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最終更新日 H 19.12.9


春の俳句



時 候
天 文
地 理

  【時候】

 「立春のもやし音符となり流れ」神部 翠
 「雪五度立春大吉の家にあり」前田普羅
 「門々の下駄の泥より春立ちぬ」一茶

 「春めくや百済観音すくと立ち」和田悟朗
 「褌の干され相撲部春めける」加藤良彦
 「縞馬の縞の合はせ目春が来る」杉浦典子
 「手拭を首にひつかけ春来る」河野静雲

 「春の坂女易者がとびとびに」内田美紗
 「一茶より下々の生活(たつき)やおらが春」岡部 一
 「我思ふ故に猫あり春の小火(ぼや)」攝津幸彦
 「眠りつつ相槌うたれ春の午後」南澤ひつじ
 「それも応これも応なり老の春」涼菟

 「春宵を番台にただ坐りをり」波多野爽波
 「公達に狐化たり宵の春」与謝蕪村
 「切手貼るための舌出す春の宵」三成礼子

 「春の夜の女の風呂は点さずに」松崎鉄之介
 「とけい屋のとけい春の夜どれがほんと」久保田万太郎
 「そろばんに久松ねむる夜半の春」飯田蛇笏
 「本あまた銭とかへたる春夜かな」上村占魚

 「春昼や碁敵またも長厠」片山皓右
 「春昼の肩を叩きて人違ひ」勝田享子

 「のどけしやパンチパーマの盧舎那仏」木田千女
 「長閑さや伸ばしきつたる亀の首」二宮一知
 「麗日の出会ひ頭に霊柩車」小出秋光

 「暖かや飴の中から桃太郎」川端茅舎
 「仏像にくつきりと臍あたたかや」尾熊靖子
 「雀にも訛がありて暖かし」小松崎爽青

 「日永しと止れる振子時計かな」三橋敏雄
 「鞭うつて牛動かざる日永かな」夏目漱石
 「帰り路は鞭も鳴らさぬ日永かな」夏目漱石
 「一人居の腹の虫鳴く遅日かな」小林 收

 「しみたれの袋をさげて彼岸婆々」河野静雲
 「治聾酒の過ぎたる耳のまつかなり」夏井いつき
 「花冷えや上眼にらみの踏まれ邪鬼」能村登四郎
 「花冷えの朱唇から出る毒気かな」井上啓子

 「目借時書き損じまた書き損じ」酒井健一
 「目借時 老いては妻の御意のまま」守田椰子夫
 「目借時骨を抜かれしごとくゐる」下斗米大作
 「目でものを言はれてをりし目借時」藤本悦子
 「ゐるはずの妻が出てこぬ目借時」森 好文

 「ゆく春や一寸先は木下やみ」也有
 「行春を箒の先におしミけり」徐立
 「行春の出費迅速子は育つ」清水基吉
 「同齢の幹を叩きて春惜しむ」村野秋泉
 「おそ春の雀のあたま焦げにけり」室生犀星

 「龍天に昇りぬ髪の静電気」吉瀬 博
 「ステテコで八十八夜のへぼ将棋」中根久治
 「啓蟄の世に出たがりの鼻毛かな」村上樹実雄


  【天文】

 「朧夜の狐狸遊ばする仏の地」松崎鉄之介
 「石狐こんと鳴きたるおぼろかな」立半青紹
 「さしぬきを足でぬぐ夜や朧月」与謝蕪村

 「春の日や達磨大師の尻もだえ」調和
 「泣き寄る子喉の奥まで春日さす」加藤楸邨

 「陽炎がゆらゆら城の腹切場」浜田光彦
 「陽炎や暗算力のぐんと落ち」林 宜子
 「霞さへまだらに立つや寅の年」貞徳
 「霞む日やさしあたりとは金のこと」藤田湘子

 「春の風ルンルンけんけんあんぽんたん」坪内稔典
 「待たせたる理由春風のやうに言ふ」橘川芳子
 「退屈な象の尻尾に春の風」須藤満里子
 「人形の首を干しけり風光る」久保田九品太

