最終更新日 H 19.7.28
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時 候 天 文 地 理 |
【時候】 「年の瀬やことに長女の仕切り癖」折原あきの 「碓(からうす)は年の暮ほど音高し」舟露 「詰めてくる飛車角桂馬年の暮」堀内 勉 「いさゝかの金ほしがりぬ年の暮」村上鬼城 「留守番の電話に話す年の暮」岡林博茂 「家中の時計が動く師走かな」久野雅樹 「極月の上座に据わる石の臼」楠本義雄 「補聴機を祭つて年を送りけり」村上鬼城 「年惜しむ程のよきことなかりけり」松崎鉄之介 「凪ぎわたる地はうす眼して冬に入る」飯田蛇笏 「冬に入りもつとも欲しきもの嘴」宗田安正 「干鮭も空也の痩せも寒の内」芭蕉 「大寒や北斗七星まさかさま」村上鬼城 「弁慶に五条の月の寒さ哉」夏目漱石 「壁の王妃いつも横向き冬長し」山内 愛 「冬ざれの道に拾ひぬ空ラ財布」高橋淡路女 「冬の夜や鼠かまはぬ猫をかし」長谷川かな女 「手のとどく所にものを置いて冬」能村登四郎 「節分の鬼愛されてしまひけり」宮坂静生 「鬼の豆吸ひて掃除機おどろけり」新明紫明 「切る前に冬至南瓜馬車になれ」杉浦典子 「歳時記に聞きて冬至のはかりごと」松本たかし 「野良猫に欠伸のうつる小六月」角川春樹 「ふりがなのごと夫に添ふ小六月」石井紅楓 「小春日や石を噛みゐる赤蜻蛉」村上鬼城 「はぐらかされゐて短日も長きかな」松崎鉄之介 「日短の鉄砲玉の使ひかな」小沢政子 「短日や二度目のベルは強く押す」山本美紗 「日が詰まるつまると言ひて何もせず」彦根伊波穂 「せっかちで方向音痴日脚伸ぶ」倉橋羊村 「長電話用件二の次日脚のぶ」吉田多美 「しゅぱしゅぱと路地の縄跳び日脚伸ぶ」益田 清 「叱られて目をつぶる猫春隣」久保田万太郎 「惜しからぬ身にはあれども春を待つ」国行松籟 「春待つは妻の帰宅を待つごとし」鈴木鷹夫 【天文】 「初時雨猿も小蓑を欲しげなり」松尾芭蕉 「この猿はやしろ久しき時雨かな」園女 「しゝしゝし若子の寝覚の時雨かな」井原西鶴 「酒買ひに韋駄天走り時雨沙弥」川端茅舎 「しぐるゝや笛のごとくに火吹竹」川端茅舎 「化けさうな傘かす寺のしぐれかな」蕪村 「凩のはじめは笙の笛に似て」鳥居美智子 「凩や真赤になつて仁王尊」夏目漱石 「木枯らしや耐えた数だけ嘘ついて」大西幸子 「寒風や恋告げられて聞かぬふり」久野美烏子 「寒風のデモ切断す救急車」大森 藍 「掛軸の鶴の動きし隙間風」吉橋綾子 「隙間風狂言自殺の看護(みとり)なる」中村草田男 「気管支のさらなる奥や隙間風」岡田四庵 「もがり笛風の又三郎やあーい」上田五千石 「もがり笛よがりのこゑもまぎれけり」加藤郁乎 「隣より転げきし雪蹴り戻す」阿部静雄 「宿かせと刀投出す吹雪哉」与謝蕪村 「階上の息子に電話雪よ雪」加藤裕子 「道あるに雪の中行く童かな」村上鬼城 「地の涯に倖せありと来しが雪」細谷源二 「天上に宴ありとや雪やまず」上村占魚 「小便の数もつもるや夜の雪」貞室 「我が雪と思へば軽し笠の上」其角 「電線のひつぱつてゐる雪の家」児玉南草 「トラピスチヌ雪に戸を閉めチーズ売る」越桐三枝子 