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最終更新日 H 20.5.9


秋の俳句



時 候
天 文
地 理

  【時候】

 「秋はかりて春はかへせる田地哉」衍也
 「秋肥ゆる人のパセリも平らげて」前川敏夫
 「伸びすれば隣あくびの秋の宿」成美
 「二階より犬われに吠ゆ村の秋」西山泊雲
 「紙風船つくたび音の違ふ秋」鳥居真里子
 「水が水押して逆巻く峡の秋」山崎千枝子
 「秋彼岸つい口に出るどつこいしよ」伊藤なづな

 「秋立つと出て見る門やうすら闇」村上鬼城
 「立秋や目にはさやかに若白髪」松琵
 「秋来ぬと合点させたる嚔(くさめ)かな」与謝蕪村
 「秋来ぬと目にさや豆のふとりかな」大江丸

 「貧乏に追つかれけりけさの秋」与謝蕪村
 「ごぼごぼと薬飲みけりけさの秋」尾崎紅葉
 「白猫やとかげ喰ふてふ閨の秋」飯田蛇笏
 「パソコンのうんともすんとも芋の秋」大野朱香

 「大鯉のぎいと廻りぬ秋の昼」岡井省二
 「挽き余す根の瘤撫でて秋の昼」三森鉄治

 「秋のくれ仏に化る狸かな」与謝蕪村
 「西鶴の女みな死ぬ夜の秋」竹下しづの女
 「子もりする大の男やあきのくれ」凸迦
 「あやまちはくりかへします秋の暮」三橋敏雄
 「我立てば猫も立ちけり秋の暮」橋本貴美子

 「八朔や犬の椀にも小豆飯」小林一茶
 「八朔や一男一女牛一頭」さわまようこ

 「ながき夜の枕かかへて俳諧師」飯田蛇笏
 「長き夜は葡萄をつまむためにもあり」富安風生
 「長き夜や夫と異なる刻を持つ」小川壽美子
 「夜の長し寝て待つというものを待つ」宮本美津江

 「それぞれの夜長夫婦という不思議」赤尾茶番
 「犬として何の役目もなき夜長」久門 南
 「人間に寝る楽しみの夜長かな」青木月斗

 「秋暑し汽車に必死の子守唄」中村汀女
 「秋暑し仁王の忿怒納まらず」伊藤白雲
 「秋暑し音のしそうな付け睫毛」向 和子
 「秋暑き汽車に必死の子守唄」中村汀女
 「石段に蟻の戦ふ残暑かな」村上鬼城
 「かまきりの虚空をにらむ残暑かな」北枝

 「爽やかに青年来り娘を奪ふ」杉浦典子
 「さやけくて妻とも知らずすれちがふ」西垣 脩
 「新涼や豆腐驚く唐辛」前田普羅
 「新涼や相見て妻の首ながし」細川加賀
 「新涼の豆腐を崩す木のスプーン」濱田のぶ子
 「ひやひやと句座の空席眼で数ふ」小出秋光

 「伶人も朝寒の洟かめりけり」水原秋櫻子
 「母とわれ夜寒の咳をひとつづつ」桂 信子
 「起きて居てもう寝たといふ夜寒哉」蕪村
 「焼栗も客も飛び行く夜寒かな」丈草

 「そぞろ寒読めぬカルテを覗き見る」三枝邦光
 「ああいへはかういう兜太そぞろ寒」鷹羽狩行
 「飲む塗る貼る薬いづれも冷まじや」喜多川みさお

 「ねんごろに包丁を研ぐ厄日かな」畑中次郎
 「味噌汁の麩に芯のある厄日かな」小島千賀子
 「二百十日の喝采のやうな雨」片桐富美子
 「盗人潜む二百十日の縁の下」寺田寅彦

 「秋深き隣は何をする人ぞ」松尾芭蕉
 「秋深きことにこと寄せ話すかな」星野立子
 「秋深し子宝湯より婆ふたり」星野石雀

 「行く秋や思ひ返して出さぬ文」高橋淡路女
 「行く秋や紙をまるめて遠眼鏡」吉岡桂六
 「戸をたゝく狸と秋をおしみけり」与謝蕪村
 「晩秋の佐渡が追いくる羽越線」山岡義良
 「ちかぢかと馬の顔ある暮の秋」林徹