 「春一番帰路疾走の霊柩車」西野洋司
 「春一番二番ふところ火の車」小出秋光
 「メアリ・ポピンス傘を開けば春疾風」横井理恵
 「貝寄せや愚な貝も寄せて来る」松瀬青々
 「黄砂ふる遊びさかりの老夫婦」延原ユキコ

 「春の雨傘売る人の濡れてをり」松田藤夫
 「春雨や窓からねぎる芝肴」一茶
 「石ころも雑魚と煮ゆるや春の雨」前田普羅
 「春雷が湖東三山ころげゆく」栗田ひろし

 「別れ霜人に泪はすぐ乾き」成瀬櫻桃子
 「春霰やころがり戻る畑の鶏」野村泊月

 「春の雪熨斗の形に嬰包む」平岡公子
 「ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪」久保田万太郎
 「上塗をした程雪に春の雪」馬良
 「蒟蒻はとわにふるえて春の雪」池田澄子
 「淡雪や休めば死んだかと言われ」後藤溪石

 「佐保姫に流し目さるるたび老化」小出秋光
 「野の虹と春田の虹と空に会ふ」水原秋桜子
 「春の虹その虫偏が気にいらぬ」西澤志女子


  【地理】

 「山笑ふ蕎麦が羽織を着てゐたる」龍岡 晋
 「太陽を必ず画く子山笑ふ」高田風人子
 「鴉らに貸すには惜しき春の山」柿本多映

 「春泥に子等のちんぼこならびけり」川端茅舎
 「春泥にのつぴきならぬ河馬二頭」小林貴子
 「春泥へ牛の体重のめりこむ」青柳志解樹
 「近道を行けば春泥待ち構へ」岩谷精一
 「大晩春泥ん泥泥どろ泥ん」永田耕衣
 「仏頂面して春泥の乾きけり」市原光子

 「雪雫道庁融けてゆくごとし」古舘曹人
 「あばら屋に永つたらしき雪解かな」阿波野青畝
 「薄氷をくまなく踏みて遅刻の子」糸中千鶴子

 「ひらがなのやうに流れて春の水」浜田光彦
 「犬のソプラノ猫のテノール水温む」西脇はま子
 「白鷺のモデル歩きに水温む」温品はるこ
 「引き潮にひかれて人のゆく干潟」鳥居三朗

 「れんげ田のどまん中です握り飯」大倉淑子 
(れんげ:蓮華草、げんげ)
 「頭悪き日やげんげ田に牛暴れ」西東三鬼
 「縄電車げんげ田に来て脱線す」大矢寿子
 「日本海へと落ちさうな水張田」今井松子



生 活
行 事

  【生活】

 「春服の部下を呼び付け叱らねば」久松洋一
 「面倒なものに陸橋春外套」湯浅洋子

 「桜餅となりの黄粉がちょっとつき」清水さつき
 「一門の下戸ばかりなる桜餅」河野静雲
 「蕨餅才女の口を汚しけり」佐藤洋子
 「青饅や沈黙といふ妻の武器」川村河邨 
(青饅:あおぬた)
 「壺焼の壺傾きて火の崩れ」内藤鳴雪

 「春炬燵出るきつかけの地震ひとつ」江川 節
 「影武者のごとく妻ゐる春炬燵」太田一石
 「消えてゐることに気付かず春炬燵」木村良昭
 「春火桶独り占めする地獄耳」山下範子
 「炬燵塞ぎおのれの居場所なきごとし」都谷文子

 「花見酒始はありて終なし」一具
 「天守まで聞こゆ農夫の花見唄」草間時彦
 「花の下ぢぢばば踊るみな笑ふ」河野静雲
 「弁当もひらかぬ内が花見哉」一吟
 「こは白髪族こは茶髪族花見かな」小林清之介
 「うかうかと来ては花見の留守居哉」丈草
 「花一分人出十二分花の山」佐藤玲子