「雪の速さで降りてゆくエレベーター」正木ゆう子 「初雪に隣は何をする人ぞ」百樹 「天の原ふるさけ見れば見ぞれ哉」頼広 「うまさうな雪がふうはりふはりかな」小林一茶 「雲呼んで雪とす城の鬼瓦」藤岡筑邨 「雪をんな襦袢は真紅かも知れぬ」山元志津香 「雪女月をはづして持ち去れり」森本和子 「雪女赤信号でたたら踏む」岩城順子 「雪女梅割焼酎ひつかけて」尾野秋奈 「かく行けば平家も住まじ雪女郎」阿波野青畝 「水いろの帯ながながと雪女郎」北園克衛 「大仏は猫背におはす冬霞」大橋越央子 「冬麗や老麗の語もありてよき」能村登四郎 「冬日差あぐあぐと噛むラシャ鋏」平井さち子 「ひとのことばかり知りをり冬日向」石原舟月 「「長生きも才能のうち」冬晴るる」折笠美秋 「五位鷺のどろぼう歩き冬うらら」山口 速 【地理】 「手のやうな機械が冬の山削る」玉城一香 「馬の骨馬に蹴らるる枯野哉」魚坊 「右足の音左足の音枯野踏む」小沢昭一 「五里霧中こんと鳴きたい枯野かな」岸本マチ子 「枯峠青空に風無尽蔵」矢島渚男 「冬滝の行者けもののこゑを出す」鍵和田ゆう子 (ゆう:[禾+由]) 「狐火を信じ男を信ぜざる」富安風生 |
生 活 行 事 |
【生活】 「マフラーを巻いてやる少し絞めてやる」柴田佐知子 「マフラーを頑固結びに古書店主」尾熊靖子 「襟巻に面を埋めて意思表示」加藤裕子 「襟巻や猪首うづめて大和尚」村上鬼城 「襟巻の狐の顔は別に在り」高濱虚子 「襟巻や今月今夜の月明し」佐藤左千代 「たゝまれてあるとき妖し紅ショール」竹下しづの女 「スカーフが犬とお揃い美少年」三池 泉 「膝掛に隠してゐたる怒りの掌」柴田雪路 「ゆっくりと知慧のでてくる懐手」山田貴世 「ふところ手してみる限り家も箱」五十嵐研三 「懐手墓一せいにこちら向く」河合照子 「ちやんちやんこ着て稔典のうつふつふ」雑賀順子 「ちやんちやんこ手酌がいいと申さるる」知久芳子 「ちやんちやんこ着ても家長の位かな」富安風生 「ちゃんちゃんこなどは一生着るものか」山田弘子 「方丈や法衣を脱けばちやん/\こ」河野静雲 「丹前を着れば馬なり二児乗せて」目迫秩父 「もんぺ着て女の一生こんなもの」梅津早苗 「冬服のひとりはみだすエレベータ」丸雅 建 「つんのめり股引はくやまだ逝けぬ」市川信明 「横町をふさいで来るよ外套着て」後藤左右 「普段着のままで外套脱げぬなり」福永直子 「毛皮着てぴくんぴくんと尾てい骨」福永直子 (てい:[骨+氏/一]) 「オペラ座のロビーさながら毛皮店」木原苑子 「試着せし毛皮に靴の貧相に」高橋登喜子 「しばらくは夫に内緒の皮コート」酒向つた子 「社務所出る素顔の巫女の皮ジャンパー」細谷徐水 「とんび着て影があるので歩き出す」加倉井秋を 「着ぶくれて浴後子の頬破れさう」黒古フク 「着膨れてそのままあの世なんて嫌」木下星城 「着ぶくれて嫌な女になりにけり」黛まどか 「頬被りとり慇懃の人となる」忽那孤舟 「頬被りして一理ある事述べる」工藤 力 「頬被して巡査との立話」阿波野青畝 「訪へば奥よりぬつと頬被」長谷川ちとせ 「盗人の眼ばかり光る頭巾哉」夏目漱石 