政学の教科書では、出でくる数式やグラフの数ははるかに少なく、必要とされる数学のレベルもそれほど高くないことがわかる。とりあえずは、簡単な連立1次方程式が解けて、1次関数のグラフが描ければ十分である。
ミクロ経済学の知識としては、入門の段階では消費者の理論を勉強して欲しい。ほとんどの財政学の教科書において、無差別曲線による図解分析にお目にかかることになるからである。財政学の教科書に、無差別曲線そのものについての説明が書かれているケースは、皆無に近い。そこで、ミクロ経済学の教科書を少なくとも1冊は買って欲しい。お薦めの教科書としては、伊藤元重『入門ミクロ経済学』日本評論社、西村和雄『ミクロ経済学入門』が挙げられよう。数学嫌いの読者には前者が、本格的にミクロ経済学も勉強したいという読者には後者がよいだろう。
マクロ経済学の知識としては、国民所得の概念、国民所得の決定理論、ISーLM分析などを勉強して欲しい。ミクロ経済学とちがって、これらの概念については、最近の財政学の教科書ならば、かなり詳しく解説されている。とはいえ、紙数の関係でかなり説明が省略されているので、より学習を深めるためにマクロ経済学の教科書も買って欲しい。マクロ経済学の教科書のベストセラーとしては、中谷巌著『入門マクロ経済学』日本評論社がある。さらに、その問題集として大竹文雄著『スタディガイド入門経済学』日本評論社が公務員試験の学習に最適であろう。
◆財政学とは
以上のように財政学を学ぶ前に要求されることはかなり多い。これは、現代の財政学が公共経済学やマクロ経済学などの隣接分野での研究成果を取り入れて発展してきたためである。歴史的にみると、財政学を英語ではPublic
Finance(直訳すると公共的資金調達)と言うように、財政学は政府活動に必要な資金を如何にして調達するかを中心的な課題として発展してきた。しかし、現代の経済体制が純粋な資本主義体制から政府部門の役割が拡大した混合経済体制へと移行するにともない、財政学の研究対象も拡大してきたのである。現代では、財政学は公共的資金調達の手段としての租税や公債のみならず、調達した資金をどのような分野に振り向けるべきかという歳出の側面にも関心が払われており、政府の経済活動一般が研究対象となっている。
この政府の経済活動としての財政の果たすべき役割は大別すると3つに分類される。すなわち、「資源配分機能」「所得再分配機能」「経済安定機能」である。
財政の資源配分機能とは、民間では全く供給することができないか、あるいは供給不足を生じるような財・サービスを公共部門が提供することを意味している。
筆者がかって勤務していた桃山学院大学は、国道309号線と310号線に挟まれた位置にある(桃山学院大学は平成7年4月に移転しました・・・)。この国道は、まさに国の道路であり、公共部門によって提供され、その建設費用は税金によって賄われている。したがって、道路を利用する度に料金を請求されるわけではない。一方、通学途中に、マクドナルドのハンバーガーを食べようと思えば、料金を支払わねばならない。国道の費用がハンバーガーと同様に直接利用者から徴収できないのは、国道が一旦供給されるとすべての人々が同時に利用することができ、しかも、その利用者たちから料金を徴収することが難しいからである。江戸時代のように関所をつくって歩行者からも通行料を徴収すればよいが、日本国中の国道に関所を設けて番人を置くと膨大な人件費が必要になるだろう。国防、警察サービスなどの費用に至っては、直接利用者から料金を回収することは、不可能である。
したがって、純粋公共財と呼ばれる警察サービス、一般国道などの財・サービスは、社会的に必要とされるにもかかわらず、民間では供給されないので、公共部門から供給されることになる。
民間部門でも供給可能であっても、市場にまかせておいては十分に供給されないために公共部門によって提供あるいは、補助金が支出されるケースがある。大学教育がその典型である。数多くの学生諸君が私学に通っている。私学の経営は、学生の授業料に加えて、国からの補助金で成り立っている。私学の経営に国から補助金が交付されるのは、大学教育にその利益が直接の消費者以外にも発生する外部効果が存在すると考えられるからである。すなわち、大学教育を受けることで学生諸君のさまざまな能力が向上し、その能力を社会で発揮することで、教育を受けた本人のみならず、社会全体の利益に寄与することが期待されているのである。
また、民間企業によって供給されているが、政府によって価格統制がおこなわれているケースもある。電力会社やガス会社は、政府の許可なしに、料金を勝手に引き上げることはできない。電気やガスを供給するには、膨大な初期投資が必要とされるが、一度設備をつくれば新たに必要となる費用は少ない。このような費用逓減型産業では、ある程度まとまった規模の設備の方が効率的な生産がおこなえるため、地域独占が認められている。そこで独占による弊害を防ぐために政府により価格統制がおこなわれるのである。
財政の所得再分配機能とは、市場経済における個人の能力の格差、教育機会の格差、相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差を、公共部門が是正することを意味する。
個人の能力の格差により発生する所得の格差は、税制と社会保障給付によって是正される。わが国の所得税制は、超過累進税率表のもとで課税されている。これは、所得から所得控除と呼ばれる税金をかけない部分を差し引いたものである課税所得に対して、330万円以下の部分に10%、330万円超900万円以下の部分に20%というように、段階的に税率を引き上げていくシステムである。この累進課税のもとでは、所得が高くなるにしたがって、税負担率が上昇することになる。一方、社会保障給付として、低所得者には最低限の生活を保証するために生活保護が支給されている。このような税制や社会保障給付を通じた所得再分配は、現在の先進諸国で一般的におこなわれていることである。ただし、どの程度まで所得再分配をおこなうかは、公平に関する価値判断にゆだねられることになる。公平に関する考え方としては、最大多数の最大の幸福を達成しようとする功利主義的な基準や、社会で最も恵まれない人の厚生を最大化しようとするロールズ基準などがある。いずれにしても、より所得の平等な社会が望ましいというのが一般的な意見と言えるだろう。しかし、あまり所得再分配を強化すると低所得者は、自分の能力以上の所得を保証されるために働かなくなり、高所得者は、高い税率をかけられるために勤労意欲を阻害されることになる。 結果として、完全な所得の平等を達成しようとすると、いわゆる貧困の平等となってしまう。