 「北斎の波立ちあがる冬隣」笠井香芳里
 「クロレラを夫婦で飲んで冬隣」達山丁字


  【天文】

 「煙突は酒蔵の数天高し」柴田南海子
 「馬の名を阿修羅とつけて天高し」鈴木風湖
 「痩馬のあはれ機嫌や秋高し」村上鬼城
 「小屋出でし鶏も闊歩や秋高し」太田 嗟

 「秋晴や貧乏虫を掃捨つる」村上鬼城
 「秋晴れを式辞でほめて開会す」吉田ひろし
 「秋天へ投網のごとくシーツ干す」安崎久子
 「秋天にわれがぐん/\ぐん/\と」高浜虚子
 「飛行雲あまた秋天滅多切り」豊田 晃

 「しわしわと大根痩する大没日」浜田光彦
 「沓かけや秋日にのびる馬の顔」室生犀星

 「屠場の牛秋の雲浮く水を飲む」木田千女
 「秋の雲明日こそといふ明日欲しや」宮沢き和
 「老化です医師の一言いわし雲」行方素芳
 「アンテナの肋さまざま鰯雲」小檜山繁子

 「名月や鶏頭花もにょっきにょき」良寛
 「けふの月馬も夜道を好みけり」村上鬼城
 「盗人の首領歌よむけふの月」与謝蕪村
 「僧はたゝく八百屋の門やけふの月」蓼太
 「ふるさとに居つかぬ家系盆の月」竹中碧水史

 「東京駅大時計に似た月が出た」池内友次郎
 「逢ふ人に待たされてゐて月に逢ふ」泉田秋硯
 「芋も子をうめば三五の月夜哉」西武
 「眠る子の息嗅ぐ月の兎かな」仙田洋子
 「子を抱きて湯の月覗くましらかな」北枝

 「亡き母のすでに座りて月を待つ」松尾隆信
 「淋しさや閨にさし入る居待月」村上鬼城
 「売れ残る八百屋の芒後の月」高橋淡路女

 「へな/\とゆがめる月や硝子越し」星野立子
 「なにもかも月もひんまがつてけつかるか」栗林一石路
 「麻薬うてば十三夜月遁走す」石田波郷
 「窓ごしに赤子うけとる十三夜」福田甲子雄

 「択ぶなら銀河濃きころ羊村忌」倉橋羊村
 「彼の世より光りをひいて天の川」石原八束
 「弟子曾良の仕込み杖より秋の声」八島雅子

 「秋風や水薬をもる目分量」飯田蛇笏
 「秋風や脛で薪を折る嫗(おうな)」中村草田男
 「秋風がみな横顔にしてしまふ」高橋五十
 「十団子も小粒になりぬ秋の風」許六
 「兄気弱弟ひ弱秋の風」河辺克美

 「初嵐舟より逃げし蛸泳ぐ」小川軽舟
 「近道のはずの遠さや初嵐」山岡寿ゞ枝
 「黍嵐ふつ飛んできしヌードの絵」佐藤 信
 「颱風一過女がすがる赤電話」沢木欣一
 「台風が毛虫を家に投げ込みぬ」相生垣瓜人
 「稲光芋泥棒の二人ゐる」村上鬼城

 「霧の中温(ぬく)き馬糞と温き馬」榎本冬一郎
 「句碑除幕浄めの秋の雨はげし」三上 孝
 「秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな」中村汀女

 「朝採りの野菜の露も量られて」清川恵子
 「露の玉艱難汝を玉にせず」鳴戸奈菜
 「一を知り十抜けてゆく霜日和」橋 關ホ


  【地理】

 「不知火を見る丑三つの露を踏み」野見山朱鳥
 「恋のころ来し花野にて子を抱けり」辻美奈子
 「小便をこらえて通る花野かな」保合
 「佛への土産できたる花野かな」也有
 「争ひて得しものなれど水落す」麻生やよひ



生 活
行 事

  【生活】

 「二三人くらがりに飲む新酒かな」村上鬼城
 「注ぎにくる新酒わが席までありや」室岡純子
 「職退きしとは昼食の新走り」小山いたる
 「古酒といひ新酒といひてはしごかな」たなか迪子

