Wonderfull Life vol.1

「あ、あそこのトコを右に曲がるの」
大吾は前に見えてきたコンビニを指さす。
先程からだんだんと家に近づくにつれ、甘粕の表情が何とも複雑になってきていた。
特に十字路やT字路の角を曲がるたびに目を見開いたり、眉を顰めたり。
それに何かを考えてるようで、だんだんと口数も少なくなってきていた。
『あまかす、どーしちゃったんだろ?』
大吾がいくら頭を捻ろうが理由なんか分かるはずもない。
ただぼんやりと考えてるうちに角を曲がるのを言い忘れたのに気付いた。
「あ、さっきのトコ…」
言おうとして大吾は道が合ってることに気付く。
『何であまかす知ってるんだ?』
大吾は不思議そうに立ち止まって甘粕を見上げる。
「あ?道間違ってたのか」
何だか甘粕はホッとしたような表情をした。
「ううん、合ってる」
大吾が首を振る。
「…そっか」
それを訊き、甘粕の顔が一瞬引きつった様な…。
「???」
ますます大吾には訳が分からなくなった。
少し歩くと目の前に児童公園が見えてくる。
「あそこの公園のトコを左に曲がって、真っ直ぐ行くとおれんち見えてくるよ…」
甘粕の手を引いて大吾が見上げた。
「ねぇ、あまかすどーしちゃったんだよぉ?」
大吾の話を訊いた途端、思いっきり眉を顰めて首を捻っている。
「あ?いや…ちょっと、な」
何とも歯切れの悪い口調で甘粕が答えた。
公園の前を左折して歩くこと100m。
「あまかす、ここだよ!」
大吾が目の前の家を指さした。
割とこぢんまりとした2階建ての一軒家で、築10年ぐらいか。
表札を見ると確かに「朝比奈」と書いてある。
甘粕が眉間に皺を寄せたままじーっと表札に見入ったまま固まっている。
「あまかす、ありがと。何か送ってくれたから遠回りしちゃったよな」
大吾はギュッと甘粕に抱きつきながら、申し訳なさそうに謝った。
「いや…オレも戻ってきただけだから」
「えっ!?」
甘粕に抱きついたまま大吾は驚いて甘粕を見上げる。
「戻ってきたって??」
甘粕は不本意そうに大吾の家から3軒先の十字路を指さした。
「あそこの十字の向かい側にコンクリのアパート見えるだろ?」
大吾は指さされた方をじっと見る。
「うん、3階建てのだろ?最近出来たばっかだからキレーだよな」
秋頃に完成したアパートは全室1DKの独身者向け間取りらしく、家族でも住んでて同年代の子供でもいない限り、大吾の生活にはなんら関係もない。
「オレんち、そこだから」
甘粕は大きな溜息をつきながら大吾に白状する。
「ええっ!?」
大吾はまん丸に目を見開いて甘粕を見つめた。
「うそっ!こんなに近所なのに1回もあまかすと会ってないの!?」
前方のアパートと甘粕を交互に見やる。
「そりゃ、オレは生活サイクルが普通とは違うしな…」
甘粕は苦笑しながら大吾を見下ろした。
「なんか…すっげー損した気分。早く知ってればもっといっぱいあまかすに会えたのにーっ!」
大吾は甘粕の腕にしがみつきながら、大袈裟なほど悔しがる。
「そんなの知らなかったんだからしょーがねーだろ?」
宥めるように甘粕が大吾の頭をぽんぽんと叩いた。
「そうだけど…でもさっ!これってやっぱ運命だよなっ!!」
「……は?」
甘粕の額を冷たい汗が流れる。
「やっぱりおれとあまかすは赤い糸で結ばれてるんだよっ!!」
嬉しそうに甘粕の胸に飛び込んで、甘える様に擦り寄った。
大吾の言葉に思いっきり甘粕の顔が引きつる。
何故だか自分と大吾にぐるぐると巻き付く、真っ赤なワイヤーロープの幻影を見た様な気がした。
『一体、どーなるんだオレ…』
はしゃぎまくる大吾に抱きつかれながら甘粕は星空を見上げて途方にくれた。



■チビ大吾(裏教育編(くすっ))に続く