タグピン
 繊維製品を買うと、値札などがタグピンと言う小さなプラスチックで止められている。このピンはなかなかのすぐれものだ。よく見ると中央の細い部分は透明になっており、両端のT字型をしている部分は不透明になっている。これは透明の部分が繊維の構造をもっており、両端は通常の成形品と同じ構造をもっているためだ。もちろん、細い部分は引っ張っても簡単には切れない。
 この成形品を作るにはまず金型の中に融けた樹脂を入れる。金型は細い部分が太く短くなっている。樹脂が冷えて固まったら型を開けるが、その時、T字の部分が金型に引っ掛かって、細い部分が強制的に引っ張られるような開き方を先ずする。このあと、T時の部分も開き、成形品が金型から取り出される。このような簡単な動作で一つの成形品で構造の違った部分を持っている製品が出来上がる。

耐衝撃性アクリル
 アクリルは透明度が高く、美しいので照明器具やアンドンタイプの看板に広く使われている。このため、屋外で使われることも多い。このような用途では、耐衝撃性が要求されることが多い。
 耐衝撃性を付与するにはゴム成分をブレンドするのが常とう手段だが、通常は不透明になってしまう。これではアクリルを使う意味がなくなってしまう。そこで考えられたのがゴム成分とアクリルの屈折率を合わせることだ。これがうまく行き、透明性をほとんど損なわず、耐衝撃性を向上したアクリル板が出来るようになり、看板、自販機などに広く使われている。

耐熱ポリアミド樹脂
 最近プリント基板に実装される電子部品用のプラスチック材料に異変が起きている。これは半田の組成に変化が起きているからだ。従来、半田には鉛/錫合金が使われてきた。ところが、鉛規制が始まり、半田の非鉛化が進められようとしている。鉛を含まない半田というのは中々作りにくく、まだ決定打は出ていないが融点が数十度高くなるといわれている。
 すると、プリント基板全体の耐熱温度を少なくとも数十度上げる必要がある。プリント基板自体は十分な耐熱性を持っているので問題は少ないが、基板上にマウントされるコネクタ、コイルなどは熱可塑性プラスチックが使われており、より耐熱性の高いものに移行する必要がある。そこで融点が300℃前後のポリアミド樹脂が注目されている。多くは主鎖に芳香族を持っている。電子部品用の材料のマップが変わる可能性がある。

耐薬品性
 プラスチックの耐薬品性は悩ましい問題だ。しかし原則はそんな難しくない。まず、薬剤を有機物と無機物に分ける。油やアルコールなど有機物に触れる可能性のあるところには結晶性プラスチックが適している。すなわち、ポリエチレンポリプロピレンなどだ。反面、非結晶性である、ポリスチレン、ポリカーボネートは要注意だ。有機物の種類によっては事故につながる可能性があるので慎重な選定が必要になる。
 水、熱湯を含む無機物が関連する分野では汎用樹脂が強い。これは分子鎖に極性基がないためである。やや専門的になるが、分子鎖がエステルのものは無機薬品に最も弱く、最も注意する必要がある。生分解性と言われる材料は例外なくポリエステルだ。次いで、エーテル、アミド基当たりが弱い。逆にベンゼン環が入る劣化しにくくなる傾向がある。無機薬品に関しては分子構造が複雑で高価なエンプラより安価な汎用樹脂の方が耐久性が高いことは覚えておいて損はない。

たまごパック
 たまごパックはプラスチック製品の傑作だ。あれだけ薄いプラスチックで衝撃吸収能力を発揮する。コストも驚くほど安価で、物流合理化、リスクの軽減を考えれば十分ペイするレベルだ。
 たまごパックは他のプラスチック製品と異なり、真空成形と言う手法で成形される。この方法はプラスチック製のシートを加熱しながら絞ることによって成形される。シートは高速で連続生産できる。絞り加工も加熱してシートをやわらかくしてから行うので容易に出来る。このため、大変安価に生産が可能だ。また、真空成形は製品の厚みのバリエーションが広い。この特長を活かし、たまごパックの場合は必要最小の厚さで設計されている。この点も安価の重要な要素になっている。

