修士論文計画書
05m3055 小川 さつき

研究テーマ「寄付金税制のあり方についての一考察」

目次
1章 はじめに
2章 寄付税制の現状
 2−1日本の寄付税制の推移・現状
 2−2米・英国における寄付税制
3章 寄付の経済理論
4章 寄付の実証分析

はじめに
・少子高齢化による労働人口の減少は納税者の減少となり税収の減少、貯蓄率の低下と同時に社会保障支出の増加につながると考えられる。
・高度成長時代が終わり、人々の価値観が多様化する中で政府の一元的、画一的なサービスだけでは公共的ニーズのすべてを満たす事はできなくなっている。
・規制緩和、民営化、地方分権といった政府、公共部門のリストラが進展してくるとNPOをはじめとする非営利組織の役割もおのずから重要性を増してくる。
・このような動きとともに、寄付金としての資金の出し手である個人・法人の税負担についての議論も増してくると考えられる。

日本における寄付税制の現状、寄付という行為の背後にある動機やその経済的意味、アメリカ・イギリスにおける民間公益活動の役割と寄付税制等分析しながら、寄付税制の経済的効果、寄付金控除がどのような役割を持つかを考えてゆきたい。


先行研究のサーベイ

寄付税制が妥当かどうかは、それが免税による税収減以上に寄付を増加させるかどうかで判断すべきであるとの意見が強い。Musgrave(1983)は「慈善的寄付を全体としてみれば、慈善事業は国庫が税収を失うものをちょうど手にいれると評価された」という賛成論を紹介しているし、Goode(1966)は「たとえ控除に賛成する主張が事柄自体正当であると認められたとしても、控除があるために促進される寄付の金額が失われる歳入に比べてきわめて少額にとどまる事が明らかになれば、それを継続すべしとする主張はできないであろう」と述べている。1)

免税によって寄付が税収減以上に増加するかどうか、その意味で寄付免税の拡大が望ましいかどうかは、経験的に実証するよりほかないといえよう。(中略)個人の寄付増加額を税収減で割った「効率」は、1960年代までは1.0以下という推計が多かったが、1970年以降は1.0以上という推計が多いようである。前者の代表的なものがタウシングによる研究であり、それによれば効率は0.05程度に過ぎない。後者の代表的なものはFeldsteinによる研究であって、それによれば効率は1.15程度に達している。前者が正しければ寄付免税はほとんど無意味ということになり、後者が正しければ寄付免税は社会的に意味がありということになろう。2)

Feldstein(1980)は社会貢献活動を一単位増やすためにかかるコストを政府による直接的支出と補助を通じた民間による支出との間で比較し、補助が直接的支出よりも効率的であることを証明している。また、Warr(1982)らの研究は、「社会貢献活動における利他主義が完全性を持つ場合、所得再分配が資源再分配にまったく影響を与えない」ことから、政府による直接貢献が個人の社会貢献活動を阻害する可能性を指摘している3)

藤田晴(1992)は、日本の寄付金控除について「贈与や寄付による購買力の移転は、本来の消費ではないし、資産の増加要因でもない。したがって包括所得概念にもっとも忠実であろうとすれば、課税ベースから除外すべきであろう。しかし、それは個人の自発的な選択に基づく購買力の処分であるから、担税能力の減殺要因でないという見方も有力である。この見方に従えば、寄付金の支出は、本来は課税ベースから除外する必要がない。その場合には、寄付金控除は奨励補助金的な特別措置と位置づけられるべきだと言う事になる」といっている4)

山内直人(1997)は、税制が個人寄付・法人寄付に与える影響を考え「多くの国では寄付を他の支出より優遇するように税制が設計されている。寄付優遇税制が個人や企業の寄付支出を増加される可能性があることも、一般的な消費者選択モデルや企業行動モデルによって示す事ができる。その意味で、税制は非営利セクターの盛衰を左右する重要な制度のひとつであるといえる。」5)

1)木下和夫(1991) p140参照 
2)木下和夫(1991) p141、20〜引用 
3)跡田真澄他(2002) p87,57〜61引用
4)藤田晴(1992) p99、27〜引用
5)山内直人(1997) p172、15〜引用
分析手法

日本の寄付の価格・所得弾力性について、山内直人(1997)のモデルを用い、国税庁「税務統計から見た申告所得の実態」のデーターを利用する。その後、寄付税制の効率性につて考えてみたい。


参考文献
Martin Feldstein(1975) "The Income Tax and Charitable Contoributions: Part 1 " National Tax Journal
Martin Feldstein(1975) "The Income Tax and Charitable Contoributions: Part 2 "National Tax Journal 
Martin Feldstein(1976) " Tax Incentives and Charitable Contributions in The United States" Journal of public Economics

跡田直澄・前川聡子・末村祐子・大野謙一(2002) 「非営利セクターと寄付税制」   フィナンシャルレビュー
木下和夫(1991)「寄付免税のあり方を問う フィランソロピーと税制」週間東洋経済 
木下和夫監修 大阪大学財政研究会訳( 1983)  『マクスグレイブ財政学U』 有斐閣
主税局第1課(1990,1991) 「寄付金と税制−制度の概要と適用状況」
    ファイナンス 
塩崎潤訳 R・Goode(1966)  『個人所得税』 日本租税研究協会
鈴木修三 (2005)「個人所得課税(住民税を含む)の改正」 税経通信 
玉国文敏(1991) 「寄付金控除の対象となる寄付金の意義と範囲(上・下)」 
ジュリスト
成道秀雄(1991) 「寄付金とその沿革」 日税研論集17号 
成瀬龍夫(1999) 「日本の民間福祉事業と寄付金制度」彦根論叢(滋賀大学)
橋本徹・古田精司・本間正明編(1986) 「公益法人の活動と税制」
藤田晴(1992) 『所得税の基礎理論』 中央経済社 
本間正明 金子郁容 山内直人(2003) 『コミュニティービジネスの時代』
 岩波書店 
増井良啓(2000) 「個人ボランティア活動と寄付金控除」 税務事例研究
増井良啓(2003) 「寄付金控除ー米国における1970年初頭の論争を中心としてー」 日税研論集
山内直人(1997) 『ノンプロフィットエコノミー』 日本評論社 
山内直人(1999) 『NPO入門』 日経文庫 
山内直人(2002) 『NPOの時代』 大阪大学出版会
山内直人編(1999) 『NPOデータブック』 有斐閣 
山内直人編(2004) 「NPO白書2004」 大阪大学大学院国際公共政策研究科
山内直人訳 レスターM・サラモン(1999) 『NPO最前線』 岩波書店 
山本守之(2005) 「寄付金の課税要件」 税務事例研究