また、所得再分配政策をおこなうには、国民全員の所得水準を正確に把握することが前提条件となる。しかし、わが国では、クロヨンと呼ばれる業種間の所得捕捉率の格差の問題が存在している。クロヨンとは、サラリーマンは所得の9割を税務署に把握され、事業所得者は所得の6割、農業所得者は所得の4割しか把握されていないという説から名付けられた。このような所得捕捉率の格差の存在は、いくつかの実証研究によって程度の差はあるものの大方の専門家が認めるところである。
教育機会の格差は、義務教育による初等、中等教育の無償提供や、高等教育に対する奨学金などで是正されることになる。わが国は、学歴社会であると言われる。これは、ある意味では個人の努力次第でより多くの所得や高い社会的地位を占めることができることになるので、公正な社会であると言える。奨学金の提供は、親の所得水準にかかわりなく、勉学の意志を持つ者に高等教育を受ける機会を提供することになる。ところが、この奨学金制度においてもサラリーマン家庭は不利な立場におかれている。奨学金には、所得制限が設定されているが、その基準となる所得の捕捉率に格差が存在するのである。
相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差は、相続税や贈与税によって是正されることになる。わが国では、相続税、贈与税が極めて高く、一般のサラリーマン家庭でも相続税の心配をしている人が多い。また、バブルによる地価高騰に伴い、近年相続税・贈与税の減税がおこなわれている。しかし、現実には相続税減税前の段階でさえ、相続税が課税されるケースはまれであった。死亡件数に占める課税件数の割合は、1987年でも7.9%にすぎない。1988年に地価高騰を理由に大幅な相続税の減税がおこなわれたため、1988年では4.6%に課税割合が低下している。これは、相続税の課税最低限がかなり高い水準に設定されているためである。1994年現在、相続税の課税最低限は、基礎控除が4800万円でさらに法定相続人一人につき950万円の控除が認められる。したがって、夫婦子供2人の4人家族の夫が死亡した場合なら7650万円までは、相続税が課税されることはない。さらに居住用の宅地を残した場合には、200uまでの部分が60%減額されて評価されることになっている。このため、普通のサラリーマンが家を一軒と多少の金融資産を残したとしてもまず課税されることはない。しかし、最近の税制改正では、相続税の減税のみが主張され、結果として世代間の相続にともなう資産格差の是正という相続税本来の機能は軽視されている(1999年現在の相続税はさらに減税されてます。詳細は各自調べてくださいね・・・)。
財政の経済安定機能とは、不況の時に生じる失業や好況のときに生じるインフレに対処するために、公共部門が果たす機能を意味する。
財政の経済安定機能には、財政制度そのものが内包する自動安定化装置(ビルトインスタビライザー)と公債発行による公共投資や減税といった裁量的な財政政策(フィスカルポリシー)の2つがある。前者は、好況時においては法人税や累進的な所得税が自然増収をもたらすことによって景気を沈静化する役割を果たし、逆に不況期には税収が落ち込むことで税引後の所得が増加し、景気を拡大する役割を果たすというものである。後者は、いままさにバブル崩壊後の日本経済を立て直すために、産業界、マスコミが要求している政策である。
先頃、細川首相は、景気対策としての6兆円規模の所得税・住民税などの減税と3年後の税率7%の国民福祉税の導入を発表し、連立与党の足並みの乱れから一夜にして撤回した。この幻と終わった税制改革は、景気対策の観点からのみ考えると次のように評価できよう。景気対策の手段としては、減税と公共投資がある。減税や公共投資をおこなった場合、その景気拡大効果は減税された人や公共投資を受注したゼネコンだけでなく、副次的な波及効果がさまざまな経路を通じて生じることになる。たとえば、所得税を減税すれば、税引後の所得が増えることにより、百貨店に買い物に行き、その百貨店の売り上げが伸びれば、百貨店の従業員のボーナスが増えることになり、その従業員がさらに消費を増加されるというように、波及効果が無限に続くことになる。公共投資の場合には、道路や港湾施設の建設をゼネコン各社が受注すると、ゼネコン各社の売り上げが増加し、ゼネコン各社の従業員のボーナスが増加し、消費が拡大する。さらに建設現場の労働者が付近の食堂で昼食をとると食堂の売り上げも増加する。したがって、やはり波及効果が無限に続くことになる。このような波及効果を合計した効果をマクロ経済学では乗数効果と呼んでいる。減税と公共投資の乗数効果を比較すると減税の方が小さくなることが知られている。これは減税は、貯蓄の増加に一部が回されるためである。その意味では、今回の所得税の減税は、景気対策としては効果が小さいことになる。さらに、最近のマクロ経済学の議論では、将来の増税を前提とした一時的な減税政策は、景気対策としては無効であるという見方もある。
以上のように、財政の主な役割を簡単に見てきたが、これ以外にも学ぶべきことは多い、およそ財政に関する諸問題はすべて研究対象になりうると考えてよい。したがって、財政学を学ぶ上では、何よりもまず年金や税制改革、地方分権などの現実の政策課題に興味を持ち、常に新聞や雑誌などで最新の情報を手に入れて、政府刊行物により、財政に関する統計や財政制度に関する正確な知識を身につけて欲しい。
財政学の入門書
大学における財政学の講義においては、従来の財政学が伝統的に扱ってきた租税論、公債論、経費論を中心とする場合や、近年のマクロ経済学の成果を取り入れた財政政策の理論を含める場合、予算決定における官僚や政治家の役割を分析する政治経済学を含める場合、などの違いがあり、それぞれに応じて採用される教科書も異なってくる。したがって、読者諸君の財政学学習の目的が大学の単位取得のみである場合には、担当者の指定した教科書を購入すべきである。
しかし、財政学は公務員試験をめざす人々の必須科目となっている。そこで、公務員試験向けの手軽な入門書として次の2冊を挙げておこう。
(1)本間正明・宮島洋『3日間の経済学財政入門』JICC出版、。
(2)藤田晴著『財政』日本経済新聞社、日経文庫、1980年。
(1)の巻末には財政のキーワードとその解説も掲載されている。(2)は、手軽な文庫サイズの入門書であり、通勤・通学電車の中でも読める。
公務員試験対策には、現実の財政の現状を示す統計データの把握も不可欠である。統計データの把握には、
