第7章 国庫支出金改革の概要
国庫支出金 国から地方への特定目的での補助金
第1節 国庫支出金改革の推移
(1)補助金の分類
○経済学的な分類
国が家計、企業、NPO法人、地方公共団体への資金移転のこと
一般補助金 使い途が限定されていない補助金 →地方交付税
特定補助金 定率補助金 事業にかかる費用の一定割合を国が負担
定額補助金 費用の一定額を国が負担する
↓
国庫支出金
○国庫支出金の分類
国庫負担金 国が費用の大部分を負担すべき義務的な補助金
普通国庫負担金 生活保護費のように、所得再分配という国が本来果たすべき機能を地方団体にも負担させているケース
ナショナルミニマム(最低限必要な行政サービスの水準)を保障するため、費用の一部を国が負担
建設事業費国庫負担金 公共事業の費用の一部ないし全部を国が負担
災害国庫負担金 地震等の災害時に国が費用の一部を負担
国庫委託金 国会議員の選挙や国勢調査など
地方団体が肩代わりしているが負担する義務は負わないものの費用を国が支出
国庫補助金 奨励的補助金 景気対策などの特定の政策目的で地方団体の支出を誘導
財政援助的補助金 地方団体の財政上特別の必要があると認められるときに交付
○交付根拠による分類
法律補助 法律にもとづいて支出されるもの→法制上「負担する」とされている義務的な支出
予算補助 それ以外のもの→ 奨励的な補助金が多く、おおむね国庫補助金に対応
(2)国庫支出金改革の変遷
2001年4月 小泉内閣内閣発足 聖域なき構造改革
2001年6月 「骨太の方針2001」
→国庫補助負担金の整理合理化、市町村合併
2002年5月 片山試案『地方財政の構造と税源移譲について』
税源移譲によって国と地方の税収配分を1対1に
国庫支出金を5.5兆円削減
地方交付税を見直し(算定方法、交付税対象の税目、交付税率の見直し)
2002年6月 『骨太の方針2002』
「国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討」
2002年10月 地方分権推進会議 「事務・事業の在り方に関する意見」
国庫補助負担事業について、国の関与を大幅に減らすとともに、地方の権限と責任を拡大
2003年6月 「骨太の方針2003」
三位一体改革の基本方針の提示
国庫補助負担金 4兆円程度を目途に廃止、縮減
地方交付税 総額を抑制し、財源保障機能を縮小
税源移譲 奨励的補助金 8割程度を目安として税源移譲
義務的補助金 全額を移譲
2004年4月 「麻生プラン」
税源移譲 所得税から住民税へ3兆円規模の税源移譲
住民税を税率10%で比例税率化
国庫補助負担金 3兆円
地方交付税 算定に行革努力が報われる要素を導入
2004年 地方6団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)
基幹税による税源移譲の早期実現
負担転嫁なき国庫補助負担金の廃止
地方交付税の堅持、充実
国直轄事業負担金の廃止
2004年6月 『骨太の方針2004』
地方団体側に、国庫補助負担金改革の具体案をとりまとめるように要請
2004年8月 『国庫補助負担金等に関する改革案』
第1期(2006年度まで)に3.2兆円
第2期(2007年度以降)に3.6兆円
揮発油税の一部を地方譲与税化 1.4兆円
↓
合計8兆円の税源移譲を提示
国庫補助負担金の見直しの合計額 9兆円
2004年11月 三位一体改革に関して政府・与党が合意
住民税のフラット化で3兆円の税源移譲
国庫補助負担金改革 2.4兆円(詳細は表7−2)
→国民健康保険国庫負担(約6,900億円)、義務教育費国庫負担金(約8,500億円)
義務的な補助金が税源移譲の対象
2005年7月 知事会が1兆円(9,970億円)の補助金改革案を決定
2005年11月 税源移譲の対象となる追加の補助金改革として6,540億円分が政府・与党間で合意
↓
三位一体改革の全体像
税源移譲 3兆94億円
国庫支出金 4兆6,661億円削減
地方交付税は税源移譲に伴い、自動的に削減
2009年9月 民主党への政権交代
ひもつき補助金を廃止し、一括交付金化
2011年度予算 地域自主戦略交付金 地方の投資的事業の補助金に関して内閣府の予算とすることで、各省庁の事前関与を廃止
2013年1月 安倍内閣で閣議決定「日本経済再生に向けた緊急経済対策」
地域自主戦略交付金廃止、内閣府予算への一括交付金から各省庁への交付金に
第2節 国庫支出金改革の論議
(1)補助金の経済効果
<定率補助金と一般補助金>
図7−1 一般補助金と定率補助金
(2)先行研究での議論
跡田・橋本(1991)
・奨励的な補助金を特定定率補助金の形態で提供することは、より低い効用水準しか得られない
・コスト意識が生じないために浪費される可能性がある
・補助金獲得のための陳情行政の弊害が生じる
・補助金が適正に使われているかを審査するための間接経費が増加する
・一度支出された補助金が既得権化する
池上(2004)
@事業が全国的に画一化されやすい
A特定補助金を伴う事業が地方政府の予算編成のなかで優先され、地域住民の意向との間にゆがみが生じる
B特定補助金は中央から地方へつながる特定分野の「縦割り」システムを作り出す
C事務手続き等のために経費と時間が無駄に費やされる」
川瀬(2011)
義務的な補助金における「超過負担」と「国庫補助負担金の一般財源化」を問題視
補助金の超過負担 国の定める基準と実態とのずれにより地方団体の負担が重くなること
国庫補助金の一般財源化 国の財政再建の過程で、定率補助金の割合が引き下げられ、交付税等で一般財源化されたこと
第3節 国庫支出金改革の影響
図7−2 国庫支出金、地方交付税、地方税の推移(地方財政計画)
国庫支出金 2004年度から2006年度 1兆9,223億円減少
地方税 2002年度から2007年度 6兆1,165億円増加
2009年度以降 大幅な減少(2008年9月リーマンショック)
地方交付税 2003年度から2007年度 2兆8,666億円減少
2008年度より増加
2009年度 「生活防衛のための緊急対策」によって地方交付税を1兆円増額
2010年度 「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」1兆3,733億円増額