■序■






 五大国に数えられる火の国にある隠れ里があった。
 高い山と深い山に囲まれたその里の名は『木ノ葉の里』という。
 昔あった大戦の混乱の中で生まれた、忍の里である。
 その里の長は代々強大な力をもって里を統べ、戦国の世にその名を轟かせた。

 すなわち『火影』と。


 代を重ねて四代目火影の治世。
 戦渦を生き抜き、仮初めながらも平和が訪れた里に再び災いが訪れる。
 ――災いの名を『九尾の妖狐』という。
 突然の襲撃に里人達は為す術もなかった。
 強大な妖の前に、人はあまりにも無力だったのである。
 だが、多くの里人を犠牲に出しながらも、火影の命をかけた封印術によって惨劇は収められることとなる。
 天才の誉も高い彼は、妖狐の命を絶つことこそ出来なかったが、その活動を止めることが出来たのである。器とされたある幼子の中に封印することによって。かくして器に封じ込められた妖狐は長い眠りにつくこととなった。
 術が行われた跡に残っていたのは倒れふした火影と、彼の腕に抱え込まれていた赤子だけだった。
 九尾と四代目が対峙していた場所に、火影の遺体と忽然と現れた赤子の姿。
 里人達がその赤子を九尾の妖狐の化身だと信じて疑わなかったのは当然の事かも知れない。
 赤子の腹には封印の術式が刻み込まれていた。
 紅い、不吉なほどに紅いその封印は血で描かれていた。
 その禍々しさに人々は気をとられ、どうやら生まれた直後であるらしい赤子の髪と目の色が、その日死んだ英雄のそれと同じ色であることに気付かなかった。
 否。
 気がついても、それらの関連性にまで考えを巡らせるものはいなかったのである。
 それ程の余裕がなかった、といえば否定は出来ない。
 だが、稚い赤子にとって、それをこれから始まる不幸の原因として受け入れるには、あまりにも理不尽な事に違いないだろう。

 里を救った英雄に、と火影は願った。
 だが、悲しみと絶望に染まった里人にとって赤子は九尾の妖狐の化身以外の何者でもない。
 千里眼と呼ばれたほどの天才は、己の人生で最大の過ちを犯したのである。


 誰が責められるべきだろう。
 只人の心情の読みを違えた火影か、それとも憎しみに目を奪われた人々か。
 答えることが出来る者はいない。
 唯一断罪の権利を持つ子供は、優しさ故にその剣を振るうことはない。
 ただ、過去の残滓が幼子を縛り付け、苦しめるだけなのだ。

 これはその子供の物語。
 語られるのは悲劇か、それとも英雄譚か。
 皆様、伏してご静聴をお願い申し上げる。
 これは己を化け物と呼んだ子供の物語。


〜Fin〜







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