 「酒つげば猪口がつてんす春燈下」飯田蛇笏
 「花篝火気厳禁の城に焚く」坂上史琅
 「夜桜の乱闘現場一括す」福見一歩
 「梅見婆はしよれる裾の派手模様」星野立子

 「花むしろ踊れる婆々に爺不興」河野静雲
 「受粉せぬ男ばかりの花筵」橋本善夫
 「赤子ごと引きずつてきし花筵」阿部静雄
 「休講と聞けば敷くなり花筵」河 英美

 「花疲れ骨抜かれたるごと座せり」黒岩喜洋
 「花疲れ癒す激辛カレー食べ」坂上史琅
 「上ル下ル西入ル京や花疲」結城あき

 「紙風船つけばへこみて我に似る」新明紫明
 「紙風船たたかれてまた力張る」丸谷三砂
 「力ほど高くは飛ばず紙風船」小出文子
 「頼るもの無いから身軽ゴム風船」渡辺 誠

 「石鹸玉にも短命と長命と」山下美典
 「しやぼん玉吹きたくなりて嬰に買ふ」安田晃子
 「息入れて石鹸玉みな天にやる」橋本美代子
 「寄り目してしやぼん玉吹く子供かな」井上明未

 「風車色を飛ばして廻り初め」上野 泰
 「風背負ひ風車売り去りにけり」石原八束

 「奴凧まづは頭突きを覚えけり」松浦敬親
 「武者凧の武者震いして失速す」室岡純子
 「砂浜へ五体投地の武者絵凧」倉橋羊村
 「たるみ糸曳けばおどけて奴凧」平尾喜久子
 「電線に破れ凧二つ嘆き合ふ」池田ハツイ
 「若き父吾子なほざりの競ひ凧」及川 貞

 「ぶらんこや手持ぶたさの父と母」平井澪子
 「ふらここや拗ねてみ空を蹴つ飛ばす」大矢寿子
 「父と子と母と子とをりふらこゝに」星野立子
 「譲る気のなきぶらんこを高く漕ぐ」柴田佐知子

 「野遊びのいつしかひとりとなつてゐし」今井松子
 「野遊びの女転びぬはなやかに」北 山河
 「颯爽と老いむと願ひ青き踏む」冨岡夜詩彦
 「遠足の列の乱るる象舎前」野村民子
 「遠足の子ら山城を乗つ取りぬ」小池旦子

 「若菜摘けふはづかしき手の太さ」又玄
 「毒芹を仰山摘んで笑はれる」草本美沙

 「汐干潟誰もひとりの影を掘る」山口草堂
 「汐干狩紀州の城は股の中」杉本艸舟
 「宮島の神に尻向け汐干狩」植野幸惣
 「まんまるくお尻濡らせり汐干狩」星野恒彦
 「油断した平目に辷(すべ)る汐干哉」草也

 「蛤の雀にもどる汐干かな」寸長
 「松原をこちらから見る汐干哉」吟江
 「ありたけをまくつて見せる汐干哉」素丸

 「受験子の絵馬に誤字あり脱字あり」安達ほたる
 「受験子を持たぬ倖せ不倖せ」池田笑子
 「よく理屈言ふ受験子のよく落ちし」松崎鉄之介
 「名を呼ばれ声の小さき受験生」大久保明
 「黒髪に指深く埋め受験の子」千ヶ崎美根
 「合格と知れる傘揺れ動きだす」北澤瑞史

 「入学児胸呑ませ穿く長袴」水原秋櫻子
 「入学写真いつも誰かがよそ見して」樋笠 文
 「町中のひらがな覚え入学す」木野田和子
 「ンの字もソの字も同じ入学す」中野寿郎
 「椅子に足ぶらぶら垂らし入学児」諸星己城
 「新入生傘より足の生えてをり」長石 彰

