欧字

ABS
 ABSもポリスチレンの改良を目指して登場した材料だ。以前説明したHIPSが耐衝撃性に絞った改良であったのに対し、ABSはかなり欲張った設計になっている。そもそもABSと言う名称はそれぞれの成分の頭文字だ。最初のAは機械的な強度や耐薬品性の高い成分だ。Bはゴム成分であり、衝撃性や柔軟性を付与する。そしてSはポリスチレンで美しい外観、成形性、電気特性が優れている。この三者を任意の割合で配合するのがABSだ。組み合わせは無限にある。
  ABSとHIPSは似ているが、実は配合法が違う。ABSは共重合と言う配合法をとっており、HIPSよりさらにミクロなレベルで配合されている。このため、外観が美しいとか、組成の分離がおきにくいなどの特徴がある。製造法も懸濁重合と言うより広範な組成に対応できる製法が採られている。

AE
 固体の破壊は一挙に起きることは少ない。一般には少しづつ組織の破壊が進みやがて持ちこたえられなくなった破壊する。破壊が進む過程で振動や音が発生しているのだそうだ。したがって、応力のかかった部分にマイクを仕掛けておいて音や振動を拾えば破壊の進行具合を知ることが出来る。このように微振動を観察することによって破壊の進行を監視することをAE(accoustic emission)と言う。航空機や建造物ではあらかじめ破壊の進行を観測しておけばどんな振動が出て時に破壊が近いかを知ることが出来、安全性検査の重要な手段になっている。プラスチックでこの手法が有効で、内部で微小なクレーズが発生したり、強化材の破壊が起きるとそれぞれ独特の周波数や波形の振動が発生するので製品検査はもちろんのこと、材料開発に活用されている。

AS樹脂
 ポリスチレンの透明性を維持しながら機械的な性能、耐溶剤性を向上させたのがAS樹脂だ。ABSから見るとB成分が抜けているから、極度に硬いABSとも取れる。分かりやすい用途としてはガスライターの透明なボンベがある。ここではガス圧に耐える必要がある。また、ガスは一種の有機溶剤なので、これに侵されないことが求められる。このような過酷な要求にAS樹脂は応えることが出きる。扇風機の羽根も日本ではAS樹脂製だ。羽根には遠心力がかかっている。また、殺虫剤など有機溶剤にさらされる可能性も高い。なお、扇風機の羽根が透明なのは日本だけで、通常は材料設計の自由度が広いABSが使われている。透明な羽根に清涼感を感じる日本人の感性が面白い。

CDとDVD
 CDはプラスチック製の円盤の上に刻まれている信号を読み取って音を出す仕掛けになっている。信号は盤上に光を当て、反射光の有無によって読み取られる。信号のあるなしだから、2進法のデジタル情報だ。あんな小さな円盤に1時間近い音が入っているのだから驚く。もちろん、信号は極めて細かく、これを金型から写しとるのは大変な技術を要する。悪いことに使われているポリカーボネートは流動性があまり良くない。成形温度も高い。しかも平面性など寸法の規格も厳しい。 さらに画像を入れたのがDVDだ。こちらはさらに信号が小さく、成形は一層大変だ。これを上回る信号密度のブルーレイに至っては、分子の長さと信号の大きさがほとんど同じくらいだ。成形の大変さが分かると思う。

CDピックアップ
 CDなど光記憶装置の読み取りにはピックアップと言う部品が使われている。ここではLEDと光電ダイオード感光素子が搭載されている。LEDの光を記憶装置に照射し、その反射光を光電ダイオードが感知し、信号の有無を判定する。これを高速に行うのがピックアップだ。読みとる信号は極めて小さいので、LEDの光はレンズで絞る必要がある。ここで使われているレンズはプラスチック製だ。軽量であることが求められている。ピックアップは信号を追って激しく動いている。CD盤などが平面でないため、絶えず焦点を調整する必要がある。これらの動きはサーボモーターで行われているが、重いと慣性力が大きくなり、高速、正確な動きが出来なくなる。このため、出来るだけ軽いレンズが必要なためもっぱらプラスチックレンズが使われている。最近はCD、とDVD,あるいはブルーレイを兼ねたピックアップもある。これらの媒体では信号の入っている位置が異なる。このため、2焦点、3焦点を持っているレンズも開発されている。こんな芸当はガラスレンズでは考えられない。プラスチックは金型さえ頑張ってつくれば、安価、大量にこのような高性能レンズを作ることが出来る。

EVA
 ポリ酢酸ビニールと言う柔軟な材料がある。単体では木工用の接着剤に使われている。融点が低くチューインガムの基材に使われるほどだから耐熱性がなく、成形材料には使えない。
 一方、ポリエチレンをもっと柔らかくしてほしい良いう要請があった。そこで、酢酸ビニールとエチレンを共重合した。成分割合でいろんなものが出来るが、耐熱性はそんなに落とさないでポリエチレンよりは柔らかい成形品を得ることが可能になった。ゴムの代替として、ホースやスリッパの裏などに広く使われている。

