Attraction Garden β(抜粋)


園内の休憩コーナーで、一組のカップルと一組の親子連れが仲良く弁当を広げる。
「うわぁー…スゴイおいしそ〜」
簾が目を輝かせて2つのお弁当を眺めた。
「たくさんありますから、食べて下さいね」
「簾、取ってやろっか?何がいい?」
八戒と悟浄がニコニコと簾にお弁当を差し出す。
「んとね?おにぎりとハンバーグが食べたいっ!」
「ちょっと待って下さいね。今お皿に取って上げますから」
「ほい、シャケおにぎりでいっか?」
悟浄におにぎりを渡されて、簾は嬉しそうに受け取った。
和やかな昼食の一時。
テーブルの逆では重苦しい空気が立ちこめていた。
「天蓬ぉ〜いつまでふて腐れてんだよぉ」
「………。」
捲簾が声を掛けても天蓬はベンチに膝を抱えて座り、背中を向けたまま振り向きもしない。
絶好調にいじけまくっている大の大人に、捲簾は頭を抱えた。
先程置き去りにしたことを、相当根に持っているらしい。
八戒と悟浄から解放されて、ゴリラ舎の前で合流してからずっとこの調子だ。
捲簾と一言も口を利かなければ、視線を合わせもしない。
いくら宥めても優しく声を掛けても頑なに拒絶していた。
さすがに捲簾も逆ギレしそうになるが、外出先で子供もいるのにバカな喧嘩はしたくない。
どうにか気持ちを落ち着かせて根気よく接してはいるが、ウンともスンとも反応しないので捲簾も困り果てていた。

簾も居るし、あんまりコノ手は使いたくなかったが。
背に腹は替えられない。
子連れだけど、折角の動物園デート。
こんな雰囲気じゃ簾だって可哀想だ。

捲簾は意を決すると、大きく深呼吸する。
「なぁ…天蓬?一緒に弁当食おう、な?」
「………。」
相変わらずの無反応。
「俺…折角天蓬が好きだって言うから…だし巻き卵作ったんだけど…な」
捲簾が寂しげな声で小さく呟いた。
チラッと天蓬が肩越しに視線を向ける。

よし、掛かった!

「天蓬がエビフライも食いたいって言うから、冷凍のじゃなくてちゃんとおっきな海老買って作ってきたのに…」
天蓬の身体が徐々に傾いた。
視線がじっとお弁当へと注がれる。

もう一押しっ!

捲簾は箸でだし巻き卵を摘むと、天蓬の方へと差し出した。
「ほら、天蓬あーん」
目の前のだし巻き卵に、天蓬が勢いよく食い付く。
モグモグと租借すると、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ど?旨い…か?」
捲簾が首を傾げて見つめると、天蓬はニッコリと笑顔を浮かべる。
「凄くおいしいです〜」
どうやら機嫌は浮上したようだ。
しかし、まだ安心は出来ない。
先程の不機嫌さも吹っ飛ばす程、確実に天蓬の機嫌を掬い上げなくては。
漸く天蓬も身体の方向を変えて脚を下ろした。
捲簾から受け取ったおにぎりの包みをペリペリと剥がしている。
「…エビフライ食う?」
「食べますっ!」
「んじゃ…あ〜ん」
「あ〜ん♪」
捲簾からエビフライを食べさせてもらい、天蓬の機嫌は更に急浮上。
「おいしいですぅ〜♪やっぱり捲簾って料理がお上手ですね。おにぎりも綺麗な三角形ですしスゴイですっ!」
「そっか?」
天蓬に誉められて、捲簾も満更ではない。
照れながら口元を緩めた。
「八戒ぃっ!アレやってアレ!俺もあ〜んとかやって欲しいーっ!」
横ではおにぎり片手に、悟浄がバタバタと腕を回して駄々を捏ねている。
「何子供みたいなコト言ってるんですかっ!大人しく食べなさいっ!おにぎり振り回さないのっっ!」
八戒は真っ赤な顔をして悟浄の頭を叩いた。