 「卒業の児に埋れゐる一教師」鹿野島孝二
 「たゞならぬ世に待たれ居て卒業す」竹下しづの女
 「而して以下同文と卒業す」福神規子
 「鉄棒の胼胝を殖やして卒業す」根本韮花 
(胼胝:たこ)

 「長電話して春の風邪うつされし」飯田 直
 「行かでもの喪にゆき貰ふ春の風邪」能村登四郎
 「夫婦して同じ薬を春の風邪」松下八重子

 「世を斜に見てゐる眼花粉症」四倉喜美子
 「銀行へ怪しき身なり花粉症」高崎和音

 「春眠や寝癖のままに当直医」古川千恵子
 「魂までとろける朝寝してみたし」能村登四郎
 「犬からの催促のなし大朝寝」浦野せつを
 「定年の天下御免の朝寝かな」岬 雪夫
 「ふたり居のひとり逝きたる朝寝かな」根岸かなた

 「春愁やくらりと海月くつがへる」加藤楸邨
 「春愁や失へば皆惜しきもの」佐々木とほる
 「春愁や妻のあくびに返事して」高橋常穂

 「雪割つて見本の墓を据ゑゐたり」橋本末子
 「山焼かれ行きどころなき天邪鬼」丸山嵐人

 「植木市一人値切れば二人買ひ」かたぎり夏実
 「釣銭に泥のつきをり植木市」清川恵子
 「結局は小さき鉢買ふ苗木市」稲畑廣太郎
 「買ふ客と見抜かれてをり苗木市」今井田敬子
 「見る妻と買ふ気の夫や苗木市」藤野佳津子
 「五年後の丈聞いており苗木市」山縣輝夫

 「苗札と違ふ芽の出てをりしかな」川原西絲
 「つきしかと児(ちご)のぬきみる指木哉」舟泉
 「菊根分働くに似て遊ぶなり」石塚友二
 「剪定やまづ隣家より梯子かけ」おがわ周子

 「袋絵のほどはのぞまず花の種」田中矢須彦
 「種蒔いて朝顔日記始りぬ」小林奈穂季
 「種池に迷惑さうな鯉の顔」竹村和成
 「種俵大口あけて陽炎へり」前田普羅

 「畑打つ土よろこんでくだけけり」水原秋櫻子
 「農継がぬ子が自慢なり耕せる」尾関華陽
 「健やかな糞して耕馬曳きはじめ」松倉ゆずる
 「牛が牽く男ときどき挨拶す」島津 亮
 「六十年耕しふいに死にました」高井稲子

 「百年後の見知らぬ男わが田打つ」齊藤美規
 「老の腰尚も曲げてぞ畦塗れる」西山泊雲
 「畦塗るを鴉感心して眺む」西東三鬼
 「塗りこめし蝌蚪光りをる畦夕」久米三汀

 「麦踏や沽券捨てたる影をつれ」川村河邨
 「茶摘み手間借り田植手間返しけり」山中一土子
 「芋植ゑてそれきり何も生へてこず」中村ふみ
 「捨蚕まだ生きるつもりの餌探す」伊藤トキノ


  【行事】

 「徳川雛上段に侍す犬張子」福島恭子
 「雛納む箱の中にもある序列」内藤 繁
 「雛市や裏へまわれば仏具棚」玉珂
 「雛の市抜け贋乳房あつらへに」高 千夏子
 「雛の座を起つにも齢の骨鳴りて」石川桂郎