「熱燗のほど良き燗を知らずなり」古牧かず恵 「熱燗の夫の大言壮語かな」服部薫子 「熱燗や討入りおりた者同士」川崎展宏 「手刀をきり熱燗の一杯目」水木なまこ 「酒止めようかどの本能と遊ぼうか」金子兜太 「薬喰隣の亭主箸持参」与謝蕪村 「客僧の狸寝入やくすり喰」与謝蕪村 「しづしづと五徳居ゑけり薬喰ひ」与謝蕪村 「闇汁の蓋を上げしは狸かな」長谷川かな女 「闇汁の杓子を逃げしものや何」高濱虚子 「闇汁や活断層の動くかも」酒井涌甫 「闇汁や女大胆なことを言ふ」谷本去夢 「闇汁やこんにやくばかり箸の先」草間時彦 「闇汁会めがね掛けたり外したり」西畑敦子 「ことごとく意見の合はぬおでん鍋」雑賀純子 「ぐち/\と愚痴をこぼしておでん煮え」清崎敏郎 「ぐつぐつとおでんぐつぐつぐつと愚痴」蛯子雷児 「あら何ともなやきのふは過ぎてふくと汁」芭蕉 「四十二の今年は止めん河豚汁」乙坡 「鰒汁や喰はぬたはけに喰ふたはけ」一洞 「あはぬ戀思切る夜やふぐと汁」蕪村 「出鱈目な音に煮立つや鮟鱇鍋」古郡和夫 「湯豆腐やぐつぐつぶつぶつ申すなよ」大木凉子 「顔揃ふまで寄せ鍋の蓋とらず」南迫享秋 「牛鍋に一悶着を持ちこめり」村山古郷 「バス着けば点火一斉牡丹鍋」山縣輝夫 「煮凝や親の代よりふしあはせ」森川曉水 「煮こごりや昼をかねたる朝の飯」松尾いはほ 「茎漬に霰のやうに塩をふる」細見綾子 「茎漬や金の指輪を二つして」鈴木花蓑 「鮠釣れず茎漬の石持ち帰る」大川桃鬼 「沢庵や家の掟の塩加減」高浜虚子 「切干刻んで根が生えたやう老婆の座」加藤楸邨 「切干や電車過ぐたびちぢれゆく」服部青駕 「切干しに風来てへのへのもへじかな」須賀経子 「仇討の鍵屋の辻を焼芋屋」伊佐山春愁 「焼芋のやわらか派またほくほく派」上村順子 「スヰートポテトより焼藷ぞほうと割る」高和ことこ 「割落としハムにのらざる寒卵」上田 敏 「鯛焼のさめて待つ気のなくなりし」勝田享子 「鯛焼の一つが言へず三つ買ふ」間宮あや子 「凍豆腐からから骨の音をたて」宮坂静生 「天と地のあはひに生きて餅を焼く」桂 信子 「蕎麦掻ににつちもさつちもゆかぬ箸」辻 桃子 「冬鏡これ吾ならば吾は誰ぞ」加藤裕子 「化粧(けは)ふれば女は湯ざめ知らぬなり」竹下しづの女 「膝の上が女の世界毛糸編む」伊丹三樹彦 「編むよりも解くこと多き毛糸編み」大隅三虎 「客去れば火鉢を抱いて朝市女」木津亥さ無 「仏工に僧来て話す股火鉢」河野静雲 「引導の偈を案じつゝ股火鉢」河野静雲 「父酔うてしきりに叩く火桶かな」松本たかし 「かたいぢの守りとほせし古火桶」河野静雲 「腰ぬけの妻うつくしき炬燵かな」与謝蕪村 「系図はおろか炬燵にも入れざる」平野周子 「調法に散らかしてある炬燵の間」小畑けい 「片側はまだくらやみの炭団かな」赤木格堂 「炉のあるじ耳うとくして聞きたがる」河野静雲 「化さうな茶釜もあるや榾の宿」尾崎紅葉 「避寒して出るに出られぬ野天風呂」松尾むかご 「口開けて寝るなよ娘暖房車」小山幸子 「絵襖の破れは虎の抜け痕か」松村 茂 「金屏に虎賓客をまじまじと」阿波野青畝 「たをやかに立ちてぴしゃりと障子閉め」大塚邑紅 「本題に誰もがふれず冬座敷」岩瀬春灯 