核剤
 プラスチックには結晶性のものと非結晶性のものとがある。結晶させると分子が規則正しくならぶので性能を高くすることが出来る。結晶するかしないかは材料の種類である程度決まる。しかし、固め方によっては十分結晶化しないことがある。結晶を促進するためにはゆっくり固めればよい。これは正しくならぶための時間的な余裕を与えることと理解すれば良い。しかし、経済的には好ましいことではない。また、材料によっては結晶化能力が不十分な材料もある。こんな時、結晶化を促進するのが「核剤」と称される添加剤だ。核剤は表面がプラスチックの結晶構造と形状が似ている。溶融した分子が核剤の表面で固まると核剤の形状にならって規則正しくならび、ここから結晶化が進むと解釈されている。

加熱冷却成形
 射出成形では冷たい金型の中を溶融プラスチックが流れるため、金型に接触した部分は固まりながら流れることになる。
 充填が終わると高圧をかけ、溶融プラスチックを型面に強く圧し付け、金型の表面を成形品に写しとる。これがうまく行けば外観の美しい成形品を得ることが出来る。ところが流動中に固まった表面は強く押し付けても金型表面通りの外観を得ることが出来なくなってしまっている。
  そこで考え出されたのが、充填中金型を高温にしておき、表面を固めないことである。いろんなやり方があるが、見違えるほど美しい成形品を得ることが出来る。この技術は外観が必要な製品に広く使われているが、充填後冷却するとき時間がかかってしまう問題がある。

型内装飾
 金型のなかに写し絵を入れておいて溶融樹脂がこのパターンを写し取ってくる成形法がある。最近美しい意匠の携帯電話が出回っているが、その多くはこのような方法で作られている。通常、写し絵は耐熱性のあるPETフィルムが使われ、これに印刷されたインキの裏にさらに接着層が設けられている。型内で溶融樹脂がインキ層に接触すると接着層によってインキが成形品表面にはりつく。冷却が終わり、成形品を取り出せば表面にインキ層で装飾されている。一般に成形品の表面は凹凸があり、印刷するのが難しいが、写し絵(転写紙と言う)は平滑で柔軟なため、印刷が容易だ。また、グラビア印刷など高級な印刷も簡単にできる。場合によっては真空蒸着を利用して金属光沢を付与することも可能だ。
 ただし、制約もある。転写紙は変形して成形品表面に密着する必要がある。このため、凹凸の激しい成形品には適さない。
 なお、転写フィルムを成形品に残す方法もある。この方法ではフィルムを選べば成形品表面に特別な機能を付与することが可能になる。
型構造の影響(金型冷却
 最近の金型は型板にキャビティを直接彫り込んでいることは少なくなり、キャビティは独立したブロックになっていることが多い。すると型板とキャビティの間には接触抵抗があり、熱が伝わりにくくなっている。こんな金型ではキャビティブロックに直接冷却水路を設けることが望ましいがそうなっていない場合が多い。同じことは別部品になっている、コアピン、スライドコアなどについてもいえる。特にコアピンは断面積が小さいので熱伝導が悪く、冷却が遅れることが多い。サイクルアップを検討する時はコアピンの冷却強化は重要な視点だ。

型なし成形
 融けたプラスチックを型に流し込んで成形する手法は銅鐸の時代から行われている。特にプラスチックでは取り出せば即製品になるということで重宝されている。
 問題は金型が高価なことだ。大量生産の時代は問題にならなかったが、量産品は海外に行ってしまうと従来のように金型投資は出来なくなっている。しかしモノは作りたい。そこで工夫されているのが金型を使わない成形法だ。いろんなやり方がある。例えば、レーザーで硬化する材料を使う方法がある。この方法では原料の上にレーザーで断面の絵を描き重ねることで立体的な製品をつくってしまう。材料の制約はあるが、試作用に広く普及している。

感光性樹脂
 光が当たると固まるプラスチックがある。ガラスの上に液体を乗せて、ネガフィルムを通して光を当てると光の通ったところだけ固まる。このプラスチックの画期的な用途は印刷の世界だった。原稿をネガフィルムにしてこのプラスチックの上に載せて光を当てれば凸版の原版が出来てしまう。写真も文字も関係ない。カラー印刷はフィルターを使って、色を分離すればよい。このシステムが完済した後、ワープロが発達し、電子編集が行われるようになった。これで新聞社は大きく変わった。
 例えばプリント基盤の製造もこの樹脂が使われる。銅貼り板の上にこの樹脂をぬり、回路を書いたネガフィルムをおいて光を当てれば銅の上にプラスチックの層が出来るので、これを酸につければ覆われていない部分が溶けて回路をつくることが出来る。このとき、フィルムには拡大した回路を描いておいても良い。光を当てるとき、拡大、縮小が自由に出来るからだ。