 「人の顔見つつたべゐる夜食かな」上村占魚
 「道化師の鼻外しをる夜食かな」延広禎一
 「栗飯に間に合はざりし栗一つ」矢島渚男
 「銀シャリてふ眩しき死語や今年米」岡田飛鳥子

 「新蕎麦の一人前とはこれつぽち」小原澄江
 「干柿の頃合ひを見て母を訪ふ」榊原靖夫
 「干柿の種を口からにゆつと出す」安食彰彦

 「枝豆や三寸飛んで口に入る」正岡子規
 「浅漬を噛み贋の歯の贋の音」能村登四郎
 「もてなしにもつてのほかも交へけり」松崎鉄之介

 「火の猛るほどには煮えず芋煮会」寒河江桑弓
 「煙らして火の番変はる芋煮会」新谷弘子

 「頬杖に深き愁思の観世音」高橋淡路女
 「秋思などどこ吹く風か畑仕事」加藤裕子
 「灯下親しテレビいづこもメロドラマ」倉橋羊村
 「灯火親し英語話せる火星人」小川軽舟

 「菊人形の心臓に水差しにけり」鈴木節子
 「菊人形どれも無念の唇の型」中村和弘
 「菊人形五臓六腑のがらんどう」森本キヌ子
 「殿中を菊師地下足袋ばきのまゝ」佐々木トミ
 「家康の首をふりふり菊師来る」えいもとかん
 「夜は兜脱ぐかも知れず菊の武者」木村里風子

 「本当は戦争好きや菊人形」和田悟朗 
 「切腹のいまだはたせず菊人形」岬 雪夫
 「骨組は去年の侭なり菊人形」土屋康一

 「雨漏りの秋の宿なる句会かな」長谷川かな女
 「二科展の女の臍と向ひ合ふ」仲村美智子
 「月見にも陰ほしがるや女子達」千代女
 「紅葉見や用意かしこき傘二本」蕪村
 「飛車に行桂馬に飛ぶや茸がり」素丸

 「ばい打てる童の帯のゆるみをり」山口誓子 
(「ばい」は漢字表記/べい独楽)
 「故郷の最後は線香花火かな」斎藤良子

 「運動会まだ始まらぬ子等が駆け」清崎敏郎
 「運動会長き訓示に足踏みす」北村 寛
 「分校の運動会に栗の賞」山本砂風楼
 「村長を借りて走つて運動会」古市やすこ

 「踊らんと顔を包めばうつくしき」後藤夜半
 「蛇の気をそらす雀の踊りかな」市村芳子

 「地芝居の刀が鞘におさまらず」水木なまこ
 「地芝居のお軽に用や楽屋口」富安風生
 「地芝居の障子のつひに倒れけり」柴崎七重
 「地芝居の濡れ場のしどろもどろかな」仲村美智子

 「勧進帳開くごとくに障子貼る」川村河邨
 「障子貼り終へて使わぬ部屋一つ」畑中次郎
 「先づ破ることして障子貼りにけり」山岸吟月

 「鯊釣のいつ釣れるやら釣れぬやら」浜崎素粒子
 「鯊釣や子に教へらる穴場あり」水島 勲
 「右に佐渡左に能登や鰯汲む」伊藤柏翠
 「手を振て泳いでゆくや鰯売り」良寛
 「われ先に鮭のぼりきて打たれけり」金森たかし
 「素振りして鮭打棒を選びをり」小畑柚流

 「夜業人に調帯(ベルト)たわ/\たわ/\す」阿波野青畝
 「夜業の窓にしやくな銀座の空明り」鶴彬
 「ドラマに泣き母の夜なべのはかどらず」山崎美白

 「秋耕や掘れば掘るほど出る小石」鋼つよし
 「不作の田寝せて歯で抜く酒の栓」中村耕人
 「豊年やはちきれさうな馬の尻」金藤優子

 「案山子翁あち見こち見や芋嵐」阿波野青畝
 「案山子かと眺めてゐしが歩き出す」深沢暁子
 「案山子にもうしろ向かれし栖かな」一茶 
(栖:すみか)

