Glamourous Life #Encounter(抜粋)


「あっれー?センセーいねぇの?」
足でドアを開けた悟浄が室内をキョロキョロ見渡した。
職員室か校庭の体育授業へ出張治療にでも出ているのだろう。
悟浄は開いているベッドへ近付いて、抱えてる男をそっと下ろした。
ご丁寧に足から上履きをスポッと脱がせて床へ置く。
ベッドの端へ腰を下ろすと、じっと眠っている男の顔を見つめた。

う〜ん…やっぱ名前思い出せねーなぁ。
誰だっけ?
確か一番前の窓際に座ってるヤツだよな?
それにしても何でコイツのコト覚えてるんだろ?
去年はクラスも違うし、見た覚えねーから教室も階違いだろうな…多分。
美人のコは瞬間で覚えるけど、コイツはいくら綺麗でも男だし。
はて?

不躾なぐらい寝顔を観察していると、寝ている男が僅かに身動いだ。
どうやら意識が戻ってきたらしい。
「おーい。起きろ〜」
悟浄が声を掛けながら、少し肩を揺さ振った。
閉じている瞼が小さく痙攣する。
そして。

………うわ。

ゆっくり瞼が上がり、その隙間から深い翡翠色が濡れて輝いた。
あまりの綺麗さに、悟浄は思わず息を飲む。
揺れている視線が、ぼんやり焦点を結んで悟浄を見つめた。
覚醒したばかりで、男からの反応もない。
「よ。お目覚め?頭打ったみてぇだけど…大丈夫か?」
悟浄が声を掛けても、そのままの状態で呆けている。
「おーい?起きてるかぁ〜?」
目の前でパタパタ手を振って、男の意識を確認してみた。
すると。

「…僕の天使、だ」

小さく掠れた声音が聞こえてくる。
蕩けるような微笑みを浮かべて、悟浄を真っ直ぐ見上げてきた。
意味が分からず悟浄は首を捻る。

は?何言ってんだ…てんし?

「おい?大丈夫か―――――」
頭を打っておかしくなったんじゃないかと、悟浄が慌てて声を掛けたが。
唐突の衝撃に、言葉は言い切ることなく途切れた。
「………………へ?」
グルンと視界が回ったと思った途端、背中が勢いよく跳ねる。
一瞬の出来事に何が何だか分からない。
悟浄は目を白黒させて呆然とした。

ソレが不味かった。

「え?何っ?え…あれ?」
我に返ると、自分をウットリ見下ろす男の顔。
何だか瞳の色が妖しく輝いていた。
悟浄の本能が危険だと察知したときは既に遅く。

「…どうして貴方はそんなに可愛らしいんでしょう。今まで気付かないで居たなんて、僕は何て無駄な時間を過ごしてきたのかっ!」
「はああぁぁ〜いいぃぃ〜?」
何をトチ狂ったのか、目の前の男はガタイの良い男前の自分を『可愛い』などと言った。
世間の常識から考えて、自分に向けられるべき口説き文句じゃないのは確かだ。
もしかして、さっき階段から落ちて頭でも打ったのか?と悟浄は眉を顰める。
胡乱な視線を向けてもお構いなしに、男はニッコリ微笑んで悟浄の頬を両手で包み込んだ。
「そんな熱い視線で見つめないで下さい。貴方の愛らしさに僕の心臓は高鳴る鼓動で破裂しそうです」

さ…寒っ!

陶酔しきっている危ない男の口からポロポロ零れる身の毛もよだつクサイ台詞に、悟浄は呆れ返って反論することも出来ない。
ゾワッと全身に鳥肌を立てて、悟浄はしきりに腕を擦った。
「うげっ!気色悪ぃコトゆーな!俺のドコを眺めて、んなバカみてぇな言えんだよ!お前目ぇクサッてんぞ!眼科行け、眼科!」
「おや?僕は止めどなく湧き上がる愛の衝動を言葉で表しただけなんですが?」
「あ…いいぃぃ?」
悟浄が驚愕して声を裏返らせて叫ぶのと同時に、男がベッドを軋ませて乗り上げてくる。
顔はガッチリと男に固定されたままの状態。
しかも今度は全身を使って悟浄の身体を押さえ込んできた。
それだけではない。
膝を使って悟浄の脚を割り開き、その間に身体を進めた。
不安定なバランスに悟浄が身動ぐと、何かが股間に当たる。

ん?何だ?この硬くてグリグリしてるヤツ…って、まさかっ!

男と悟浄の股間は密着していた。
股間を押し上げるように、やけに硬い感触が下肢で蠢く。
「な…何だぁっ?」
悟浄を羽交い締めにして、男はちゃっかり勃起した股間を悟浄へ擦り付けていた。
「あぁっ!こんなに嬉しくて興奮したのは生まれて初めてです♪」
「しなくていーっ!つーか、すんなっ!やめっ…わわっ!腰振んじゃねーよっ!」
ゾワゾワと股間から伝わる感触に、悟浄が嫌悪して喚き散らす。
あまりのショックに涙さえ滲んできた。

何で俺がこんな目に遭うんだよっ!
俺はテメェを助けて此処まで運んでやった恩人だぞっ!
恩を仇で返すんじゃねーっっ!

「も…ヤダってんだろっ!気色悪いっ!」
「でも勃ってきてますけど?」
「んな訳ねーだろっ!」
「だって…ホラ」

男が愉しそうに悟浄の股間を制服の上からギュッと掴んだ。
「んあ…っ」
悟浄は湧き上がる快感に、思わず声を上擦らせる。
強請るような甘い嬌声上げた悟浄が、我に返って顔を真っ赤にした。