強化プラスチック
 プラスチックに無機物を添加して物理的な強度を向上させたものを強化プラスチックと言う。強化剤の代表的なものはガラス繊維だが、これに限ることはない。添加の方法、形態もさまざまだ。
 ガラス繊維の場合だと、まず繊維の長さが多様だ。通常の射出成形が可能な材料では原料段階で繊維の長さが1mm程度だ。これを成形するとさらに短くなる。出来るだけ長い繊維を残そうと様々な工夫が行われている。
 長繊維で成形品を補強しようとすると熱硬化性樹脂が適している。これは熱硬化性材料は原料が低分子であるため、加工時の粘度が低く、ガラス繊維の間にも浸透しやすいためである。いわゆるFRP(ガラス繊維強化プラスチック)はこれに相当する。しかし、熱可塑性樹脂の加工性に注目し、FRPを熱可塑性樹脂で作る技術が開発されている。高粘度の溶融樹脂を繊維と充分馴染ませるところが技術のポイントになる。

回転成形
 プラスチックで中空のものを作るには、ブロー成形が良く知られている。これは金型の中で融けたプラスチックの固まりの中に空気を吹き込み、風船のように膨らませて中空体にする。
 もうひとつのやり方は、金型の中に樹脂を入れておき、型をいろんな方向に回転させながら加熱して、内部の樹脂を融かす。型が回っているから、融けた樹脂は金型の内側に均一にへばりついているため中空体になる。回転を止めないで冷やせば中空体を得ることが出来る。 
 胃潰瘍の検査で炭酸ガスで胃を膨らませておいて、バリウムを飲まされる。その後、からだの向きを変えさせられ、バリウムが胃壁全体につくようにす。このとき、私は回転成形を思い出す。

吸水性ポリマー
 高分子材料はプラスチックのように材料として使われているものが多いが、ちょっと違った使い方がされているものも多い。高分子材料の中には大量に水を吸う性質をもったものがある。吸う量は尋常でなく、自分の重量の1000倍くらい吸う。この物質のことを吸水性ポリマーといっている。とにかく水を良く吸うので、おむつに使われている。また、逆に、吸った水を中々放さない性質がある。この性質を使ったのが芳香剤だ。ゲル状(こんにゃくのような状態)の芳香剤は吸水性ポリマーにアルコールや香料を吸着させたものだ。長時間香料を保持しておく特性がある。最近テレビで砂漠緑化に役立っているというコマーシャルが流れている。これもいったん吸着した水は簡単には逃げ出さないという特性を利用した用途だ。