FRP
 ガラス繊維を樹脂で固めたものは極めて強い。多くのガラス繊維が力を分散して受け持つためだ。繊維に力を確実に伝える役目をしているのが樹脂だ。繊維と繊維の間を樹脂で満たし、しかもしっかり接合してスリップが起きないようにする。このような構造にしておくと弱い樹脂の部分に力が加わっても力が周囲のガラス繊維に伝わり、破壊することがない。
 繊維、樹脂の複合体を総称してFRPと言う。炭素繊維を使ったものをCFRP、ガラス繊維を使ったものをGFRPと表現する事がある。
 樹脂は通常はポリエステルが使われるが、炭素繊維を使うような高性能品ではエポキシ樹脂が使われる。単にFRPと言われる時はガラス繊維・ポリエステル樹脂の複合体を指すことが多い。

FRTP
 漁船などに使われているFRPはガラス繊維の糸の束や織物を熱硬化性プラスチックで固めて作る。その性能には定評がる。しかし、この性能を普通のプラスチックに使って見たいという要望は強いが簡単ではない。そこでガラス繊維を短く切って、通常の材料に混ぜることが考えられた。こうすると普通の材料と同様に成形できる。性能はいわゆるFRPには及ばないが、何も混ぜていないプラスチックに比べればはるかに強い。もっともガラス繊維を混ぜたことで欠点もでる。例えば成形品の表面がざらついて見える。このため、概観を重視する部分には使えない。

HIPS
 日ごろ使っている分には分からないが、ポリスチレンは着色しやすい、成形しやすい、電気特性が良いなど捨てがたい特徴がある。しかし、泣き所はもろさだ。これを何とか克服して、さらに用途を拡大しようとして登場したのがHIPS(ハイインパクトポリスチレン)と言われる材料だ。この材料はポリスチレンにゴムを配合する。するとゴムの弾力性で衝撃を吸収し、割れにくくなるというわけだ。ゴムとポリスチレンでは光の屈折率が異なるため、残念ながら不透明になってしまうが、この材料の登場で、ポリスチレンはテレビやラジカセのような大型製品の外装に使えるようになった。

LLDPE
 リニアローデンとも称される。一応低密度ポリエチレンの範ちゅうに入るが性能はかなり違う。言葉の意味は分子鎖の枝分かれが少ない(linear)が低密度のポリエチレンと言うことになる。分子鎖の枝分かれがあると結晶化が少なくなるため結晶化しにくくなり、密度は低下する。ところが、枝分かれをさせないで結晶化しにくくしたのがLLDPEだ。LLでは鎖の表面に小さな突起を数多く付けることによって結晶化を阻害している。「枝」と「突起」は似ているがちょっと違う。突起の方が制御しやすい。このため、透明度を落とさないで剛性を上げると言うような従来出来なかったような制御が可能になり、新しい用途が拓けている。
PBT
 PETはボトル用の材料として広く知られているが、他にも様々な分野で使われている。射出成形でも高性能な材料として使われている。ただし、結晶化しにくく、ゆっくり冷却しながら固まらせないと性能が発揮されない。そこで、分子構造を変えることが行われた。PETのE(エチレン)をB(ブチレン)に変えると結晶しやすくなる。これがPBTだ。製造技術はそれほど違わないので、PETプラントで生産できる。性能もそんなに違わない。エンプラと称する価格帯の中では比較的耐熱性が高いため自動車部品や電気・電池部品用に広く使われている。なお、ガラス繊維を添加すると結晶化が促進されると言う特性があるため、ガラス繊維強化グレードが圧倒的に多い。

PETボトル
 最近、地震報道のテレビ画面が変わってきたことに気付いた。棚から落ちたビンがわれ、飲料や調味料が流れている場面が見られなくなった。棚から落ちて散乱したビンは映るが、内容物の流出はほとんどない。これは容器がPETボトルに移行しているためだ。
 このボトルはプラスチック製品の傑作だと言ってよい。PETボトルは細い試験管状の原料(プリフォームと言われる)に圧縮空気で無理やり膨らませて作られる。この過程で分子がきれいに配列し、非常に強くなる。このため、きわめて薄いボトルで炭酸飲料の高圧にも耐えるようになる。この操作を延伸と言っている。すでに繊維やフィルムでは良く知られた方法だ。ボトルの場合は複雑な形状のものを均質な強さを実現するところにある。

PETビール
 日本でもPETボトル入りビールの発売が計画されたことがある。技術的に見ると通常のPETボトルに炭酸ガスを逃がさない工夫を施す必要がある。様々な方法があるが、多くはビンの内面に特別な層を設けている。
 PETビールではすでに多くの国で飲まれており、日本は後進国に属する。ところがこのビンが日本独自の世界を構築している。それは温茶(ヌクチャ)だ。店頭で高温に暖めたまま販売されるとお茶の香りが抜けてしまうのだそうだ。これを防ぐのにビールと同じ技術が使われている。これを区別するために高温販売用のビンはオレンジ色のキャップになっている。