 「某は案山子にて候雀どの」夏目漱石 
(某:それがし)
 「本を持つ案山子もひとつ作らばや」丸谷才一
 「ふと恐し人に似すぎてゐる案山子」高田伸美
 「肩になほ力残りて捨案山子」山田修二
 「一の矢があつて二の矢のなき案山子」宇都木水晶花

 「御所柿にたのまれ貌のかがしかな」蕪村
 「倒されて雲を見てゐる案山子かな」吉橋綾子
 「さるほどに弓矢すてたるかかしかな」飯田蛇笏
 「めりやすの襯衣(シャツ)を著(き)てゐる案山子哉」内田百

 「威し銃祭のやうに鳴りにけり」井上久枝
 「威し銃返る谺も鳥威す」坂上史琅

 「寝ころんでチェーホフを読む囮守」水野李村
 「囮鳴く囮になりしこと知らず」宇咲冬男

 「稲架組の寺の悪口出放題」河野静雲
 「藁塚のおなじ姿に傾ける」軽部烏頭子
 「藁塚は集つて墓ちらばつて」鷹羽狩行

 「水落す皆どたばたと結婚す」梶川みのり
 「稲刈りの夫婦稲刈りつつ離る」岩根 甲
 「一癖のある稲刈機借りて来し」小原啄葉
 「稲刈機行つて返つて呆気なき」藤島きみ子
 「籾かゆし大和をとめは帯を解く」阿波野青畝

 「大根蒔く仁丹に似せ三粒づつ」加藤裕子
 「大根蒔く日より鴉を憎みけり」河東碧悟桐
 「薬掘蝮も提げてもどりけり」大祇
 「これ以上溜めるのは無理糸瓜水」森田 峠
 「渋搗や垂乳ほた/\をどらせて」田畑比古
 「豆叩くうちでのこづち振るやうに」岩崎すゑ子

 「霊長目ヒト科のわれの冬支度」岡崎るり子
 「庭師まづ目で松手入してをりぬ」江川虹村

 「鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ」林田紀音夫
 (無季)


  【行事】

 「老人の日といふ嫌な一日過ぐ」石城暮石
 「敬老日男ばかりが老いにけり」山口和生
 「ホーム入り敬老の日に決まりけり」杉村凡裁
 「七人の敵ことごとく敬老日」林 祐子
 「臍曲りとは心外な敬老日」衣川砂生

 「赤い羽根させるお洒落のルンペン氏」阿波野青畝
 「赤い羽根つけてどこへも行かぬ母」加倉井秋を
 「防災の日のよたよたと担架かな」難波慶子
 「臍出して若者闊歩終戦日」島崎靖子

 「七夕竹願ひの嵩に撓ひけり」坂本美知子
 「七夕や筆の穂なめし脣の墨」高橋淡路女
 「七夕やまだ指折つて句をつくる」秋元不死男
 「七夕やゆびきりをして五十年」細井みち
 「七夕の竹引き摺りて登校す」増島由紀子
 「尾てい骨で座る赤ん坊の星祭」榎本冬一郎 
(「てい」は漢字[骨+氏/一])

 「子の尻をていねいに拭き文化の日」小島 健

 「生身魂放屁に力ありにけり」根本光史 
(生身魂:いきみたま)
 「さういへば生身魂とは俺のこと」三宅行雄
 「諦めも欲ものぞかせ生身魂」島田一耕史

 「島人の盆の晴着は簡単着」清崎敏郎
 「散髪にゆきそびれけり盆の僧」川口 勇
 「地下駐車場より現われし盆の僧」中西咲央
 「病人に逢はずに帰る盆の僧」廣瀬直人

 「墓参り遥々来しが永くゐず」山口波津女
 「知らぬ伯母祖父母ならびに父の墓」中村草田男

 「直すほど開く茄子の馬の脚」島田一耕史
 「流燈となりても父の流れ下手」山口都茂女
 「流灯のゆづり合ひては急がざる」片山由美子
 「精霊舟遠回りして行くひとつ」道坂春雄
 「別姓の妻や精霊舟流す」斎藤朝比古
 「百八燈果てたる闇に河太郎」肥田埜勝美 
(百八燈:ひゃくはったい)

