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KAMEでもわかる科学の話、他(ヨタ談)>酒飲みのための有機化学
(2004/04/11)

酒飲みのための有機化学

お酒がとっても大好きなKAMEのために、お酒に関するお話をまとめたページです。

目次


お酒とは

「糖」を「酵母菌」が分解して作った「エチルアルコール(エタノール)」です。酵母は糖を栄養源として摂取し、エネルギーを得て生命活動を行い、排泄物としてエチルアルコールを出します。

酵母の作ったアルコールが含まれたものが醸造酒で、それを蒸留してアルコール度数を高めたものが蒸留酒です。あまりアルコール度数が高いと酵母が活動を停止するので醸造酒のアルコール度数は14%程度です。それ以上の度数を得たい場合は蒸留酒になります。

発酵が進みすぎると、エタノールを通りすぎて酢酸になります。ワインビネガー、米酢などですね。

ちなみに、アルコール度数を簡易的に判別する方法は、火をつけてみることです。42度以上は一瞬だけ火がつきます。43度以上はコップに入れた酒が燃え続けます。もう一つの方法は、比重計を使う方法です。アルコールは水より軽いので、アルコール度数が高いほど比重が軽くなり、比重計がよく沈みます。発酵度合いをチェックするのにも使えます。東寺市の骨董屋で、比重計をたまにみることができます。1より軽いメモリがアルコール用で、1より大きいメモリが食塩水用、蔗糖液用などです。

酵母の栄養源となる糖分は原料に含まれる場合と、デンプンを酵素などで分解して得る方法があります。

以上の基本を押えた上で、具体例を見てみましょう。

お酒の作り方

日本では酒税法という法律があるので、勝手に酒を作ることは法律違反になる可能性が高いです。本記事は学習のためのもので、実際に作成することを推奨するものではありません。実際に作らずに、本当の意味で学習になるかは別にして。

ワイン

  1. ブドウの実を洗わずに皮ごとつぶして 果汁をしぼります。
  2. そのまま貯蔵します。
  3. ブドウの実の皮の表面についている菌がブドウ果汁の糖分を分解してアルコールを作ります。

ブランデー

  1. 白ワインを蒸留してアルコール濃度を上げます。
  2. 樽で寝かせます。

ビール

  1. 大麦を発芽させます。
  2. それをすりつぶして、酵素が働く40℃ぐらいの温度にします。
  3. 麦芽に含まれる酵素が大麦のデンプンを分解して麦芽糖にします。(麦汁という。これを煮詰めると飴になります。)
  4. ホップで麦汁に苦味をつけます。醸造上はどうでもいいです。
  5. 酵母を入れて、麦芽糖分をアルコールに分解させます。同時に二酸化炭素も放出します。

人体とアルコール

人間の体内に入ったエタノールは吸収され分解され、排泄されます。

吸収

水分は主に大腸で吸収されるのに、アルコールは胃で吸収されます。アルコールが胃で吸収されるとき、普段は吸収されない水分も胃で吸収されます。水を大量には飲めないのにビールは何リットルも飲めてしまうのはそういう理由です。

分解

エタノールの分子は次図のように、炭素が2個、それにOHがついた形です。これが体内の分解酵素でじょじょに酸化(酸素と化合すること、水素が離脱することはともに酸化です)されます。つまり、ゆっくりと燃えるのです。エタノール(CH4CH3OH)→アセトアルデヒド(CH4CHO)→になり、酢酸(CH4COOH)になります。

エタノールの酸化

エタノールは、人体にとって毒なので、肝臓でアルコール脱水素酵素によって、エタノールからアセトアルデヒドに分解されます。アルデヒドは、もっと毒なので、アルデヒド脱水素酵素によって、アセトアルデヒドから酢酸に分解されます。酢酸は体内でエネルギー源として消費され、二酸化炭素と水になります。

メタノールも同様の課程で分解されるのですが、生成物であるホルムアルデヒドが失明の原因となり、メチルは目散ると言われています。

エタノールが分解してできるアセトアルデヒドが酒酔い(頭痛、吐気など)の原因とされています。アセトアルデヒド分解酵素を多く持つ人が、「酒に強い」、少ない人が「酒に弱い」といわれています。アルデヒド分解酵素は遺伝によって決まることが多いので、鍛えたからといって酒に強くなるものではありません。

上のアルコール分解反応で、アセトアルデヒドを分解するのに水が必要なことにも注意しておいて下さい。水は血の水分量を増やし、血中アルコール濃度を下げるためとアルデヒドの分解のために必要です。

アルコール分解酵素以外のエタノール分解系であるミクロゾームエタノール酸化系は、アルコールが多いと活性化します。つまり、恒常的に酒を飲んでいると、酔いが早く覚めるようになる、ということです。アル中への第一歩というわけですね。