(3)大蔵省官房企画調査課長編『図説日本の財政』(毎年度刊行)、東洋経済新報社
が有益だろう。
次に、公務員試験対策としての参考書には
(4)橋本徹・山本栄一・林宜嗣・中井英雄『基本財政学[第3版]』有斐閣、1994年。
(5)能勢哲也『現代財政学』有斐閣、1986年。
(6)山田雅俊・中井英雄・岩根徹『財政学』有斐閣、1992年。
(7)井堀利宏・牛丸聡『基本テキストC財政』東洋経済新報社、1992年。
をお薦めする。(4)は、財政学の伝統的なスタイルにしたがって予算制度、政府支出、租税制度、公債の問題がとりあげられている。さらに地方財政の説明も詳しいので、地方公務員をめざす人に好適である。巻末の練習問題も試験対策に役立つ。(5)は、(4)よりも解説が詳細で、財政学説やミクロ経済学やマクロ経済学の応用としての財政理論の解説が加えられている。(6)は、最適課税論や公共選択論などの最新の理論から、地方分権、税制改革、年金改革などの身近な財政問題まで幅広く取り扱われている。(7)は、理論的な枠組みを踏まえた上で近年における日本の財政問題を平易に解説・分析したテキストであり、各章に設けられたその章のまとめが大変便利である。
次に、税理士をめざすために大学院への進学を考えている人や、大学の財政学のゼミナールで卒論を書こうとしている人など、より本格的に財政学に取り組もうとする人々に読んで欲しい文献を挙げておこう。
(8)本間正明『ゼミナール現代財政入門』日本経済新聞社、1990年。
(9)貝塚啓明『財政学』東京大学出版会、1988年。
(10)Musgrave,R.A.and P.B.Musgrave,Public
Finance in Theory and Practice,5th ed., McGraw-Hill.(木下和夫監修大阪大学財政研究会訳『マスグレイブ財政学−理論・制度・政治−』T,U,V,有斐閣,1983年〜1984年)
(8)は、税制の問題や財政赤字の問題に加えて、教育問題、安全保障、農業問題など従来の財政学では取り上げられることがなかった問題をも幅広くあつかっており、現実の財政に関する政策課題を検討するには最適の文献といえる。(9)は、ミクロ・マクロ経済学の基礎をマスターした学生や社会人を対象として書かれている。(10)は、アメリカを代表する財政学者による教科書である。
さらに、高度な内容を含む財政全般の文献を挙げておこう。
(11)井堀利宏『財政学』新世社、1990年。
(12)井堀利宏『現代日本財政論』有斐閣、1984年。
(13)大阪大学財政研究会編『現代財政−理論と政策−』創文社、1985年。
(14)野口悠紀雄『公共政策』(モダン・エコノミックス)、岩波書店、1984年。
(15)貝塚啓明・石弘光・野口悠紀雄・宮島洋・本間正明編『シリーズ現代財政(全4冊)』有斐閣、1991年。
(16)Brown,C.V. & P.M.Jackson, Public
Sector Economics, Martin Robertson
& Company, Ltd.1978.(大川政三・佐藤博監訳『公共部門の経済学』マグロウヒル好学社、1982年)
(11)は、ミクロ経済学の基礎をマスターした読者が財政理論を学習するのに役立つ。(16)は、図解による明解な解説で、最適課税論などの財政理論のエッセンスを学ぶのに適している。(12)は、資産課税に関する理論的分析が詳しい。(13)は、財政学の最近の研究成果が要領よく展望されている。(14)は、年金・医療などの支出面の理論的解説が充実している。(15)は、1990年代の日本財政の直面している課題にそれぞれの分野の専門家が取り組んだ全4冊のシーリーズであり、広く財政問題を考える際の指針として役立つ。
次に、財政学が中心的課題としてきた租税に関する参考文献を挙げておこう。
(17)本間正明・跡田直澄編『税制改革の実証分析』東洋経済新報社、1989年。
(18)野口悠紀雄『現代日本の税制』有斐閣、1989年。
(19)藤田晴『所得税の基礎理論』中央経済社、1992年。
(20)石弘光『税制のリストラクチャリング』東洋経済新報社、1990年。
(21)八田達夫『直接税改革』日本経済新聞社、1989年。
(17)は、消費税導入と所得税の減税を柱とする竹下税制改革に関する実証分析をおこなっている。(18)は、土地問題に関する叙述が充実している。(19)は、所得税の制度的な骨組みと戦後の税制の変遷が詳しく説明されており、税理士をめざず
人には特に有益である。(20)は、間接税改革を中心とする税制の再構築を主張している。一方、(21)は、直接税中心の税制改革を唱えている。税制改革の方向性を検討する際には、このような直接税中心の税制改革論と消費税への移行を主張する議論の双方を比較すると学習に役立つ。
財政学を学ぶ上では、これらの文献に加えて、制度面での理解や現実の財政の現状を示す統計データの把握が不可欠である。
財政関係の統計データの把握には、
(22)大蔵省官房企画調査課長編『図説日本の財政』(毎年度刊行)、東洋経済新報社
(23)『財政金融統計月報(租税特集)』
(24)『国税庁統計年報書』
が必携資料です。(22)は、豊富な統計資料により、最新の日本財政の現状を捉えるのに有益です。(23)には、わが国の税制の仕組みと歴史的推移が掲載されており、極めて有用です。(24)では、『財政金融統計月報(租税特集)』に掲載されていない細かい税目ごとの税収額(たとえば物品税の課税品目毎の税収額)が入手できます。
上記の文章は、橋本恭之「財政学」(特集スタディガイド経済学)『経済セミナー』472,1994年を加筆修正したものです。かなり前に書いた文章なので、参考文献リストが少し古いけどご容赦のほどを・・・
科目別ガイダンス「財政学」 橋本恭之
◆財政学の魅力
いま、平成不況の中で大学卒の就職は大変厳しい状況にあります。このような状況においては、自らの付加価値を高めることが就職戦線を勝ち抜く秘訣となるでしょう。不況時には、安定的な職業としての公務員が人気を集めます。財政学は、各種の公務員試験における重点科目です。また、税理士を目指す人にとっても、財政学は必須科目と言えます。一般の企業に就職を希望している人にとっても、財政学は極めて魅力的な学問です。近年の企業の採用時の面接においては、これまで以上に大学で何を学んだこと、特に4年間の集大成である卒業論文についての質問をされるケースが増えています。財政学ほど、卒業論文のテーマに困らない学問はありません。消費税率の引き上げ、年金の支給開始年齢の引き上げなどの新聞紙上で話題となっている問題を取り上げることで、企業の面接担当者に時事問題にも精通していることをアピールできるでしょう。