 「白髪の人の出で来し雛の家」宇佐美魚目
 「土塊をちんとひねりし雛のかほ」高田正子
 「案の定抱きぐせのつき初節句」酒井和子

 「バレンタイン義理に大小ありにけり」大野さだ
 「妻に食べられてしまひし愛のチヨコ」小路生雅

 「捕へしは雪男とか四月馬鹿」神 和雄
 「誤字を見て正字の書けず万愚節」大橋敦子
 「一人居の一人語りや四月馬鹿」田中勢子

 「祝辞みな未来のことや植樹祭」田川飛旅子
 「付髭の吹き飛ばされし春祭」内形石菖

 「涅槃会や誰が乗り捨ての茜雲」上田五千石
 「弟子たちはやつれ寝釈迦はふくよかに」」森口慶子
 「さう言へば魚介は見えぬ涅槃かな」小島飽石
 「甘茶仏杓にぎはしくこけたまふ」川端茅舎
 「老僧のエー/\童話仏生会」河野静雲

 「闘鶏と同じ目となり声援す」坂本美知子
 「勝鶏を鎮める羽交ひ締めにして」坂上史琅

 「出代や名は其家に置て行」柳翠
 「出替りや猫にも一寸暇乞」牧之
 「大仕事した思ひなり二日灸」和水

 「福引の三等は塩義士祭」寺尾恒子
 「願はくば来世は鳥に西行忌」石川喜美子
 「お遍路の誰もが持てる不倖せ」森 白象



動 物
植 物

  【動物】

 「囀や松の根もとの泣羅漢」河野静雲
 「囀りをこぼさじと抱く大樹かな」星野立子
 「さへづりや森の出口は入り口」守屋井蛙
 「さへずりや三文判にて事決める」立永信子
 「電線は空の五線譜さへづれり」山本高代
 「おしゃべりな巣箱無口な百葉箱」折原あきの

 「鶯や餅に糞する縁の先」松尾芭蕉
 「鶯の身をさかさまに初音かな」其角
 「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」一茶
 「虫けらに勝つて芝跳ぶ雀の子」林 翔
 「のぼりゆく雲雀や息のとめくらべ」宗田安正
 「畦道の角を曲ればおお雲雀」加藤裕子
 「燕や何を忘れて中がへり」乙由

 「鳥帰るごとく田舎へ夫婦発つ」田辺和夫
 「何も残さず何も持たずに鳥帰る」川崎陽子
 「涅槃図をそつと抜け出し鳥帰る」平阪聖英
 「鳥雲にいつかどちらか残さるる」佐野十三男
 「誘はれぬ事いいことに残る鴨」中尾 幾

 「初蝶やちちんぷいぷいのよく効く児」平井さち子
 「操りのやうに蝶来る泉かな」中野ただし
 「落花枝にかへると見れば胡蝶かな」守武
 「紅梅に頭を入れ蜂の尻微動」雑賀純子
 「縄電車蜂一匹に脱線す」柊 愁生

 「蝿生れ早や遁走の翅使ふ」秋元不死男
 「観音の腰のあたりに春蚊出づ」森 澄雄
 「老人の立つまでの間の虻の声」清水径子
 「見返りてかうべあげゐる捨蚕かな」田中茗児
 「蟻穴を出でて混み合ふ出入口」鈴木征子

 「恋猫の一心あの距離をとびし」角 光雄
 「恋猫の身も世もあらず啼きにけり」安住 敦
 「恋終へて猫に猫なで声戻る」高橋悦男
 「恋過ぎし猫よとかげを食い太れ」西東三鬼
 「本籍は浅草六区うかれ猫」橋本和男

 「結界を飛び越してゆく猫の恋」杉本千代子
 「人の死へ一瞥もなし猫の恋」川勝真央
 「恋文を書くよしもなし恋の猫」岡崎カネ
 「ささやくといふことのなき恋の猫」大隅三虎
 「宰相のごとき声だす恋の猫」福田甲子雄

 「子猫ねむしつまみ上げられても眠る」日野草城
 「子離れし母は猫の子飼ひにけり」牧野照子
 「貰はれる話を仔猫聞いてをり」上野 泰
 「逃げること下手な仔猫の貰わるる」牧野一古
 「ひらひらと猫のひたいに雪の降る」加本泰男
 「生まれて十日仔馬跳ねをり尻軽し」松崎鉄之介