 「大文字一族郎党修羅しゆしゆしゆ」仙田敬子
 「大文字を見たがる仲居席はづす」森田 峠

 「放生会真っ赤な鯉のあばれけり」岸本尚毅 
(放生会:ほうしょうえ)
 「地蔵会や漏斗を据ゑて賽銭箱」西山泊雲

 「大佞武多つかみかからんばかりかな」森尻禮子
 「秋祭終り用済みの老人たち」能村登四郎
 「秋祭少女メッキの指輪買ふ」五所平之助
 「翁落馬時代祭の大渋滞」村杉踏青

 「村名を相撲に残す子等の秋」三橋喜代
 「相撲とり老て上手にころびけり」寥松
 「抱き上げて笑ふ子ばかり泣角力」滝沢伊代次

 「ささくれの手をつく勘平村芝居」中村耕人
 「地芝居や幕が開くまで灸すえて」吉田さかえ



動 物
植 物

  【動物】

 「鶺鴒のしたゝか飲んで飛びにけり」村上鬼城
 「「しまった」の形で乾く百舌の贄」等々力悦子
 「転びたる始終を鵙に見られけり」田中いわお
 「二羽で来て十羽で帰る燕かな」巴静
 「厨事たんましたき日小鳥来る」平井さち子
 「数多き方へ加はる稲雀」棚山波朗

 「大やんま領空権を主張せり」丸山嵐人
 「頑固なる貌してとび来大やんま」山口みちこ
 「こそばゆくとんぼに指を噛ませけり」高橋淡路女
 「赤とんぼ集めてをりぬ六地蔵」知崎浩子

 「つくつく法師なかなか出ない具体案」一ノ木文子
 「虫なくや我れと湯を呑む影法師」前田普羅
 「しやつくりのごとく鳴きやむ秋の蝉」佐々木不羅

 「きりぎりす腸の底より真青なる」高橋淡路女
 「きりぎりす網棚に鳴き山の汽車」金原有公子
 「こほろぎの冬支度とは死支度」安住 敦
 「子なければ畳傷まずちゝろ虫」河野緋佐子
 「松むしと跡先になる鼾かな」車来
 「寝時に松虫の籠遠く置く」関 利子

 「馬追に度肝抜かれし厠かな」市堀玉宗
 「すいちよん暢気がちやがちや早合点」奥坂まや
 「鈴虫の愛の極みは雄を啖ふ」富安風生
 「鉦叩打ちあやまりてはじめより」阿部みどり女

 「かまきりの振り向きざまの捨ぜりふ」丸山嵐人
 「こときれし蟷螂に鎌のこりけり」岩津厚子
 「かりかりと蟷螂蜂のかほを食む」山口誓子 
(「かほ」は漢字[白/ハ])

 「放屁虫急ぐは放屁の直後ならむ」神生彩史
 「放屁虫貯へもなく放ちけり」相馬虚吼
 「屁をひつてしやあしやあとして垣の虫」小林一茶
 「八方に走りにげたり放屁虫」水原秋櫻子

 「何となくおんぶばつたは色好み」岸本尚毅
 「ざわざわと蝗の袋盛り上がる」矢島渚男
 「夢殿にちょっとすんでた竃虫」南村健治

 「秋の蚊を打ちつ狂言太郎冠者」浅川青磁
 「秋の蚊の泣く/\雨に出でゝ行く」石井露月
 「大漢きて秋の蚊と戯るる」林友次郎
 「残る蚊の出るに出られぬ懺悔室」波多洋子

 「秋蛍 人は脳から土と化し」折笠美秋
 「草童のちんぼこ螫せり秋の蜂」飯田蛇笏
 「芋虫の糞の太さや朝の雨」西山泊雲

 「蓑虫の蓑の雨ほす朝日かな」籾山梓月
 「蓑虫のごはごはと着て一張羅」秋本芳枝
 「蓑虫の蓑あまりにもありあはせ」飯島晴子

 「みみずさへ鳴くになんとかなるものを」橋本末子
 「客として泊る生家やみみず鳴く」藤池芳子

 「馬肥えて天下の武将振り落す」松村 茂
 「馬肥ゆる己が齢に「もう」と「未だ」」小林まさこ
 「鹿の目の向きとは違う耳の向き」穐山時也
 「猪の狸寝いりやしかの恋」与謝蕪村