さらに、社会生活を営むうえでも財政学の知識は、確実に皆さんのお役に立ちます。特に、税金や年金制度を学ぶことは、これからの人生設計をおこなう際には不可欠となるでしょう。特に、税金の知識は、人生の様々な局面で役立ちます。いま結婚を考えている人は、妻となる人が家事手伝いの人なら12月に挙式することをお薦めします。妻に所得がない場合、夫の所得税の計算の際には配偶者控除と配偶者特別控除が認められ、税金が安くなります。所得税は、1月から12月までの1年間を対象として課税されるため、12までに結婚すれば、控除が適用されることになります。また、結婚後の出産も12月がお得です。1月に出産した場合と12月に出産した場合では、1年間の養育費にはかなりの差が生じますが、税制上は同様に扱われ、扶養控除の適用額は同じです。また、出産は病気でないために、健康保険が使えず多額に費用がかかりますが、領収書を税務署に提出すれば医療費控除が適用され、税金が安くなります。入院の際に呼んだタクシー代も医療費控除の対象になります。子供ができたら将来に備えて、子供の名義で預金口座を開設しましょう。年間60万円以下ならば、贈与税を支払うことなく、財産を分与することができます。
◆財政学で何を学ぶのか
これで財政学の有用性については、理解して頂けたでしょう。それでは、具体的には財政学では何を学ぶのかを説明しましょう。まず、最初に学ぶのが、政府の経済活動の役割です。政府の経済活動としての財政の果たすべき役割は大別すると、「資源配分機能」「所得再分配機能」「経済安定機能」の3つの分類されます。財政の資源配分機能とは、民間では全く供給することができないか、あるいは供給不足を生じるような財・サービスを公共部門が提供することを意味しています。財政の所得再分配機能とは、市場経済における個人の能力の格差、教育機会の格差、相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差を、公共部門が是正することを意味します。財政の経済安定機能とは、不況の時に生じる失業や好況のときに生じるインフレに対処するために、公共部門が果たす機能を意味します。
このような役割を果たすために、政府はさまざまな形で政府支出をおこなっています。平成7年度の国の一般会計に占める主要経費の割合の中で最も大きいのは、やはり社会保障関係費(19.6%)ですが、何とそれに続くのは国債費(18.6%)になっています。国債費とは、国債の償還および利払いに充てる費用のことです。わが国では、社会保障に使うお金とほぼ同じくらいのお金が過去の借金の返済に充てられていることになります。
政府支出をおこなうための資金は、主として税金によって調達されています。わが国の税体系の特徴は、所得税・法人税などの直接税の比率が高く、消費税のような間接税の比率が高いところにあります。村山内閣のもとで、所得税の減税と1997年4月より消費税の税率を5%に引き上げるという税制改革が先頃おこなわれましたが、この税制改革の目的のひとつが直間比率の是正にあるといえます。直間比率是正論の根拠は、今後予想される高齢化社会における財源を調達する際に、勤労世代に負担を集中させる所得税は、勤労意欲を阻害する恐れがあるというものです。
村山内閣による税制改革の当初の目的は、平成不況からの脱出でした。すでに、平成6年度において6兆規模の所得税・住民税などの減税がおこなわれています。これはまさに財政の経済安定機能を果たすためにとられた裁量的な財政政策といえます。減税をおこなった場合、その景気拡大効果は減税された人だけでなく、副次的な波及効果がさまざまな経路を通じて生じることになります。このような波及効果を合計した効果をマクロ経済学では乗数効果と呼んでいます。ただし、最近のマクロ経済学の議論では、今回のように将来の消費税率の引き上げを前提とした一時的な減税政策は、景気対策としては無効であるという見方もあります。その意味では、経済理論の有用性を確かめるための壮大なる実験がおこなわれたわけであり、4回生の学生諸君には大変興味深い卒論のテーマが提示されたことになります。また、今回の税制改革においては、地方分権化の流れの中で、地方消費税の創設が行われています。これは、消費税のうち1%相当部分を地方消費税とするというものです。各地方団体の提供する公共サービスは、最も住民に身近なものであるにもかかわらず、多くの人の関心はこれまで国の財政にのみ寄せられてきました。地方財政の問題は、これからの財政の大きな課題となるでしょう。
文献案内
一般的な財政学の文献案内は、通常のテキストブックの巻末に掲載されていることが多いので、ここでは、ずばり、公務員、税理士を目指す人への必読文献を紹介しましょう。入門書としては、本間正明・宮島洋『3日間の経済学 財政・入門』JICC出版,1991年が便利です。巻末には財政のキーワードとその解説も掲載されています。公務員試験対策としての参考書には、橋本徹・山本栄一・林宜嗣・中井英雄『基本財政学[第3版]』有斐閣、1994年をお薦めします。地方財政の説明も詳しいので、地方公務員をめざす人に好適です。巻末の練習問題も試験対策に役立つ。税理士をめざす人には、本間正明編『ゼミナール現代財政入門[第2版]』日本経済新聞社、1994年が最適です。近年の税制改革の動きも詳しく解説されています。この本では、教育問題、安全保障、農業問題なども幅広くあつかっており、卒論の題材を検討中の学生諸君にもお薦めします。
1.次の文と表の( ア )から( コ )に入れるのに最も適当な語句を、解答欄に記入しなさい。(各4点)
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この式を整理すると
a−bT+i0+G+i1(M-m0)/m2=(1-b)Y+(i1m1)/m2・Y
a−bT+i0+G+i1(M-m0)/m2={(1-b)+(i1m1)/m2}Y
Y=1/{(1-b)+(i1m1)/m2}・[a−bT+i0+G+i1(M-m0)/m2] 均衡国民所得の決定式
となります。この均衡国民所得の決定式に数値例を代入します。
Y=1/{(1-0.8)+(2×0.3)/9}・[20-0.8×20+100+20+2×(30-30)/9]
Y=1/(0.2+1/15)・[20-16+100+20]=3.75×124=465兆円
となります。
(4)これもサービス問題です。
IS曲線とは、財(or商品)市場を均衡させるような所得と利子率の組み合わせである。
