バッハ:モテット第三番 イエスは我が喜び
モテット第三番「イエスは我が喜び」はライプツィヒ時代のごく初期に、当時トマス・カントルたるバッハが葬式用の典礼音楽としてかいたものである。
曲は12曲からなり、聖書(ロマ書)とヨハン・フランク作のコラールの歌詞が交互に用いられている。それぞれの曲は非常に変化に富んだ形式と内容をもっているが、5曲目のSo nun der Geist・・・を中心として、1曲目と12曲目、2曲目と11曲目に同一の曲を用いシンメトリックな構成をなし、統一的に用いられているコラール旋律の印象とともに、宗教的な構成美を感じさせる。
この曲に用いられている2種の歌詞はそれぞれ全く異なった印象をあたえる。コラールを貫くものは、イエスを愛する故に地上の苦しみ困難に堪え、死の恐れにさえたちむかおうとする素朴な−それ故に力強い−イエスに対する信頼と愛である。これに対する聖句節にはロマ書第8章をテキストとして使うことによって、「死と生」「霊と肉」といった純神学的教理で一つの答えを与えているように思われる。
この2種の歌詞による曲が一体となってこのモテットを構成しているのであるが、中心となっているのはあくまで前者のコラールの方である。1曲目の喜びに満ちた信仰告白は、2曲目から9曲目までの多様な表現を経た後、再び同じ曲がより大きな安心感と自信に満ちたひびきをもって歌われ、最後は冒頭と同じJesu Meine Freudeで終るのである。この曲全体の力強い、そして美しい流れはことばの持つ素朴な力であり、そこには深遠の教理以上に人を平安に導き入れる強い宗教的な力が感じられるのである。
2002/01/20 10:48