中空体成形
 プラスチックで中空体を作るにはいろんな方法があるが、ここではブロー成形法を取り上げる。この方法は融けたプラスチックのパイプを作ることから始める。このパイプは冷やさないで金型に挟み込む。金型は灯油缶を半分に割った形がくりぬいてあり、左右に合わさると一体になる。この金型に融けたパイプを挟み込んで内部に空気を吹き込む。パイプはまだ柔らかいのでふくらんで金型の内壁に押し付けられる。金型が良く冷えていれば、押しつけられた部分からかたまり灯油缶の形になる。あとは注ぎ口などを仕上げれば出来上がりだ。この方法で駅弁に入っている魚型の醤油ビンから自動車のガソリンタンクまで作ってしまう。

チョコレートとクッキー
 世で言うプラスチックには大きく分けて熱可塑性タイップと熱硬化タイプとがある。メジャーは熱可塑の方で、加熱すると熔融し、形状を自由に変えることができる。この状態で冷やせば固まり、成形品を得ることができる。
 熱硬化は粉末や液体で供給される半製品を加熱して反応を起こさせ固体の樹脂製品を完成させる。私は熱で熔すタイプをチョコレートタイプ、熱で硬化させるタイプをクッキータイプと呼んでいる。それぞれの製造工程をイメージしていただけば各タイプのプラスチック加工プロセスが理解しやすいと思う。

テーバー摩耗
 プラスチックは摩耗しにくい材料なので、多少こすり合わせたくらいでは摩耗しない。そこでヤスリのようなものでこすり、強制的に摩耗させることが考えられた。これを規格にするためには様々な工夫が行われた。特にヤスリは摩耗が進むと摩耗粉で目詰まりが起き、削られなくなる点だった。このため、ヤスリとして、目詰まりが起きにくいことを眼目にして、特別な砂岩が選ばれた。世界中の摩耗試験はこの石で作った円筒状のといしでプラスチック板の表面をこすってプラスチックがどのくらい削り取られたかを重量で評価することが行われている。
 このような方法で摩耗性の比較データが行われ、公表されている。この方法で測定した摩耗性は軸受けのような平滑な面での摩耗とは対応が取れない。
天然樹脂
 プラスチックのことを「合成樹脂」と言うことがある。これは「樹脂」を「合成した」ことを意味する。同じような用法は「合成ゴム」、「合成繊維」の例がある。これらには必ず「天然」がある。天然繊維、天然ゴムは説明を要しない。天然樹脂は何だろう。これを考える場合は漢字が役立つ。樹脂とは樹(木)の脂(アブラ)だ。アブラには油と脂があるが、油は液体のもの、脂は固体のものを意味する。木のアブラだから、うるし、ゴム、松ヤニ、メープルシロップなどはみな樹脂だ。もっとも産出時は「樹液」である場合が多い。放置しておくと多くのものは固まる。これを樹脂と言ったようだ。変わったところではコハクがある。これは宝石の一種で鉱物と言うことになるが、樹脂類の化石だ。 天然樹脂は古くから使われてきた。うるしやカシューなどは塗料として、ゴムのように柔軟なとして使われてきたものもある。うるしは接着剤としても使われていた。今のプラスチックのように固い材料としてもゴムやウルシが使われてきた。