 「蛙前進スタンプを押すやうに」八木 健
 「蛙の目超えて漣又さゞなみ」川端茅舎
 「どう向きを変へても蛙鳴き止まず」森澤照子
 「漣の中に動かず蛙の目」川端茅舎
 「遠蛙酒の器の水を呑む」石川桂郎

 「鍬の先蛙とつさのひとつ飛び」渡辺碧海
 「蛇を恐れぬ涅槃図の蛙かな」松尾隆信
 「いうぜんと山を見る蛙かな」一茶

 「お玉杓子岸辺に磁石あるごとし」福田節子
 「絡まりて抜き差しならぬ蝌蚪の紐」杉本千代子
 「どうみても雑兵ばかり蝌蚪の群」江田君子

 「龜鳴くと首をもたげて龜の聞く」中原道夫
 「亀鳴いて遊びの時間終了す」阿南さくら

 「蛇穴を出て見れば周の天下なり」高濱虚子
 「蛇穴を出て蛇捕りにつかまりぬ」三宅 賢
 「けつかうな御世とや蛇も穴を出る」一茶

 「桜鯛かなしき眼玉くはれけり」川端茅舎
 「花よりも実こそ欲しけれ桜鯛」兼載
 「味よりも鰆の字面ほめにけり」今永恵美子
 「白魚のぴくりと動く口の中」船木雄三

 「大蛸のもぢやらもぢやらと近づき来」奥坂まや
 「蛤のぱつと口開き電話鳴る」八木秋子
 「値切らるる蛤舌を出し合へる」大谷畦月
 「ゆるやかな三途の川で蜆採り」和泉直行

 「蓋とぢし田螺の暗さはかられず」加藤かけい
 「野良淋し通る娘に田螺鳴き」松本たかし
 「ころがりて又ころがりて田螺かな」松本たかし
 「月の出のおそきをなげく田螺かな」久保田万太郎
 「人を見てすぐに転がる田螺かな」石黒ナツ子


  【植物】

 「猫ぎらひ猫やなぎさへ厭ひけり」渡辺恭子

 「末つ子の要領よくて牡丹の芽」今井松子
 「忍ぶとは心に刃牡丹の芽」橋本良子
 「父子して逆立ごっこ木の芽吹く」石井紅楓
 「ものの芽や薬は毒と医師の言ふ」大森三保子
 「焼跡に勾玉ほどの物芽出づ」石橋萬里

 「忘れゐし球根の芽がこんにちは」小林かいう
 「チューリップ散る寸前の大笑ひ」加藤裕子
 「ヒヤシンススイスステルススケルトン」正木ゆう子
 「霞草抱へし歌手の顔見えず」小森都之雨
 「主役には生涯なれず霞草」平山くにを
 「菜の花や食事つましき婚約後」福永耕二

 「咲き疲れひれ伏しにけり黄水仙」松本たかし
 「朝食は片仮名ばかり黄水仙」赤瀬川至安
 「視野に置く姑のくらしや黄水仙」小柳裕子

 「さくら草見るにも男腕組みす」内山思考
 「一つ咲きむずむず三つクロッカス」加藤千恵子
 「蛸壺にパンジー咲かせ海女の家」高野港風
 「すみれぐさも地獄の釜のふたも紫」加藤三七子
 「花菫口ばつかりのフェミニスト」中村金雄
 「旧姓は刻もどす名よ花すみれ」長谷川翠

 「たんぽぽのぽぽぽぽぽぽとある日和」須佐薫子
 「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」坪内稔典
 「たんぽゝと小声で言ひてみて一人」星野立子
 「明治の砲たんぽぽの絮放ちけり」清川恵子
 「追伸のところでたんぽぽが開く」西恵美子