 「子持鮎指反らし食ぶ美僧かな」仙田敬子
 「火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり」秋元不死男
 「遠富士や太刀魚海から引き抜かむ」熊谷員宏
 「はららごをぬかれし鮭が口を開け」清崎敏郎 
(「はららご」は漢字[魚+而])
 「秋鯖や上司罵るために酔ふ」草間時彦
 「秋鯖や子らは食ふとき静かなる」松村正子
 「鉤呑みし鯊の呆け顔誰かに似る」岡本圭岳


  【植物】

 「朝顔のうなだれ午後の処刑台」丸山嵐人
 「朝貌や惚れた女も二三日」夏目漱石
 「朝貌に好かれそうなる竹垣根」夏目漱石
 「朝顔やのぞかれてゆく家の中」新谷ひろし

 「子の摘める秋七草の茎短か」星野立子
 「曼珠沙華村に家より墓多し」栗田ひろし
 「呪ふ人は好きな人なり紅芙蓉」長谷川かな女
 「鶏頭の首をつかんで種吐かす」片山由美子

 「菊を見つ且(かつ)後架借る女かな」几薫
 「生業は駕籠かきやめて菊つくり」西山泊雲
 「怪我の指立ててもの縫ふ菊の前」田川信子
 「遠きゆゑ会釈を深く菊日和」鷹羽狩行

 「蓼咲いて葦咲いて日とっとっと」竹下しづの女
 「葛咲くや嬬恋村の字いくつ」石田波郷
 「牧童の鞭がはりなるをみなへし」玉山翠子
 「むつとして口を開かぬ桔梗かな」夏目漱石

 「露草や生徒朝のみ聴耳立て」香西照雄
 「酒のむときめて押したり萩の門」上村占魚
 「泡立草刈つても刈つても泡立草」綿貫てい
 「末席やつくづくせいたかあわだちそう」長谷川きよ志

 「どこまで芒こんなところで死にたくなし」中村苑子
 「貌が棲む芒の中の捨て鏡」中村苑子
 「人はみな鬼の裔にて芒原」木内彰志
 「出かゝりし油のやうな薄の穂」川崎展宏

 「ねこじやらしくはへ休日出勤す」新海あぐり
 「徒党組むえのころ草の分際で」辻田克己
 「虱草さわぐ女に附きやすし」入江伸以知
 「みなで取る保母のお尻の草虱」西山温子

 「天つつぬけに木犀と豚にほふ」飯田龍太
 「桐一葉鯉の大口塞ぎたる」太田一石
 「色かへぬ松は不器用かも知れず」天本美沙絵

 「くちすへばほほづきありぬあはれあはれ」安住 敦
 「草の実を勲章として下山せり」秋本芳枝
 「草じらみ袖振り合ふも句兄弟」川端茅舎
 「蓮の実の自づから飛び四面楚歌」杉本千代子
 「梅擬陶師はなべて猫背なる」清崎敏郎

 「大小の木の実を人にたとへたり」高濱虚子
 「打ちどころ悪く木の実の跳び上がる」下山宏子
 「まづ手より眠くなる子の木の実かな」桧林ひろ子

 「マラソンのしんがりにゐて栗拾ふ」畑中次郎
 「橡の実を拾うて影も拾ひけり」金藤優子
 「団栗や倶利伽羅峠ころげつつ」松根東洋城
 「夜遊びのどんぐりころころ交差点」山中頼子
 「喪服着て見違ふ妻や実南天」河辺智文

 「まかりまちがへて深井へ草の絮」岬 雪夫
 「枯るるとは軽くなること人も木も」金藤優子
 「押し込めば膨らみ返す落葉籠」杉本千代子
 「蔦紅葉地獄谷より這ひ上る」大場美夜子
 「唐辛子魔女の爪ほど曲りけり」高橋 明

