メリクリ!(抜粋)


そして深夜。

風呂から上がった捲簾が寝室へ入ると、大きな天蓋付きベッドの上に正座した天蓬が手招きして呼んでいる。
その前には何やら綺麗にラッピングされた箱が。
「どした?天蓬?」
捲簾がベッドへ腰を下ろすと、天蓬はその箱をずずっと差し出した。
「これは僕からのクリスマスプレゼントです」
「ええっ!」
「開けてみて下さい」
「あ…天蓬、俺っ…その…俺は天蓬にクリスマスプレゼント用意しなかった…っ」
捲簾がしゅんと罪悪感で項垂れると、天蓬は苦笑いを浮かべる。
「僕は充分捲簾からプレゼント貰ってますよ?捲簾がこうして僕の側に居てくれることこそが、僕には何者にも代え難いプレゼントそのものですから、ね?」
「天蓬ぉー…」
慈しみのある言葉にうるうると瞳を潤ませ感動する捲簾を、天蓬はそっと抱き寄せた。
捲簾が頬を染め、恥ずかしそうに目を伏せる。
「プレゼント…開けてくれますか?」
「あ…うんっ!天蓬、さんきゅー」
「いえいえ。喜んで貰えると嬉しいんですけどー」
貰ったプレゼントのラッピングを綺麗に解き、捲簾はドキドキ胸を昂ぶらせながらそっと箱を開けた、が。

「………。」
「どうですか?すっごーく可愛いでしょう?」

嬉々として捲簾の表情を天蓬が窺う。
捲簾は箱を開けたまま暫し硬直していたが、その頬を見る見る真っ赤に染め上げた。
「こっ…こここここここコレってっ!」
「絶対捲簾に似合うと思って、今日に間に合うようオーダーしちゃいましたv」
期待でキラッキラ瞳を輝かせる夫の前で、妻は箱の中身をそっと指で摘む。

ぴら〜ん。

それはそれは高級で繊細なシルク製生地で出来たキャミソール、しかもクリスマス仕様で裾や胸元にほわほわの真っ白い毛が縫い付けられていた。
お揃いのポンポンまで付いている。

しかしその裾は短い。
とーっても短い。

女性が着れば膝小僧が見えるぐらいの丈だが、捲簾が着れば脚の付け根がギリギリ隠れる程度だ。
ちょっと身体を前へ倒せば確実にお尻が丸見えになってしまう。
プラス、同じシルク素材のTバックにサンタ帽子までセットになっていた。
一体天蓬はどんなプレイを期待しているやら。
捲簾は真っ赤になりながら、満面の笑みを浮かべている天蓬の顔をチラチラ盗み見た。

これって…所謂勝負ナイティーかっ!

やだーっ!もうもうこんなエッチなの着るなんてええぇぇっ!などと捲簾は脳内お花畑で絶叫しつつも、白ウサ黒ウサ相手に悩殺ポーズの練習などしてしまう。
バックンバックンと昂ぶる鼓動を深呼吸で誤魔化し、広げたサンタキャミソールを眺めた。
「着…着た方が…いい?」
「是非っ!というか実は今日着なければサンタさんからプレゼントを貰えなくなってしまうんですよ?」
「ええっ!何ソレーッッ!」
サンタさんからプレゼントが貰えないと聞いて、捲簾は慌てて天蓬に詰め寄る。
折角サンタさんが捲簾の欲しいプレゼントを贈ってくれると言うから、夜なべして超特大靴下を編んだのに。
サンタさんを歓迎している証に、枕元のサイドテーブルには大好物らしいクッキーと紅茶のセットを用意までしてあるのに。

サンタさんが来てくれないなんてーーーっっ!

あまりの衝撃に泣きそうになる捲簾を、天蓬は慌てて宥めた。
「ですからね?サンタさんは自分の来訪を心待ちにして歓迎してくれる家へやってくるんです。捲簾がクリスマスっぽい姿で眠っていれば、サンタさんも感激してプレゼントを置いていってくれるんですよ」
「そ…そっか。どれだけサンタさんが来るのを待ってるかアピールしなきゃいけねーんだな?」
「そういうことです。だってサンタさんは起きている人の所には現れないんですから、どうしたって言葉じゃ伝えられないでしょう?クリスマスっぽい格好をしていれば一目瞭然。サンタさんにも捲簾がどれだけ歓迎しているかが伝わると思うんです」
「成る程…じゃぁ着替えるっ!」
「きっとサンタさんもすっごーく嬉しいと思いますよ〜」

そりゃそうだ。

捲簾のサンタさん(天蓬)は鼻の下をだらしなく伸ばして、堪えきれない笑みで相貌を揺るませっぱなしだった。
恥ずかしさを堪えてどうにかパジャマから着替え終えた捲簾は、短い裾をもじもじ引っ張りベッドへ座り直す。
「捲簾…っ!」
「今日はダメだーーーっっ!」
さぁ、食べてvと言わんばかりにフェロモン全開な妻へのし掛かろうとする夫を、捲簾は速攻殴りつけた。
「な…何でですかぁ?」
ベッドから転げ落ちた天蓬が鼻血を押さえて、切なそうに捲簾を見上げる。
「今日はサンタさんが来るんだからダメ!早く寝ないといけねーのに!」
「そ…それは…そうですけどぉ」
天蓬は内心でチッ!と舌打ちしながら不満げに唇を尖らせた。
サンタさんは起きていると来てくれない等と自分が教えたことなので、今更違いますとは言えない。
策士策に溺れるとは正にこのコトだ。
渋々諦めた天蓬は、既に布団へ潜っている捲簾の横へと滑り込む。
「おやすみ〜」
「…おやすみなさい」
重々しい溜息を漏らしつつ、天蓬は寝室の灯りを消した。