アルコールの作用

アルコールは、中枢神経を麻痺させる作用を持ちます。まず、心の抑えが聞かなくなり、陽気になったり積極的になります。次第に自制心がなくなります。次に、体の自由が効かなくなります。最後には死にます。

アルコールの作用量は、血中濃度が 0.05%〜0.1%。それで自制心がなくなって酒が止まらなくなり、血中濃度が0.4%になると死にます。効く量と死ぬ量が近く、大変さじ加減の難しい薬物です。

エタノールの兄弟

同じく直鎖系炭化水素アルコールであるメタノールも、体内で同様の分解課程をへます。つまり、メタノール(CH4OH)→ホルムアルデヒド(HCHO)→蟻酸(HCOOH)。ちなみに、メタノールの同類はメタン、エタノールの同類はメタン、メタンの同類はエチレンです。

炭素が一個のものはメタン、2個のものはエタン、3個のものはプロパン、4個のものはブタン、というように兄弟がいて、同じく、アルコールやアルデヒド、カルボン酸がいます。

alkane

特筆するものをいくつか。

メタン
生物が分解されて出るやつです。おなら、天然ガスなど。メタン自体は無臭です。「臭くないんだい!」。冷やして圧縮すると液化天然ガス(LNG)で、輸送に便利です。
メタノール
「目散る」アルコールとも言われます。有毒です。薬局で売っているエタノールは、酒税を逃れるために、メタノールが添加されています。飲んではいけません。
ホルムアルデヒド
水に溶かすとホルマリンです。有毒注意。右からみても左から見てもアルデヒドです。アルデヒドは還元性が強く、他の化合物と結合します。それが2つあるということは、2つの化合物と結合し、それらの化合物を結び付けます。そのため、高分子をつくる時によく使われます。身近なところでは接着剤などに含まれています。
蟻酸
カルボン酸なのですが、左から見るとアルデヒドです。蟻にかまれた時に出てきたりします。
エタン
2重結合になるとエチレンになります。エチレンは果物の成熟時に発せられ、果物の成熟を促進させます。エチレンの2重結合を開いて、隣のエチレンと結合させることを繰り返すと(図の赤の結合がハズレて、緑の結合になり隣とくっつく)、エチレンが一直線につながり、ポリエチレン(PE)になります。ポリ袋、ポリバケツの原料ですね。
三重結合になると、アセチレンになります。カーバイドに水を加えると出てくるガスで、高温で燃えます。昔は夜店の明かりに使われました。酸素アセチレン炎は溶接に使われます。
ethane
エタノール
いわゆる飲用アルコール。
酢酸
「お酢」です。
プロパン
プロパンガスの元。石油(Cが20個ぐらい繋がっている)を分留して得られます。常温でガスですが、加圧することによって液体になり、体積が小さくなって輸送に便利です。
プロパノール
異性体のイソプロピルアルコール(IPA)は清掃用として使われます。IPAを酸化するとアセトンになります。アセトンは強い引火性があり、たいていのプラスチックを溶かします。アセトンはマニキュアの除光液の主成分です。
CH4-CH(OH)-CH4
ブタン
ライターやカセットコンロの燃料です。沸点=0.5℃の気体です。寒いと気化せず、ライターやカセットコンロは火が付きにくいです。

糖からアルコールへ

お酒の主成分であるメタノールは、酵母が糖を分解したものです。今度は、その糖についてみてみましょう。

ブドウ糖

英語ではグルコースとよばれます。人間の活動のエネルギー源です。甘さは砂糖の70%です。やっぱりとした甘味です。水に解けるときに熱を奪う性質があります(溶解熱)。脳が活動するときに大量に消費されます。人間の活動に必用な基本的エネルギー源です。

ブドウ糖は炭素が6個、環状にならび、水酸基などがついてる構造をしています。構造異性体があり、αグルコースとβグルコースがあります(画像は科学教材デジタルデータより)。

αグルコースβグルコース
αグルコースβグルコース

ブドウ糖は、チマーゼと呼ばれる酵素群により発酵してエタノールと二酸化炭素に分解されます。この反応をアルコール発酵といいます。発酵とは腐敗の中で、人間にとって有用なものをいいます。

C6H12O6 → 2 C2H5OH + 2 CO2 

ブドウ糖は分解されると、ADPをATPに活性化させ、乳酸を燃えカスとして残します。活性化したATPがエネルギーを放出してADPになり、その時に放出したエネルギーで筋肉を収縮させます。つまり筋肉を収縮させると乳酸が排泄されます。これが筋肉痛の原因とも言われます。

果糖

英語ではフルクトースとよばれます。フルーツっぽい呼び名ですね。砂糖の1.5倍の甘を持ちます。

フルクトース

ショ糖

ブドウ糖と果糖が結合したものです。砂糖の成分です。逆に、ショ糖を酸などでブドウ糖と果糖に分解したものを転化糖(ビスコ)といいます。転化糖のほうがサラサラした感じになります。食品の原材料に書かれている、ブドウ糖果糖糖液も類似品と思ってよいでしょう。