RDF
 都市ゴミの成分は生ゴミ、紙、布、プラスチック、土砂、金属片など様々だ。水分を除けばほとんどは可燃性の物質だ。しかも、この比率が年々上昇している。最近で補助燃料をほとんど使わないで運転しているごみ焼却炉も少なくない。
 そこで、ごみを脱水、圧縮して使いやすくしたのがRDF(Refuse Derived Fuel)だ。ごみの固まりだが乾燥してあるのでにおいはない。ごみの中にはプラスチックや合成繊維が必ず入っているのでごみを高温で乾燥して圧縮すればこれら凝固材になって固まりが出来る。RDFは石炭と同じように燃料として使える。発熱量は石炭よりは少ないが、薪よりは高い。最近はこれを使った発電所も出来ている。

Sp値
 有機溶剤はお互いに混ざりやすいものとそうでないものがある。この性向は分子構造から推定できる。もちろん実験で確かめることもできる。その結果を数値化したものがSp値(solubility parameter)だ。Sp値の近い溶剤同士は混ざりやすい。
 固形の有機物にもSp値が求められている。この場合は混ざり合いと言うより、溶剤への溶解性を推定するのに使われる。塗料や接着剤の開発には大変便利だ。塗料の場合は塗膜形成材料とシンナーの相性が良いことが必要だ。また、被塗装材料とのSp値が近ければ密着性が高いことが期待出来る。
 プラスチックにもSp値が分かっており、溶解してエナメル状にしたい場合や、接着や塗装を検討するとき便利だ。逆に耐薬品性を考えるときにも参考になる。ある耐有機薬品性を考えるとき、Sp値の出来るだけ離れた材料を選べばよい。
SSカーブ
 ストレス・ストレインカーブの略称である。もっとも簡単なプラスチックの強度試験法は、試験片の両端をつかんで切れるまで引っ張る。切れたときの力を試験片の断面積で割って強度としている。測定の過程で力を加えるにしたがって試験片は伸びる。金属だと伸び方は加えた力に比例するが、プラスチックはそうならない。相当複雑な伸び方をする。伸びの変化を観察することによってその材料の特徴をつかむことが出来る。このため、特にプラスチックでは強度試験の過程で得られる「加えた力」と「変形の程度」を示したグラフが特性として重視される。このグラフのことをSSカーブと言う。

TEバンド
 ペットボトルのキャップをはずした時、ビンの口に残る環のことをTEバンドと言う。TEはTamper Evidenceの頭文字だそうだ。これはキャップが開けられたことが解るように切れるようにしている。事故や犯罪を防ぐための工夫だ。
 キャップを閉じる時は切れなくて開けるときだけ切れることが不思議に思った方もいると思う。私もその一人で、バンドを外して調べてみた。簡単な仕掛けだった。TEバンドの内側に薄いリングがスカート状に付いているものが多い。キャップが前進する(つまり、閉じる)時はスカートが広がり、後退(栓をあけるとき)するときはビンの突起に引っかかる。もちろん、バンドには切れ目が入れてあるため、開栓時には本体と離れるようになっている。ぜひ自分で確かめられることをお勧めする。
 やや専門的になるが、金型も問題だ。上向きのスカートがあると金型から製品を取り出すことが出来ない。このため成形時、スカートは真下を向いていて、キャップをする前に内側に曲げていることが解る。
 このほか古いタイプでは一方向にしか回らないメカニズムを使っている場合もある。

Tダイフィルム
 フィルムを成形するには一文字状に開いているスリットから溶融材料を押出し、これを冷却すれば良い。このスリットの部分をダイと言う。ダイは押出機先端に取り付けられ、押出機から溶融材料が連続的に供給される。ダイで薄く引き伸ばされた溶融材料は冷たいローラーによって連続的に引き取られる。ここで冷却されて、フィルムになる。
 この方法で成形されたフィルムをTダイフィルムと言う。これは押出機とダイの接続された様子がTの字状をしていることに由来する。
 この方式は精度の高いフィルムを作ることが出来るため、高級なフィルムの製造に利用されている。
VTR
 磁気記録媒体の開発で一つの時代を画したのがVTRだったと思う。VTRでは画像を記録する必要があり、音声に比べ飛躍的に大きな記録容量が求められた。しかも家庭用を目指されたため、カセット化が目指された。
 この中で編み出されたのがヘリカルスキャン方式だ。斜めにした磁気ヘッドを回転させ、信号をテープに斜め方向に記録する。まっすぐ走らせるより記録密度が高く出来ると言うわけだ。この方式のおかげで、ヘッドを正確に傾けるとか、回転数を制御するとか大変だった。逆にこの難関を乗り越えられたのは日本勢だけであり、電子機器で日本の優位が確定した時期でもあった。それもデジタル、光記録の時代に入り、DVD1枚ではるかに優れた画像が長時間記録できる時代になった。