(2012-10-28)
一般的な回路は3.3V単電源動作とかなので、それに接続するためのオペアンプ回路も単電源動作が求められる。しかし、なぜか一般的なオペアンプの解説書では単電源オペアンプ回路の設計については説明が軽んじられている気がする。実用的に設計するためには細々したノウハウがあるにも関わらず、まとまった解説をあまり見かけないので、最近設計した次の回路を例にとって説明する。
これは、チャージアンプ回路である。入力が圧電素子。それが変形すると電荷が発生するので、初段で電荷を電圧に変換する。二段目、三段目はバンドパスフィルタ。主に60Hzの誘導ノイズをカットするように設計されている。チャージアンプ、各段のBPFはゲインを持っている。残りの一つは中点電位のバッファである。
単電源用としては、LM324やLM358の系列が飛び抜けて低コスト。30年以上前の設計なのに名作だ。悪い点(位相反転、クロスオーバー歪み、など)についても広く解説されているのでしっかり押さえておく必要がある。
それより良いものが欲しい場合は、低周波では CMOSタイプが使いやすい。Rail to Rail、低電圧、低消費電力、低入力バイアス、など。CMOSオペアンプの入力バイアス電流は温度が上がれば急増することんに注意。性能、コストはドングリの背比べのようなものが多い。最近のものは位相反転が無かったり、ユニティゲインで安定なだけでなく負荷容量もある程度まで保証されていたり、低周波で使うぶんには使いやすいものが増えてきた。
上図は実験用の回路なので、アナデバのAD8607を使っている。まっちぃ先生の会社の石で、わりと性能がいいやつ。仕事で使う場合は、カタログ性能だけでなく、コスト、温度範囲、信頼性、供給継続、不具合対応、納入業者なども考慮に入れる必要がある。でも、オペアンプはとても種類が多いので、ウェブ比較表が操作しやすくてデータシートが読みやすいやつをついつい選んでしまいがちである。
抵抗2本で電源を分圧するのが一般的。
上図ではR5,R7の1MΩで分圧している。これをどれぐらいの抵抗で分圧すればよいかは、カンではなくいろいろと考慮して選ばなければならない。
両電源回路だと、V+とGND、V-とGNDの間に入れることがあるが、単電源回路の場合、V+とGNDに入れておけばOK。
上図ではC6, C8 がそれに相当する。私は 0.1uFの積層セラミックコンデンサを使うことが多い。ただし、コンデンサの温度特性、耐圧には注意が必要。高容量の積層セラミックコンデンサは、温度が変化したり、直流バイアスがかかると容量が減る。B、X5R特性で耐圧は大きさが許す限り高いやつを選んだほうがいい。
上図で C3 が入っている。これの働きは、R7とC3でLPFを作り、電源ラインから中点に混入するノイズを減らすことだ。1MΩと1uFでLPFを作るとカットオフ周波数は6.2Hz、6dB/octで減衰があるので、60Hzでは-20dBぐらい、電源から中点に入るノイズは減衰させることができる。そのぶん、中点電位の安定に時間がかかるのはデメリットである。
このコンデンサは電源と中点の間に、つまりR7と並列には入れてはならない。そこに入れると、電源からのノイズが中点に素通りしてしまう。
中点電位を抵抗2本の分圧で作った場合、当然、それが有限のインピーダンスを持つ。両電源オペアンプ回路のGNDが低インピーダンスを仮定しているので、そのままでは代替にはならない。よくある方法では、バッファを入れてインピーダンスを下げる。
低インピーダンスの中点(両電源回路ではグランド)が欲しいところは、上図では、R3の下側、C4の下側、C10の下側である。一方、インピーダンスが高くても電位が安定しれいればいいところは、U1の3番ピン、U2の3番、5番ピンである。
上図でC4の下側、C10の下側は、両電源回路で書かれている一般の教科書ではグランドに落ちている。単電源回路で考えたら低インピーダンスの中点に落とすことに対応する。しかしこれはコンデンサであり直流電位をGNDに固定する必要がないので、単電源回路の電源やGNDに落としても同じように動作する。
多重帰還LPF | サレンキーLPF |
図はアナデバのサイトより |
一方、上図でのR2,R3はフィードバックを分圧してゲインを稼ぐ回路であり、R3の下側は、両電源回路ではGNDに落としている。これは単電源回路では、素直に低インピーダンスの中点に落とさなければならない。今回は、抵抗分圧で得た中点電位をバッファで低インピーダンス化してある。低インピーダンスの中点が無い場合には帯域が制限されるが、コンデンサ経由でGNDまたは電源に落とす、という方法もある。
中点電位をバッファを使ってインピーダンスを下げる場合、その発振に注意を払う必要がある。なにせユニティゲインという一番発振しやすい条件で使っていて、さらにコンデンサがつくと、発振する可能性はさらに増える。
オペアンプにはオフセット電圧がつきものであり、各段がゲインをもっていると、オフセット電圧が増幅される。とくに、低電圧の単電源回路(電池動作機器に多い)の場合はダイナミックレンジが不足してすぐに飽和してしまうので、段間を交流結合にしてある。ここでもコンデンサの容量と温度特性の選定には注意が必要。