参考文献案内

 地方財政は、経済学部の科目の中では、一見すると易しそうなのですが、実はかなり難しい科目だと言えます。地方財政を理解するためには、国と地方の間を結ぶ複雑な制度を調べ、その構造を経済学的に分析していくことが求められます。したがって、地方財政を学ぶうえでは、回り道のようですが、最低限の経済学のツールは身につけておきましょう。
経済学の基礎的な知識に不安のある読者の方には、
(1)伊藤元重著『入門経済学』日本評論社
(2)市岡修著『経済学』有斐閣コンパクト
をお勧めします。(1)は平易な説明の入門書でありながら、経済学のほぼすべての分野をカバーした良書です。(2)は、(1)よりもより専門的で、多少数式を使用していますが、経済学の力を公務員試験に対応できるほどの実戦的なレベルに引き上げあげるために役立つはずです。
 地方財政を学ぶうえで必要とされる経済学の理論のほとんどは、財政学のテキストでも解説されています。地方財政は、財政学の一分野として位置づけることができますので財政学のテキストにも目を通しておくべきでしょう。財政学の手軽な入門書としては、
(3)藤田晴『財政』日本経済新聞社、日経文庫
があります。(3)は、手軽な文庫サイズの入門書で、通勤・通学電車の中でも読めます。財政学を本格的に学ぶには、
(4)橋本徹・山本栄一・林宜嗣・中井英雄『基本財政学[第3版]』有斐閣
(5)能勢哲也『現代財政学』有斐閣
(6)山田雅俊・中井英雄・岩根徹『財政学』有斐閣
(7)井堀利宏・牛丸聡『基本テキストC財政』東洋経済新報社
をお薦めします(4)は、財政学の伝統的なスタイルにしたがって予算制度、政府支出、租税制度、公債の問題がとりあげられています。地方財政についてもの章もかなり詳しく触れられています。(5)は、(4)よりも解説が詳細で、財政学説やミクロ経済学やマクロ経済学の応用としての財政理論の解説に力を入れています。(6)は、最適課税論や公共選択論などの最新の理論から、地方分権、税制改革、年金改革などの身近な財政問題まで幅広く取り扱っています。(7)は、理論的な枠組みを踏まえた上で日本の財政問題を平易に解説・分析したテキストで、各章に設けられたその章のまとめが大変便利です。
 これらの参考文献に目を通したうえで、本書を読めば地方財政論の基礎的な知識を身につけるには十分でしょう。しかし、公務試験の受験を考えている人や、卒業論文で地方財政をテーマに選ぼうとしている読者の皆さんには、本書以外に以下のような文献をお勧めします。
 公務員試験対策には、最新の財政状況の把握が欠かせません。本書は2001年6月現在で利用可能な最新の情報にもとづいて執筆されています。それ以降の情報については、インターネットを通じて情報を収集したり(本書の「インターネットで学ぶ地方財政」参照)、毎年刊行されている各種の統計資料などを利用しましょう。膨大な統計資料の中から必要な統計データを探すことはかなり難しい作業です。そこで財政関係のデータをまとめたものとして
(8)財務省官房企画調査課長編『図説日本の財政』(毎年度刊行)、東洋経済新報社
の最新版を手元においておきましょう。さらに地方財政に特化したものとしては、
(9)自治大臣官房総務審議会『図説地方財政』(毎年度刊行)、東洋経済新報社
が便利です。
地方財政に本格的に取り組むのならば、本書よりもより幅広く、地方財政を取り扱った良書として
(10)林宜嗣『地方財政』有斐閣ブックス
がお勧めです。
(11)齋藤愼・林宜嗣・中井英雄『地方財政論』新世社
は、本書よりも地方財政の経済学的な説明に力点を置いています。
 最後に、将来大学院への進学を考えている人には地方財政に関する研究書にもチャレンジして欲しい。地方財政の分野でも最近すぐれた研究書が多数刊行されているが紙数の関係で最新のものだけ、挙げておきましょう。
(12)伊多波良雄『地方財政システムと地方分権』中央経済社
(13)林宜嗣『地方新時代を作る地方財政システム』ぎょうせい
(14)林宏昭『これからの地方税システム』中央経済社