 「座禅草足がしびれていませんか」菊池サイ
 「座禅草己れ信じるほかはなし」小西俊郎
 「座禅草葉ばかりとなり座禅解く」板谷芳浄

 「人増えも減りもせぬ町苜蓿」長峰竹芳
 「クローバーこうしてこうしてほらできた」ことり

 「雨の字は雨粒四つ草青む」木田千女
 「青む畦平均台のごと歩く」高崎和音
 「下萌や駆出しさうに靴干さる」来栖早殳子
 「芽吹後の約束違ふではないか」中原道夫

 「まゝ事の飯もおさいも土筆かな」星野立子
 「灯の下に土筆の袴とり競ひ」星野立子
 「わが机妻が占めをリ土筆むく」富安風生
 「出る杭の如くつくしの摘まれけり」久保田教子

 「はやばやと菖蒲田に咲く薺かな」大久保明
 「せんせいもぺんぺん草の名を知らず」卯之木智子
 「農学部ぺん/\草もよく育ち」森田 峠

 「子に見えて親に探せぬ初わらび」白土青波
 「野蒜摘む先の枯るるもとりあえず」大澤秀子
 「尺取虫せつせと測量野蒜の葉」谷本光典
 「山の径嫁菜婿菜の寄り合へる」割田 節

 「蕗の薹苦味を愛づる年となる」重藤 慶
 「御破算で願ひましては蕗の薹」小林照代
 「おらが世やそこらの草も餅になる」一茶
 「蓬摘む敵意をとうに失せており」澤藤はなの
 「すかんぽを皆くはへて草摘めり」松本たかし

 「夫失職手に余るほど芹摘みつ」山口みちこ
 「子の摘める芹のわづかを如何にせむ」片山鶏頭子
 「我が事と鯲の逃げし根芹かな」丈草

 「花の雨病院裏は死の出口」川村河邨
 「花の下白粉(はふに)一つで化けてゐし」石田虚谷
 「花の雲白酒売は女形かな」長谷川かな女
 「一本のさくらに無料休憩所」鏡 茂子
 「ひよつとこがおかめを待ちて花の陰」平井さち子

 「八方がすべて正面根尾桜」安部 桂
 「八重桜鳩にも鳩の派閥あり」井上代志子
 「チチポポと鼓打たうよ花月夜」松本たかし
 「いとこはとこもあれ桜散りいぞぐ」橋 關ホ
 「一山一樹一花一片花了る」角野良生

 「海女とても陸(くが)こそよけれ桃の花」高浜虚子
 「傷舐めて母は全能桃の花」茨木和生
 「白梅や一瞥で去る山の犬」井上湖人
 「足なめて指なめる嬰梅日和」東佳代子
 「本降りとなる梅園の広さかな」久能公子

 「白椿気位捨てては生きられず」稲野和子
 「神とても恋仇あり黒椿」渡辺昌石
 「木瓜の花まかり通りし嘘もあり」荒田勝代
 「藤の花「触れるな」とあり触れにけり」川又敏子
 「嫌われてゐるとは知らず杉の花」清水シズヨ
 「根限り咲いて疎まれ杉の花」禿河とし子

 「切つ掛けは伊予柑の種の口鉄砲」茂木和子
 「憎きほど爪立てて剥く夏蜜柑」榎本みや
 「末つ子は我がまま坊主ねぎ坊主」雑賀純子
 「葱坊主出番きまらぬエキストラ」佐々木暢
 「胃袋とお袋大事葱坊主」岸ゆう子

 「蕪下げて本能寺へと入りゆけり」松尾隆信
 「常陸野や独活を鉄砲かつぎして」海老原真琴
 「僧の割る薪が氾濫花大根」進藤一考
 「じよろ/\と泣き会ふ尼や山葵漬」高浜虚子

 「加太言葉わからずじまひ若布買ふ」柴田南海子
 「わかめつて弱音を吐いたあなたみたい」滝浪貴史
 「浜に干す若布のすだれしやちこばる」木村紀美子
 「蛸提げて襤褸の如く若布負ひ」福田蓼汀