「冬ごもり「おしん」朝見て昼も見て」松倉ゆずる 「冬ごもりらしくて声も殺してる」能村登四郎 「妻と吾同時に欠伸冬ごもり」澤井山帰来 「淋しいな妻ありてこそ冬籠」夏目漱石 「年忘れ憶良のごとく罷らむか」轡田 進 「年忘れ何から忘れてよいのやら」佐々木リサ 「いきいきと話に尾鰭年忘」西川織子 「蒲団干す一ベランダが一世帯」古橋桂花 「蒲団ほす家の暮しのみられけり」西島麦南 「毛布干すミッキーマウス逆さ吊り」佐怒賀正美 「一と竿に干しも干したり足袋ばかり」高橋淡路女 「干足袋の乾くまもなく盗られけり」森川暁水 「好きな人ばかりが死んで日向ぼこ」木田千女 「うと/\と生死の外や日向ぼこ」村上鬼城 「耳かきのありてかりけり日南ぼこ」河野静雲 「うとうとと生死の外や日向ぼこ」村上鬼城 「日向ぼこ置いてけぼりにされゐたり」米澤光子 「犬猿の仲とは見えず日向ぼこ」足立賢治 「別々のこと考えてゐる日向ぼこ」船越和香 「明治村髭の巡査の日向ぼこ」鈴木和子 「言ひかけしことを忘れたる嚔かな」長谷川かな女 「つづけさまに嚏して威儀くづれけり」高濱虚子 「うたたねの寝てはをらざる嚏かな」岡 矢笥 「大嚏いつさいがつさい吹き払ふ」得能節子 「大嚏して自転車のぐらつけり」小西領南 「くさめすや一枚の闇ひづませて」矢村三生 「風邪ひいて目も鼻もなきくさめ哉」村上鬼城 「風邪の句の多くて選者にもうつる」能村登四郎 「風邪ひきて万病負ひしごとくゐる」笠原 弘 「風邪の児の触ってみたき聴診器」尾崎恵美子 「風邪の妻やさしくされて起きられぬ」原田正子 「風邪声も女は武器にしてしまふ」鎮田紅絲 「風邪に寝て我が家の一日見たりけり」五十嵐播水 「その上に風邪を貰うて帰りけり」山口珊瑚 「憚らぬ咳さまざまや待合室」津村知歩 「マスクして眼大きく語りかく」牧 直史 [マスクして居れど饒舌女の子」乙葉秀子 「嘘つきし口をマスクで覆ひけり」増山 登 「わが息は気付かず人の息白し」瀧野三枝子 「水洟を貧之神に見られけり」松本たかし 「水洟やなさけなかりし吾が法話」河野静雲 「三日坊主承知の上の日記買ふ」渋沢渋亭 「より薄く小さきを選り日記買ふ」森 玲子 「日記買ふ良き事ばかり書くために」寺島ゆう子 「イニシヤルの人出没の日記果つ」石橋まさ子 「年用意夫より猫の手の欲しき」向山ちか子 「何にでも老のかけ声年用意」小松月尚 「二人居の手抜きばかりの年用意」武田澄子 「煤掃てしばしなじまぬ住居かな」許六 「ゴルフには行かさぬ今は煤払」深野まり子 「横抱きにして御仏佛の煤払ふ」石 寒太 「おしまひにおのれの煤を払ひけり」小沢変哲 「雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと」松本たかし 「捨てどころなく雪達磨作りけり」内藤桂子 「村人の顔して並ぶ雪だるま」清水明子 「力を出せ力を抜けと寒稽古」尾熊靖子 「寒稽古終へ湯あがりのごとき顔」野口順子 「寒泳の火の番ばかり威勢よき」森 幸子 「あやとりの相手してゐる喪服かな」小原啄葉 「まつさきに附録ひらきぬ青写真」梶田泰弘 「竹馬にちよつと乗りたる庭掃除」坂口夫佐子 