記録媒体
 初期のテープレコーダはPETフィルムに塗られた磁性体を磁化して信号を記録していた。ベースフィルムは初期には和紙がつかわれたこともあるそうだが、写真用のフィルムが転用された。トリアセテートフィルムである。しばらくはこの時代が続いたが、より薄く強いフィルムと言う要請からPETに代替し、今日に至っている。当初、磁性体はテープ状であったが、特定の場所の情報を取り出そうとするときはじめからテープをほどいていく必要があり、時間がかかる。この問題を解決するために円盤状にし、円周方向に何周か記録することがおこなわれた。我々が愛用していたフロッピーディスクである。
 その後、光記録の時代になった。光記録ではテープの時代はほとんどなく、円盤タイプである。光の場合は光透過性が要求される。最初に登場したLDでは透明性の優れたアクリル樹脂が使用されたが、CDからはより耐熱性の高いポリカーボネートが使用せれている。これは使用環境の多様化を想定したためである。光媒体用の材料は薄いデイスクが成形可能な成形性のほか、ゴミが少ないことが要求される。
銀紙
 包装に使われ銀紙が本当の銀箔だと思っている人は少ないと思う。金属箔の場合でもアルミが使われている。台所にあるアルミ箔と同じものだ。
 ところが包装材料に使われている銀紙の多くはプラスチックフィルムだ。真空蒸着と言う方法でごく薄いアルミの層が設けられている。この層は薄くて弱いため、この上に保護膜でおおわれている。
 それぞれ特徴があり用途によって使い分けられているが、プラスチックベースのものはとにかく安いので包装分野で広く使われている。アルミ箔はガス透過性がないため、香りを逃がさないとか、長期保存用の食品などに使われる。
 アルミ箔かプラスチックフィルムかは引っ張れば分かる。引っ張って変形するのがプラスチックだ。
ゲートカット(型内)
 射出成形では金型の中で成形品に成形材料を流す必要があるこの流路のことをランナと言い、成形品につながっている部分をゲートと言う。
 成形が終わると、成形品はランナとゲートでつながったまま出てくる。このため、成形品とランナを切り離す作業が必要になる。この作業が結構面倒なので、型開閉時に切り離してしまうことが行われている。このためにはサブマリーンゲートと言う方式が最も広く使われている。製品を突き出すとき、ゲートの部分が金型に引っ掛かり切れてしまう仕掛けだ。この方式ではゲートの大きさ、形状、位置などに制約があるため、特別な刃物を用意しておき、突き出し前に刃物を移動させてゲートを切ることもおこなわれている。例えばCDやDVDでは内側の孔の内周がゲートになっており、成形後金型の中で切断されている。
 ゲート開閉(ホットランナ)
 射出成形で金型に溶融樹脂を流すとき、樹脂流路のみを高温に保ち、樹脂が固まらないようにすることが出来る。この技術のことをホットランナと言う。ホットランナのゲートは射出時には樹脂が溶融しており、成形品取り出し時には固化している必要がある。
 このゲートの開閉をうまくすることが重要な技術の一つになっている。もっとも簡単な方法はゲート付近の熱流を利用する方式だ。金型が開いているときはげーつが露出している。空気は熱伝導性が悪いため、放熱が小さいため高温のホットランナからの熱流が支配的になり、温度が上昇する。型が閉まり、キャビティに樹脂が充填されるとゲートは熱良導体である樹脂や金型からの影響を受け、温度が低下する。このような成形サイクルによってもたらさせるゲート周辺の熱環境をうまく利用してゲートの開閉を行うことが出来る。

消しゴム
 ゴムのことをRubberと言う。このrubは動詞で「擦る」と言う意味だそうだ。つまり、Rubberは「擦るもの」、消しゴムを意味するのだという。ゴムの用途が広がった現在では想像もつかないことだが、消しゴムはゴムの応用製品としてはかなり古く、しかも有力な用途であったことが語源から推定できる。
 ゴム製品として消しゴムを見ると極めて性能の低いゴムだ。こするとボロボロくずれてくる。曲げると折れてしまう。実はここに字を消す性質がある。消しゴムに使うゴムは柔らかく、粘着性が強い。こすってボロボロ削れる時に、紙の上の黒鉛の粉を剥ぎ取ってくる仕組みになっている。
 なお、最近は消しゴムにはほとんどゴムが使われていない。材料の名前の由来にもなった用途でも使われなくなることがある。

ゲル
 寒天、トコロテン、こんにゃく、プリン、ゼリーのような固体と液体の中間のようなものをゲルと言う。ゲルの定義は液体ゾルが固まったものだそうだ。するとゾルが問題になる。ゾルは極細かい粒子が気体や液体に浮遊している状態をいう。粒子が細かいため、密度差によって沈降したり浮上したりはしない。これが液体の中で起きる場合と言うと、たとえば牛乳がある。牛乳は水に脂肪やタンパク質の細かい粒子が浮かんでいる状態だ。牛乳は温めるとタンパク質が固まって分離してしまうからゲルにはならない。こんにゃくや寒天ははじめはゾルだったものに何らかの操作をすると固まる。寒天の場合はお湯で溶かして、冷やして固める。こんにゃくは石灰を添加して固める。少し専門的になるが、寒天だとマンナンと言うひも状の分子が石灰の仲立ちで隣のひも状分子と何か所かでつながり、網状になる。網は3次元的に出来、周りの水を抱え込む。抱え込まれた水はもう流れない。この状態がゲルだと言うわけだ。ゲルは食べ物だけでなく、いろんなところで見ることが出来る。我々の体でも、目や軟骨はゲルだ。

形状記憶樹脂
 形状記憶樹脂というのがある。力をかけると変形するが、力を除いても元に戻らない。ところが温度を上げると元に戻る。これはもとの形を覚えているということで、形状記憶樹脂といわれている。
 樹脂はゴムと普通の樹脂の中間の構造を持っている。要は力を抜いたとき、元に戻りにくいゴムと言ったほうが良い。戻りにくさは樹脂の構造を加えることによって付与している。邪魔をしている樹脂は熱を加えると耐えられなくなり、ゴムの本性が現れるというわけだ。