今年度の試験問題を公開します。PDF形式になっています。表示するにはアクロバットリーダーが必要です。持っていない人はココからソフトをダウンロードしてインストールすれば読めます。
1999年度の問題は、財政学の知識がほとんどなくてもミクロ経済学とマクロ経済学についてある程度の知識があれば十分対応できるものとなっていました。2000年度は、傾向を少し変えようと考えています。公務員試験での財政に関する頻出問題を出す予定です。2000年度に履修予定の方は、公務員試験向けの問題集を解いておくことをお勧めします。どのような勉強をすべきかは、財政学のガイダンスも参考にしてください。
なお実質不合格率は、2年:10.9%、3年:18.05%、4年:23.9%でした。上級生ほど不合格者が多くなってます。名目合格率は66%です。かなり欠席者がいますので。実質合格率は86.3%になりました。
問題1
タミマカサスヒヌテチ
メマヤヌヤキシセツハ
フシソエイ
問題2
0.6 0.4 240 1.43 0.86
別紙の解答欄へ記入すること。なお同じ記号を2回以上使ってもよい。
1.次の( 1 )〜( 15 )に入れるのに最も適当な語句を下記の語群から選び、その記号を解答欄に記入しなさい。
政府の経済活動としての財政の果たすべき役割は大別すると3つに分類される。すなわち、「(1)」「(2)」「(3)」である。
財政の(1)とは、(4)を提供する役割のことである。(4)は、(5)という特徴をもつので、一旦供給されるとすべての人が同時に利用することができる。またその供給に際して、利用者から料金を徴収することが難しい。一方、(6)は、その財を消費した特定の個人に満足感をもたらし、しかも対価を支払わない者の利用を排除することができる。したがって、(6)は市場を通じて供給され、(4)は政府が無償で供給し、その費用は租税の形で(7)に徴収される。民間部門でも供給可能であっても、市場にまかせておいては十分に供給されないために公共部門によって提供あるいは、補助金が支出されるケースもある。私立大学の経営は、学生の授業料に加えて、国からの補助金で成り立っている。私学に補助金が交付されるのは、大学教育による利益が学生本人だけでなく、社会全体の利益に寄与するという正の(8)が存在すると考えられるからである。
財政の(2)とは、市場経済における個人の能力の格差、教育機会の格差、相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差を、公共部門が是正することを意味する。個人の能力の格差により発生する所得の格差は、累進税率表を伴う(9)と社会保障給付によって是正される。教育機会の格差は、義務教育による初等、中等教育の無償提供や、高等教育に対する奨学金などで是正されることになる。相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差は、相続税や贈与税によって是正されることになる。
財政の( 3 )とは、不況の時に生じる(10)や好況のときに生じる(11)に対処するために、公共部門が果たす機能を意味する。財政の( 3 )には、財政制度そのものが内包する(12)と(13)の2つがある。(12)は、好況時においては法人税や累進的な( 9 )が( 14 )をもたらすことによって景気を沈静化する役割を果たし、逆に不況期には税収が落ち込むことで税引後の所得が増加し、景気を拡大する役割を果たすというものである。一方、不況期における(13)として、近年のわが国でも(15)が実施されている。
a. 減税 b.増税 c. ビルト・イン・スタビライザー d.フィスカルポリシー(裁量的財政政策) e.強制的 f.自主的
g.公共財 h.民間財 i.所得税 j.消費税 k.失業 l.インフレ m.経済安定機能 n.所得再分配機能 o.資源配分機能
p.等量消費 q.消費の競合性 r.外部性 s.内部性 t.自然増収
2.次の( 1 )〜( 15 )に入れるのに最も適当な語句を下記の語群から選び、その記号を解答欄に記入しなさい。
景気回復をめざして、わが国では、近年、毎年のように所得税減税や公共投資が実施されてきた。そこでこれらの政策の経済効果を簡単なモデルを用いて分析してみよう。まず、経済は以下のような単純な式で描写されるものとしよう。
Y=C+I+G @
C=a+b(Y−T) A
T=T B
ただし、Yは、国民所得、Iは民間投資、Gは政府支出、Cは消費支出、Tは租税としよう。いま、租税は単純化のために、ある一定額の定額税Tのみが課税されているものとしよう。なお、ここで民間投資は独立的に決まるものとしよう。A式の消費関数は、所得と消費の関係を単純化のために1次関数の形で示したものであり、その切片aは( 1 )、傾きbは( 2 )と呼ばれる。これらの式から均衡国民所得の決定式を求めると
1
Y=─── (a−bT+I+G) C
1-b
が得られる。この均衡国民所得の決定式をつかえば、減税や公共投資の経済効果を分析することができる。いま( 2 )が0.8であるとしよう。公共投資の経済効果を示す政府支出乗数は、( 3 )となり、減税の経済効果を示す減税乗数は、( 4 )となる。すなわち、このモデルのもとでは、減税よりも公共投資の方が景気対策としては効果が( 5 )ことになる。
上記のモデルでは、投資は、独立的に決まると考えたが、一般的には投資は利子率の( 6 )であると考えられる。そこで、投資Iは、利子率をrとおくと
I=d-er D
という形で示されるものとしよう。ただし、dとeは任意の定数である。いま@AB式にD式を加えた( 7 )に関する方程式から、( 7 )を均衡させるような( 8 )と( 9 )の組み合わせを示す( 10 )を導くことができる。
(1-b) a−bT+d+G
r=−─── Y+ ────────── E
e e
このE式は通常、縦軸に( 9 )、横軸に( 8 )をとったとき、右下がりの曲線として描かれることになる。
次に利子率は、貨幣需要と貨幣供給が等しくなるような水準で( 11 )において決定されると考えられる。なお、このときの貨幣供給は実質貨幣供給だと考えられるが、単純化のために物価上昇のない世界を想定しよう。貨幣供給は、中央銀行がコントロールできる政策変数である。一方、貨幣需要は、取引動機による部分と投機的動機による部分から構成されると考えられる。取引動機による貨幣需要は、( 8 )の増加関数、投機的動機による貨幣需要は、( 9 )の減少関数だと考えられる。これらの( 11 )で成立する関係を以下の2つの式に集約しよう。
