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ドラクエWSS(その2)



先に動き出したのは敵であった。

すでに隠れていることに気づかれているため、いつまでもその場にとどまっていたら集中放火を受けることが安易に予想される。

空気を裂くような音を撒き散らしながら上空を移動する。

「なかなか早いわね…」

「でも姉さん、見えない動きではないです」

二人はいつ相手が攻撃に移ってきても対処できるよう全神経を集中させる。

しばらくの間。

「来るっ!」

マーニャの一声を合図に敵が真横から二人に向かって突撃してくる。
単調な攻撃だったので難なく第一撃目をかわすことに成功する。

激しい音を立てながら地面に着地する敵。

極限まで軽量化された体。
全身が血のように赤く、いたるところから刃のような鋭い爪が生えている。

腕らしきとことのものなど、生身の人間が捕まればあっけなく切り裂かれそうである。
この人あらざるものに対してこの世界の住人はこう呼ぶ。

モンスター、と。

「捉えたわよ!」

あらかじめ呪文を唱えていたマーニャが左手をモンスターに向ける。

「姉さん待って、上っ!」

ミネアの悲鳴に近い声に反応して見上げるマーニャ。
なんと洞窟の岩が雪崩のように落ちてきているではないか。

「モンスターにくせになかなかやるわね!」

呪文を唱えるのを中断し、マーニャは腰に装備してあった武器を手に持つ。
しなやかに伸びる長身のムチ。

どこぞの王様が世界中に散らばっているおもちゃのようなメダルと交換してもらえる景品の一つで、それこそ井戸の中、草むら、はては民家のタンスまで探しまくって手に入れた武器である。

決して、犯罪だと思わないように。

このムチ、実はかなりの代物らしく(王様談)自分の意思で自由に伸縮可能。
攻撃範囲がやたらと広い等、特殊な効果があった。

「はぁっ!」

びゅんっ、と勢いよく振り回されたムチは岩石が地面に到達する前に次々とに粉々にしていく。

その一瞬。

二人が岩石に注意を向けたわずかな隙。
モンスターは機会を逃しはしない。
不気味な爪を光らせながら地面すれすれの位置で全速で翔ける。

マーニャがその気配に気づき、振り向いたときにはすでにモンスターの腕が振り下ろされていた。

ザシュッ…!

鈍い音を立てながら吹き飛ばされるモンスター。

「…!?」

何が起こったのかわからずそのまま側岩に激突する。

「甘いですよ」

マーニャのやや前方に光り輝く魔方陣。五つの頂点には銀のタロットカード。
あらかじめミネアが設置しておいたのだ。
モンスターが攻撃をしようとする瞬間、発動するように。

苦悶の表情を浮かべつつもすぐさま体制を整えようとするモンスターだが、

グオン

頭上にとてつもない重りがもしかかったような負荷がかかる。
風が、地面に向けて吹く。
殺傷能力はまったくないがその場にとどめておくには十分過ぎた。

「もう逃しません、そのままでいて下さい」

ミネアの呪文のより身動きが取れなくなったモンスターにムチが絡み付く。

「チェックメイトってやつよ」

手に魔力が集中される。

「紅蓮の炎よ、悪しき存在に永遠の闇を…」

そのまま武器にまとう赤き力。

「…!!」

悲鳴を上げることもできずにモンスターは塵に帰った。

「一丁、あがりっ」

「やりましたね、姉さん」

緊張が解け、穏やかな顔つきに戻るマーニャとミネア。

「さて、向こうは大丈夫だと思うけど…行こうか、ミネア」

「そうですね、行きましょう」

二人は奥のモンスターのほうへ行った勇者とアリーナのもとへ向かうべく走り出す。

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