電線被覆
 電気用品で使われている、電線、コード類の多くは銅線の表面が柔らかいプラスチックで覆ったものである。プラスチックをおおうには専用の成形機を使う。電線機と言っている。繰り出した銅線を溶解したプラスチックのたまりの中を走らせる。これを出口でしごいて、外側の形状を形成する。プラスチック層が出来るだけ同じ厚さになっているともっとも絶縁性能が優れているから、被覆の厚み管理は重要だ。
 撚り線の場合は細線の間にも溶融したプラスチックをいきわたらせる必要がある。反面、銅線と被覆層が密着しすぎると、配線の先端で被覆をはがすときの作業性が悪くなる。このため、溶融プラスチックの圧力は最適値がある。2軸平行コードや3軸コードも作ることが出来る。テレビアンテナに使われる同軸ケーブルの場合は2極が同心円状になっている。この場合は外側は細い銅線をかごのように編みながら成形する。
 平行コードでプラスとマイナスで色の違うものは押出機を2台使う。この他、内側に絶縁性能の高いプラスチックを使い、外側に耐久性の優れたプラスチックを使う場合がある。

透明ABS、透明HIPS
 ABSやHIPSは電気製品のハウジングなどに広く使われている。耐衝撃性が優れているうえ成形しやすい。しかも価格が手ごろだ。いずれも耐衝撃性を増すため、ゴム分がブレンドされている。このため、光がゴム粒子で拡散され、不透明だ。ABSの場合はゴム分が黄変しやすいため、クリーム色をしている場合が多い。
 耐衝撃性は欲しいが中身が見えた方が良い用途がある。LEDの点灯が確認できるとか、紙や薬剤があるかないかを確かめる程度で良い。そのような場合はゴムの粒子を思い切り小さくすることが行われている。小さくすることは簡単ではないが、とにかく小さくして光の波長より小さくすると光はゴム粒子を無視して直進するようになる。このようにして透明性を確保したABSやHIPSが出回っている。

透明オレフィン樹脂
 ポリオレフィン樹脂は石油と化学構造が似ている一連のプラスチックの総称だ。この中にはポリエチレンやポリプロピレンが含まれている。構造が石油に似ているから安価だ。結晶性をコントロールすることによって、いろんな性質を持ったものを作り分けることが出来る。結晶性を高くすると高性能なものが出来、自動車部品にだって使える。しかし、不透明だ。
 逆に徹底的に結晶をさせないことも出来る。すると透明度が向上する。この樹脂はレンズなどの光学材料で活躍している。成形収縮率が小さいことも魅力的だ。この分野はアクリル樹脂が使われてきたが、この樹脂は吸水性がある。水を吸うとわずかだが寸法が変化し、屈折率も変化する。ポリオレフィンは水を吸わないからこのような問題がないことが評価されている。泣き所は耐溶剤性だ。結晶していないので有機溶剤には溶けやすい。

導電性ポリマー
 プラスチックは電気の絶縁体として発達してきた側面がある。ところが、電気を通すものがある。これを導電性ポリマーという。白川先生がノーベル賞を受賞したテーマだったことを記憶しておられる方も多いかもしれない。
 導電性のポリマーは電気を通すために独特の化学構造にする必要がある。電流は電子の移動なので、このポリマーでは分子の表面に電子がいっぱいくっついているような構造にする。すると、余分な分子が近づいてくると玉突き状に分子の表面を電子が移動する。
 化学構造で見ると、ベンゼン環や二重結合は電子が表面にたくさん出ているため、導電性ポリマーはこのような基をたくさん含んだ構造になっている。

同心円状温度分布金型冷却)
 金型の温度分布の話を続けよう。型板に直彫りでキャビティが設けられておるような金型では中心部の温度が高く、周辺部の温度が低い傾向がある。これは金型外面が空気に接触しており、冷却されるためである。一方中心部は樹脂が持ちこむ熱やノズルからの伝熱によって温度が上昇しやすい。1個取りの場合、寸法にその影響が出ることがある。多数個取りの場合、端のキャビティの冷却が遅れるような場合はこの影響を疑ってよい。
 このような温度分布に対してはキャビティを入れコマにしてキャビティにも直接冷却水を通すようにするとかなり改善する。