M=L F
L=kY+(g−hr) G
ただし、Mは貨幣供給、Lは貨幣需要とする。ここで、k、g、hは任意の定数である。kYの部分は、国民所得に一定割合kをかけたものが取引動機による貨幣需要と考えられることを示している。g−hrの部分は、投機的動機による貨幣需要の部分を意味している。gは利子率に依存しない独立的な投資の部分、-hrの部分は利子率が上昇するにつれて投機的な貨幣需要が減少することを意味している。貨幣市場における均衡は、このFG式を同時にみたすような( 8 )と( 9 )の組み合わせとして示される。すなわち、
k (M-g)
r=─Y − ──── H
h h
となる。この式はH式は通常、縦軸に利子率r、横軸に国民所得Yをとったとき、( 12 )と呼ばれる右上がりの曲線として描かれることになる。いま、縦軸に( 9 )、横軸に( 8 )をとったとき、( 10 )が右下がりの曲線、( 12 )が右上がりの曲線として描かれているとしよう。もし、政府が景気対策として税額Tを減少させたならば、( 10 )は( 13 )にシフトする。これにより、( 7 )と( 11 )を同時に均衡させるような均衡国民所得は( 14 )し、均衡利子率も( 14 )する。もし( 12 )が( 15 )な曲線として描かれているようなケースには、政府が景気対策として政府支出を増加したとしても、100%のクラウディング・アウトが発生し、財政政策は無効となろう。
ア.右上方 イ.右下方 ウ.左上方 エ.左下方 オ.上昇 カ.下落 キ.財市場 ク.貨幣市場 ケ.IS曲線 コ.LM曲線
タ.限界消費性向 チ.平均消費性向 ツ.限界貯蓄性向 テ.平均貯蓄性向 ト.国民所得 ナ.利子率 ニ.増加関数
ヌ.減少関数 ネ.垂直 ノ.水平 マ.2 ミ.3 ム.4 メ.5 モ.基礎消費 ヤ.大きい ユ.小さい
3.次の( 1 )〜( 20 )に入れるのに最も適当な語句を下記の語群から選び、その記号を解答欄に記入しなさい。
わが国の財政赤字は、近年急速に拡大してきた。1999年度2次補正後の公債依存度は、43.3%にも達している。その公債発行の内訳は、公共事業等の費用を調達するために発行された(1)が13兆1,660億円、人件費等の経常的な費用を調達するために発行された( 2 )が25兆4,500億円となっている。(3)によると原則として( 2 )の発行は禁止されているので、( 2 )は特例国債とも呼ばれている。この国の借金である国債に加えて、地方団体が発行した地方債を加えた財政赤字は、1999年のGDPの11%にも達している。
このフローでみた財政赤字の増大に伴い、国と地方の債務残高も急速に膨らんできた。2000年度末には国と地方の債務残高を合計すると500兆円を突破しようとしている。このため、1999年度の当初予算では、国債の利払いや償還に充てる費用である( 4 )は19兆8,319億円にも達し、対一般会計比の24.2%を占めることになった。
しかし、この財政赤字の問題は、単に家計の借金と同一視することはできない。国債残高は、一国全体でみれば、国債保有者にとっては資産とみなされるからである。( 5 )派(新正統派)の考え方によれば内国債は、発行時点では国債の自発的な購入者から国への資金移転、償還時点では国から国債の保有者への資金移転がおこなわれるにすぎず、利用可能な資源が変化するわけではない。したがって不況期には積極的に( 2 )を発行して、減税や公共投資による( 6 )を創出すべきだとされる。
一方で、政治経済学的な立場から、( 5 )政策の有効性に疑問を呈したのが( 7 )である。( 5 )的な財政政策は、不況期に( 8 )や公債発行による公共支出の( 9 )を要求し、好況期に( 10 )や公共支出の( 11 )を要求する。( 5 )は、このような経済政策が政治的圧力とは無縁の小数の賢人グループによって実行されるものと考えていた。しかし、( 7 )は、現実の民主主義的な政治過程が( 12 )を考えて行動する政治家によっておこなわれているとした。公共サービスの提供や減税は、国民に直接利益をもたらすために人気のある政策となる。一方、歳出削減や増税は、政治的には不人気な政策となる。したがって、民主主義的な政治過程のもとでは、常に( 13)予算のみが採用されるという政策の非対称性を生じることになる。
( 7 )は、( 5 )政策の有効性を認めつつも民主主義のもとでその政策が安易に乱用される危険性を指摘したわけだが、(14 )に代表される( 15 )は、( 16 )の増加を伴わない財政政策は、無効であるとした。つまり公債発行により政府投資を増大させたとしても公債残高の増大は、資産効果を生じ、民間投資を減少させるという( 17 )を生じるというのである。
このような従来の議論に加えて、最近のマクロ経済学では、家計や企業などの経済主体がおこなう予想の果たす役割が重視されている。たとえば、( 18 )の考え方では、国債の発行が将来の増税をもたらすことを家計が予測するために、その政策の効果は消滅するとされる。さらに、公債による資金調達と租税による資金調達は全く同じ経済効果を持つという( 19 )の「等価定理」を復活させた( 20 )の中立命題も興味深い。等価定理は、家計が生涯の予算制約をたてて行動すると考えれば、その家計が生存中に公債の発行と償還がおこなわれるならば、たとえば発行時点での減税のメリットは将来の償還時点の増税で相殺されるので、生涯の予算制約は不変となり、家計の行動は変化しないというものである。( 20 )は、親と子供の世代の間での遺産相続に着目して等価定理は、公債の発行が生存中におこなわれない場合でも成立することを示した。
ア.フリードマン イ.ケインズ ウ.バロー エ.リカード オ.マルクス カ.アダム・スミス キ.ブキャナン
ク.マネタリスト ケ.合理的期待形成学派 コ.財政法第4条 タ.財政法第5条 チ.財政法第6条
ツ.減税 テ.増税 ト.増大 ナ.削減 ニ.赤字国債 ヌ.建設国債 ネ.有効需要 ノ.有効供給 マ.投票最大化
ミ.利潤最大化 ム.クラウディング・アウト メ.赤字 モ.黒字 ヤ.ビルト・イン・スタビライザー
ユ.国債費 ヨ.国債整理基金 ラ.マネーサプライ
2002年度の財政学後期試験の解答を公表します。問題は経済学会報をみてください。
1.
ええあういえ
2.
水平的公平 垂直的公平 逆進性 支出税
3.
200 600 482 66.4
4.
0.1 338 358 2 1.8 イ
1.
ア イ エ ウ オ カ ケ サ ス セ
2.
400 100 100 600 600
3.