 「渋柿の滅法生りし愚さよ」松本たかし
 「柿の木に籠をくはへて登りけり」松本たかし
 「柿を剥き終るや柿を剥き始む」鈴木俊策
 「柿ひとつもらひますよと仏壇に」斉藤夕日

 「しぶしぶと柿喰ふしぶしぶ年を取る」河合早苗
 「ひとつ食うてすべての柿を食い終わる」橋 關ホ
 「落ちさうに落ちさうに柿残りゐる」長峰竹芳
 「鬼平に見惚れて垂らす柿の皮」今井和夫
 「人減つて村ぢゆうの柿熟すなり」水田光雄

 「林檎噛む歯に青春をかがやかす」西島麦南
 「林檎むく生涯不器用なりにむく」児島節子
 「包丁に載せて出されし試食梨」森田六合彦
 「勉強部屋覗くつもりの梨を剥く」山田弘子
 「袋よりはち切れさうな梨の尻」間部美智子

 「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す」西東三鬼
 「阿の石榴吽の石榴とたわわなる」三村純也
 「這ひ這ひのおもはぬ速さ朱欒まで」正木ゆう子

 「葡萄棚の下に人住む潮来かな」長谷川かな女
 「葡萄棚出てもしばらく猫背なる」橋爪鶴麿
 「金銀瑠璃しゃこ瑪瑙琥珀葡萄かな」松根東洋城 
(「しゃこ」は漢字[石+車][石+渠])

 「食ふまでは西瓜を海に放り合ふ」山口美瑳代
 「言ひ出せず西瓜を皮目まで食べる」橋本敏子
 「投げ出されたやうな西瓜が太つてゆく」尾崎放哉
 「風呂敷のうすくて西瓜まんまるし」右城暮石

 「両断の西瓜たふるゝ東西に」日野草城
 「神学者西瓜の種を吐きあひぬ」有馬朗人
 「うり西瓜うなづきあひて冷えにけり」高浜虚子
 「思ひきり打ちそこねたる西瓜かな」橘いずみ
 「叩かれてあとは抱かれて西瓜かな」水谷ふみ子
 「二つ三つ叩いてのける西瓜哉」一笛

 「日々名曲南瓜ばかりを食はさるる」村上鬼城
 「馬車になりさうな南瓜を選びけり」溝口和子
 「担任に似たる南瓜やハロウィーン」山火律子
 「これを敲けばホ句/\という南瓜かな」村上鬼城
 「どつしりと尻を据えたる南瓜かな」夏目漱石

 「糸瓜棚をこごみ癖して出勤す」小川千賀
 「長けれど何の糸瓜とさがりけり」夏目漱石
 「一大事も糸瓜も糞もあらばこそ」夏目漱石

 「不格好な瓢もつともよく育ち」山岡寿ゞ枝
 「瓢箪が夜あそび覚えはじめけり」山尾玉藻
 「引けば引くほど引つ張られ烏瓜」岬 雪夫

 「政敵に芋腹ゆりて高笑ひ」飯田蛇笏
 「菜を喰はれて芋や土中に黙し居る」西山泊雲
 「妻をらぬ夜や芋の葉のきつね顔」古橋成光
 「万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり」奥坂まや
 「八方へ逃げゆく藷を掘りあぐる」神生彩史

 「山の芋掘りに行くスットコ被(かむ)り」尾崎放哉
 「狐ききをり自然薯堀のひとり言」森 澄雄

 「遠慮なく食べてをります秋なすび」福永直子
 「摘み/\て隠元いまは竹の先」杉田久女
 「なんばんといづれぞあかし猿の臀」飯田蛇笏

 「蕎麦はまだ花でもてなす山路かな」芭蕉
 「稗の穂は垂り稲の穂はツン/\と」竹下しづの女
 「山国や陸稲畑に父の糞」金子兜太

 「まつたけまつたけ半分にしてまた半分」しらいししずみ
 「椎茸のぐいと曲れる太き茎」林 徹
 「山姥のほいと投げたる猿茸」朝倉 玲
 「うかうかと千本しめぢ生えすぎし」後藤比奈夫

 「毒茸をとりかこみゐる小学生」井上一昭
 「蹴散らせば毒茸毒の煙吐く」坂上史琅
 「美しき二重人格毒茸」三田和子