高密度と低密度
 ポリエチレンだけが材質表示に密度が付いている。現実に密度の異なるポリエチレンがあるからだ。密度の違いは分子がきちっと並んでいるかどうかで決まる。もちろんきれいに並んでいる方が密度は高くなる。一般的な性能も優れている。熱可塑性のプラスチックは鎖状をしているが、鎖をそろえて並べれば最もコンパクトになる。きれいに並んだ状態を結晶していると言う。低密度の方は鎖が途中で分かれていたり、突起があたりして分子同士がうまく並ぼうとしても途中で並べなくなってしまい、密度が高くならない。もっとも高密度の方も、すべての部分が結晶になっているわけではない。ある部分は結晶でない(非結晶)部分が残っている。結晶している部分と非結晶の部分は様々な特性が異なる。光の屈折率も違う。このため、光は結晶、非結晶の間で屈折する。このため、特に高密度ポリエチレンでは光が乱反射して、乳白色になる。低密度ポリエチレンは高密度ほどではないが結晶部分が少しあるため、完全な透明と言うわけには行けない。
 昔は規則正しい鎖を作ることが出来なかったため、低密度ポリエチレンしか作れなかったが、技術が進み、密度の高いポリエチレンが出来るようになってきた。最近ではいろんな密度のポリエチレンを作ることが出来、中密度ポリエチレンなんていう材料も登場している。
 なお、ポリプロピレンはすでに密度を調整する技術が登場してから作られたため、密度のバリエーションはポリエチレン並みに大きいが、区別して呼ばれることはない。

ゴム
 ゴムの英語、ラバーが字を消す動作を示していることは別項で触れている。ゴムも外来語であることを知った。ゴムの語源は「ガム」だと言う。チューインガムと同じだ。そもそもチューインガムはある種の樹液を原料にしていた。ガムシロップも樹液から取っていたことが名称に残っている。ここでゴムと結びつく。ゴムも同じく原料は樹液だ。
 すると、プラスチックを指す樹脂(レジン)との関連があやしくなる。投手が滑り止めに使うロージンバッグに名残をとどめている。こちらは樹脂だ。液と脂の区別はあるかもしれないが多様な経路をたどることばの形成過程で区別されていたとは思えない。よく分からないが、うるしのような塗料や接着剤の分野もすくめ、古くから樹液の利用が行われていたことが分かる。

混色成形
 異なった色のプラスチックを融かして混ぜ合わせると、中間の色の製品が出来る。ところが、混ぜ方が不十分だと色ムラのある製品が出来る。通常、これは不良品だがうまくやるときれいな成形品が出来る。たとえば透明の黄色の地に黒い流れ模様が入ると、べっ甲のように見える。白地に黒だと大理石のような感じにすることが出来る。
 このような模様を意図的に作る成形法を混色成形と言い、日用品などで広く使われている。この成形法の特徴は流れに任せているため、一つ一つの模様が微妙に違い、温かさを感じる。ただし、「適度に混ぜる」と言うのは結構難しく、安定して美しい製品を成形することは簡単ではない。

コルゲートチューブ
 プラスチックパイプは押出成形で作る。通常は断面が一定だ。表面がでこぼこしているチューブがある。我々の身近なところでは洗濯機のホースや電線の保護管にその例を見ることが出来る。
 このホースも押出成形で作られる。ただし、口金で形を決めることが出来ない。押出機からはやや細目のチューブを出す。口金の外には金型が待っている。この金型に凹凸が付いている。金型は熔融樹脂の押出速度に合わせて動くようになっている。しかも金型は連続的に供給される。もう一つの仕掛けは熔融油脂を金型の壁面におしつけることだ。そのため、ホースの内部に圧力をかける。金型を連続的に供給したり、口金と金型の間にすきまを作らないことなど、実際の装置にはさまざまな工夫が施されている。

コアピン
 プラスチックの成形品で穴のあいている部分がある。金型はこの部分が飛び出ている。多くの場合飛び出ている部分は別部品で作ってはめ込む。はめ込む部品のことをコアと言う。コアのうち比較的細くて長いものがコアピンだ。コアピンは円筒形のものが圧倒的に多い。ねじ穴などにたくさん使うため、既製品も用意されている。特に細くて長いピンは折れたり曲がったりするため、消耗品扱いである。
 成形するとき、コアピンは周囲を高温の樹脂に囲まれるため、冷却が遅れる。このため、成形技術的にみるとコアピンをいかに早く冷却するかが問題になる。細いため、冷却水路を作ることが難しい場合がある。無理につくっても少量しか流せないことも多い。このため、コアピン冷却が成形時間の律速だと極論される場合もある。