ナイロン樹脂
 ナイロンは繊維として広く使われているが、射出成形品としても使われている。耐熱性が高く、自動車、電気製品、機械部品などに広く使われている。最近は半田耐熱の高い材料も登場し、プリント基板実装用にも使える。ガラス繊維との親和性が高く、ガラス繊維強化グレードが比較的多い。また、吸湿性があるため、水分によって性能、寸法が変わると言うやっかいな性質がある。吸湿すると柔軟になり、耐衝撃性が高くなる。このことを利用して、結束バンドなどでは強制的に吸湿させ、扱いやすく、衝撃に耐えさせる工夫をしている。最近半田の非鉛化が進み、より高温に耐えるナイロン樹脂の利用が増えている。

ナノコンポジット
 ガラス繊維のように固いものをプラスチックに添加すると硬く、強くなる。ところが、もろくなる。脆さを防ぐには添加量を減らせばよいが、当然のことながら強度補強効果が低下する。この問題を解決できそうだ。それは補強材のサイズを小さくすることだ。補強材のサイズが小さいと、添加量が少なくても補強効果が高い。今話題になっているのは、1μ以下の補強材を使うことだ。1μより小さい粒子のことをナノマテリアルと言う。このため、このような材料をナノコンポジットと称している。もっとも、小さい補強材を入れたつもりでもほぐれないで偏在していては意味がない。微細粒子を一つ一つ分離して、プラスチック材料の中に均一に分散させることは容易なことではない。今このあたりの技術開発競争が進められている。

難燃グレード
 プラスチックは有機物なので程度の差はあるが燃えやすい。これを添加物で燃えにくくしようとするのが「難燃剤」だ。そしてあらかじめ難燃剤が添加されている材料が難燃グレードだ。もちろん石や金属になるわけではないから完全に燃えなくなるわけではない。
 難燃剤にはいろんな考え方のものがある。たとえば無機物で結晶水を多く含む化合物が考えられる。このような物質を含んだプラスチックが燃えだし、高温になると結晶水が分離し、水蒸気を発生する。このとき大量の反応熱、蒸発熱を奪うため、周囲の温度を引き下げ火の勢いを緩和する。また、発生した水蒸気はプラスチックの表面を覆い、酸欠状態にする。このため、いったん燃えだした火は消えてしまう。同じ考え方で、炭酸ガス、窒素、ハロゲンなど不燃性のガスを発生させるタイプの難燃剤が多く知られている。
 このほか、金属酸化物で燃えると樹脂表面をガラス状の物質でおおってしまう難燃剤も知られている。

荷造りバンド
 プラスチックは分子を一方向に引きそろえると強くなる。この操作のことを延伸という。合成繊維はその典型的応用例で大変強い。最初の合成繊維に「くもの糸より細く、鋼鉄より強い」というコピーが使われたそうだが誇張ではない。しかし、強いのは延伸方向だけで、延伸直角方向は延伸すればするほど弱くなる。荷造りヒモがたて裂けしやすいのはこのせいだ。
 荷造りヒモはさけてもかまわないが、荷造りバンドではちょっと困る。そこで、延伸した後、高温のひし型の型を押しつけ、模様を付けている。こうすると、模様の輪郭の部分で分子が乱れ延伸方向の強度が多少低下するが、経て裂けしにくくなる。スチールバンドはジョイントをかしめているが、プラスチックバンドは重ね合わせた部分を強くこすりつけると摩擦熱で溶融するため荷造りが簡単に出来る。

Pキャップ
 PETボトルにはポリエチレン製のキャップがついている。キャップの歴史をたどって行くと、最初はワインに使われているようなコルク栓だった。次に登場したのが、今でもビンビールに使われている鉄板製の王冠型キャップだ。王冠にはコルク製のシールが使われている。これはコルク栓と同じ材料だ。当時、王冠屋さんはコルクシールは扱わなかった。このため、ガラスビンメーカー、王冠メーカー、シールメーカーの3者が並立していた。
 PETボトルが登場した時も、ボトルメーカーとキャップメーカーは別だった。しかも、キャップはシールと別部品になっており、キャップにはより固い材料、シールには柔らかい材料が使われていた。今でもこの発想のキャップを見ることがある。このタイプのキャップのことを2Pキャップ(2部品キャップ)と言う。
 その後、材料の選定と形状の工夫で、キャップとシールを一体設計することが出来、コストダウンに貢献した。このタイプのキャップを1Pキャップと言う。もちろん、今日ではビン、キャップ、シールの分業体制もなくなり、どこのメーカーもビン、キャップともに供給できるようになっている。