ショ糖

上白糖、三温糖、グラニュー糖は、精製や結晶粒に大きさが違うだけで、主成分は同じショ糖です。

ブドウ糖や果糖のように、糖が1つのものを単糖類、ショ糖や次の麦芽糖のように単糖類が2つ結合したものを二糖類、10個ていど結合したものをオリゴ糖、たくさん結合したものを多糖類とよびます。分子量がおおきいほど、水にとけにくく、とけたとしてもネバネバしています。

麦芽糖

ブドウ糖が2つ結合した二糖類です。ブドウ糖が直鎖状につながったデンプンを、麦芽にふくまれるアミラーゼ(唾液にも大根にもふくまれる)が分解して作られます。麦の種子のデンプンを芽がのびるための栄養である麦芽糖に分解するために、麦芽には酵素がふくまれています。

甘酒、水飴が麦芽糖です。サッパリした甘味をもちます。

麦芽糖

デンプンなど

デンプン

ブドウ糖(αグルコース)が直鎖状に結合したものがデンプンです。ごはんやパンの主成分で、人間に必用な栄養です。

デンプン

デンプンは、唾液にふくまれるアミラーゼによって、麦芽糖に分解されます。アミラーゼは大根などにも含まれますね。ごはんをいつまでも口のなかで反芻していると、甘くなっています。デンプンや麦芽糖は腸でブドウ糖にまで分解され、吸収されます。腸壁から血管に入ったブドウ糖は門脈という血管を通じて肝臓に入り、血中ブドウ糖濃度を調整され、全身を巡ります。調整とは、ブドウ糖が多すぎるときは肝臓内にグリコーゲンとして蓄え、少ない時は蓄えたグリコーゲンを分解してブドウ糖を放出するということです。

グリコーゲン

ブドウ糖が(デンプンのような直鎖構造ではなく)枝分かれ構造に結合したものがグリコーゲンです。貝などにもふくまれています。人間の体内で余ったブドウ糖は、肝臓のなかや骨格筋でグリコーゲンとして蓄えられます。グリコーゲンからブドウ糖をとりだしたり、ブドウ糖からグリコーゲンに貯蔵したりは、膵臓から分泌されるインスリンによって行なわれます。これがうまくいかなくなるのが糖尿病です。それでもあまっていれば、グリコーゲンを再び分解してできるブドウ糖をエネルギー源として脂肪を作り、それを蓄えます。

菓子メーカ、グリコの語源ですね。一粒300m。筋肉にグリコーゲン蓄えておくことは運動の持久力のために重要です。試合の12時間ほどまえに炭水化物を摂取して筋肉中にグリコーゲンを蓄えることをカーボローディングといいます。

セルロース

ブドウ糖がβグルコースの状態で直線状にに結合したものがセルロースです。植物の繊維質です。

セルロース

セルロースを、硫酸と硝酸でニトロ化したものが、ニトロセルロース。火薬でよく燃えます。これに樟脳を加えたものがセルロイドで、これもよく燃えます。溶かして固めて好きな形にすることができます。今ではお面と卓球の玉ぐらいしか使われてないでしょうか。

セルロースをエステル化したものがレーヨンです。溶かして繊維にすることができます。別名人絹といい、絹みたいな光沢があります。


デンプンとセルロースの違いは分子の立体構造について考える必要があります。図はFacioで作成した三次元分子構造図です。赤色が酸素、緑色が炭素、白色が水素を表します。アルファとベータの違いは、1番目の炭素に付いている水酸基が下にあるか上にあるか、です。

αグルコースβグルコース

1番目、4番目の炭素についている水酸基が結合して、デンプンやセルロースができるのでます。αグルコースは1番目と4番目の水酸基が「同じ側」に付いているので、環の変形の向きと相まってラセン形に鎖延びます。βグルコースは「違う側」に付いているので、鎖は直線方向に延びます。この向きの違いによってデンプンはラセン形、セルロースは直線形になります。酵素は形に反応するので、デンプン分解酵素のアミラーゼはデンプンしか分解できません。グリコーゲンは、6番目の炭素についている水酸基で枝分かれします。また、ラセンの円の大きさがちょうどヨウ素原子が入る大きさなので、デンプンにヨウ素液をかけると、そこにヨウ素が入って紫色になるのです(図はhttp://tonga.usip.edu/gmoyna/biochem341/lecture34.htmlから)。また、セルロースは直線分子で水素結合が多く、分子は結晶性をもち、直線分子が束状に結晶化し、植物繊維となります。

デンプンの3次元構造セルロースの3次元構造
デンプンの3次元構造セルロースの3次元構造

参考文献



近藤靖浩