FLIP FLOP & FLY "U"(抜粋)


もう…八戒と悟浄クンってば。
ちゃんとバレないようにしててくださいよ?

「歩きましょうか?捲簾、朝食食べてきましたか?」
「ん?コーヒーしか飲んできてねぇ」
「それじゃお腹空いてるでしょう?ソコの道入った先に、最近出来た人気のあるカフェがあるんですって」
「ふーん…天蓬良く知ってんじゃん?」
捲簾が歩きながらじっとり横目で睨むと、天蓬は可笑しそうに喉を鳴らした。

誰か女性と行ったことがあるんじゃないかと、勘違いしてヤキモチを焼いてるらしい。

「医局の看護師さん達がね?食べ歩きグルメサークルを作ってるんですよ。毎週情報雑誌を見て新しいお店が載っていると、皆さんで休みの時出かけてリサーチするんですって。それで良かったお店を病院のメルマガで紹介してるらしいんです。僕も今日捲簾とデートだから何処か良いお店がないかなーと思ってメルマガ調べちゃいました♪」

これは本当の話。

悟浄の紹介で実際お店へ足を運んだが、念のため他の店も調べようと病院のメルマガもチェックしていた。
「ふーん…そういや、ウチの事務所も部下達がアッチコッチ調べて行ってるなぁ。合コン用の店探してるんだってさ。女は結構そういう店の趣味も手厳しいらしくて、すっげぇセッティング大変なんだと」
「女性の方が食に関してはシビアですよねぇ。特にお金がかかると」
「違いねーな」
どうやら天蓬の話を信じたようで、捲簾は大きく相槌を打つ。
大通りから脇道に入ると、昼前にもかかわらず結構人通りがあった。
カップルや友人グループが賑やかにウィンドウショッピングを楽しんだり、オープンエアーのカフェでお茶を飲んだりしている。
瀟洒な住宅やデザイナーズマンションもあるので、犬を連れて散歩している人も目立った。
「チワワが人気だと思ってたけど…さっきから散歩で連れてる犬、みーんなフレンチブルばっかじゃね?」
「そう言えば…確かに。青山辺りはフレンチブルが流行ってるんですかね?」
どういう訳か、来る犬来る犬全てがフレンチブルドックばかりだ。
「まぁ、ブサイクでちょこまか歩いてんの可愛いけどな」
のんびり二人並んで歓談しながら、時には懐いてくる犬の頭を撫でたり。
仲睦まじい様子を付かず離れず、数十メートル離れた電柱の影からそっと覗いている怪しげな影。

「さっきはバレそうになって、どうしようかと思いましたが」
「お?予定通りカフェに入ったな」
「外の席に着きましたね。それじゃ僕らは逆側の入口から店内へ入りましょうっ!」
「あ?外で待ってるんじゃねーの?」
「だって…喉乾いちゃいました」
「あー、はいはい」

二人は身体を斜めにしながら顔を隠し、静かに入口から店内の席へ着いた。
天蓬と捲簾は外へ向かって座っているので、店内の方へ視線は向かない。
「…二人ともイイ雰囲気じゃないですか」
「そりゃーデートだからな。あ、俺アイスコーヒーね。八戒は?」
「僕はアイスカフェオレお願いします」
ひそひそ小声で注文を済ませると、不測の事態に備えて(?)天蓬と捲簾を注意深く見守る。

「今日はお天気良くてよかったですね〜」
「だな〜。なーんか久々かも。こんな午前中からゆっくりすんの」
「捲簾はいつも簾クンの子育てで大変ですから」
「何でだろうな?子供って休みの日に限って、すっげ早起きしてくんの」
「元気な子供はみんなそうですよ?」
「簾は元気すぎるって」
「そりゃ…捲簾のお子さんですからね」
「それって褒めてんの?」
「当然です」

一瞬二人は顔を見合わせ、同時に噴き出した。

「天ちゃんグッジョブです!その調子ですよ〜」
「腹減ったなぁ…八戒、何か食っていい?」
「万が一すぐ出られるように、サンドイッチとかならいいです」
「えぇ〜?俺昨夜から何も食ってねーから、すっげ腹減ってるんだけどー」
「我慢して下さいって。もしまたお腹空いたら、おにぎり作って持ってきてありますから」
「おにぎり?んじゃいっか♪」
極力気配を殺して観察している八戒を余所に、悟浄はこれといって緊張感もなく平然とくつろぐ。
運ばれてきたランチプレートを仲良く食べている天蓬達を眺めて、八戒はウンウンと満足そうに何度も頷いた。
オープンサンドに齧り付いている悟浄は、八戒のシャツの袖をつんつん引く。
「この後の予定何だっけ?」
「え?えっと…お散歩しながら神宮前の駅まで出て、そこから上野へ移動ですよ」
「恐竜博ね…簾にお土産買ってやろうかな〜?ステゴサウルスのぬいぐるみとか?」
「ちょっと悟浄。お土産なんか買ったらバレちゃうじゃないですか」
「べっつに別の日に行ったって言やぁバレねーじゃん」
「まぁ…それはそうですけど。でもきっと天ちゃんも捲簾さんも廉クンにお土産買うと思いますよ?」
「そっか…同じの買いそうだな。じゃぁ八戒に買ってやろっか?」
「…あったら僕、プテラノドンがいいです」
「翼竜な?」
悟浄はクスクス笑いを噛み殺しながら、照れて俯く八戒の頭を撫でた。

そうして観察すること一時間弱。

「あっ!二人とも出ますよっ!どうしましょうっ!席でお会計しちゃってますっ!」
「んじゃ、俺レジで会計してくるわ〜」
「お願いしますっ!僕は二人の行き先見てますから」
天蓬と捲簾が外へ出て歩き出すと、八戒はすかさず大きな支柱の影へと移動する。
悟浄が会計を済ませてのんびりやってくると、慌てて腕を掴んで後を追いかけた。