「スケートのをんな狐臭を発しけり」山口誓子 「スケートの替はる替はるに休む足」北村行生 「海女の指ときに焚火の炎を掴む」山口美瑳代 「博学の入りて白ける焚火の輪」黒岩喜洋 「鶏頭を目がけ飛びつく焚火かな」松本たかし 「嫁ぐ子の焚火に投げしものや何」高木時子 「焚火かなし消えむとすれば育てられ」高浜虚子 「わがからだ焚火にうらおもてあぶる」尾崎放哉 「松に上りて見る昼火事の小さきかな」長谷川かな女 「顔見世で逢ふまじき妓と出逢ひけり」松本たかし 「しんがりが好き探梅も人生も」木田千女 「歩くだけ生きるだけの幅雪を掻く」寺田京子 「ひねりわざ入れては屋根の雪下ろす」あべふみ江 「雪吊の雪待ち顔に吊られけり」染谷栄都子 「いやがれる枝をからめて藪巻きす」右城暮石 「杵肩に餅つきにゆく畦伝ふ」松本たかし 「一臼の餅抱へられ通さるる」三橋敏雄 「餅肌にあらず餅腹湯に沈め」勝田享子 「能書を並べて餅を焦したる」太田一石 「雀罠おもはぬ邪魔に郵便夫」守屋井蛙 「狐罠かけて百年まつ構へ」林友次郎 「耳立てるとき尾も立てて狩の犬」岬 雪夫 「かんじきのおいらん歩き致しけり」柚木ぽぴい (かんじき:[木+累]) 「どかと腰据ゑて一生炭を焼く」本宮鼎三 「百姓となりすましたる布子かな」飯田蛇笏 「犬なぶる烏面白し麦を蒔く」西山泊雲 「世紀末大根一本抜いてをり」鏡 茂子 「大根引きし穴へ一気に不平吐き」黒岩喜洋 「大根引大根で道を教へけり」一茶 「大根を仕切り直して抜きにけり」畑 絹枝 「これがまあ一茶の里や懸大根」蟇目良雨 「しなしなと魂の抜けゆく懸大根」阿部朝子 「大根干す一週間でややへの字」武田多美子 「絶対に極楽と決め己が終(つい)」相原一枝 「こんな大きな石塔の下で死んでゐる」尾崎放哉 【行事】 「神の留守巫女溜りより笑ひ声」井ノ口静子 「炉火掻いて瞳も火のいろ雪安居」山口草堂 「「福は内」とは照れくさきせりふかな」山上樹実雄 「おほらかに神代はみだら里神楽」平畑静搭 「おほらかな神の浮気や里神楽」永田成範 「里神楽小袖より出る農夫の手」中川須美子 「七五三の飴も袂もひきずりぬ」原田種茅 「姉らしく弟らしく七五三」小野塚登子 「不断着のままの父と子七五三」佐藤靖美 「おはらひを上目づかひに七五三」高橋博夫 「タクシーヘ先に乗りこむ千歳飴」大西一冬 「へろへろとワンタンすするクリスマス」秋元不死男 「降誕祭酔ひ呆け妻をとゞけらる」安住 敦 「クリスマス自由に死ねと定年来」田川飛旅子 「写楽のやうな顔で羽子板市へゆく」寺田青香 「京ことばゆっくり値切る羽子の市」菅野雅生 「妻は妻の倖せ抱き熊手買ふ」宇咲冬男 「人の中を晏子が御者の熊手かな」村上鬼城 「かつぎ持つ裏は淋しき熊手かな」阿部みどり女 「嫁にくし息子にくしや十夜婆」木田千女 「ひそひそとやがてがやがや十夜婆」深沢暁子 「さかもりの猜拳(なんこ)が上手十夜僧」河野静雲 「嫁いびる十夜説法皆わらふ」河野静雲 「ほんたうに百八つかな寝てしまふ」藤谷和子 「ひよつとこに握手されたり里神楽」朝倉 玲 「襤褸市の靴に化けたる蜥蜴かな」山内純二 「なまはげのひらたき蹠が踏み鳴らす」今田 拓 「なまはげにしやつくり止みし童かな」古川芋蔓 「なまはげを襖のかげで見る子かな」中村苑子 「かまくらの灯より人家の灯の貧し」岸風三楼 「かまくらやうしろの闇へ炭火捨つ」牧石剛明 |