限界消費性向 5 4 大きい(ある、期待できる、高い、大きくなる、得られる、あらわれる、あがる)
4
b d b b b c
Tえうううええうえ
U包括的 未実現 支出 消費 カルドア 直接 最適 ラムゼー 高(大) 低(小)
V0.3 0.7 340 1.67 1.17 え
T. うえあああう
U. 0.4 0.6 125 150 2.5 1.5
V.400 500 100 600 500
100 600 600 売上 仕入
T.次の( 1 )〜( 10 )に入れるのに最も適当な語句を解答欄に記入しなさい。(各3点)
国の予算は、( 1 )会計予算と( 2 )会計予算に大別できます。( 1 )会計は、租税と公債等で資金を調達する( 3 )と社会保障、教育、国防、公共事業、地方財政関係費、国債費などの基本的経費への支出である歳出から構成されています。
2002(平成14)年度( 1 )会計( 4 )予算では、( 3 )では租税及び印紙収入が46兆8,160億円、国の借金である公債収入が30兆円となっていました。歳出では一般歳出が47兆5,472億円、地方( 5 )等交付金が17兆116億円、国債費が16兆6,712億円となっていました。歳出における国債費とは国債の( 6 )と償還に要する費用のことです。地方( 5 )は、一般財源として国から地方に交付される一般補助金です。国は、福祉、教育など一般的な歳出に約48兆円、地方へ約17兆円ほど渡して、過去の借金返済に約17兆円ほど使い、合計では約81兆円のお金を使っていることになります。そのほぼ81兆円のお金は、国民から集めた47兆円ほどの税金と30兆円ほどの借金で賄っていることになりますね。また、( 3 )から公債収入、歳出から国債費を取り除いた収支は、( 7 )バランスと呼ばれています。
( 2 )会計とは、行政能率の向上と会計内容の明確化のために、国が特定の事業を行う場合、あるいは特定の資金を保有してその運用を行う場合に設けられる会計をさします。
( 1 )会計の予算編成は、5月頃からおこなわれます。各省庁がそれぞれ翌年度の予算の見積もりを作成し、財務省に対して8月末までに( 8 )要求を提出します。財務省は各省庁から提出された見積もりを検討して財務省原案をまとめます。これをもとに12月末に政府案が決定されます。政府案は1月下旬には国会に提出され、衆議院、参議院の順番に審議されます。衆議院で可決された予算案は、参議院で30日以内に議決しない場合には自然成立することになっています。国会の審議が紛糾して会計年度の始まる4月に間に合わないときもあります。その場合には( 9 )予算を組んで対応することになります。予算が成立し、会計年度が始まっても年度の途中で経済状況によっては( 10 )予算が組まれることもあります。そこで最初から組まれた予算は、( 4 )予算とも呼ばれます。
U.次の文章を読み、正解の記号を解答欄に記入しなさい(各5点)
(1) 次の文章の中から誤ったものを選択しなさい。
(あ) 政府支出の増加は、乗数効果を持っています。乗数効果は限界消費性向が高いほど小さくなる。
(い)ケインズは、賃金には「下方硬直性」が存在するために市場にまかせていては失業は解消できないと主張し、不況期には、政府が公共事業をおこなうことで「有効需要」を創出すべきだという処方箋を示した。
(う)ビルト・イン・スタビライザーとは景気の自動安定化装置のことである。
(え)IS曲線とは、財市場を均衡させるような国民所得Yと利子率rの組み合わせを示したものである。
(2)次の文章の中から誤ったものを選択しなさい。
(あ)政府支出の増大が国民所得の増大をもたらさず、利子率のみを上昇させてしまう現象は、クラウディング・アウトと呼ぶ。
(い)IS-LMモデルにおいて、財政政策の効果は、IS曲線の傾きとLM曲線の傾きに依存して決まることになります。ケインズ派は、LM曲線が垂直に近いような状態にあると考えて、不況期における財政政策の有効性を主張した。
(う)合理的期待形成の考え方では、公債の発行は、将来の増税をもたらすことを家計が予測するために、その政策の効果は消滅するとされる。
(え)ブキャナンは、現実の民主主義的な政治過程が投票最大化を考えて行動する政治家によっておこなわれていることを前提とすると、政治的には不人気な増税や歳出削減は採用されず、常に赤字予算のみが採用されるという政策の非対称性を生じるおそれがあると指摘した。
(3)大学教育は、民間でも供給できるにもかかわらず、私学においても多額の補助金が投入されています。これは、大学教育による便益がそのサービスをうけた本人だけでなく、社会全体に発生するという?の存在によって正当化されます。?にあてはまる語句を選びなさい。
(あ)競合性 (い)非競合性(う)外部性 (え)内部性(お)排除性
(4)次の文章の中から正しいものを選択しなさい。
(あ)日本の所得税制は、世帯単位課税を基本とし、夫婦共稼ぎの場合には合算課税がおこなわれている。
(い)ブラケット・クリープとは、累進課税制度において税率区分が複数設定されていることをさす。
(う)クロヨンとは、業種間の所得捕捉率の格差を示す語呂合わせである。所得の捕捉率は、サラリーマンは9割、自営業が6割、農業が4割とされる。この数字の由来は、業種ごとの納税者比率に由来する。
(え)日本の所得税制は、個人単位課税を基本としているが、例外的に2分2乗制度が共稼ぎ世帯には適用されている。
(お)日本の所得税制では、インデクセーションとよばれる自動的な物価調整システムが採用されている。
(5)次の文章の中から誤ったものを選択しなさい。
(あ)法人擬制説とは、法人を従業員による集合体とみなす考え方であり、個人所得税と法人税の2重課税の調整を要求することになる。
(い)法人実在説とは、独立の法的人格を認められた実体として捉え、経営者によって運営される独立の意思決定単位であり、法人自体が担税力をもつという考え方である。
(う)法人擬制説とは、法人を個人株主の集合体とみなす考え方であり、個人所得税と法人税の2重課税の調整を要求することになる。
(え)インピューテーション方式とは、仮に法人税がない場合の個人の課税ベースを配当以外の課税所得、課税後配当所得、法人税を加算することで算出し、その課税ベースに累進税率を適用することで所得税額を計算し、法人段階で配当について前払いした税額を差し引くことで最終的な税額を決定するものである。
(6)以下の間接税の類型の中で、日本の消費税はどれに相当するかを選びなさい。
(あ)単段階の小売売上税 (い)単段階の付加価値税 (う)多段階の付加価値税(え) 多段階の取引高税
V.ある経済は、次のようなマクロモデルで記述可能とする。ここで海外との取引は無視し、実質利子率、名目利子率の区別はなく、物価水準を一定とする。以下の設問の答えを解答用紙に記入しなさい。割り切れない場合は小数点以下3 桁めを四捨五入すること(各10点)。
消費関数:C=a+b(Y-T)
投資関数:I=d−er
貨幣需要関数:L=kY+(g−hr)
租税:T=20
政府支出:G=20
貨幣供給:M=30
Y :国民所得 C :消費支出 I:民間投資 L:貨幣需要 r:利子率
(1)上記のモデルのおいて、a=20、b=0.8、d=100、e=2、k=0.3、g=30、h=9という数値例が与えられているとき、限界貯蓄性向の値を求めなさい。
(2)上記のモデルのおいて、a=20、b=0.8、d=100、e=2、k=0.3、g=30、h=9という数値例が与えられているとき、政府が政府支出増大ないし減税という景気対策の実施を検討中であるとしよう。以下の選択肢から正しいものを選択しなさい。
(あ)政府支出増大の方が減税よりも景気拡大効果が大きい。