温茶(ヌクチャ)
 寒くなると、缶コーヒーをはじめとして、飲料が温めて売られる。缶の場合は何も問題がなかった。ところがPETボトル入りのお茶は暖めたまま長時間保存すると、香気が抜けていくと言う問題が起きた。我々は気付かないがお茶は香りが命なのだそうだ。そこで、香りが抜けないPETボトルを造ることが考えられた。様々な方式があるが香りの逃げないような層をボトルの内側に設けることが普通である。逃げない層もいろいろあるが、例えば炭素やシリコン化合物の結晶が使われている。温茶を飲んだ後で空になったボトルを見ていただきたい。少し色が付いているのが炭素結晶の薄い層が設けられているボトルだ。なお、加温販売できるボトルはキャップがオレンジ色をしているが、これは識別用で、性能とは関係ない。

抜き勾配
 プラスチックバケツは口の方が太くなっている。注意してみると、ごみ箱やシール容器、さまざまな形の食器などもみなそうなっている。これが逆だったら金型から取り出すことが出来ない。容器などは口が広い方が使いやすいが必ずそうでもないものがある。そうでない場合もわずか口の方を広くする。このことを抜き勾配と言う。角度にして1°以下で良い。ローラーのようにまっすぐでないと困るものは勾配が付けられない。このような場合は金型から無理やり引っ張りだすか、成形では少し勾配のついたものを成形し、後で表面を削ると言った面倒なことをすることになる。もっとも、金型を分割して取り出しやすいようにすればデザインの自由度を上げることが出来る。なお、つぼ状の容器はブロー成形の様な別の成形法で作る。

熱電対
 プラスチック成形では温度計測が必須だが、多くは熱電対が使われる。これは2種類の金属をつないで回路を作っておき、2カ所の継ぎ目の温度を変えると温度差に応じで電流が流れると言う現象を利用している。熱電対の一方を室温にしておき、他方を測定しようとする部分に置き、回路のどこかに電流計を置けば温度が測定できると言うわけだ。温度が電気信号で取り出せるので制御に利用しやすい。温度計には金属の電気抵抗が温度によって変化することを利用したものもある。この場合も温度計に温度特性の分かっている金属線を用い、電圧をかけておき、電流量の変化から温度を推定する。
 樹脂温度を測定するため、熱電対を溶融樹脂に差し込んだとしよう。熱電対は冷たいので周囲の樹脂に温められ、やがて周囲の樹脂と同じ温度になり、熱電対を流れる電流から熱電対近辺の温度が推定できる。熱電対が樹脂に比べ大きかったらどうなるだろう。樹脂は熱電対にうばわれた熱だけ温度が低下してしまう。このほか、熱電対は機械の壁面に取り付けられているとすると、金属製の機械は溶融樹脂よりも熱伝導度がはるかに大きいので、周辺の樹脂より機械の温度の方が熱電対の表示への寄与が大きく、正確な樹脂温度測定はできない。このようにより正確な温度を測定しようとすると難しい問題が多くある。

農業資材
 農業が使用するプラスチックフィルムの量は決して小さい量ではない。しかも、作付けが終わると廃棄される。廃農業フィルムは土などの汚れが激しいため、再利用が難しい。
 ある県で生分解性のフィルムを使用することが検討された。作付けが終わったら畑に鋤きこみ、次の作付け時までに分解させてしまおうと言う構想だった。ところが、これがうまく行かなかった。すき込んだフィルムがそんなに速く分解しなかったからだ。少し分解したフィルム片が冬風に吹き飛ばされて、時ならぬごみ飛散が起き、大変なことになったと言う。土の中で分解しやすいと言うことは紫外線にも弱い。農業用フィルムは特に農繁期の夏には強力な紫外線を受ける。これにはある程度耐え、農閑期の冷えた土壌の中では簡単に分解するという都合のよいフィルムは簡単には設計できない。結局この話は立ち消えになった。生分解性のフィルムは高価なので、この差額は補助金農政の対象になるはずだったが、効果自体が認められず実現はしなかった。