動 物 植 物 |
【動物】 「鴨を追ふ鴨啼きだしてしまひけり」大久保昇 「水底を見て来た顔の小鴨かな」丈草 「千波湖の万の一波は鴨が生む」名取思郷 「振りたててはばかりながら鴨の尻」小沢信男 「鷹揚な白鳥鴨を怒りけり」三上 孝 「写真ほど白鳥真白にはあらず」宇多喜代子 「凍鶴の臆することなく糞りにけり」太田青箏 「ずら・だんべ峠が頒つ冬鴉」影島智子 「托鉢のごと歩きゐる寒鴉」山中宇田子 「潜らねば息が詰まるとかいつぶり」尾熊靖子 「老鷹の芋で飼はれて死ににけり」村上鬼城 「笹子来て話は尽きてゐたりけり」古舘曹人 「笹鳴の穏密の声しきりなる」川端茅舎 「馬の尾の届かぬ腹に冬の蝿」茂木連葉子 「冬の猿哀しきまでの芸達者」加藤裕子 「何もかも知つてをるなり竈猫」富安風生 「とまどひのあとの跳躍野の兎」雨宮抱星 「人といふ獣みてゐる檻の熊」鈴木貞雄 「供えたる河豚の跳ねたり河豚供養」木村里風子 「河豚中夜伽の野郎みなしらふ」河野静雲 「河豚の座の障子の隙を閉めにけり」高橋淡路女 「鮟鱇は呑気な顔で吊られをり」草薙よう子 (よう:[白+華]) 「鮟鱇や鼠小僧を泊めし家」長谷川かな女 「とめどなき大鮟鱇の涎かな」岡田耿陽 「座布団のごとく鮟鱇置かれあり」岩淵喜代子 「糶(せ)り残るこの鮟鱇の面構へ」鈴木真砂女 「寒鯉の大きな吐息万事休」阿波野青畝 「寒の鮒俎にのり遠目なす」飴山 実 「凍魚の値を罵りてぶつた切る」吉村 保 「鮪またぎ老いのがにまた競りおとす」橋本多佳子 (鮪:まぐろ) 「おにをこぜ徹頭徹尾おにをこぜ」松尾隆信 「定まらぬ秤にをどる寒どぢやう」清川恵子 「酒のまず海鼠も食はず老いにけり」阿部ふみ 「半分は水の重さの海鼠買ふ」須賀一恵 「憂きことを海月に語る海鼠かな」召波 【植物】 「菰の中あつけらかんの寒牡丹」徳田青雨 「亀が首伸びるだけ伸べ返り花」井上久枝 「しぶしぶと泡立草の枯れはじむ」尾熊靖子 「よく伸びて平和呆けなり室の花」高木一恵 「蔦枯れて十字架の十現れる」森田智子 「落葉して町中に大樹憎まるる」西山泊雲 「逃げ腰の落葉押へて竹箒」清川恵子 「サスペンス始りそうな落葉道」奥山和子 「桐桜欅柿朴庭落葉」瀧井孝作 「よくも乗ったり物干竿に枯葉かな」小沢昭一 「僧もする冬木の中の連小便」河野静雲 「一度くらゐは歩きたかろう冬木たち」小檜山繁子 「裸木となりてなほある自己主張」小島和子 「朱欒抱きいつから老といふものか」古舘曹人 (朱欒:ザボン) 「言ひたくて言ひだしかねて蜜柑むく」高和ことこ 「白葱に抜き身の長さありにけり」岩津厚子 「水のめば葱のにほひや小料亭」芝不器男 「葱切つて男泣きする妻の留守」佐藤 肇 「葱提げて帰る教師の顔のまま」行方克巳 「大根を情死のごとく並べ置く」石田直子 「肩出して大根青し時雨雲」前田普羅 「生き馬の身を大根でうづめけり」川端茅舎 「句作りのつぶつぶぶつぶつブロツコリ」神谷文子 |