(い)減税の方が政府支出増大よりも景気拡大効果が大きい。
(う)政府支出増大も減税も景気対策拡大効果は同じになる。
(3)上記のモデルのおいて、a=20、b=0.8、d=100、e=2、k=0.3、g=30、h=9という数値例が与えられているとき、政府が景気対策として政府支出を増加した場合、経済にどのような変化が生じるかを選択しなさい。
(あ)均衡国民所得は減少し、均衡利子率は低下する。
(い)均衡国民所得は減少し、均衡利子率は上昇する。
(う)均衡国民所得は増加し、均衡利子率は低下する。
(え)均衡国民所得は増加し、均衡利子率は上昇する。
(お)均衡国民所得は変化せず、均衡利子率のみが上昇する
(か)均衡国民所得は変化せず、均衡利子率のみが低下する
(4)上記のモデルのおいて、 a=20、b=0.8、d=100、e=2、k=0.3、g=0、h=0という数値例が与えられているとき、政府が景気対策として政府支出を増加した場合、経済にどのような変化が生じるかを選択しなさい。
(あ)均衡国民所得は減少し、均衡利子率は低下する。
(い)均衡国民所得は減少し、均衡利子率は上昇する。
(う)均衡国民所得は増加し、均衡利子率は低下する。
(え)均衡国民所得は増加し、均衡利子率は上昇する。
(お)均衡国民所得は変化せず、均衡利子率のみが上昇する
(か)均衡国民所得は変化せず、均衡利子率のみが低下する
T 一般 特別 歳入 当初 交付税 利払い プライマリー 概算 暫定 補正
U あいううあう
V 0.2 あ え お
今年度の前期末試験の問題を公開します。ここからダウンロードできます。
解答は、以下の通りです。
T イ エ カ エ オ ア イ ケ コ シ
U カ ア ウ キ P ス ケ シ i k
S チ セ ト ノ ヌ ニ モ メ a
c t g w f
V e e b c b b a a d b
なお、当日配布の問題のU(18)(19)には出題ミスがあったため、当該問題は全員正解として処理しました。
1. | 2. | 3. | 4. | 5. |
200 万円 | 600 万円 | 118 万円 | 482 万円 | 53.65 万円 |
1. | 2. | 3. | 4. | 5. |
ヒ | ヌ | タ | ノ | ナ |
6. | 7. | 8. | 9. | 10. |
イ | ア | ウ | エ | ト |
|
1.
プライマリー・バランスとは、歳入から公債金収入、歳出から国債費を引いた収支のことである。(なお、公債金収入は国債発行からの収入、国債費は国債の償還と利払いの費用をさす) |
2.ラムゼー・ルールとは、需要の価格弾力性の低い財(必需品)に重課し、需要の価格弾力性の高い財(奢侈品)に軽課すべきだという考え方である。このような課税をおこなうことで超過負担を最小化するという意味で、課税の効率性を満たすものの、公平性を満たすことはできない。 |
3. クロヨンとは、所得捕捉率を示す語呂合わせである。サラリーマンは9割、自営業は6割、農業は4割しか捕捉されていないという意味だ。この数字の由来は、業種毎の納税者比率によるものである。納税者比率に差が生じる原因としては、自営業、農業の所得が低い可能性もある。しかし、その差は、脱税と自営業、農業での合法的節税の両方から生じたものと考えられている。 |
4. 消費税の逆進性とは、所得が上昇するにつれて、逆に消費税の負担率が低下することをさす。(率など負担の割合を示す言葉を明記していないものは不正解) |
5.現代的支出税は、カルドアが提唱した古典的支出税のように消費を申告させるのではなく、消費=所得−貯蓄となることに着目し、所得と貯蓄を申告させることで、消費支出を計算し、消費に直接税として累進課税をおこなうものだ。貯蓄については、適格口座を用いて管理をおこなうことになる。 |
等量消費の特徴とともに、(5)として公共部門が提供するかそれとも(6)として市場を通じて民間企業が提供するかの分かれ目は、料金徴収の問題です。これは、(7)と呼ばれるその利用に対する対価を支払わない人々を排除可能かどうかを問う排除原則の適用の如何に関わっています。国道の例では、高速道路のように料金所を設置すれば、料金徴収も不可能ではないが、日本国中の国道に料金所を設置するには莫大な費用が必要になるでしょう。国防、警察サービスなどの費用に至っては、直接利用者から料金を回収することは、不可能に近いでしょう。したがって、純粋(5)と呼ばれる警察サービス、一般国道などの財・サービスは、社会的に必要とされるにもかかわらず、民間では供給されないので、公共部門から無償で提供され、その費用は(8)の形で強制的に徴収せざるをえません。
財政の(2)とは、市場経済における個人の能力の格差、教育機会の格差、相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差を、公共部門が是正することを意味しています。個人の能力の格差により発生する所得の格差は、税制と(10)によって是正されています。わが国の所得税制では、(11)が実施されています。一方、(10)として、低所得者には最低限の生活を保証するために生活保護が支給されます。このような税制や(10)を通じた所得再分配は、現在の先進諸国で一般的におこなわれていることです。ただし、どの程度まで所得再分配をおこなうかは、公平に関する価値判断にゆだねられることになります。公平に関する考え方としては、最大多数の最大の幸福を達成しようとする(12)的な基準や、社会で最も恵まれない人の厚生を最大化しようとする(13)などがあります。教育機会の格差は、義務教育による初等、中等教育の無償提供や、高等教育に対する奨学金などで是正されます。さらに相続・贈与による初期資産保有の格差などから生じる所得や富の格差は、相続税や贈与税によって是正されます。
給与収入 180万円まで 360 〃 660 〃 1000 〃 1000万円超 |
控除率 40% 30 20 10 5 |
所得控除 | |||
基礎控除 配偶者控除 扶養控除 社会保険料控除 医療費控除 |
38万円 38万円 38万円 社会保険料支払額 10万円超の部分 |
||||
最低控除65万円 |
課税所得 | 限界税率 |
195万円まで 330 〃 695 〃 900 〃 1,800 〃 1,800万円超 |
5% 10 20 23 33 40 |
(1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (6) | (7) | (8) | (9) | (10) | (11) | (12) | (13) | (14) | (15) |
い |
− | け |
し |
ら |
り |
め |
と |
れ |
に |
ほ |
そ |
つ |
の |
は |
(1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (6) | (7) | (8) | (9) | (10) |
× |
× |
× |
× |
○ |
× |
× |
× |
× |
○ |
計算過程 | 答え |
(1) 180×0.4+(360-180)×0.3+(660−360)×0.2+(800-660)×0.1 |
200 |
(2) 800−200 |
600 |
(3) 38+80 |
118 |
(4) 600−118 |
482 |
(5) 195×0.05+(330-195)×0.1+(482-330)×0.2 |
53.65 |
(6) (20-10)×0.2 |
2 |
最終更新日 2010年7月29日 9:57:56
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